県立広島病院
[外来化学療法 現場ルポ]
2019年07月25日登載/2020年9月作成

- ●病院長:平川勝洋先生
- ●創設:1877年
- ●病床数:712床
- ●広島市南区宇品神田1-5-54
"治療"から"在宅・看取り"まで
がん患者が安心して化学療法を継続できるように
専門医を育成し、持続性のある診療体制構築を目指す
広島県の基幹病院として高度医療の提供に努めてきた県立広島病院は、地域がん診療連携拠点病院の指定を契機にがん診療体制の強化に乗り出し、全国の公立病院に先駆けて「臨床腫瘍科」を新設した。同科では、市中病院として地域に根ざしたがん薬物療法を持続的に展開するため、在宅医療も視野に入れつつ、大学医学部の協力も得ながら、がん患者が住み慣れた地域で最期まで安心して暮らせる診療体制づくりに挑んでいる。
1. 腫瘍科開設の目的
住み慣れた地域で
化学療法が受けられる体制を
県立広島病院の歴史は、1877年に創設された公立広島病院に始まる。同院は140年余りの長い歩みの中で幾度か医学校を併設し、医育機関としての役割を担う時期もあった。第二次世界大戦末期には原爆によって壊滅的な被害を受けたものの、1948年に病床数111床の総合病院として再出発。広島県の基幹病院の一つとして発展を遂げ、80年代以降はさまざまな領域においてセンター化を推し進め、高度医療機能の充実に努めてきた。
がん分野においては、2006年に「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受けたことを契機に、がん診療体制の強化に乗り出し、臨床腫瘍科の新設にまず取り組んだ。当時、この診療科を設置する公立病院は全国でもほとんど見当たらず、同院はその先駆けとなった。「がん患者さんが住み慣れた地域で化学療法を受けられるように、そして最期まで安心して暮らせるように看取りまで視野に入れた診療体制の構築を目指しました」と篠崎勝則臨床腫瘍科主任部長は開設の目的を語る。
こうして、同科は2006年7月に消化器外科出身の篠崎主任部長と呼吸器内科出身の土井美帆子臨床腫瘍科部長の2人の医師によって立ち上げられ、固形がんを中心に診療を開始した。「最初は外科から紹介された消化器がんや乳がんの化学療法を数多く行っていましたが、そのうち耳鼻咽喉科や皮膚科などにも紹介が広がっていきました。現在では、呼吸器内科、産婦人科、泌尿器科などとも緊密に連携しながら、あらゆる固形がんに対し、臓器横断的に化学療法を実施するのが当科の大きな特徴の一つになっています」と篠崎主任部長は説明する。
同院の最新統計によると2019年度の外来化学療法の実施件数は8,114件。開設時の件数と比較すると倍増の勢いだ(図表1)。「18床ある化学療法室では1日に3回転させているものの、そろそろ限界に近づいており、増床は避けられない状況です」と篠崎主任部長は語る。

篠崎勝則
臨床腫瘍科主任部長
2. 化学療法チーム
患者の立場になって
治療やケアの方法を考える
同科の外来フロアには「化学療法室」が機能の一部として整備されており、そこでは化学療法を専門とする医師(日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医や日本血液学会専門医など)のほか、看護師と薬剤師の3職種で構成される「化学療法チーム」が外来化学療法のみならず輸液療法、胸腹水ドレナージや輸血などの支持療法を提供している。
このチームには、がん領域の専門・認定資格を取得するスタッフ(がん看護専門看護師、がん化学療法看護認定看護師、乳がん看護認定看護師、がん疼痛緩和認定看護師、外来がん治療認定薬剤師など)が優先的に配置されているため、それぞれの専門性を生かした支援を行っている。「チームの目標として"患者さんの立場になって治療やケアの方法を考える"ことを徹底しているため、担当を細かく決めなくてもスタッフが自主的に協働してくれます」と篠崎主任部長は評価する。
また、篠崎主任部長は「患者さんが安心して化学療法を継続するには、在宅を見据えたかかわりが欠かせません」と指摘する。日常的な対応として、同チームでは患者が自宅に戻ったときの状態や状況も想定したうえでアセスメントを行い、化学療法に伴う副作用や合併症、療養生活上の注意点などをアドバイスする。さらに、困り事が起これば電話でも随時サポートする。
「患者さんが自宅に戻っても円滑にサポートを受けられるよう、地域の診療所や訪問看護ステーション、保険薬局と一緒に勉強会や事例検討会を行い、顔の見える関係づくりにも注力してきました。こうした取り組みが実を結び、現在では多職種による退院時カンファレンスへと発展しています」と篠崎主任部長は語る。

臨床腫瘍科の外来フロアは人間ドックだったスペースを改築して活用しているため、待合室は落ち着いた雰囲気が漂い、治療前の緊張感を和らげてくれる

外来化学療法室の治療ブースは広めのスペースとなっており、治療中も家族が傍で付き添える

副作用などの影響で体調がそれほどよくない患者は優先的にベッドで治療を行い、異変が起こったときもすぐに対応できるよう看護師が1人常駐している

外来化学療法室内に設置された調剤室(写真左手前)では、外来・入院を問わず、すべての抗がん剤が薬剤師によって調製されている
3. 腫瘍センターの役割
最期まで安心して暮らせるように
コーディネートする
臨床腫瘍科の入院病棟は2013年に集約化され、2015年に「腫瘍センター」が開設された。そこでは、(1)入院を必要とする化学療法、放射線療法、化学放射線療法、(2)化学療法による副作用やがんによる増悪などに伴う合併症の支療法、(3)がん終末期における緩和ケア、の主に3つの治療の対象となる患者を受け入れている。他科のがん患者も同様に受け入れている。
「当院では2004年に緩和ケア支援センターと緩和ケア病棟を開所しています。ただ制度の縛りなどもあり、化学療法が打ち切りとなって在宅療法されている患者さんの緊急入院や終末期ケアには対応しづらい面があります。また、地域の医療機関にも後方支援病院としての役割を求めにくい状況があります。そのため、現状では在宅医と機能的に連携して後方支援病院としても機能していますが、今後は地域医療構想が熟して機能分化に期待したい」と篠崎主任部長は打ち明ける。
こうした状況の中、入退院を繰り返す患者も少なくないことから、看護師が中心となり、地域医療連携室のスタッフや地域の在宅支援チームとも連携して退院時カンファレンスを行い、退院後も困らない療養環境を準備する。
「腫瘍センターは、さまざまな立場の医療者が患者さんの在宅生活をともに考える場となっており、その役割は非常に大きいと感じています。こうした取り組みが地域完結型医療を育てていると信じています」と篠崎主任部長は語る。
同センターでは、さらに外来と病棟の連携を強化するために、センター(病棟)の看護師を外来化学療法室にロー テーションで配置している。「センターの看護師は外来化学療法室での実践を通し、化学療法や支持療法 について深く学ぶことができるので、病棟の看護の質を底上げすることにも役立ちます。さらに、外来でも入院でも 顔見知りの看護師が常に傍にいることは非常に心強く、患者さんにとってのメリットも大きいのです」と篠崎主任部長は効果を期待する。

臨床腫瘍科の専用ベッド25床を有する腫瘍センター緊急入院や終末期の緩和ケアにも迅速に対応し、看取りにも積極的に取り組んでいる

腫瘍センターにあるカンファレンスルームでは、地域の在宅支援チーム(在宅医、訪問看護師、薬局薬剤師など)も参加して退院時カンファレンスが開催される
4. 大学との連携と教育
広島大学と緊密に連携し
後進の育成に取り組む
院内におけるがん診療体制の整備が進み臨床腫瘍科の果たす役割が比重を増す中、人材確保が緊喫の課題となってきた。「臨床腫瘍科では、臓器横断的に化学療法をトレーニングできること、積極的な治療から緩和ケアまで切れ目のないチーム医療を経験できることが当科の強みです。がん薬物療法専門医を取得した医師の受け皿になるだけではなく、日本臨床腫瘍学会研修施設でもあり、自前で専門医を育成したいと考えるようになりました」と篠崎主任部長は意欲を語る。
しかし、人材確保にも苦労する新領域であるがゆえに、市中病院だけで育成に取り組むのは実現性が乏しい。そこで、篠崎主任部長は母校の広島大学医学部と連携し、若手医師を対象としたがん薬物療法の研修体制の構築にも乗り出した。そして、広島大学血液内科の一戸辰夫教授の御理解と御支援のもと、2018年10月に日本血液学会指導医資格を持つ森岡健彦臨床腫瘍科部長を迎え、血液がんの診断や治療のトレーニングまで行える理想的な研修体制を実現した。
この動きと前後して広島大学消化器外科の大段秀樹教授の御支援を頂き、2018年7月から大学院在学中の若手医師を年に1人ずつ派遣してもらう体制も整えた。「今後さらにがん薬物療法専門医資格を取得する医師が増えることを期待しています」と篠崎主任部長。また、森岡部長も固形がんのトレーニングを積み、がん薬物療法専門医の取得を目指すという。
将来的には広島大学と協力しながら、県内のがん診療連携拠点病院にも配置できるようにしたいとの夢も描く。「持続性のあるがん薬物療法の診療体制を確保するために、市中病院であっても後進の育成は我々の責務だと考えます」と篠崎主任部長は言い切る。
公立病院に開設された数少ない腫瘍内科として、さまざまな工夫を凝らしながら、患者の安心感を優先し、がん薬物療法の診療体制づくりに取り組んできた県立広島病院臨床腫瘍科。地域に根ざしたがん薬物療法のあり様を考えるとき、ここはよきロールモデルとなる。

臨床腫瘍科の外来にある血液がん専用の診察室。これまで対応が難しかった血液がんの診断や治療も行えるようになり、診療の拡大につながっている
KK-19-07-26217(1904)
外来化学療法 現場ルポ
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