関西医科大学附属病院
[乾癬治療最前線~患者とともに歩む~]
2021年2月5日公開/2021年2月作成

- ●病院長:澤田 敏 先生
- ●開設:2006年1月
- ●所在地:大阪府枚方市新町2-3-1
乾癬患者の心血管病を防ぐため
多科連携で全身管理に注力する
近年の研究から乾癬による炎症が体内のサイトカインを増やし心血管病を引き起こすことが明らかになってきた。そのため、皮膚症状だけでなく全身管理を行うことの重要性が指摘されている。こうした背景のもと、関西医科大学附属病院では、2020年11月に国内で3番目となる「乾癬センター」を開設。皮膚科を中心に複数の診療科や部門が緊密に連携し、全身管理の観点から乾癬患者を包括的に診療する体制を構築している。
1. 地域における皮膚科の役割
基幹病院として炎症性疾患から
皮膚腫瘍まで幅広く対応する

山崎 文和 皮膚科 准教授
関西医科大学附属病院は、母体となる関西医科大学のキャンパス移転計画と連動する形で2006年に大阪府枚方市に開院し、10年後の2016年には本院機能を担うことになった。系列の医療機関には総合医療センター(守口市)、香里病院(寝屋川市)、天満橋総合クリニック(大阪市)の3施設があり、それぞれ地域の特性に応じた医療に取り組んでいる。
同病院は特定機能病院の指定を受け、大阪府北河内医療圏の基幹病院として高度・先進医療を提供する。加えて、がん診療連携拠点病院、高度救命救急センター、災害拠点病院などの指定も受けており、この医療圏における"最後の砦"として多様な診療ニーズに対応している。
皮膚科では、谷崎英昭教授(診療部長)のリーダーシップのもと、炎症性疾患から感染症、皮膚腫瘍まで幅広く診療を行っている。特にアトピー性皮膚炎や乾癬など全身に炎症を及ぼす疾患に対する生物学的製剤治療の経験が豊富で、関連の診療科とも緊密に連携しながら治療を展開している。
また、近年は皮膚悪性腫瘍の治療にも積極的に取り組み、院内に開設されているがんセンターを拠点に手術のみならず最新の化学療法(免疫療法)を含めた集学的治療を実践する。さらに重症薬疹診療連携拠点病院にも指定されているため、高度救命救急センターとタッグを組んで中毒性表皮壊死症(TEN)、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、薬剤性過敏症症候群(DIHS)など重症薬疹の治療にも対応する。
2. 乾癬センター
全身管理を行って致命的合併症の
心血管病変を早期発見し予防する
同病院は、2020年11月1日に国内では3番目、関西地区では日本生命病院(大阪市西区)に次いで2番目となる「乾癬センター」を開設した。これにより、「乾癬の症状だけでなく全身状態を管理していく診療体制が整いました」と皮膚科の山崎文和准教授は言う。
この乾癬センターの運営を主に担うのは皮膚科で、循環器内科、リウマチ・膠原病科がサブスペシャリティとして加わり、栄養管理部も参加して通常診療のチームを組む。
すでに同科では、センター開設以前の2017年頃から全身管理の重要性を認識し、循環器内科をはじめ、リウマチ・膠原病科、呼吸器内科、消化器内科、整形外科、眼科の6診療科と連携し、乾癬の合併症に迅速に対応できる診療体制を構築してきた。そのため、この診療体制が乾癬センターの基盤となっている(図)。
「例えば、地域の医療機関から乾癬による関節炎を疑う症例が紹介されてきたらリウマチ・膠原病科の医師が最初に診察を行い、関節症性乾癬(乾癬性関節炎)であると診断したら循環器内科に回し、精密検査で心臓の血管の状態を調べます。そのうえで皮膚科による生物学的製剤治療を開始し、薬の副作用が出現すれば呼吸器内科などにサポートを依頼します」と山崎准教授は具体例を挙げながらセンターの診療の流れについて説明する。
乾癬には関節症状をはじめ皮膚症状以外の合併症が多くみられるが、乾癬センターでは全身症状の中でも心血管病変を重点的に管理する。山崎准教授によると、生物学的製剤を使用する患者を追跡した英国の調査をきっかけに、乾癬による炎症が体内のサイトカインを増やし、狭心症や心筋梗塞などの心血管病を引き起こすことが新たにわかってきたという。
そこで、同科でも循環器内科と共同で調べてみると乾癬患者の心血管病の有病率が高いことがわかり、なかでも乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬、関節症性乾癬の患者に多くみられた。そのため、関節症状を併発するなどリスクが高い患者をリウマチ・膠原病科と連携して積極的に拾い出し、循環器内科による精密検査を行っているのだ。
「この介入で心血管病変が見つかり、予防的治療を開始した人が結構います。皮膚症状に限ると乾癬は治る病気になってきたものの、致命的な内臓病変も引き起こすため、全身管理を行っていくことが欠かせません」と山崎准教授は指摘する。
また、メタボリックシンドロームを併存している場合も、心血管病のリスクが高まるため、その対策にも積極的に介入する。「特に糖尿病は乾癬の悪化因子でもあるので、内分泌内科や糖尿病科のサポートを受けながら血糖コントロールに努め、必要に応じて栄養管理部による栄養指導も行います」(山崎准教授)。
乾癬センターは今後さらに診療体制を充実させる予定で、数年後には脳神経外科や精神神経科にもサブスペ
シャリティとして加わってもらい、脳血管障害に対する予防的治療やメンタル面でのサポートにも取り組みたいと山崎准教授は考えている。

3. 地域連携
開業医から寄せられる相談に
WEB連携会議で積極的に対応
乾癬センターの開設に伴い、山崎准教授は地域医療機関との連携をさらに強化していきたいと考える。「普段は診療所(開業医)で治療を受けている軽症から中等症の乾癬患者さんを当センターにご紹介いただき、関節の状態、心血管病のリスク判定を中心に全身状態をチェックしたうえで介入が必要な人には診療所と連携しながら予防的対策を講じていく。いわば人間ドック的に活用してもらえる連携体制を構築したいと思っています」。
そのためには、地域の医療機関、特に診療所に対して乾癬患者における全身管理の重要性を啓発していくことが不可欠だ。「啓発活動とともに"顔の見える関係性"を築くことも大切だと考えています」と山崎准教授は話す。実は同科ではコロナ禍の診療対策の一つとして2020 年8 月から地域の医療機関との間で「WEB 連携会議」を開始しており、この試みが"顔の見える関係性"を築くうえで功を奏しているという。
「WEB連携会議は、地域の先生がたから相談がある場合にその都度開催しています。皮膚科医局にメールで直接連絡が入るので日程を調整し、こちらからWEB会議の招待を送って当日会議を行います。相談内容としては乾癬かどうかの判断がつかず、紹介に迷っているという事例が多いですね」(山崎准教授)。
会議では画像を共有し、10分ほどの症例検討を行う。利用した診療所の医師には、気軽に相談できるうえに自分たちの勉強にもなると好評だ。こうした連携を地域に拡大すると同時に「関連の香里病院とは定期的にWEBによる乾癬のカンファレンスを行っているので、地域の先生たちにも門戸を開放し、診断能力をともに高め合っていきたいと思っています」と山崎准教授は抱負を語る。
新型コロナウイルス感染症対策を機にWEB会議システムをしっかり整備することができたので、アフターコロナにおいても積極的に活用し、インターネットによる情報発信に力を入れていく考えだ。「地域の薬剤師会などからも生物学的製剤治療に関する講演のご要望をいただいています。ここ数年で乾癬に使用できる生物学的製剤は10種類に増え、現場では多少の混乱もみられるので、メディカルスタッフにも最新の情報を提供していく必要性を痛感しています」(山崎准教授)。

皮膚科医局のパソコンを使ってWEB連携会議を行い、地域の開業医からの相談に応じる山崎准教授
4. コロナ禍における診療
糖尿病を併存している場合は
より厳密に血糖管理を行う
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による、いわゆる「コロナ禍」の状況下において、同科では乾癬治療における生物学的製剤投与に関するさまざまな情報収集・検討をした。その結果、現在も検温・マスク着用・手指消毒といった基本的な感染防止策を徹底しつつ、生物学的製剤治療を続行している。
一方で、コロナ禍以前よりも厳密な管理を行うようになったのが糖尿病を併存する場合だ。「糖尿病が悪化すると新型コロナウイルス感染症にかかりやすくなるといわれていますので、内科と協議して、現在はヘモグロビンA1cの数値が8.5以上などの症例は血糖コントロールをしながら乾癬の治療を行っています」(山崎准教授)。
同様に心血管や脳血管に血管障害の既往症がある人、メタボリックシンドロームを併存している人も新型コロナウイルス感染症のリスクが高まるため、全身管理には注意を払っている。
5. 今後の課題と展望
臨床と研究の両面から
心血管病リスクを軽減
すでに紹介したように、山崎准教授たちは関節症状を一つの指標に乾癬の致命的な合併症である心血管病変のハイリスク者を拾い出している。しかし、関節症状がない人の中にも心血管病変のハイリスク者は潜んでいる。「皮膚症状のスコアの悪い人が合併症のリスクが高いといえないのが悩ましいところです」と山崎准教授は打ち明ける。
こうした現状を乗り越えるために、山崎准教授は心血管病変のスクリーニング指標について長年にわたって研究を続けており、「血液検査や心臓CT検査の中にいくつかの有力な指標が見つかっています。さらに考察を重ね、この指標を確定させることが今の大きな課題であり、目標です」と話す。臨床だけでなく研究の面からも乾癬患者の心血管病リスクを低下させる努力が行われている。
「乾癬センターは奇しくもコロナ禍でのスタートとなったものの、地域の医療機関とのWEB連携会議などアフターコロナにつながる取り組みを始めることもできました。これからもピンチをチャンスに変えて乾癬センターの機能をさらに充実させ、乾癬の全身管理の重要性を啓発することで、この地域から心血管病で死亡する乾癬患者さんを一人でも減らしていきたいと思っています」と山崎氏は最後に力強くこう締め括った。
KKC-2021-00005-1
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