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Dr.Interview

Dr.interview ドクターインタビュー

専門医不在の町だからこそ!
~充実したCKD診療の提供~

久留米医療圏周辺におけるCKD地域連携構築の取り組み

専門医不在の町だからこそ!
~充実したCKD診療の提供~

久留米医療圏周辺におけるCKD地域連携構築の取り組み

福岡県南部に位置し,人口30万人を擁する久留米市。市内には34の病院と300を超える診療所が存在し,久留米大学病院を筆頭に,最先端の医療設備を有し高度医療を提供する病院が数多く集まる。全国でもトップクラスの充実した医療提供体制を誇るが,近接する自治体では,人口の急激な高齢化や腎臓内科医不足により透析導入患者が増加。医療格差が生じている現状がある。医療提供体制の地域格差を改善し,CKD診療の均てん化を図るにはどのような取り組みが有効か。腎臓専門医の立場から積極的にCKD地域連携の推進に取り組む,久留米大学医学部腎臓内科講師の甲斐田裕介氏にお話を伺った。

  • 甲斐田 裕介

    甲斐田 裕介

    久留米大学医学部腎臓内科講師/ 副医局長/教育主任

    2004年久留米大学医学部卒業。同大学病院での臨床研修を経て2006年より内科学講座腎臓内科部門助教。2014年より大牟田市立病院,2015年杉循環器科内科病院勤務を経て2016年4月より久留米大学医学部地域医療連携講座助教,内科学講座腎臓内科部門兼任,同年8月より地域医療連携講座講師,2017年4月より内科学講座腎臓内科部門講師。日本内科学会認定医,日本腎臓学会専門医,日本透析医学会専門医。

充実した久留米医療圏
周辺地域との医療ギャップ

久留米大学病院は,福岡県南部の久留米市周辺地域をはじめ,県外の大分県日田市,佐賀県鳥栖市などを含む広域にわたり,地域中核病院として高度医療を提供している。腎臓領域においては,多くのスタッフを抱え,IgA腎症や急速進行性糸球体腎炎,ネフローゼなど腎炎の診療や,保存期CKDの管理,透析導入や透析患者の合併症治療などに取り組む。透析ベッドは44床で,2016年の年間透析導入患者は80名(血液透析65名,腹膜透析15名),維持透析患者は92名(血液透析57名,腹膜透析31名,併用4名)であり,夜間透析も手がける点が特色である。

久留米医療圏について,甲斐田氏は「人口10万人あたりの医師数や病床数が全国平均を大きく上回り,充実した医療提供体制を実現できていると思います」と話す。同大学病院近隣の医療機関には同病院腎臓内科から多くの腎臓専門医が出向しており,CKD診療の体制も非常に整った環境にあるといえる。

しかし,久留米医療圏を離れると状況は一変する。甲斐田氏の出身地である大牟田市は久留米大学病院からわずか30km,電車で30分程度の距離にあるが,甲斐田氏が2014年に大牟田市立病院に出向した当時の腎臓専門医は人口10万人あたりわずか数名。さらに,久留米医療圏に近接する筑前町は,腎臓専門医が1人もいない。透析患者は増加し続け,町の財政を圧迫していた。

CKD医療連携における紹介のタイミング

ただし,久留米大学病院とその周辺地域との連携が特別希薄だったわけではない。同病院は特定機能病院として,地域の医療機関から紹介された患者に高度医療を提供してきた。かかりつけ医から紹介されたCKD患者を同病院腎臓内科が専門的に診る連携は機能していたのである。

ただ,紹介患者を診るうちに,甲斐田氏は「紹介されてくるタイミングに問題がある」と気づいた。紹介患者に対して,同科ではCKDの教育入院を行う。教育入院の対象はステージG3bからが有効とされているが,同科の教育入院患者のほとんどは末期腎不全のステージG5の患者で占められていた。

腎臓専門医への紹介のタイミングについては,日本腎臓学会が,尿蛋白や血尿,腎機能の状態で定めた紹介基準を示している1)。「紹介が適切な具体的数値については,かかりつけ医の先生方もご存知だと思います。ただ,患者さんの自覚症状が乏しい場合など,紹介を躊躇されるケースも多かったのではないでしょうか」。

一方,腎機能が保たれている早期の段階で紹介された場合にも問題があった。教育入院を行ったあとはかかりつけ医に患者を返すが,その後,同科で定期的にフォローする併診体制がシステムとして存在していなかったのである。「逆紹介時に,"また悪化したときには紹介してください"とお伝えしていました。かかりつけ医の先生にしてみれば,それはどのようなタイミングなのか曖昧だったでしょう。逆紹介後はほぼ完全にかかりつけ医の先生にお任せするかたちになっていたことも,紹介が遅れた要因のひとつではないかと思います」。

高齢化が進む地域における透析療法の問題

また,久留米医療圏周辺では,腎臓専門医の不在に加え,人口の顕著な高齢化もCKD診療上の課題を生んでいた。たとえば,大牟田市の高齢化率(65歳以上)は約35%2)と,全国平均より約15年先行しているといわれ,独居高齢者も人口の1割を超えている2)。また,一般的な透析導入平均年齢が全国平均69歳3)のところ,甲斐田氏が在籍していた2015年当時の大牟田市立病院では75歳だったという。「大牟田市では80歳以上のCKD患者さんが珍しくない状況で,高齢者のCKD進展予防や透析導入の決定プロセスなどを地域で考える必要がありました」。

高齢者の場合は,透析導入によりかえってADLが低下することや4),生命予後を悪化させる5)懸念があることも考慮しなくてはならない。また,認知症を併発した状態で透析適応の病態となった場合,本人の意思を確認できないまま導入に踏み切らざるを得ないケースも多い。そうなるまでに患者や家族が透析導入について話し合い,その結果を腎臓専門医やかかりつけ医と共有しておけば,いざというときでも本人の意思を尊重した選択が可能となる。「実際,独居の高齢女性で緊急透析が必要となり,あわててご家族が同意して導入したケースがありました。その後,ご家族が在宅で患者さんを診ることができず,もう2年くらい入院されたままの状態です。高齢の患者さんは,透析導入後の実際を念頭に置いたうえでの生活環境の調整も必要です」。

連携推進のためのシステムづくり

久留米医療圏周辺のCKD診療の状況を踏まえ,どのような連携体制を構築すべきか。甲斐田氏は現在,行政や医師会も交えながら全体のシステムを検討している。その一環として,久留米大学病院のCKD教育入院や外来腎臓病教室の拡充を進めているほか,連携を推進するためのCKDパスの運用を検討。現在,CKDのステージ別に『CKD手帳』を数パターン作成し,試験的に運用中という。

「CKD手帳の意義は,診療スケジュールを明確にし,腎臓専門医,かかりつけ医,患者さんの3者で共有することにあります。それにより,医師間で生じがちなちょっとした意識のずれを防止し,腎臓専門医不在の地域では,CKD診療の標準化も期待できると考えています」。年間の受診予定が一目でわかるようにし(図1),ここに患者の身体状況によって眼科や歯科の受診,栄養指導,理学療法士や臨床心理士の介入,教育入院の予定などを追記することを想定している。

さらに,CKD手帳とあわせてパスに組み込まれているのが,日本腎臓学会が作成したCKDのチェックリスト6)である。チェック項目にはBMIや血圧,血糖,脂質,食塩摂取状況,禁煙,カリウム,たんぱく質摂取量,尿酸が並び,それぞれの管理達成度を記載する形式となっている。

CKDパスは長期的な運用を見据え,今後,改良を重ねていく予定。「めざすのは,かかりつけ医の先生方が患者さんを紹介しやすく,紹介してよかったと思える連携を実現するパスです。よいかたちで完成に漕ぎつけられたら,是非,別の医療機関でも活用していただけたらと思っています。久留米医療圏周辺のCKDパスのモデルとなれば幸いです」。

啓発・予防は小児期から
─筑前町での取り組み─

腎臓専門医がいなかった筑前町は,久留米大学に協力を依頼。同大学腎臓内科は,2010年から筑前町で腎臓病予防講演を行い,CKDの啓発に努めてきた。2016年からは甲斐田氏がその役を担っている。この講演を機に,甲斐田氏は町からCKD予防対策へのさらなる協力を依頼され,啓発のためのさまざまな活動を試みている。

『広報ちくぜん』(月刊)に2016年8月から半年間,腎疾患や生活習慣病に関するコラムを連載。また町主催のさまざまな健康イベントで,何度も公開講座を行った。ただ,CKDに関する知識が住民に浸透しているのかは,わからなかった。そんな中,公開講座終了後のアンケートで,「こういうイベントは高齢者しか来ない。もっと若い人をターゲットにすべき」という意見が寄せられ,甲斐田氏は啓発方法を変える必要があると思い立った。

そこで,「ちくぜん健康フェスタ2016」では親子で参加してもらうマラソン教室を開催するなど,若い世代へのアプローチを狙った啓発イベントを計画してみたが,結局,参加者の多くは高齢者だったという。

「やはり,待っているだけではダメ。啓発したい相手のところへは,こちらから出向かないといけない」と痛感した甲斐田氏。それでは,若い人がいる場所はどこか。甲斐田氏は小学校を思いついた。運動会や文化祭などのイベントを活用すれば,子どもはもちろん30~40代の親世代を含めた啓発が可能となる。小児肥満や生活習慣病予防から将来的なCKD予防を実現する啓発の場として,小学校は最適だと考えたのである。「校区単位というと,とても小さなコミュニティでの活動ですが,そこでしっかりと啓発を行えば,効率的にCKD予防の考えが普及していくことが期待できます。また,将来的に啓発の効果について校区ごとの比較も可能になると思いました」。

甲斐田氏は,筑前町役場を通じ,小学校で啓発の場をもちたいと申し入れた。前例として,広島県呉市で開業医が小学生に減塩の大切さを説く授業を行っていた例があることも甲斐田氏の背中を押した。その結果,筑前町立三輪小学校の校長が趣旨に賛同し,2017年2月,4年生を対象とした生活習慣病予防のための健康授業が実現した。「当初,どの学年で行うかは考えていなかったのですが,校長から"2分の1成人"だからちょうどよいといわれて4年生に決めました」。

小学校で生活習慣病予防のための授業を実現

健康授業は,通常授業に組み込むかたちで4年生3クラスに1回ずつ,計3回実施した(図2)。授業の内容は,塩分の過剰摂取などにより生活習慣病が進むと腎臓病になりやすいことを理解してもらえるよう,人体の回路や血液のポンプ機能,血圧の説明からはじめ,"腎臓は大切な働きをしていること""血圧や血糖値が上がると腎臓に負担がかかること""腎臓は沈黙の臓器といわれており,腎臓病になっても自分では分かりにくいこと"をメッセージとして伝えた。また,小学校では年に1回尿検査があるが,その検査も"腎臓の健康診断をしている"と説明し,健康診断の意義についても考えてみようと呼びかけた。

図2 小学校での授業風景

「後日,児童のみなさんが書いた感想文を読むと,"家に帰って,塩分をたくさんとると健康に悪いと両親に注意しておきました"などと書いてありました。授業を行う前はどんな反応があるか不安でしたが,4年生は非常に理解力があり,手ごたえ十分でした」。学校側から,次は是非5,6年生での授業をと依頼されている。さらに評判を聞きつけた他校からも声がかかるようになった。筑前町の開業医からは,「高校生など,これから社会に出ていく若者を対象とするのも効果があるのでは」と提案されるなど,若い世代をターゲットとした啓発活動は波及効果を生み出し始めている。

また,健康授業の当日,参観に来ていた久留米市の保健師から「うちの校区でも実施したい」という声もあがった。そこで,甲斐田氏がいま必要と感じているのは,地域で啓発活動を行える人材の育成である。適した人材として想定しているのは,開業医や保健師,栄養士のほか,小学校の養護教諭,学校薬剤師など。地域住民の健康に身近な人材を巻き込めば,より一層,地域に根ざした啓発活動が実現できると期待を寄せる。

「小児期からの啓発で健康に対する地域住民の意識を底上げできれば,CKDの枠を超えた健康モデルをつくることも可能です。筑前町の人口は約3万人と比較的少なく,効果の検証を行いやすいというメリットもあります。そこでの実績をもとに久留米市など,より人口の多い地域での活動に発展させていきたいと考えています」。

3歳児健診の場を活用し,母親世代の啓発も

甲斐田氏は現在,筑前町で月1回行われる3歳児健診(集団検診)に出向き,年間300名近い子どもを診ている。その集団検診の場を活用し,母親に対する無料の血圧測定も行っている。母親は勤務先を退職したあと,健康診断を受ける機会を逸しがちであり,妊婦健診で検尿異常を指摘されても医療機関を受診しないケースは珍しくない。そこで,乳幼児健診で唯一検尿が行われる3歳児健診で母親にも尿検査を行い,可能であれば血糖値も調べることで,CKDの予防・早期発見が可能になると甲斐田氏は考えている。

「母親世代に対しては,長期的視点での啓発も重要です。過度なダイエットによる痩せや,喫煙習慣のある母胎から産まれる子どもは低出生体重児になりやすいことが報告されています7)。低出生体重児は新生児の段階で糸球体数が減少しており7),成人して生活習慣病になるリスクが高まりやすいと懸念されます。将来生まれてくる子どもたちの腎疾患のリスクを可能な限り減らすことも重要です」。

啓発としては,まず3歳児健診の母親を対象にCKD認知度アンケートを行うことを構想している。当然,初回はCKDを「知らない」が多いと予想される。そこから啓発を継続し,数年後の小学校入学のタイミングなどに再度アンケートを実施すれば,介入効果が検証できると甲斐田氏はみている。

アウトカムを得て,よりよいCKD診療体制の構築へ

3歳児健診で採取した尿についてはアルブミン値測定を行い,久留米大学病院腎臓内科でデータを保存している。尿蛋白の出現率と出生時体重をさかのぼって検討すれば,一定の因果関係が得られ,啓発にも説得力が増す。さらに,推定塩分摂取量などのデータを蓄積すれば筑前町と他地域の比較も可能となる。時間はかかるが,地域住民に示せるエビデンスを構築していくことが重要と甲斐田氏は考え,その準備を始めている。CKDパスについても,効果が明確でなければシステムを見直し,改善策を考えることが必要だとする。「ただやってみるのではなく,やるからには効果を検証し,よりよいCKD診療体制の実現をめざしたいですね」。

最後に,甲斐田氏は,地域中核病院における腎臓専門医のあるべき姿についてこのように話した。「専門医だから病院にいる,というのではなく,専門医だからこそ地域に出ていく,という考え方もあるのではないでしょうか。かかりつけ医の先生方との連携を強化したければ,われわれの側から歩み寄ることも必要です。連携先の地域が腎臓専門医不在であれば,教育現場や役所など活用できる空間を借りて出向く手もあります。腎臓専門医がほんの少しだけ視野を広げてみることで,地域におけるCKD診療体制はよりよいものに改善されていくのではないかと思います」。甲斐田氏のめざす,みんなが「よかった」と思える連携体制の構築はまだ道半ば。ただ,理想とする姿の実現に向け,視界は良好である。

引用文献

  1. 日本腎臓学会 編. CKD診療ガイド2012. 東京: 東京医学社; 2012.
  2. 大牟田市の高齢化統計資料(平成29年10月1日現在). 大牟田市HPより.
  3. 日本透析医学会. 図説わが国の慢性透析療法の現況. 2015.
  4. Tamura MK, et al. N Engl J Med. 2009 ; 361 :1539-47.
  5. 谷沢雅彦, 他. 聖マリアンナ医科大学雑誌. 2016; 44: 7-12.
  6. 日本腎臓学会 腎疾患重症化予防実践事業 生活・食事指導マニュアル改訂委員. 医師・コメディカルのための慢性腎臓病生活・食事指導マニュアル. 2015.
  7. 甲斐田裕介, 他. 最新医学. 2016; 71: 2453-9.

KK-18-06-22627

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