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医療法人 蒼龍会 井上病院[透析施設最前線]

2018年04月20日登載/2018年04月作成

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病院外観
  • ●理事長:筒泉 正春 先生
  • ●名誉院長・副理事長:西澤 良記 先生
  • ●院長:辻󠄀本 吉広 先生
  • ●開設:1975年8月1日
  • ●所在地:大阪府吹田市江の木町16-17

各科横断、多職種連携を推進し
高齢化の進む透析患者の生活能力向上を目指す

1975年の開設当初から腎・透析医療を軸に地域医療に取り組み、並行して大学関係者とともに病院独自の学術検討会を重ねるなど、研究や人材育成にも力を注いできた医療法人 蒼龍会井上病院。1985年には腹膜透析(CAPD:Continuous Ambulatory Peritoneal Dilaysis)施設として承認され、93年には「腎移植外来」を開始、90年代後半以降は介護老人保健施設や診療所など関連施設を相次いでオープンしている。近年も新しい透析棟や地域包括ケア病棟の開設など施設の拡充を進めながら、透析医療のさらなるレベルアップとともに、より幅広い医療の提供に努めている。

1. 名誉院長からのメッセージ 臨床研究を通して人材を育成し
研究成果を地域医療に活かす

西澤 良記
名誉院長・蒼龍会副理事長

01

「いつまでも元気にプログラム」で重要な役割を果たす高精度の骨密度測定装置

 井上病院は1975年の開業以来、透析医療を中心に着々と発展しながら、臨床研究を通して医師が育つ仕組みをつくり、実践してきた。この仕組みはいま、医師以外の職種、部門に広がりつつある。

 メディカルスタッフの育成や、そのための組織改革をリードしているのは、2016年4月に就任した西澤良記名誉院長・蒼龍会副理事長である。「業務を通して研究ができ、結果的に人材の成長につながるような職場づくりがしたい」と、大阪市立大学学長・理事長を退任後、自らの希望で同院にやってきた。

 就任初年度から現場の課題抽出とより良い仕組みづくりなどを辻󠄀本吉広院長以下スタッフとともに積極的に進め、まずはリハビリテーション部門と栄養部門で成果を挙げ、2017年8月には「いつまでも元気にプログラム」(詳細は後述)をスタートさせた。両部門で定期的に検査や調査を行い、分析して指導に活かし改善効果を狙うもので、身体組成測定を精密に行うことのできる最新鋭の骨密度測定装置の導入など、必要な機器や場所などの整備も進めている。

 「日本は世界に類のない超高齢社会を迎えており、健康状態と要介護状態の中間的段階とされるフレイルやサルコペニアといった問題を抱える高齢者が増えています。特に腎臓が悪い人は、身体活動量の減少、低栄養、代謝異常、炎症、酸化ストレスなどさまざまな要因から、これらを合併しやすいことが知られていますが、しっかりした臨床データはまだ乏しく、運動や栄養の効果についてもエビデンスが不十分な状況にあります。そこで当院で、『いつまでも元気にプログラム』を通して新しい治療の考え方や、予防、健康維持の方法を探索・検証し、多くの患者さんの病態改善に活かしたいと思っています」と西澤名誉院長。こうした新しい仕組みづくりを、他の部門とテーマでも順次進めていく方針だ。

 西澤名誉院長と井上病院との出会いは、1970年代前半まで遡る。井上病院が開設される少し前、同院の創設者である故井上隆先生は民間病院に籍を置きながら、大阪市立大学第2内科(当時)の故森井浩世先生のもとで学位取得を目指していた。同じく森井先生の指導を受けていた西澤名誉院長はここで井上先生と親しくなり、親交を深めていった。

 「非常勤として開設したばかりの井上病院に短期間ですが勤務したことがありました。また、森井先生が井上病院を会場として1977年にスタートさせた大学病院医師と井上病院医師との合同学術検討会、『火曜会』に参加し、議論を通して成長させていただきました。この火曜会がいまも月1回のペースで、多職種が参加して継続されているのは喜ばしいことです。今回、名誉院長として赴任したからには、若い頃お世話になった病院の発展にできるだけ役に立ちたいと思います」と同院への思いを語る。

 火曜会ではこれまでに多様な臨床研究がなされ、多くの成果を生み、国内外に発表されてきた。それを可能にした背景には、1984年に井上先生が実施した、臨床データのIT化があった。必要な臨床データがいつでもスピーディに揃えられるようになり、臨床研究の精度、スピードが格段に高まったのだ。また、研究熱心な医師が集まってくる動機につながり、井上病院を発展させる大きなきっかけにもなったという。

 「透析施設で臨床データをIT化しているところは全国的にもほとんどなかった時代にすばらしい決断をされたと、いまも思います」と実感をこめる西澤名誉院長は、自らが受けた病院のシステムによる恩恵を、若い世代の医師のほか医療スタッフにも届けたいと、新たな仕組みづくりを進めている。

 もう1つ、赴任時から取り組んでいることに、地域に開かれた病院づくりがある。これまで透析医療のトップランナーとして歩んできたが、今後は蓄積した医療資源を活用して、より幅広い医療を提供していく考えだ。また、蒼龍会副理事長の立場からグループ施設などとの連携強化にも尽力している。

 「今後は、大阪府吹田市南西部に位置する江坂地区全域を蒼龍会の医療圏と捉え、法人内で『江坂地区医療再編プロジェクト』を筒泉正春理事長、辻󠄀本吉広院長に助力して進めたい。超高齢社会の現実をしっかり見きわめ、法人全体の力を結集させて、医療・介護、健康づくり支援などに総合的に取り組めればと思います」と力強く語る。

2. 病院の概要と沿革 "透析の井上病院"として発展しつつ
地域に幅広い医療・介護も提供

 井上病院はJR新大阪駅の北方約2km、大阪市営御堂筋線江坂駅の近くにある。大阪と京都を結ぶ国道423号が間近を走る便利な場所である。標榜科目は腎臓内科、透析内科をはじめ内科、循環器内科、糖尿病内科、外科、心臓血管外科、整形外科、リハビリテーション科など15科、入院病床は127床。故井上隆先生が「私たちの信条」として掲げた「私たちは、一人ひとりの生命を輝かせます。お客様本位の医療を提供し、腎医療の専門領域を確立し、働き甲斐のある職場づくりを目指し、地域住民の健康生活に奉仕します(一部略)」を基本理念としている。

辻󠄀本 吉広 院長

 1975年の開設当初は入院病床32床、透析病床38床であった。法人化は2年後の77年。80年には井上内科(旧外来透析棟)を開設し、85年にCAPD施設承認。89年に新病院(現在の診療棟)が完成・移転し、このとき入院ベッドを127床に、透析ベッドを132床に増床している。透析ベッドはその後も増床を重ね、現在(2018年)では、2014年に診療棟に隣接して開設された透析棟に200床、診療棟に入院透析ベッド12床を持つ。1993年には「腎移植外来」を、99年には通院透析患者送迎サービスを、2013年に在宅血液透析(HHD:Home Hemodialysis)をスタートするなど、その取り組みは常に先駆的である。

 「私たちは『高度な医療技術・最先端の透析設備に裏付けられた、行き届いた透析医療』を目指しており、大阪府北部地域では、"透析の井上病院"として広く知っていただいています」と、辻󠄀本院長が紹介する。院長は1996年に井上病院に赴任して以来ずっと同院に勤務し、「医師としても社会人としても井上病院で成長させてもらった」と語る。院長就任は2015年4月で、西澤名誉院長同様、同院の発展を心から願いながら組織を率いている。

02

2017年12月に運用を開始した地域包括ケア病床は診療棟6・7階にある

蒼龍会のグループ施設として介護関連事業所をつくり始めたのは1997年で介護老人保健施設「ひまわり」が最初。2000年にはもう1つの介護老人保健施設「つくも」を開設し、ショートステイ、デイケア、ケアプラン作成などにも対応。「ひまわり」は、一般的に施設入所が困難とされる透析患者を優先的に受け入れており、入所した透析患者は、「ひまわり」に隣接して1999年に開設された井上診療所(みかん)で透析を受けることができる。一方、「つくも」は、在宅強化型老健として、在宅復帰を目指した療養生活やリハビリを勧め、住み慣れた地域で在宅生活が続けられる支援を行っている。蒼龍会ではこのほか地域包括支援センター、健診センターなども運営している。

 2008年には社会医療法人愛仁会とアライアンスを組み人材交流などを開始。2016年5月には41床を地域包括ケア病床に転換し、急性期治療後のリハビリや療養のための施設として、また、施設入所者や在宅患者が急性期治療を受ける場合の受け皿として機能している。

3. 血液透析 2014年4月、6階建て透析棟を新設
バリアフリー化、環境対策などさまざま工夫

中川 孝 臨床工学科科長

西原 伸美 看護部長

 2014年4月に診療棟に隣接して新たに開設された透析棟は、地上6階建てで2階以上がすべて透析室になっている。中川孝臨床工学科科長が、「透析室ではHD(Hemodialysis:血液透析)のほか、オンラインHDF(Hemodiafiltration:血液透析濾過)、CAPD(Continuous Ambulatory Pertioneal Dialysis:腹膜透析)、ハイブリッド透析、LCAP(白血球除去療法)、GCAP(顆粒球吸着療法)など多彩な血液浄化療法が実施できます。特に、透析棟新設を機に積極的に取り組むようになったオンラインHDFは合併症対策として有効。透析中の血圧低下対策として間欠補液を行うiHDF(Intermittent Infusion Hemodiafiltration:間歇補充型血液透析濾過)なども行っています」と多様な取り組みを紹介する。

 Kt/V(標準化透析量)や尿中β2ミクログロブリンの患者全体の傾向を定期的に確認し透析の質の向上に努めていること、透析装置をはじめ、セントラルの供給装置まですべての機器を院内の臨床工学技士がメンテナンスしていることなども特徴的だ。

 患者の送迎車は施設内の入口ドア前まで入ることができ、乗降がとても便利。透析棟の透析ベッドは200床。3階に4室、個室透析室があり、インフルエンザの流行期の隔離透析などに利用されているほかは、全フロア同様の構造だ。西原伸美看護部長によると、透析室ごとに看護師長以下担当看護師を配置しているが、別のフロアに応援に向かうこともしばしばで、構造が同一であることは、そういったときに業務をスムーズに行うためにも有効という。透析スケジュールは6階のみ2部制、ほかは3部制である。

 ハード面では、極力、柱や壁を取り除いた構造とし、完全バリアフリー化を実現。ベッド間隔が広く、車いすでも楽に移動できるようになっている。また、中央にスタッフゾーンを設け、スタッフが室内全体を見渡せるようにした。看護師と臨床工学技士はそれぞれの専門分野の業務をしながら、患者の見守りなどは協力して行っている。スタッフと患者を明確にゾーン分けすることで、緊急時の対応や物品、薬品の管理などが安全かつ効率よく行えるようにもなっている。

 透析棟は環境への配慮も行き届いている。たとえばRO排水の再利用装置を設置しトイレや庭木の散水に利用。コージェネレーションシステムやLEDによる間接照明の採用により、省エネも実現している。中川科長によれば、災害を想定し、水や電力も十分備蓄してあり、備蓄が足りなくなったときに行政に援助を依頼するマニュアルも整っているという。

 井上病院の通院HD患者は約750名で、若年層から高齢者まで幅広い。このうち約半数が院内での導入、残り約半数が他院で導入し、紹介されてきた患者だ。同院ではそうした患者個々の生活スタイルに合わせた透析の提供に努めている。たとえば働き盛りの患者には、従来から長時間透析や深夜24時までの夜間透析を提供。さらに近年、HHD(後述)をスタートさせたのも、患者の生活スタイルの維持を考慮してのことだ。

4. フットケア 予防を重視し透析患者全員の足をチェック
変化があればすぐに血管外科を受診

 看護部門で現在、特に力を入れているものにフットケアがある。透析棟の2階に足の洗浄のためのコーナーを設けているほか、各フロアにフットケア用品をセットしたワゴンを完備し活用している。
 フットケアを含めて看護師の活動を統括している西原看護部長はもともと社会医療法人愛仁会の所属だが、透析棟ができたときにも新しい透析室の立ち上げスタッフとして勤務していたし、その前にも副看護部長として5年間勤務していたなど、井上病院とのなじみは深い。今回、看護部長として出向してきたのは2017年4月。「前回は、新しい透析室に透析患者さんの足を守る活動を定着させたいと思いながら愛仁会に戻りました。今回3年ぶりに赴任したところ、フットケアはしっかり始まっていたので、私の役割はさらなる体制強化だと思っています」と語る。

 同院のフットケアでは予防を重視しており、フットケア指導士の資格を持つ2名の看護師を中心に足のケアと病変の早期発見に努め、何かあれば、血管外科の医師にすぐにつなぐ仕組みだ。自宅での処置や観察のポイントなどについては患者だけでなく家族にも指導。連絡ノートなどを活用して情報を共有している。足のチェックの頻度や内容は患者の状態によってさまざま。以前は糖尿病のある人を中心としていたチェックの対象も、いまでは外来透析患者すべてに広げている。

 「フットケアは透析中に、患者さんとコミュニケーションをとりながら行います。日頃は聞けない患者さんの思いや、身体的な変化などを聞き出すことができるのも、フットケアのメリットだと感じています」と西原看護部長。
 実践のほかに、フットケアの知識や技術を持つ看護師の育成にも取り組んでいる。看護部の教育プログラムの中にフットケアを盛り込み、専門資格を持つ人材が不在のときでも過不足なく実践できる環境を整える計画だ。

5. 感染対策 医療安全管理室と感染対策室を新設
役割分担と連携で安全文化の醸成を目指す

安田 雅子 感染担当看護師
(看護部師長)

榎本 拓 医療安全管理室室長
(臨床工学科科長)

 透析棟には4室、個室があり、隔離透析に活用していると書いたが、こうした感染症対策は近年、透析医療においてますます重要になってきている。日本透析医学会の集計でも、透析患者の死亡原因の第2位が感染症によるもので、誤嚥性肺炎なども大きな問題になっている。また、敗血症に伴う化膿性脊髄炎、腸腰筋膿瘍、心内膜炎など重症感染症による死亡も重大な問題だ。

 こんな中、井上病院では診療棟の入院患者にバンコマイシン耐性腸球菌(VRE:Vancomycin-Resistant Enterococcus)の保菌者が発生。これを機に、従来から取り組んでいた感染対策に、より力を入れるようになった。保健所の指導や、大阪市立大学、大阪大学の感染制御の専門家のアドバイスを参考に感染予防システムを本格化。スタッフによる1日2回の環境清掃、標準予防策の実施、消毒用エタノールの使用量モニタリングなどを強化・徹底。院内清掃業者も感染対策に強い業者に変更している。また、耐性菌の発症を防ぐためにも抗菌剤の適正使用を重視しており、広域スペクトルを有する特定抗菌薬の使用は許可制にしている。これにより使用量は劇的に減少しているという。

 2018年現在は感染に関連する対策を院長直轄の「感染防止対策委員会(ICC)」が統括し、その下部組織で医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師で組織する院内感染対策チーム(ICT)が実務を担っている。

 ICTメンバーを長く務め、2017年9月から院内感染対策業務に専従している、看護部師長で感染担当看護師の安田雅子感染対策室室長が、「感染対策そのものの実施や評価はもちろん、これらに関する教育・普及活動やインフルエンザの予防接種など季節に合わせた業務にも関与しています。私自身は毎日院内をラウンドし、こうした対策の実施状況を確認していますし、ICTとしては月に1回、院内全体で環境ラウンドを行っています。ラウンドの結果は部署ごとに作成したチェックリストで記録し、改善に活かしています」と活動を紹介する。

 感染対策室は医療安全管理室と部屋を共有しており、医療事故対策など医療安全業務に専従している榎本拓室長(臨床工学科科長)と連携して活動している。榎本室長は以前、透析関連の医療事故に特化した安全委員会の委員を務めたのを機に病院全体の医療安全にかかわるようになり、2017年7月に医療安全管理室が立ち上がったのを機に室長を任された。

 「各スタッフにイントラネットを通じて提出してもらっているアクシデントレポート、インシデントレポートを確認し、現場に行って確認とヒアリングを実施して対応するのが私の朝の日課です。重要な案件については医療事故防止対策委員会に提出し、病院全体の対応につなげます」と榎本室長。毎朝看護部の申し送りの場に参加し、夜間に何か事故が発生しなかったかなどの情報収集を、レポート提出を待たずに行ったりもしている。

 安田、榎本両室長は、感染対策室と医療案全対策室の合同で年に2回、院内セミナーを実施したり、月刊の「医療安全ニュース」を手づくりして掲示・配布したりするなど、院内に医療安全の文化を根づかせることにも注力している。

6. その他の腎代替療法 「腎移植外来」で500名弱をフォロー
CAPDは約50名、HHDは5名が実施

田畑 勉 CAPD・HHDセンター長
(前院長)

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2017年10月に診療棟1階に移転したCAPD・HHD センター

 井上病院では施設HDのほかに、CAPD、HHDも実施している。透析が必要になった患者にはこれらの選択肢を提示し、選んでもらう。また、大阪大学腎移植グループのフォロー外来として「腎移植外来」を設けており、500名弱の腎移植患者の管理を担当している。

 CAPD、HHDを担当するのは、田畑勉前院長で、現在はCAPD・HHDセンター長を務めている。田畑センター長は1985年に同院に赴任すると同時にCAPDに着手し、以来30年以上にわたりCAPD患者とともに歩んできた。HHDには、CAPDで培った在宅透析のノウハウを活かして取り組んでいる。すなわちHHD導入前のトレーニング、トラブル対応に関する教育、定期的な再トレーニングなどを行い、安全・安心なHHDを患者自身が実施できるようにサポートしているのである。同センターでは看護師や臨床工学技士の定期訪問も実施している。

 CAPD・HHDセンターは、以前は診療棟7階にあったが、病棟再編に伴って2017年10月、1階に移動した。面積はかなり小さくなったが、通院は便利になった。センター入口は外来待合室に面しており、中には診療室とチューブ交換室が並ぶ。導入前の指導では、透析棟の個室透析室を活用している。

 田畑センター長はCAPDやHHDのメリットについて、「患者さんの都合に合わせて行えるので、社会復帰に有利です。特にHHDは施設HDのように週3回という制限がなく頻回に行えるため、高い透析効果が得られ、多くの患者さんは元気に活動できます。またCAPDには通院困難な患者さんのための最後の療法という意味合いもあり、近年は高齢者が人生の終わりの時期を自宅で過ごすための在宅医療の一環として行われることも増えています」と話す。

 2018年現在、CAPD・HHDセンターでフォローしている患者はCAPDが約50名、HHDが5名である。このHHD患者5名のうち3名は、以前はCAPDを行っていた人だ。「CAPDは一定期間行うと腹膜の劣化などにより継続できなくなります。その場合、HDに移行するのですが、同じHDでも在宅で行うことを選べばそれまで同様、自分のライフスタイルが維持できる。CAPDからHHDへの移行は、透析が必要になっても自分らしく暮らしたいと願う患者さんたちの気持ちに沿う流れといえるかもしれません」と田畑センター長は言う。

7. 合併症対策 各種治療法の専門家が結集し対応
院外の難症例も数多く受け入れる

森本 章 副院長(放射線科)

谷村 信宏 副院長(血管外科)

佐藤 宗彦 副院長(整形外科)

壇上 陽子 眼科医師

藤原 一郎 外科部長

 多様な診療科を擁する井上病院では、シャントの造設、再建などは院内で実施。さまざまな透析合併症の治療もほぼすべて院内で行っている。これまで泌尿器科や外科の医師が各診療の合間に行っていたシャント手術は、2017年から藤原一郎外科部長に一任。アクセス治療専門の医師として対応してもらう体制となった。

 同院は透析専門病院として地域からの信頼も厚く、シャント作成困難な患者を紹介されてきたり、シャントPTA(Percutaneous Transluminal Angioplasty:経皮的血管形成術)でも治療困難な症例のシャント再建を依頼されたりするケースが多くなっている。結果的にグラフトシャント(人工血管内シャント)作成の割合が高くなり、多くのケースで複雑な対応を求められることになりがちだ。今回、こうしたケースも含めて専門的に対応する藤原外科部長を配置したことで、さらに広域から、困っている患者を受け入れることができる体制が整った。

 また、シャント狭窄などのVAIVT治療(経皮的バスキュラーアクセス拡張術:Vascular Access Intervention Therapy)では、放射線科医である森本章副院長が地域のクリニックからの紹介患者を含めて年間約900件に対応。万一、血栓閉塞した場合にも、緊急対応によりほぼ全例をカテーテル治療で治している。近年は、森本副院長とともにVAIVT治療に興味を持つ若手腎臓内科医が仕事をするようにもなり、同院のアクセス治療はますます充実してきている。

 従来は下肢切断を余儀なくされていた重症下肢虚血についても、2014年から血管外科医である谷村信宏副院長が専門的に対応するようになったことで、カテーテル治療や、カテーテル治療とバイパス手術を組み合わせた治療ができるようになった。2016年の実施件数は、下肢PTAが約150件、バイパス手術は約30件。下肢切断率は大幅に低下し、患者のADLが向上している。

 長期透析で必ず問題になる透析整形については、透析医療に精通した整形外科医の佐藤宗彦副院長が診察・治療にあたり、患者に喜ばれている。佐藤副院長はこのほかリウマチ科も立ち上げ、生物学的製剤を使い分けながら多くのリウマチ患者の診療にあたっている。

 糖尿病網膜症や白内障については常勤眼科医の壇上陽子医師が積極的に治療にあたる。このように井上病院では、さまざまな分野の専門家が結集して透析患者の合併症治療に取り組んでいる。

8. CKD対策 腎臓内科外来をわかりやすい名称に細分化
地域の開業医や患者の利用を促す

 CKD(慢性腎臓病)の診療にも力を注いでいる。患者の紹介元は京阪神地区広域に及び、同院のある吹田市以外の地域の医療機関をはじめ、大学病院や公的病院からの紹介患者が半数以上を占めている。

 同院の内科医は、糖尿病と腎臓病、両方の治療に携わっているため、専門外来の医師でなくても、糖尿病から腎臓病を発症した患者にも一貫して1人の医師が対応できる。これは大きな強みといえる。しかし一方で、地域の開業医などから見ると、自分の患者が糖尿病や腎臓病を発症したときに、井上病院のどの診療科のどの医師に紹介すればよいのかわからない面があったことがわかってきた。

 そこで、2015年4月から腎臓内科と糖尿病内科を標榜するようになった。さらに2017年からは、もっと具体的でわかりやすい名称の専門内科を設けるようになった。腎臓内科内に設けた「血尿・蛋白尿外来」「腎炎・嚢胞腎外来」「保存期・透析予防外来」、糖尿病内科内に設けた「糖尿病腎症外来」である。

 「当院としては従来と変わらない診療を行うのですが、外部から見てわかりやすくすることで、紹介元の医師や患者さんに利用しやすいと思っていただければと思います」と辻󠄀本院長が意図を語る。今後は同院と地域の開業医との連携のもとでCKD患者を継続的に管理していく仕組みの構築を目指していく。

9. 運動と栄養 「いつまでも元気にプログラム」で
エビデンスの蓄積とより適切な介入を目指す

西村 眞理 リハビリテーション科科長(理学療法士)

山本 祐子 栄養管理科科長
(管理栄養士)

 さて、井上病院では透析医療を提供するとともに、常に予防的視点を持ち続けてきた。その1つが患者の身体能力に合わせた転ばない体づくりを目標として10年以上続いている「転倒予防教室」だ。健康運動指導士が週1回30分程度、透析前の患者を対象に行っている。
 また、入院患者を対象としたNST活動、通院患者を対象とした透析室での栄養調査や栄養指導など、栄養介入も行ってきた。

 このように個別に行われてきた運動や栄養に関する取り組みを統合し、システマティックに行おうというのが、西澤名誉院長が考案し、先に紹介した「いつまでも元気にプログラム」である。

 あらためてこのプログラムの概要を説明すると、対象は全通院透析患者で、目的は合併症の発症、透析治療の評価とともに、フレイル、サルコペニアの実態を把握し、発症要因などをつきとめて、エビデンスに基づいた治療介入を行うことだ。具体的には、年1回、患者の誕生日月に身体的生活能力、身体能力、身体活動量、生活習慣・食生活の実態調査、栄養調査、身体組成・生化学検査データをとり、経年的に蓄積して分析する。2016年からリハビリテーション科と栄養科で人員の拡充、機器やツールの準備を進め、2017年8月にスタートさせた。

 同プログラムの運動分野を担うのは、リハビリテーション科だ。理学療法士である西村眞理科長は、「透析患者さんには、動くのがしんどいから動かない、水を飲むとむくんで息切れするから動かない、食べると調子が悪くなるから食べたくないなど、運動や栄養に問題を抱える人が多くいます。私たちは、まずは生きるのに必要な栄養をとっていただきたい、そのうえで運動して元気を維持していただきたいと思ってこのプログラムに取り組んでいます」と話す。

 具体的に運動面で行うのは、握力、脚の筋力、歩行速度、バランス力の測定と、1週間の活動量測定だ。結果はリハビリ職が評価し、その評価に基づいて個別に運動指導をする。評価結果とアドバイスはA4判裏表の「健康度チェック結果」として印刷して患者に渡す。

 評価の際には健康な人と比較せず、井上病院の同年代の患者の平均値を指標にしている。「健康な人と比べると体力的に劣ってしまうのは当たり前。それではやる気をそいでしまうので、何らかの病気のある方々を指標にしました。また、励ますときは、"いまより元気になりましょう"ではなく、"いまの状態をなるべく維持しましょう"と語りかけます」と西村科長は透析患者への配慮を語る。

 一方、栄養分野を担うのは栄養管理科。管理栄養士である山本祐子科長は、正確な調査結果に基づく栄養指導を重視しており、「いつまでも元気にプログラム」に大きな期待を寄せている。そんな山本科長が今回、採用した食習慣アセスメントのツールは、東京大学の佐々木敏教授が開発した「簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ:Brief-type self-administered Diet History Questionnaire)」だ。

 「A4判4ページからなる質問票を患者さんにお渡しし、答えを記入していただきます。その内容と血液検査などの客観的データを合わせて私たち管理栄養士が解析し、栄養素摂取量、食品摂取量、食行動などの情報を得ます。それに基づいて個別に栄養指導を行うというのが基本的な流れです」と山本科長。指導のスケジュールや内容を詳細に記録する仕組みも構築済みで、将来的には蓄積したデータをさまざまなかたちで分析し、フレイルやサルコペニアと栄養の関係を明らかにしていく考えだ。もちろん研究発表も積極的に行っていく。

 西澤名誉院長は同プログラムのこれまでの成果について、「プログラムそのものの周知とコンセンサスが得られ、評価の標準化なども整いました。今後はリハビリ室の拡張や運動療法の日常化、より詳細な栄養調査による栄養指導、高齢者への本格的な食育、さらに効果的な透析、高度な感染症対策などの課題をクリアしながら、プログラムの精度を上げていきたい」と語る。

10. 今後の課題・展望 透析患者の生活をサポートする時代
地域住民にとってより身近な存在に

 辻󠄀本院長は、今後について、「透析を受けているけれども元気に生活できている、といった患者さんを増やしていきたい。そのためにも『いつまでも元気にプログラム』を充実させていきたいと思います」と語る。また、これまで通り、透析医療の精度を高め、提示できる選択肢を増やしていきたい考えだ。

 「井上先生がこの病院を開業した頃は、透析医療自体が黎明期にあり、これを広めていくことが重要な課題でした。その後、田畑前院長の時代には、合併症対策が大きなテーマになり、またCAPDへの取り組みも必要になりました。明確に時代がわかれているわけではありませんが、私が院長になった現在は、高齢化した患者さんの体力低下を少しでもやわらげ、充実した日々を送っていただけるようにサポートする時代にきているのではないかと感じます。認知症の問題、介護の問題、これからもいろいろな課題が出てくるでしょうが、スタッフと力を合わせて乗り越えていきたい。もちろん、当院のスタッフならどんな課題も乗り越えられると信じています」と辻󠄀本院長が語る。

 今後は蒼龍会をより公益性の高い組織に成長させるためにも、視野を広げ、地域のネットワークを広げていく。大病院と開業医をつなぐパイプ役となること、そして地域住民にとってより身近な存在になることでさらなる発展を目指していく。

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各分野の専門家が揃う井上病院医師の皆さん

KK-18-04-21907

透析施設最前線

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