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Dr.Interview

Dr.interview ドクターインタビュー

CKD医療の最先端を目指しながら
あたたかい医療を実践

都市型の地域医療支援病院 大久保病院の取り組み

CKD医療の最先端を目指しながら
あたたかい医療を実践

都市型の地域医療支援病院 大久保病院の取り組み

近年では,透析導入の抑制などを目指してCKD地域医療連携が推進され,特に腎臓専門医が少ない地方では,このような連携が成果を上げつつある。一方都市部では,医療資源は豊富だが,透析導入だけでなく幅広い課題への対策が必要とされ,中核病院を中心とした医療連携に期待が寄せられている。東京都保健医療公社大久保病院は,区西部(新宿区,中野区,杉並区)に位置し,まさに都市部中核病院の代表格である。大久保病院腎内科の若井幸子氏に,都市部におけるCKD診療の現状と課題についてお話を伺った。

  • 若井 幸子

    若井 幸子

    公益財団法人東京都保健医療公社 大久保病院 腎内科部長

    1983年に東京女子医科大学卒業後,第4内科入局。1990~1992年にカナダ・ブリティッシュコロンビア大学留学。1999年より現在の東京都保健医療公社大久保病院腎内科に勤務し,2007年内科部長に就任。医学博士,日本内科学会認定医・専門医,日本腎臓学会専門医・指導医・学術評議員,日本透析医学会認定医・指導医,日本臨床腎移植学会認定医,日本移植学会認定医,東京女子医科大学第4内科非常勤講師,東京都区部災害時透析医療ネットワーク区西部ブロック長,日本臓器移植ネットワーク東日本支部実務委員。

大学の医局からカナダへ留学,そして大久保病院へ

大久保病院は腎領域を中心的医療分野のひとつに据えている。同病院で腎領域の牽引役を担うのが,腎内科の若井幸子部長である。若井氏は腎臓専門医を目指した理由について,「私が東京女子医科大学(以下,女子医大)で学んでいた頃,学生たちの間では,臓器別医療を志向する傾向が強かったのですが,臓器に特化するよりも透析医療を通して広く一般内科を診たいと思い,医局を決める際に腎臓内科を希望しました」と語る。

大学卒業後は医局に在籍。ご主人がカナダに留学することになり,若井氏も同行を希望した。しかし,当時は医局の規則で同行が認められなかったため,自身もカナダに留学することを決意したという。そしてカナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMagil教授(腎臓病理)に留学が受け入れられ,当時2歳の子どもを連れて家族全員でカナダに移住した。

帰国後,大久保病院に勤務。最初は子どもが幼かったこともあり時間の融通がきく非常勤医からスタートし,常勤医,医長,部長とキャリアを重ねてきた。若井氏は帰国当時を振り返り,「あの頃はまさか,自分が部長になるとは思っていませんでした」と話す。

腎移植患者は腎臓内科医が診る

大久保病院で全国的に注目されているのが,腎移植への取り組みである。若井氏は腎移植との関わり方について,「私がカナダに留学していた頃,日本では移植医が腎移植前後の患者さんを診療していました。ところが,カナダではそのような診療は腎臓内科医が行っていたのです」と語る。カナダでの経験を通して,心臓内科医が心臓手術前後を診るように,腎臓内科医も腎移植前後を診るべきだと考えるようになったという。

その後,日本の腎移植のトレンドも,若井氏の考えに沿うかのような動きをみせる。背景にあったのは,移植による拒絶反応の減少。2000年に入ると,腎移植後をCKDとして管理すること,つまり血圧,血糖値,脂質異常症をコントロールすることの重要性が認識されるようになった。このような流れを受け,「当院でも移植医から,共同で腎移植後の診療をしようというオファーがくるようになりました」(若井氏)。

さらに,女子医大では移植後の患者管理が飽和状態となり,移植後管理が必要な患者の受け入れが近隣の病院に要請されるようになった。そこで大久保病院では,2007年から腎移植後患者を受け入れ,2009年からは腎移植も開始した。現在は,「毎月2例のペースで腎移植を実施するとともに,女子医大で腎移植を受けた患者さんの受け入れも継続しています」(若井氏)という。

都市部から地方へ広がる腎移植医療

日本では腎移植の大半が生体腎移植である。移植医療は今後どのような方向に進むのだろうか。若井氏は,「従来,腎移植は透析患者さんの希望で実施することが多かったのですが,近年では透析を経ないで移植を実施する,先行的腎移植(preemptive kidney transplantation; PEKT)が広まりつつあります。PEKTは成績や予後が良好であることから,当院では腎移植全体の3~4割を占めています」と語る。

大久保病院では腎代替療法が必要になった患者に対して,「血液透析」「腹膜透析」「腎移植」を選択肢として提示するという。そして,関連4学会(日本腎臓学会,日本透析医学会,日本移植学会,日本臨床腎移植学会)で作成した冊子(図11)によってそれぞれの治療の特徴を説明したり,透析室を案内したり,腎移植経験者の話を聞いてもらったりしながら,患者が納得して治療を選択できるよう支援している。腎移植の今後について若井氏は,「女子医大には全国から大勢の先生が腎移植を勉強しに来ます。近年ではその先生方が地方に戻り,腎移植を行える体制を続々と立ち上げています」と,裾野の広がりに期待を示した。

図1

文献1より引用

もう不治の病ではない─ IgA腎症専門外来の開設─

大久保病院が腎移植と並んで取り組む専門的な治療に,「IgA腎症に対する扁桃摘出術+ステロイドパルス療法(扁摘パルス療法)」がある。IgA腎症が発見されたのは1968年2)。日本を含むアジアや南欧に多く,北米や北欧では比較的少ないことが知られている。当初IgA腎症は予後良好とみなされ,治療をせずに経過観察してよいといわれていたが,長期予後の成績が1993年,1997年にフランスとわが国で相次いで報告され3)4),10年で10~15%,20年で40%が末期腎不全に至ることが判明した。

IgA腎症の治療に関しては,厚生労働省と日本腎臓学会が「エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014」を作成し,「尿蛋白<0.5g/日」かつ「GFR≧60mL/分/1.73m2」であれば予後が良好と予測されることから,経過観察を推奨している(図25)。その背景には,IgA腎症は寛解治癒が困難であることに加え,なかには自然寛解するケースもあるため,病態を見極めてから治療介入を行うべきという考え方があり,治療介入の目的も寛解治癒ではなく「腎機能障害の進行抑制」と記載されている。

一方,堀田修氏(堀田修クリニック)は,1988年よりIgA腎症に対する扁摘パルス療法を開始し,2001年には本療法が寛解治癒をもたらすことを報告した6)。すると,仙台で診療している堀田氏のもとに,全国から大勢の患者が訪れるようになった。そこで,東京でも同じ治療を受けられるようにと,大久保病院では2008年より堀田氏によるIgA腎症専門外来を開設している。

図2

文献5より引用

IgA腎症の寛解を目指す扁摘パルス療法

IgA腎症専門外来で診療を開始すると,かかりつけ医からの紹介以外にも,大勢の患者が直接来院するようになった。訴えの内容は,「ほかの医療機関では血尿単独は腎生検の適応でないといわれたが,IgA腎症ではないかと心配」,「IgA腎症と診断されたが,経過観察のみでは不安」,「IgA腎症で妊娠を希望しているが,経過観察中にGFRが低下してきた」など。ガイドラインは低リスクの患者に対して,必ずしも積極的な治療介入を推奨していないが,患者はたとえ低リスクでも寛解治癒を望んでいることが伝わってきた。

原疾患がIgA腎症で腎移植が必要になった患者が,移植医の指示で扁摘パルス療法を受けに来ることも多い。その中には,「IgA腎症と診断された時に,予後は良好だが通院継続が必要と説明されたのに,通院を中断してしまったのが悪い」と自分を責める患者もいるという。「IgA腎症は若い患者さんが多いので,長期通院に耐えられないことがあるのだと思います」(若井氏)。

若井氏は,IgA腎症の発症機序には粘膜と骨髄における免疫応答の異常が関与していることを指摘し,「現在のガイドラインは糸球体血管炎による蛋白尿や血尿がないと扁摘パルス療法を推奨していませんが,免疫的機序の抑制を目的として実施するという考え方もあるのではないでしょうか」との見解を示した。若井氏らは,IgA腎症の経過が短い患者群では,経過が長い患者群に比べて,扁摘パルス療法の寛解率が良好であることを報告している7)。「寛解治癒の機会を逸しないためにも,早期の治療介入が望ましいと思います」と若井氏は指摘した。

腎内科スタッフのみなさん.抜群のチームワークは日頃からの連携の賜物.

地域の中核病院としてCKD地域医療連携を促進

大久保病院は地域医療支援病院の承認を受けた区西部の中核病院として,CKD地域医療連携の推進にも尽力している。連携先との役割分担は,連携先の状況に応じて対応しているが,貧血や骨・ミネラル代謝異常の管理は大久保病院が担当するケースが多いという。連携の現状について若井氏は,「患者さんの紹介基準は連携先によって異なりますが,以前のように透析が必要になってから紹介されるケースは少なくなっています」と説明し,CKD地域医療連携の成果を「近年では緊急透析が減ってきている」と評価する。

一方で今後の課題として,早期にCKDの原疾患を確定し,治療方針を立てることが重要であることを指摘。「特にIgA腎症は,腎機能が低下する前に専門医の診察を受けてほしい」と強調した。また,透析導入原疾患の第一位である糖尿病腎症に関しては,本症で腎移植に至った患者を数多く診療している経験から,「糖尿病腎症と一括りにされていますが,実際の病態は腎硬化症や肥満関連腎症がオーバーラップしていることを考えると,症例ごとに血圧や食事など管理のポイントが異なることを意識する必要があると思います」と指摘し,柔軟な対応が求められるとした。

災害拠点病院としての責任

都市部の地域医療が抱える大きな課題のひとつに,災害に対する備えがある。大久保病院は東京都災害拠点病院に指定され,若井氏は災害時透析医療ネットワーク区西部ブロック長を務めている。本ネットワークでは,透析患者用の災害対策マニュアルを作成したり(図38),災害発生時の行政との連携について話し合ったりしている。

さらに他府県で災害が発生した際,東京都は医療資源の主要な提供元となる。大久保病院は東日本大震災発生時に,被災した透析患者(入院15例,外来9例)を受け入れた。ただ,「当院では午後はベッドに余裕があったのですが,これを満床にして対応するためにはスタッフの増員が必要でした」(若井氏)。しかし,急なスタッフの増員は現実的には難しい。「そこで,一部の維持透析患者さんに協力していただき,通常は午前と午後の2クールで回している外来の透析スケジュールを工夫して対応しました。午前と午後のクールの間は約2時間30分程度の空き時間がありましたので,この時間を有効に利用するため,午前午後の2クールとは別に,5名の維持透析を午前クールより30分早く開始し,終了して45分後には被災した方の透析を開始するようにしました」(若井氏)。こうした工夫により,スタッフ1名が残業する形にはなったが,増員なしでの被災透析患者受け入れを実現させることができたという。

また若井氏は,「東日本大震災を通して被災された患者さんのADLを把握することの重要性を認識しました」と話す。被災した透析患者を振り分けるために,外来と入院でトリアージを実施した際,外来と分類された患者の中には介護が必要な状況にもかかわらず,介護者と離されてしまった人も多かった。そのため,避難先で問題が発生したケースが多数みられたのである。そこですぐに既存のマニュアルを改訂し,ADLに関する情報を追加した。

図3

文献8より引用

充実した研修プログラムが口コミで評判に

CKD地域医療連携を推進するうえで,腎臓専門医不足は深刻な課題である。特に現行の臨床研修医制度が導入された2004年以降,多くの病院が医師不足に陥った。若井氏は,「当時私は臨床研修委員長でした。これからは自力で医師を育成しないと,マンパワーが確保できない時代になったと痛切に感じました」と振り返る。そこで,プリント教材を活用した指導を積極的に実施するなど研修プログラムの充実を図ったところ,口コミで評判が広まり研修医が徐々に増えていったという。

東京都が2008年に都立病院・公社病院が一体となって後期臨床研修システムを提供する「東京医師アカデミー」を発足させたことも,マンパワー充実の追い風となった。「当院で腎移植の立ち上げができたのも,必要なマンパワーを確保することができたからです」(若井氏)。

患者さんを見守る気持ちを大切にしたい

大久保病院は女性の医師が多く,腎内科の医師も15人中12人が女性である。若井氏は,「腎内科では子育て支援にも力を入れています」と話す。具体的な支援策として,午後1時から10時まで勤務し午後の透析を担当する「中勤」という制度を設けた。夕方に緊急入院による透析を開始しても,その後の対応を中勤の医師に引き継ぐことができるため,主治医が夜まで残っている必要はない。

この制度を運営するにあたっては,「医師同士でのチーム医療を徹底しています」という。たとえば患者家族が来院し病状に関する説明が必要になった際には,あらためて主治医のアポイントを取り直してもらう必要はない。状況を把握している医師がその場で説明し,内容をカルテに記録しておく。また病棟で処置が必要になった場合も,その時に対応可能な医師が処置を行うことになっている。

このような診療のあり方は,多くの患者をチームで診療している透析室との共通点が多い。若井氏は,「透析室ではスタッフ全員が患者さんのことを知っていて,日頃から良好な関係が築けています」と話す。同様に腎内科の病棟でも,担当外の患者に声をかけたり,廊下ですれ違った際に挨拶したりといったことが,日常的に行われているという。

最後に若井氏に,CKD診療の最前線で働く女性管理職としての目標を尋ねると,笑顔とともに次のような答えが返ってきた。「私が子育てをしていた時期,家庭や学校だけでなく地域で子どもを見守っていくことが大切といわれてきました。医療の現場でも同じことがいえると思います。患者さんに対しても,皆であなたを見守っていますよ,という気持ちで接することを大切にしたいと思っています」。Patient Firstを貫き,あたたかな医療の実現を願う姿が印象に残った。

引用文献

  1. 1. 日本腎臓学会, 日本透析医学会, 日本移植学会, 日本臨床腎移植学会編. 腎不全 治療選択とその実際(http://www.jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/2016jinfuzen.pdf)
  2. 2. Berger J, et al. J Urol Nephro(l Paris). 1968; 74: 694-5.
  3. 3. Chauveau D, et al. Contrib Nephrol. 1993; 104: 1-5.
  4. 4. Koyama A, et al. Am J Kidney Dis. 1997; 29: 526-32.
  5. 5. 松尾清一. エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014. 東京: 東京医学社; 2015.
  6. 6. Hotta O, et al. Am J Kidney Dis. 2001; 38: 736-43.
  7. 7. 長谷川純平, 他. 第56回日本腎臓学会学術総会: 2013.
  8. 8. 東京都区部災害時透析医療ネットワーク. 透析患者災害対策マニュアル(http://tokyo-hd.jp/images/saigai_2010.pdf)

KK-17-04-18225

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