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愛媛大学医学部附属病院[外来化学療法 現場ルポ]

2018年4月25日登載/2018年04月作成

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  • ●病院長:三浦 裕正 氏
  • ●創設:1976年
  • ●病床数:644床
  • ●所在地:愛媛県東温市志津川

「タッチパネル式患者参画型問診票」を開発し
多職種連携で有害事象の早期介入に取り組む

愛媛県における中核病院として地域に根ざした医療を展開してきた愛媛大学医学部附属病院は「地域がん診療連携拠点病院」の役割も担う。近年、化学療法の主流が外来にシフトする中、外来化学療法室のスタッフが中心となり「タッチパネル式患者参画型問診票」システムを開発。多職種が連携し有害事象の早期発見・対策に取り組む活動を展開し、患者がQOLを維持しながら化学療法を継続することに成果を上げている。

1. 外来化学療法室の役割 治療に伴う有害事象に対し
迅速かつ適切に対処すること

愛媛大学は「一県一医大構想」のもと1973年に医学部を新設し、それに伴って76年に医学部附属病院を開院した。以来、「患者から学び、患者に還元する病院」の理念を掲げ、愛媛県における中核病院として地域に根ざした医療を展開してきた。がん領域では、2007年1月に「地域がん診療連携拠点病院」に指定されたことを契機にがん診療体制を見直し、拠点病院の機能として求められる6部門を新たに設置した。そのうちの一つが腫瘍センターで、外来化学療法室やキャンサーボードの運営を担当する。

腫瘍センター長である薬師神芳洋氏によると、同病院においても化学療法の主流は入院から外来にシフトしてきており、外来化学療法室では年間延べ3,500~4,000件の治療に対応しているという。患者は各診療科で主治医の診察を受けた後、外来化学療法室で薬剤を投与される流れで、点滴中は腫瘍センターに所属する医師(当番制)、看護師、薬剤師が主にサポートする。そのほか必要に応じて管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士が専門的なケアにあたっている。

「外来化学療法室のスタッフが行うべき最も重要なサポートは、治療に伴う有害事象に対し、迅速かつ適切に対処することです」と薬師神氏は示唆する。この役割を存分に果たすべく、外来化学療法室では14年に「タッチパネル式患者参画型問診票」(以下、問診システム)を独自に開発し、多職種が連携し早期から有害事象への対策を講じられるようになった。

薬師神氏は、この問診システムを開発した背景に次のような事情があったことを打ち明ける。「がん診療連携拠点病院の要件として"治療の有害事象を含めた苦痛のスクリーニングを行い、主治医と情報共有できる体制を整備する"ことが求められていましたが、当院では化学療法による有害事象をモニタリングし評価するためのツールが統一されておらず、それぞれの職種が口頭で問診を行い、評価しているのが実情でした。そのため、多職種でタイムリーな情報共有ができず、有害事象への対応が次回の治療時になってしまうことが少なくなかったのです」

薬師神 芳洋
腫瘍センター長

2. 問診システムの特徴 自覚症状はグレード転換されて
電子カルテに表記される仕組み

そこで、この状況を改善するために2013年8月に外来化学療法室のスタッフによるプロジェクトチームが立ち上がり、問診システムの開発に取り組むことになった。まず問診システムの形態についてチームで話し合った結果、診察前に短時間で簡便に情報を集め、多職種で共有したうえで、その日の治療に役立てられることを目指すと、紙媒体ではなく電子カルテに反映させられる問診システムがよいとの結論に至った。薬師神氏によると、すでに院内にはタブレット端末機を利用した先行事例があったので、それも参考にしながら問診システムの構築を進めていったそうだ。

プロジェクトチームが次に行ったのは、問診システムでモニタリングする有害事象項目の選定だ。「過去2年間の介入データを調べてみると、食欲低下、味覚障害、悪心・嘔吐など11項目が上がってきました。さらに『有害事象共通用語規準ver4.0日本語訳JCOG版』を参考にしながら多職種で話し合い、先の11項目に4項目を追加した15項目(図表1)について常時モニタリングすることにしました」と外来化学療法室に勤務する看護師の井門静香氏は説明する。

そして、これらの項目を問診システムに落とし込む際に工夫したのが、症状の程度と出現時期について系統的に確認できるようにしたことだ。問診システムでは1つの質問に対し4つの選択肢が示され、患者はその中から自分の症状に当てはまるものを選ぶ仕組みとなっている。この4つの選択肢は、症状のないグレード0から日常生活に支障をきたすグレード3の4段階評価に基づいて設定されている。

そのため、患者が画面をタッチすると、その情報をリアルタイムに受け取れる電子カルテでは症状の程度がグレード転換されて表記される仕組みだ(図表2左)。それも単に表記されるのではなく、グレード1の場合は黒字、2の場合は青字、3の場合は赤字に色分けし、見読性を高める工夫も凝らした(ただし、グレード0の場合は症状がないため、電子カルテには表記されない)。さらに、グレード1以上の症状がある場合は、問診システムの次の画面に進んだときに出現時期を確認できるよう設計されている(図表2右)。

プロジェクトチームは試作版が出来上がった段階で20代~80代の患者15名にプレテストを行い、文字の見やすさ、表現のわかりやすさを含め、より使いやすい問診システムの完成を目指した。「外来化学療法室の患者さんの平均年齢は68歳と年齢層が高いため、負担のかからない方法にすることが大前提でした。プレテストでタッチパネルの操作にかかった平均時間は7~8分で、これなら高齢者も大丈夫だろうと手応えを感じました」と井門氏は振り返る。

こうしてプレテストに参加した患者の意見も反映したうえで問診システムを完成させ、外来化学療法室では14年12月から運用を開始した。運用にあたっては各診療科の協力が欠かせないため、キャンサーボードで事前に案内したところ"診察前に実施してほしい"といった要望などが上がり、前向きに受け入れてもらえたという。

井門 静香
外来化学療法室看護師

3. 問診システムの効果 最新の有害事象の状況を
治療当日の支持療法などに反映

運用開始から丸3年が経過した2017年末現在、脳神経外科と小児科を除くすべての診療科の外来には問診システム専用のタブレット端末機が設置されている。患者は各診療科の受付を済ませた後、端末機を受け取り、診察を待っている間に質問項目に従って有害事象の入力を行う。その情報は瞬時に電子カルテに転送されるため、診察の際、主治医は有害事象に対する最新の状態や状況を踏まえたうえで対応できるようになり、その日の外来化学療法の支持療法などにも反映されるようになった。「問診票に記載されている15項目に限られるものの、主要な有害事象に対する確認漏れがなくなり、なおかつ前回治療から治療当日までの自宅での発現状況がサマライズできることはQOLを維持しながら外来化学療法を継続させるうえで、とても意義があることだと思います」とがん化学療法看護認定看護師の森奈月氏は評価する。

半面、この問診システムの運用にあたり「この情報は患者の自己評価に基づくものなので正確性を期すために医療者評価との整合性を確認したほうがよい」との指摘もあった。実際、プロジェクトチームが行った「医療者と患者の評価の実態」調査では患者自身が入力すると、医療者による客観的評価よりもグレードが高くなる傾向がみられた。しかし、運用上の注意点が明確になったことで「看護師はグレードを再評価するために以前よりも早く患者さんの訴えに耳を傾けるようになりました。また、それだけでなく、この患者さんに今どのような支援が必要なのかを考えるようになり、薬剤師や管理栄養士など多職種と連携したサポートに早期に取り組めるようにもなりました」と井門氏は看護師の対応の変化について語る。

多職種連携による早期介入が多くなっていることは調査データによっても裏づけられている。問診システムの運用前後で多職種が介入した状況を比較してみると、運用前は2回目の治療で介入することが最も多かったが、運用後は初回治療から介入することが増えていた。さらに看護師からの依頼を受け、治療当日に介入した職種別件数を確認すると、ほぼどの職種も運用後のほうが増えており、緩和ケア認定看護師、皮膚排泄ケア認定看護師といった新たな職種の介入も見受けられた。

このような多職種連携が奏功した事例として井門氏は化学療法の有害事象の一つである嘔吐に対する取り組みを紹介する。「入院中に化学療法を2クール施行した後、初めて外来受診した患者さんが治療前、問診システムに従って有害事象の入力を行ったところ、悪心と食欲不振がグレード3と自己判定されました。そこで、外来化学療法室の看護師が食事摂取量や体重推移を含め患者さんにあらためて聞き取りを行い、悪心が遅発性悪心であることに気づいたのです」(井門氏)。そこで、看護師はそれらの有害事象をグレード2と判断し、薬剤師に支持療法の介入を依頼した。薬剤師も同様に評価し、さっそく主治医に制吐薬の処方提案を行い、その患者は治療前に制吐薬を内服することができた。

また、同時に看護師は管理栄養士にもサポートを依頼し、患者は栄養指導を受けることができたので、遅発性悪心と食欲低下の症状はやがて消失した。「この薬剤による嘔吐は中等度催吐リスクに分類されていますが、発現率は個人差が大きいため、全例に対する制吐薬の投与は推奨されていません。そのため、早期にタイミングを逃さずサポートするには医療者が積極的に働きかけ、支持療法が必要な人を見極めることが重要になってきます。このようなスクリーニングの観点からも、この問診システムは有用だと思います」と井門氏は語る。

森 奈月
がん化学療法看護認定看護師

問診画面の最後には経済的・社会的・心理的な困りごとについて確認する欄も設定している。例えば患者が画面で「気持ちのつらさ」をタッチすると、それが臨床心理士のパソコンに通知され、何らかのサポートを受けられる仕組みになっている。

4. 問診システムの課題 経口薬へのサポート拡大には
保険薬局と連携が必須に

一方、問診システムを活用することによりスタッフは効率的に患者にかかわれるようにもなった。例えば薬剤師の場合、抗がん剤の調製業務を兼務しているため、服薬指導などのベッドサイド業務に十分な時間を割けない事情がある。「問診システムの運用が始まる以前は、発現が予測される有害事象について一つずつ確認しなければならない状況で、まさに時間との戦いでした。しかし、現在では電子カルテを確認すれば問題となる有害事象が一目で把握できるうえに優先すべき項目も赤字で明示されているので、短時間で必要な患者さんに適切な服薬指導を行えるようになりました」と薬剤師の濟川聡美氏は説明する。

主治医と支持療法について相談する際も有害事象がグレード評価されているので、薬剤師の提案を受け入れてもらいやすくなったという。「医師にかぎらず、どの職種も同じ方向を向いてサポートできるようになったと感じています」と濟川氏は業務の効率化に加え、診療の質も向上していることに触れた。

さらに、森氏は患者が自分の有害事象に対して関心を持つようになり、セルフケア力が自然に高まる効果があることにも言及した。「薬剤を投与するたびに問診システムで同じことを繰り返し尋ねられるので、自宅でどのような有害事象に気をつけなければならないのか、おのずと意識づけられるようです」と森氏は推測する。

このような相乗効果の結果、有害事象のグレードは着実に低下してきている。なかでも食欲不振や悪心・嘔吐、下痢、便秘などの消化器毒性に対して多職種が連携して早期対策が行えるようになったので、グレード3の重症の判定が減少している。

残された課題の一つには、経口抗がん剤のみを服用する患者へのサポート拡大がある。「保険薬局との連携は欠かせないものの、個人情報保護法の観点から院外の施設とは問診システムの情報を共有するのが難しい面があります。経口抗がん剤のみの患者さんは全体の1~2割ですが、近い将来、増加することが予測されるため、今からどのように薬々連携を進めていくのか考えておく必要があります」と薬師神氏は口元を引き締める。

また、殺細胞性抗がん剤だけでなく分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の有害事象にも対応できるシステムにグレードアップしたい思いもある。「これらの薬剤の有害事象には患者さんのささいな違和感から急速に症状が進展するものが多いので、早めに介入できるメリットがさらに生かせると思うのです」(濟川氏)。

近年、がん分野では「ゲノム医療」の実用化に向けて国が体制づくりを進めており、同病院においても全国に12カ所設置される予定の「がんゲノム中核拠点病院」に協力して治療を行う「連携病院」に申請する計画がある。薬師神氏は「患者さんが都市部の医療機関に出向かなくても、この地域で最先端のがん治療が受けられる体制を構築することを目指しており、18年度以降はプレシジョン・メディシンを必要とする患者さんの受け入れも始まります。新薬を投与する場合、予期せぬ有害事象が起こる可能性があり、この問診システムをより有効に使っていきたいと考えています」と抱負を語る。

なお、この問診システムはアプリになっているので、他の施設でもアプリを入手しタブレット端末機にダウンロードすれば、同病院と同じように使える。「より多くの施設で多職種による有害事象の早期発見・対策に取り組んでいただきたいので、がん化学療法に従事する医療機関や保険薬局には無償でアプリを提供します」と薬師神氏。この問診システムを活用するメリットは大いにありそうだ。

濟川 聡美
薬剤師

院内の電子カルテグループと協働で開発した患者参画型問診票「BEAR-D」のアプリ。タブレット端末機にダウンロードすれば、どこの施設でも使える。

KK-18-04-21909

外来化学療法 現場ルポ

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