KYOWA KIRIN

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治療

執筆・監修:松浦雅人 先生
東京医科歯科大学 名誉教授/田崎病院 副院長

Q.成人てんかん薬物療法ガイドラインとは?

表1. 日本てんかん学会の成人てんかん薬物療法ガイドライン3)

  第1選択薬 第2選択薬
部分発作 カルバマゼピン フェニトイン, ゾニサミド
全般発作 バルプロ酸ナトリウム
欠神発作 エトスクシミド
ミオクロニー発作 クロナゼパム
大発作 フェノバルビタール
クロバザム
フェニトイン
ゾニサミド

初回発作は急性症候性発作や状況関連性発作などの誘発発作の可能性があり、てんかんかどうかの診断はできない1)。てんかんであっても、初回発作で治療を開始しても、2回目の発作で治療を開始しても、予後は変わらない2)。通常は、初回発作ですぐに抗てんかん薬を投与することはなく、2回目以降の発作が生じてからで治療を開始する。てんかん発作型にもとづいて第1選択薬を選択し、患者および家族に服薬の必要性、および薬の副作用について説明する。また、てんかん症候群の診断にもとづいて予後を推定し、長期にわたる治療方針を説明して協力を求める。

第1選択薬は、全般発作であればバルプロ酸ナトリウムを、部分発作であればカルバマゼピンを選択する3)4)。部分発作にバルプロ酸ナトリウムの高用量(血中濃度80~100μg/ml)を使用しても、カルバマゼピンの通常量(血中濃度7~8μg/ml)よりも効果が低い5)
抗てんかん薬は単剤よりはじめ、増量はゆっくりと行い、血中濃度測定は参考程度にする。第1選択薬が無効と判断するときは、最高耐容量を十分な期間使用してから行う。無効なら第2選択薬の単剤に置換し、第2選択薬の十分量を十分な期間使用してその効果を判断する。いずれも奏功しない場合には、第3段階として3番目の薬剤の単剤治療を試みるか、あるいは2剤併用治療を試みる。かつては、第1および第2選択薬が奏功せず、第3段階ではじめて発作が抑制される症例は数%と報告されたが、最近は複数の新規抗てんかん薬が市販され、発作消失率は増加している6)
それでも難治てんかんかどうかは治療早期に判明するため、最近では2種類の抗てんかん薬治療を2年間試みて発作が抑制されなかった場合は、外科治療の可能性を考慮するのがよいとされている。

表2. 日本神経学会のてんかん治療ガイドライン4)

  第1選択薬 第2選択薬(新規抗てんかん薬)
部分発作 カルバマゼピン フェニトイン、ゾニサミド、バルプロ酸ナトリウム ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマート
全般発作 バルプロ酸ナトリウム 欠神発作 エトスクシミド ラモトリギン*
ミオクロニー発作 クロナゼパム レベチラセタム*
強直間代発作 フェノバルビタール、クロバザム、フェニトイン ラモトリギン*、トピラマート*、レベチラセタム*
症候性全般てんかん クロナゼパム、ゾニサミド  

* 国内未承認の効能・効果
各薬剤のご使用にあたりましては添付文書をご参照ください。

文献

  1. 1.Marson A et al: Immediate versus deferred antiepileptic drug treatment for early epilepsy and single seizures: a randomised controlled trial. Lancet 365: 2007-13, 2005.
  2. 2.笹川睦男ほか:成人の初発けいれん発作に対するガイドライン.てんかん研究29: 72-4, 2011
  3. 3.井上有史ほか:成人てんかんにおける薬物療法ガイドライン.てんかん研究 23: 249-53, 2005
  4. 4.日本神経学会:てんかん治療ガイドライン2010.医学書院,東京,2010
  5. 5.Mattson RH, Cramer JA, Collins JF: A comparison of valproate with carbamazepine for the treatment of complex partial seizures and secondarily generalized tonic-clonic seizures in adults. N Engl J Med 327: 765-771, 1992.
  6. 6.Luciano AL, Shorvon SD: Results of treatment changes in patients with apparently drug-resistant chronic epilepsy. Ann Neurol 62: 375-381, 2007.

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KK-16-05-14322

Q.抗てんかん薬事始め-ブロム剤-

Sir Charles Locock (1799-1875)

19世紀前半まではてんかんに有効な薬物はなかった。1857年に英国の産婦人科医で王室侍医でもあったSir Charles Locock(写真)が、ブロム剤のてんかん発作への有効性をはじめて報告した1)。この年の5月にロンドンで開催された英国王立医学会でSieveking EHがてんかん52例の治療経験を報告(Lancet 1857; i: 528)した際に、英国王立医学会長であったLocockは月経周期と関連して発作が生じるてんかんをhysterical epilepsyとし、臭化カリウムを投与したところ15例中14例に発作改善がみられたとコメントした(論文にはなっていない)。当時、てんかんは性的興奮、とくに自慰行為が原因となると考えられており、Locockはドイツの医師がブロム剤を服用したところ勃起不能に陥ったという知見を根拠に、女性のてんかん患者に臭化カリウムを使用したところ、劇的な効果が得られたという。

その後の数年間に、英国ではWilks S (1824-1911)、Jackson JH(1835-1911)、Gowers WR(1845-1915)などがその効果を確認した。とくにWilksはブロム剤の急速な普及に貢献し、1870年代の国立クイーンスクエア病院のブロム剤の年間消費量は2.5トンに達したという。臭化カリウムや臭化ナトリウムだけでなく、多くの臭素化合物が開発されたが、臭素イオンそのものが効果をもつため、各種ブロム剤の有効性には差がなかった。1881年のGowersの著書"Epilepsy and other convulsive disorders"には、ブロム剤の説明に19ページを割いている。しかし、やがて精神機能の緩慢化、偽認知症、顔貌の遅鈍化、ニキビ様皮疹、さらに抑うつ、躁病、妄想、無為などの副作用が明らかとなり、ブロミズムと呼ばれた慢性臭素中毒が多発した。

日本でもブロム剤は19世紀後半の明治時代初期から使われはじめた。1930年頃のてんかん患者への処方例として記録に残っているものでは、臭化ナトリウム1g、臭化カリウム1g、臭化アンモニウム1gなどと記載されている。20世紀に入ってフェノバルビタールが登場し、ブロム剤はその歴史的役割を終えたかのように見え、一時はほとんど省みられなくなった。日本の薬価制度では次第に価格が低下し、臭化カリウムや臭化ナトリウムは薬価よりも製造費が高いといういわゆる逆鞘現象に陥った。しかし、近年になって小児の難治てんかんの一部でブロム剤による治療が再評価され、とくに乳児重症ミオクロニーてんかん(Drave症候群)では、スチリペントールと並んで特異的な効果がみられた。2003年に日本てんかん学会は厚労省に逆鞘現象の改善要望書を提出し、2010年には薬価がわずかに上昇(臭化カリウム10gが50.7→67.9円、臭化ナトリウム10gが50.7→73.2円)したが、それでもなお不採算状況にある。古い薬剤なので詳細な薬剤情報が入手できないことも問題となっている。

文献

  1. 1.Steinhoff BJ: Antiepileptic therapy with bromides - historical and actual importance. J Hist Neurosci 1: 119-123, 1992.

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KK-16-05-14322

Q.フェノバルビタール治療の始まり

フェノバルビタールは人類が初めて手にした真の抗てんかん薬である。バルビツール酸がはじめて合成されたのは1864年で、von Baeyer A (1835-1917、図1A) が尿素とマロン酸を縮合させて新しい化合物(malonylurea)を合成した。12月4日になじみの酒屋で祝杯をあげたが、たまたまその日が聖Barbaraの祝祭日であったため、聖Barbaraとureaの名称を融合してbarbituric acidと命名したといわれる1)。1903年には、Fisher E(1852-1919、図1B)とvon Mering J (1849-1908)が鎮静作用をもつバルビタールを合成した。Fisherは直前にイタリアのVerona山近くで休暇をとっていたことから、この 新しいバルビツール酸誘導体をベロナールと命名し、1905年にバイエル社から睡眠薬として市販した。その後、さまざまなバルビツール酸誘導体が合成されたが、1911年にフェノバルビタールが合成された。それまでのどのバルビツール酸誘導体よりも効果が高く、依存傾向が少なく、翌年にはバイエル社からルミナールとして市販され、「バルビツール酸の王」と呼ばれた。

1912年にフライブルクの精神科医Hauptmann A(1881-1948、図1C)は、入院中のてんかん患者に睡眠薬としてフェノバルビタールを投与したところ劇的な発作抑制効果を認めた(図2)2)。発作頻度が減少しただけでなく、発作の程度も軽くなり、行動上の問題も減少したこと、長年にわたって入院を要した例が退院して以前の仕事に戻った例もあったことなどを報告した。また、急激に中止すると発作が劇的に悪化すること、この薬剤は発作を抑制するがてんかんそのものを治癒させるわけではないことも指摘している。フェノバルビタールは翌年には英国で使用されたが、1915年に第1次世界大戦が勃発したこともあってか、米国では1923年、日本では1944年になってようやく市販された。

図1. フェノバルビタールの抗てんかん作用の発見にかかわった人々

A.von Baeyer A (1835-1917) 1864年にバルビツール酸を合成、B.Fisher E(1852-1919)1903年にvon Mering J (1849-1908)と共に鎮静作用をもつバルビタールを合成、C.Hauptmann A(1881-1948)がフェノバルビタールの抗てんかん作用を発見。

図2. Hauptmannによって報告されたフェノバルビタールの抗てんかん作用2)

Hauptmann A(1881-1948)が報告したフェノバルビタール投与前(1911年)と、投与後(1912年)の発作頻度。

現在、日本ではフェノバルビタールはさまざまなてんかん発作への適応のほかに、不眠症や不安緊張状態への適応もある。錠剤、末、散、エリキシル、坐薬といった多くの剤形が市販されている。劇薬、第3種向精神薬、習慣性医薬品に指定され、坐薬は14日、経口剤は90日の処方日数制限がある。注射用製剤は1948年に皮下・筋注用注射液が10%フェノバールとして発売され、その後フェノバール注射液100mgと販売名を変更している。

フェノバルビタールの静注用製剤については、その必要性が指摘されていながら国内では販売されていなかったが、医師主導治験によって2009年にようやく「新生児けいれん及びてんかん重積状態」の効能・効果で市販された。効果発現はさほど速くないが、難治のけいれん重積に有効で効果持続時間が長く、血中濃度が上昇しても自発呼吸は保たれ、血圧低下も少ない。しかし、長時間にわたって長く眠り、経口摂取が困難となるなどの問題点もある。

また、フェノバルビタールは各種合剤としても市販され、てんかん領域ではフェニトインとの合剤、フェニトインおよび安息香酸ナトリウムカフェインとの合剤がある。さらに、精神疾患の鎮静催眠作用にクロルプロマジンおよびプロメタジンとの合剤、鎮咳剤としてプロキシフィリンと塩酸エフェドリンとの合剤、過敏性腸症候群に用いるペンゾラード臭化物との合剤なども市販されている。

フェノバルビタールは古い薬剤で、治療域が狭く、耐性・依存性が容易に形成され、認知・行動面への副作用があり、先進国ではファーストラインの抗てんかん薬としては用いられなくなった。しかし、その抗てんかん作用は新しい薬剤と比べても遜色がなく、安価で、安定した供給がみこまれ、1日1回の服用ですみ、治療スペクトルが広い。現在、世界中に5000万人のてんかん患者がいるが、その8割が所得の低い貧困層にいて、そのうちの7割が治療を受けていないといわれる。WHOはフェノバルビタールがこのような治療ギャップを埋める薬剤になると期待している3)

文献

  1. 1.融道男:睡眠薬・睡眠改善薬の歴史.睡眠医療 2: 210-214, 2008.
  2. 2.Scott DF: The discovery of anti-epileptic drugs. J Hist Neurosci 1: 111-118, 1992.
  3. 3.Kwan P, Brodie MJ: Phenobarbital for the treatment of epilepsy in the 21st century: A critical review. Epilepsia 45: 1141-1149, 2004.

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Q.フェニトイン治療の始まり

1908年にBlitz Hはバルビツール酸の環状構造に似たヒダントイン環をもつフェニトインを合成した。当初は催眠薬としての効果が検討されたが、催眠作用がないことが判明し、それ以上の検索はなされなかった。1916年には同じヒダントイン環をもつフェニルエチルヒダントインが合成され、睡眠薬ニルバノールとして市販されたが、中毒症状を生じるため普及しなかった。

1937年、Putnam TJとMerritt HHは電気ショックによりけいれんを誘発するてんかん動物モデルを作成し、抗てんかん作用のスクリーニングに応用できると考えた(図1)1)。抗てんかん作用をもつ可能性のある薬物リストを入手し、その最初にフェニトインが記載されており、これが強い抗てんかん作用をもつことを発見した。それまでてんかん治療に用いられていたブロム剤やフェノバルビタールは偶然に抗てんかん作用が発見されたが、フェニトインは動物実験により効果が発見された初めての抗てんかん薬である。従来は催眠・鎮静作用が抗てんかん作用に結びつくと考えられていたが、両者が分離されることも明らかとなった。

図1. PutnamとMerrittの論文(1937年)の説明図1)

動物に電気ショックを与えてけいれんを誘発する装置を作成し、
抗てんかん作用のスクリーニングに応用した。

Putnam とMerrittは、当時ボストン市立病院で世界に先駆けて脳波検査室を開設したGibbs FAらの協力を得て、1937年にヒトのてんかんにも有効であることを証明した。すなわち、118例の外来てんかん患者にフェニトインを2~11か月使用し、58%の例で大発作が抑制され、27%の例で軽減された。とくに大発作と精神運動発作で最も効果が大きく、小発作では効果が乏しく、ブロム剤やフェノバルビタールのような催眠作用がない点が有用であると述べている。

日本では1940年にフェニトイン経口剤が市販され、1959年にはフェノバルビタールとの配合剤も発売された。通常、経口剤は服用量に比例して血中濃度が直線的に増加するが、フェニトインは一定の用量、一定の血中濃度を超えると血中半減期が延長し、急激に血中濃度が上昇する非線形関係(Michaelis-Menten型)を示す(図2)2)。フェニトインの血中濃度(C)は、投与量(D)と1日に代謝しうる最大投与量(Dmax)、および1/2Dmaxに対する血中濃度(Km)により計算(C=Km・D/(Dmax-D))できる。実際にはDmaxやKmの個人差が大きく、フェニトインを使用する際には血中濃度測定が必須となる所以である。フェニトインは至適用量設定が難しく、容易に中毒濃度に至る危険があり、連用によりさまざまな副作用を生じるため、新規に発症したてんかんに第1選択薬として用いられることは少なくなった。

図2. フェニトインのMichaelis-Menten型投与量・血中濃度関係2)

C:定常状態血中濃度(μg/mL)
D:投与量(mg/kg/日)
Dmax:1日に代謝しうる最大投与量(mg/kg/日)個人差が大きい
Km:1/2Dmaxに対する血中濃度(μg/mL)個人差が大きい

一方、非経口剤については1963年に粉末注射剤、1981年に静注用製剤(アレビアチン注射液)が市販された。フェニトインは弱酸性の薬物で、水に溶けにくいため、プロピレングリコールとエタノールを加え、同時にナトリウム塩の形で可溶化している。強アルカリ性(pH約12)で、生理的食塩水に対する浸透圧比が約29であることから、注射部位の疼痛、発赤、腫脹などの炎症を生じ、血管外に漏出すると組織壊死をきたし、臨床的に使いにくかった。

米国では1996年からフェニトインの水溶性プロドラッグであるホスフェニトインナトリウム水和物が使用されていた。ホスフェニトインは生体内で加水分解されてフェニトインとなって薬理作用を発揮する。注射用水で溶解した場合にpHが8.5~9.1、浸透圧比が約1.9の溶液になり、血管痛や組織壊死は生じない。日本では2006年の未承認薬使用問題検討会議において治験の要望が出され、2012年にようやくホストイン®として発売された。生理食塩水や5%ブドウ糖注射液など、各種輸液で希釈投与でき、アレビアチン注射薬の3倍の速度で注入できる。効果発現はフェニトイン静注と同じく遅いが、効果の持続時間は長い。組織傷害性がなく、血圧低下や不整脈、意識レベル低下などが少ないので、救急医療の現場などで広く用いられている。

文献

  1. 1.Putnam TJ, Merritt HH: Experimental determination of the anticonvulsant properties of some phenyl derivatives. Science 85 (2213): 525-526, 1937.
  2. 2.医薬品インタビューフォーム:日本薬局方フェニトイン錠、散
    http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1132002B1060_1_018_1F.pdf)

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Q.バルプロ酸治療の始まり

バルプロ酸ナトリウムがてんかんの治療に用いられるまでには多くの紆余曲折があった。ドイツのBurton Bは1882年にアセト酢酸をプロピル化した簡単な構造の低級脂肪酸を合成した1)。この低級脂肪酸は吸湿性のためにナトリウム塩として結晶化できずに液体のまま登録され、このときは陽の目をみることはなかった。20世紀になり、第1次大戦期間中にドイツのBergius F(1884-1949)は石炭から石油を精製する石炭液化法を開発し、この功績で1931年にノーベル化学賞を受賞した。この方法により石炭から合成食用油を精製することができ、天然の食用油が直鎖で偶数個の炭素からなるのに対して、合成油は側鎖をもち奇数個の炭素数であった。1940年代に、ドイツの色素会社の研究者Keil Wは合成油の栄養価を研究していたが、Burtonが合成したものと同じ化合物を作成し、バルプロ酸と命名した。動物実験も行われたが薬理作用は観察されず、その後は溶媒として用いられた。

1960年代にフランスのグルノーブル大学のEymard Pは抗利尿剤の溶媒としてバルプロ酸を用いて注射用製剤を作製し、動物に使用したところ筋弛緩作用が発現し、溶剤のバルプロ酸が何らかの薬理作用をもつことを発見した。指導教授であったCarrazはバルプロ酸の薬理作用を網羅的に研究し、ペンチレンテトラゾ-ル誘発けいれん、最大電撃発作、キンドリング発作のいずれも抑制することを確認した。そして、1963年にてんかん患者に投与してバルプロ酸が広汎な抗てんかん作用をもつことを確認した。フランスのラバズ社は1967年にバルプロ酸ナトリウム塩をデパキンの名前で発売し、日本では1974年に、米国では1978年に市販された。

バルプロ酸の向精神作用、とくに急性躁病への有効性は1966年にフランスで最初に報告された。1977年にフランスで、1995年に米国で、2000年に英国、2002年に日本で双極性障害の躁状態に対する治療薬として認可され、現在では炭酸リチウムとともに双極性障害の躁状態に対する第1選択薬となっている。さらに、バルプロ酸の片頭痛発作に対する予防効果は1988年頃から報告され、1996年に片頭痛発作抑制薬としてFDAに認可され、米国だけでなく欧州でも広く用いられている。日本では2010年に「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において評価され、2011年に片頭痛発作抑制薬の適応が追加された。しかし、バルプロ酸は妊娠可能女性への使用は原則禁忌であり、躁状態治療薬や片頭痛予防薬として代替薬がある場合は使用が勧められない。

バルプロ酸は全般てんかんの第1選択薬であるが、部分てんかんや二次性全般化発作にも一定の治療効果を示し、広い治療スペクトルをもつ。初診時に全般てんかんか、部分てんかんか判然としない場合に、とりあえずバルプロ酸を使用したらよいとする意見もある。しかし、部分てんかんの第1選択薬であるカルバマゼピンと二重盲検比較を行った研究2)では、バルプロ酸の高用量を使用しても部分てんかんに対する治療効果はカルバマゼピンよりも低かった(図1)。てんかんの治療開始時に、全般てんかんと部分てんかんの鑑別診断が基本となることは強調されてよい。

図1. 強直間代発作と複雑部分発作に対するバルプロ酸とカルバマゼピンの発作消失効果(海外データ)2)

強直間代発作ではカルバマゼピン(黒丸)とバルプロ酸(白丸)で差がないが、複雑部分発作ではカルバマゼピン(黒四角)がバルプロ酸(白四角)よりも有意に発作再発までの時間が長い(一般化Wilcoxon検定:p<0.02)。

現在の日本では、バルプロ酸の剤形は、錠剤、徐放錠、細粒、シロップがある。その作用機序として、脳内のGABAとドパミン濃度を上昇させ、セロトニンの代謝を促進することが指摘されている3)。脳内GABA濃度を上昇させる機序(図2)は、グルタミン酸をGABAに変換するGAD酵素を活性化し、GABAをコハク酸セミアルデヒドに代謝するGABAトランスアミナーゼを抑制し、さらにコハク酸セミアルデヒドをコハク酸に代謝するコハク酸セミアルデヒド・デヒドロゲナーゼを抑制することによると考えられる。躁状態と片頭痛発作の発症抑制効果に関してもGABA神経伝達促進作用が寄与していると考えられている。

図2. バルプロ酸の脳内GABA濃度上昇機序3)

文献

  1. 1.岡部進:抗てんかん薬(バルプロ酸)の発見.薬局 59: 141-145, 2008.
  2. 2.Mattson RH, Cramer JA, Collins JF et al: A comparison of valproate with carbamazepine for the treatment of complex partial seizures and secondarily generalized tonic-clonic seizures in adults. NEJM 327: 765-771, 1992.
  3. 3.医薬品インタビューフォーム:日本薬局方バルプロ酸ナトリウム錠、シロップ(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1139004F1096_1_005_1F.pdf)

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Q.ベンゾジアゼピンによるてんかん治療

ベンゾジアゼピンの発見は偶然の産物(セレンディピティ)である1)。1955年、製薬会社に勤務していたレオ・スターンバックは新しい染料の開発を目的に40種類ほどの化合物を合成したが、その中の一つに異常な化学反応が生じていることに気付かなかった。1957年に研究室を閉じることになり、棚の上にあったこの化合物を動物実験に回したところ、意識レベルを低下させずに動物を静穏化させるという驚くべき結果が得られた。詳しく調べると、6員環と7員環が融合した新ベンゾジアゼピン体が得られていたことが判明し、1959年に特許を取得した。1960年にはクロルジアゼポキシドがリブリウムの商品名でトランキライザーとして市販され、てんかんを含むさまざまな疾患に用いられた。1963年にはより強力な作用を持ち、苦い味もないジアゼパムがヴァリウムの名称で発売され、たちまちベストセラーとなった。その後も次々とベンゾジアゼピン系薬物が開発され、安全性の高い抗不安薬あるいは睡眠薬として市場を席巻した。

1965年に、フランスのアンリ・ガストーらはジアゼパムの静注がてんかん重積に即効すると報告し、米国でも同様の報告がなされた2)。さらにガストーらは、1971年にクロナゼパム静注がジアゼパムよりもさらに著効するとの論文を発表した。その後、外国では複数のベンゾジアゼピン注射液が市販され、てんかん重積状態の治療はベンゾジアゼピン静注がゴールドスタンダードとなった。日本では1971年にジアゼパムの注射液が、1988年にはミダゾラムの注射液が、てんかん重積状態に適応をもつ薬剤として市販された。なお、ジアゼパムやミダゾラムの経口投与はてんかん発作に対する有効性は証明されていない。内服薬でてんかんへの適応のあるベンゾジアゼピン系薬物は、日本ではニトラゼパム、クロナゼパム、クロバザムの3剤のみである

ベンゾジアゼピン系薬剤はGABAA受容体のα1、2、3および5サブユニットに感受性をもち、内因性GABAの存在下でGABA作用を増強する3)。抗けいれん作用はα1サブユニットが関与し、他に鎮静、健忘、依存も生じ、催眠作用や抗不安作用はα2および3サブユニットが関与する(表1)。α1サブユニットはα5サブユニットと連動して耐性形成にも関与する。そのため、ベンゾジアゼピンを長期連用すると耐性や依存が問題となるが、耐性形成は鎮静・催眠作用ですみやかに生じるため、実臨床では抗不安薬や睡眠薬の耐性や依存の問題が大きい。複数のベンゾジアゼピン系薬物を併用する合理的理由はなく、併用は長期・大量投与つながり、結果として依存形成を促すため、抗不安薬や睡眠薬を漫然と長期投与することに警告が発せられている。一方、抗けいれん作用の耐性については軽微なものを含めると27~48%に生じるといわれ、あるベンゾジアゼピン系薬物への耐性が形成されると、ほかのベンゾジアゼピン系薬物にも交叉耐性が生じると考えられる4)。しかし、実際にはクロナゼパムで抑制されなかった発作がクロバザムで抑制されるなど抗てんかん薬の耐性と依存の問題は、実臨床でさらなるエビデンスの蓄積が必要である。

てんかん重積治療の原則は、医療機関に搬送してベンゾジアゼピンを静脈内投与して発作を頓挫させ、引き続き作用時間の長い抗てんかん薬を経口的あるいは非経口的に用いることである。通常はジアゼパム10㎎静注により3/4の発作が頓挫するが、医療機関到着までに時間がかかり、てんかん発作が長引いた状態にあるとベンゾジアゼピンへの反応が悪くなる。すでに難治てんかんの診断がついている例では、発作の早期抑制を図るための手段が重要となる。外国ではジアゼパム注射液の注腸やミダゾラム注射液の口腔粘膜注入、鼻腔内投与、注腸などが行われ、いずれも10分以内に効果が表れることが確認されている。日本ではこのような投与法が承認されていないため、ジアゼパム坐薬で代用することになる。小児の場合は両親が医師の指導のもとに家庭で坐薬を使用するが、学校や施設での使用も推奨される。2005年の厚労省通達では坐薬の使用は医師法17条に定められる医行為から条件付きで除外するとされており、養護教諭が救急処置として坐薬を使用することに問題はない。成人の難治てんかんの場合はこの限りでなく、坐薬使用にも抵抗が強いので、日本でもベンゾジアゼピンの口腔内あるいは鼻腔内投与などが検討される必要があると思われる。

文献

  1. 1.内林政夫:伝記.ベンゾジアゼピン系トランキライザーの発明者レオ・スターンバック.YAKUGAKU ZASSHI 127: 217-224, 2007.
  2. 2.Goodkin HP, Kapur J: The impact of diazepam's discovery on the treatment and understanding of status epilepticus. Epilepsia 50: 2011-2018, 2009.
  3. 3.大熊誠太郎ほか:BzRAsのファーマコダイナミクス.薬局 66: 27-32, 2015.
  4. 4.Loscher W, Schmidt D: Experimental and clinical evidence for loss of effect (tolerance) during prolonged treatment with antiepileptic drugs. Epilepsia 47: 1253-1284, 2006.

表1. ベンゾジアゼピンが作用するGABAA受容体のサブタイプの機能(文献3、一部改変)

鎮静 催眠 抗不安 抗うつ 筋弛緩 抗けいれん 学習・記憶 健忘 依存 耐性
α1
α2
α3
α5

〇:各サブユニットが作用を有する、△:弱い作用を有する、空欄:作用をもたない

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KK-17-08-19696

Q. バルプロ酸(VPA)曝露児の神経発達障害

2009年に米国と英国の抗てんかん薬の神経発達への影響を研究するグループNEADが、高用量のVPAに曝露された胎児は3歳時のIQが低いことをN Engl J Med誌に報告した1)。それによるとカルバマゼピン(CBZ)、ラモトリギン(LTG)、フェニトイン(PHT)への曝露児は高用量であっても3歳時点のIQの低下はなかったが、1000mg以上の高用量VPA曝露児は平均IQが87と有意に低下していた(図1)。またCBZ、LTG、PHT曝露児では3歳児IQと母親のIQが相関していたが、VPA曝露児は3歳児IQと母親のIQが相関せず、薬物の影響によるIQ低下と考えられた。このことから、妊娠の可能性のある女性に対してVPAを第1選択薬にすることへの警告を発した。

2011年にはNEAD研究グループから、VPA曝露児は3歳児の発育遅延とともに注意欠陥多動性障害(ADHD)のリスクも上昇することが報告された2)。すなわち、母親のIQを統制するとVPA曝露児は運動機能と適応機能が服用量に相関して有意に低下し、CBZ曝露児は運動機能が服用量と相関して有意に低下していた。LTGとPHTではそのような傾向はなかった。そして、小児行動評価法を用いたADHD評価では、VPA曝露児のADHD頻度が23.3%であり、一般児の頻度7%に比較して有意に増加していた。しかし、この論文ではVPAの低用量と高用量の2群比較はしていない。

2013年にはデンマークの全国民登録データの解析結果より、胎児期にVPAに曝露されると小児自閉症および自閉症スペクトル障害のリスクが上昇することが報告された3)。すなわち平均8.85歳時点での一般人口データでは、小児自閉症および自閉症スペクトル障害の頻度はそれぞれ0.48%と1.53%であったが、VPA曝露児は2.50%と4.42%といずれも高く、交絡因子を補正したハザード比はそれぞれ5.2倍および2.9倍であった。LTG、CBZ、オクスカルバゼピン(OXC)、クロナゼパム(CZP)といったその他の抗てんかん薬では頻度の上昇はなかった。母親がてんかんを有する児に限定すると、VPA曝露児はそれぞれ2.95%と4.15%であり、非曝露児の1.02%と2.44%と比較して補正ハザード比は2.9倍と1.7倍であった。これをうけて英国医薬品庁MHRAは明確な必要性のない限り妊娠中および妊娠の可能性のある女性にはVPAを使用すべきでないと注意喚起した。

2013年には上記のNEAD研究グループが、高用量のVPAに曝露された児は6歳時点でも言語および非言語機能、記憶機能、実行機能、およびIQが低いことを報告した4)。また、すべての抗てんかん薬において妊娠期に葉酸を服用していた母親からの出生児は、服用していなかった母親からの出生児に比べてIQ が高いことも指摘した(表14)。これをうけて米国食品医薬品局FDAはVPAの胎児危険度分類をDからXに引き上げ、妊婦への片頭痛予防を目的とした使用を禁忌とし、葉酸の効果についてはあらかじめ設定された評価項目でなく、後ろ向きに収集された情報なので解釈に注意が必要とした。さらに、同グループは2015年に VPA800mg以上を高用量と規定して、高用量VPA曝露児は6歳時点でもIQが低いこと、低用量VPA曝露児のIQは低くないものの特別な教育支援の必要性が有意に高かったことを報告した(図25)

Tomsonら6)はこれらの報告を踏まえて、治療の選択は発作型やてんかん類型にとって合理的な治療選択肢を提示して患者と医師の共同の意思決定(shared decision)に基づいて行うべきとしている。そして、妊娠する可能性のある女性へのVPA使用は極力避ける、焦点性てんかんにVPAが使われているときは他の選択肢を考慮する、一部の素因性全般てんかんなどでVPAが最適な治療法と考えられる例ではリスクとベネフィットを十分に説明する、VPAを使用する場合にはなるべく500~600mgを上限とする、VPA服用中に妊娠が判明した場合には別の治療に変更することは望ましくない、出生前診断では大奇形を検出できることもあるが神経発達への影響を判別することはできない、などについて十分に説明することを提言している。

2018年には上記したデンマークのグループから、VPA曝露児は学童期になっても国語や算数の成績が悪いことが報告された(図3)。すなわち、デンマーク全国民登録データより国語の成績を学童期2年、4年、6年、8年時点で調査し、算数の成績は学童期3年と6年児で調査したところ、VPA曝露児のみがいずれの成績も有意に低く、LTG、OXC、CBZ、CZP、フェノバルビタール(PB)といった他の薬剤では成績低下はなかった。しかし、VPA高用量(1000mg以上)群と低用量(1000mg以下)群で比較した結果では両群で有意差はなかったという。

高用量のVPAに曝露された児は先天性奇形だけでなく神経発達障害が生じることが指摘され、発達遅延は学童期になってもキャッチアップしないようである。母親の葉酸服用は認知発達障害を改善する可能性があるが、それでもVPA曝露児の6歳時IQは低いままであった。日本の添付文書ではバルプロ酸は「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人」には「原則禁忌」と記載されている。妊娠が可能な年齢の女性にはVPAを投与しないことが原則であろう。若年欠神てんかんや若年ミオクロニーてんかんなど、VPAがとくに高い効果を示し、他の薬物で発作が十分にコントロールされないこともある。このような場合は、奇形性や神経発達障害のリスクと出生前診断の限界などを十分に説明し、リスクを受け入れる意思のある女性に対してのみVPAを処方する。VPA使用量は500~600mgまで許容されるが、それでも発作コントロールが得られる最低用量まで減量すべきであろう。

*デパケンの添付文書はこちらをご覧ください。

文献

  1. 1.Meador KJ et al; NEAD Study Group. Cognitive function at 3 years of age after fetal exposure to antiepileptic drugs. N Engl J Med 360: 1597-1605, 2009.
  2. 2.Cohen MJ et al. Fetal antiepileptic drug exposure: motor, adaptive, and emotional/behavioral functioning at age 3 years. Epilepsy Behav 22: 240-246, 2011.
  3. 3.Christensen J et al. Prenatal valproate exposure and risk of autism spectrum disorders and childhood autism. JAMA 309: 1696-1703, 2013.
  4. 4.Meador KJ et al; NEAD Study Group. Fetal antiepileptic drug exposure and cognitive outcomes at age 6 years (NEAD study): a prospective observational study. Lancet Neurol 12: 244-252, 2013.
  5. 5.Baker GA et al; Liverpool and Manchester Neurodevelopment Group. IQ at 6 years after in utero exposure to antiepileptic drugs: a controlled cohort study. Neurology. 2015 Jan 27; 84(4): 382-90.
  6. 6.Tomson et al: Valproate in the treatment of epilepsy in girls and women of childbearing potential. Epilepsia 56(7): 1006-1019, 2015.
  7. 7.Elkjær LS et al. Association Between Prenatal Valproate Exposure and Performance on Standardized Language and Mathematics Tests in School-aged Children. JAMA Neurol. 2018.

図1. 抗てんかん薬単剤に曝露された3歳児のIQ 1)「海外データ」

バルプロ酸(VPA)の高用量(1000mg以上)群のみ有意に低下。

対象:1999年~2004年に米国・英国で、単一の抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン、フェニトインまたはバルプロ酸)を服用していた妊婦より出生した小児309名
方法:抗てんかん薬の曝露後6歳時での神経発達成果を比較

図2. バルプロ酸に曝露された6歳児のIQ 5)「海外データ」

高用量(800mg以上)群のIQが有意に低下、低用量(800mg以下)群は有意ではないが特別な教育支援を要した。

目的:抗てんかん薬に曝露された小児IQを評価する
対象:てんかん歴の有る妊婦(243名)、及び無い妊婦(287名)から出生した6歳児408名

図3. バルプロ酸に曝露された学童の学業成績が悪い 7)「海外データ」

目的:バルプロ酸及び他の抗てんかん薬の出生前の曝露と学校成績との関連性を評価する。
対象:1997年~2006年にデンマークで出生した小児のうち国民試験を受験した479,027名

表1. 母親の葉酸服用群と非服用群の比較 4)「海外データ」

葉酸服用(例数) 平均IQ(範囲) 葉酸非服用(例数) 平均IQ(範囲)
VPA (40) 98 (94-103) VPA (22) 96 (91-102)
PHT (23) 112 (107-118) PHT (32) 103 (98-108)
LTG (60) 111 (108-115) LTG (40) 103 (98-107)
CBZ (56) 106 (102-110) CBZ (38) 103 (98-107)
全数 (179) 107 (105-109) 全数 (132) 102(99-105)

対象:1999年10月から2004年2月に英国てんかんセンター25ヶ所で出産した抗てんかん薬単剤を服用した妊婦より出生した小児

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KK-18-04-21874

Q.バルプロ酸によるカルニチン欠乏症と高アンモニア血症

バルプロ酸(VPA)は各種てんかんだけでなく片頭痛や双極性障害の躁状態の治療に広く用いられている。その添付文書を見ると、重大な副作用欄に「高アンモニア血症を伴う意識障害があらわれることがあるので、定期的にアンモニア値を測定するなど観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し適切な処置を行うこと」と書かれている。また、禁忌、慎重投与、重要な基本的注意欄には「尿素サイクル異常症」あるいはその疑いに対する配慮が記載されている。

VPAは重篤な肝障害や劇症肝炎も生じうるが、肝機能障害を伴わずに高アンモニア血症(表1)のみを呈する例が少なくない1)。高アンモニア血症のリスク因子は、乳幼児・小児、高用量VPA、多剤併用、肝機能異常、代謝障害、神経学的疾患の合併などである。VPAは直接のグルクロン酸抱合のほかに、ミトコンドリアのβ酸化、ミトコンドリア外のω酸化の3つの独立した経路で代謝される(図12)。VPAの3つの不飽和代謝物のなかでも4-en-VPAは強い肝毒性を示す。また、4-en-VPAはミトコンドリアのβ酸化を阻害し、カルニチンを枯渇させ、アンモニア代謝を阻害して高アンモニア血症を惹起する。乳幼児や小児ではVPAから4-enへの代謝が促進されるため、カルニチン欠乏症や高アンモニア血症のハイリスク群であり、定期的なアンモニア測定が推奨される。

VPAに抗てんかん薬のフェニトインやフェノバルビタールなどの酵素誘導薬を併用するとVPAの代謝が亢進し、代謝物である4-en-VPAなどが増加してカルニチン欠乏症や高アンモニア血症が誘発される。また、トピラマートは炭酸脱水酵素を阻害してアシドーシスとなり、高アンモニア血症が生じやすくする。抗てんかん薬の多剤併用例に傾眠、嘔吐、精神状態の変化が急速に進行する場合には高アンモニア血症を疑って、血中アンモニア濃度を測定する必要がある。

血中アンモニア測定の際には採血後すぐに遠心分離ないし冷蔵し、溶血や全血放置によるアンモニア濃度の上昇を防ぐ必要がある。血中アンモニアの上限値は70~80μg/dLであり、100μg/dLを超える場合はVPAの減量を考慮する。しかし、血中アンモニア値と臨床症状の出現には個体差が大きく、難治てんかんを対象とした検討では、傾眠や消化器症状などの出現は血中アンモニア値150μg/dL以上で23%、200μg/dL以上で37%にとどまり、VPAによる高アンモニア血症の多くは無症候性であったという1)

VPAによる高アンモニア血症はカルニチン欠乏により尿素サイクルがうまく機能しないことが原因となる(図12)。カルニチンはミトコンドリアで行われる脂肪酸代謝によるエネルギー産生や不要な有機酸の代謝に必須のビタミン様物質(アミノ酸)である。VPAは脂肪酸であり、ミトコンドリアのβ酸化で代謝されるためカルニチンを消費する。またVPAはカルニチン合成や腎尿細管からの再吸収も抑制する。VPA投与によりカルニチン欠乏症が生じてミトコンドリア機能が低下した結果、背景に存在したミトコンドリア脳筋症(MELAS)が顕在化した例が報告されている3)

カルニチン欠乏症の原因と症状を表2にまとめた2)。カルニチンは食事から必要量の75%が摂取され、体内カルニチンのほとんどは骨格筋に分布するため、低栄養や食思不振患者だけでなく、筋肉量の少ない高齢者や筋ジストロフィー患者などもカルニチン欠乏症のハイリスク群である。医原性のカルニチン欠乏症にはVPAなどの薬剤性のほかに透析によるものがあり、倦怠感、こむら返り、血圧低下、心機能低下などが生じる。

カルニチンの血中濃度測定は先天性代謝異常症が強く疑われる場合の新生児マススクリーニングに保険適用されてきたが、総カルニチン(TC)と遊離カルニチン(FC)を測定し、その差からアシルカルニチン(AC)を算出する新たな酵素測定法が2018年よりカルニチン欠乏症の疑い例にも保険適用となった。参考値はFC 45~91μmol/L、FC 36~74μmol/L、AC 6~23μmol/Lである。VPA服用例はFCが20μmol/L以下、AC/FC比が0.4以上と、カルニチン欠乏症の所見を呈することがある。

10歳以下の小児はカルニチンの合成能が低いため、VPAを投与する際にはカルニチンの予防投与(10~20mg/kg/日あるいは100~300mg/日)が行われることがある。高齢者もカルニチン合成能が低く、サルコペニアなどで筋肉量が減っていると、VPAによるカルニチン欠乏症を生じやすい4)。高齢者にVPAを投与後に急速な認知機能低下をきたした場合にはカルニチン欠乏症と高アンモニア血症を疑う必要がある。カルニチン欠乏症と判明すればカルニチン補充療法(レボカルニチン製剤、錠剤、内用液剤、静注製剤の投与)を行うことで高アンモニア血症も改善する。

文献

  1. 1.山本吉章:難治てんかん患者を対象とした抗てんかん薬の薬物相互作用解析.医療薬学 42: 389-99, 2016.
  2. 2.日本小児連絡協議会栄養委員会編:カルニチン欠乏症の診断・治療指針2016.
  3. 3.Lam CW et al: Mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episode (MELAS) triggered by valproate therapy. Eur j Pediatr 7: 562-564, 1997.
  4. 4.Adler LW et al: Valproate-related hyperammonemia in older adult psychiatric inpatients. CNS Disord 17: 2015.

表1. 高アンモニア血症の症状 1)

初期 疲労感、食欲不振、嘔気・嘔吐
中等度 ふらつき、失調、手指振戦、傾眠、発作の増加、精神変調
重度 意識障害、けいれん発作、低体温

表2. カルニチン欠乏症の原因と症状 2)

原因 先天性 先天性カルニチントランスポーター異常症、尿素サイクル異常症、ミトコンドリア異常症、その他の先天性代謝異常症
後天的 生合成低下(肝硬変、慢性腎疾患など)、摂取量減少(栄養不良、長期の経管栄養あるいは完全静脈栄養など)、必要量増大/体内貯蔵量低下(妊娠女性、授乳中女性など)、損失増大(尿細管性アシドーシスなど)
医原性 透析、抗てんかん薬(VPAなど)、抗菌剤(ピボキシル基含有プロドラッグなど)、抗がん剤(プラチナ製剤など)
症状 軽度 筋緊張低下、筋力低下、こむら返り、倦怠感、嘔気・嘔吐など
重度 意識障害、けいれん、低血糖、横紋筋融解症、心機能低下など

図1. バルプロ酸によるカルニチン欠乏と高アンモニア血症の推定機序(文献2)より作図)

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KK-18-12-24206

Q.てんかん外科治療のはじまり

1886年、英国ロンドンのクィーン・スクウェアーにある国立病院(写真1写真2)の新任外科医であった29歳のVictor Horsley(1857-1916、写真3)は、脳外科手術によって発作が消失したてんかんの3例について英国医学会で報告した1)。1例目はJohn Hughlings Jackson(1835-1911)とDavid Ferrier(1843-1928)の患者(B James、22歳、男性)で、7歳時に馬車に轢かれて左頭頂部に開放性陥没骨折を生じた。15歳時より発作が生じ、右下肢のけいれんに始まり、上肢から顔面へ広がり、眼球と頭部が右側へ偏位した。発作は2週間で3000回にも達し、入院3日前には発作重積状態となった。1886年5月25日に手術が行われた。Horsleyはモルヒネとクロロフォルムで麻酔し、骨欠損部を炭酸ガス・スプレーで消毒し、皮下から大脳の白質につながる硬い瘢痕組織を摘出し、周辺の脳皮質を2x3cm、深さ2cmにわたって切除した。術後には発作は消失し、片麻痺が残ったが2カ月で回復した。

2例目もJH Jacksonの患者(W Thomas、20歳、男性)で、特別な既往はなかったが、15歳より頻回の発作が生じた。発作は左の拇指と人差し指の間代けいれんに始まり、手首、肘、肩、顔面と上行し、意識を失い、発作後には左上肢の一過性麻痺が生じた。術前評価で患者の前頭回と頭頂回の下方を弱電で刺激すると対側の拇指と人差し指の発作が誘発された。これに立ち会ったJacksonは、その部位に原因不明の刺激性病変(irritative lesion)が存在するとして摘出手術を勧めた。1886年6月22日に手術が行われ、頭蓋骨に大きな穿孔を開け硬膜を開くと、肉眼で腫瘍性病変が見えこれを切除した。術後に軽度の左拇指麻痺を残遺したが、発作は消失した。Jacksonはすでに1870年と73年の論文でirritative lesionの切除を推奨していたが、Horsleyの手術の成功によってその仮説が正しかったことが証明された。

3例目はThomas Buzzard(1831-1919)の患者(WJ Jeorge、24歳、男性)で、5歳の時に馬車の車軸に頭を打ちつけて陥没骨折を生じた。13歳の時から発作が始まり、3週間で3~4回群発した。腹部症状に始まり、眼球と頭部を右に向け、右上肢をけいれんさせて意識を失い、発作後に右上肢の一過性麻痺を残した。1886年7月13日に手術が行われ、術後に発作は消失したが、1週間後にヒステリー性の一過性麻痺を生じたという記載がある。

英国医学会でのHorsleyの発表の主旨は、安全で確実な脳の手術方法についてであり、てんかんの新しい治療法を開発したという気負いはなかった。この学会にはパリからJean-Martin Charcot(1825-93)が参加しており、Horsleyの発表を聞いて「手術によっててんかんが治癒したと思われる」と発言し、てんかん外科という新しい治療法が始まったことを指摘した。Charcotのコメントを聞いたJacksonは、Horsleyをたたえたのちに「私は長い間、部分てんかんの脳には局所的な病変があると確信していた。これは発射病(discharging lesion)と呼んでもよいかもしれない」と発言している。Horsleyの報告した3例はいずれも後にジャクソンてんかんと呼ばれる発作をもった症例であった。

その後、Horsleyは1890年のベルリンでの国際学会において、44例の脳外科手術の結果を発表し、その転帰は悪性グリオーマの10例を除いて全例生存という驚嘆すべき成績であった。1908年にはRobert Henry Clarkeとの共著で定位脳手術用のフレームをBrain誌に報告した2)。定位(Stereotaxis)という術後は彼らが造語したもので、ギリシャ語で立体を意味する"stereos"と、走性を意味する"taxis"に由来している。両者は後に不和となったが、ClarkeがHorsleyに爵位が送られたことに嫉妬したのではないかと言われている3)。その後、Horsleyの関心は政治の世界に移り、医学・社会・教育などの機構改革や、アルコール禁止運動などにとりくんだ。しかし、これらの提言は医学会の保守的な人々から拒絶され、Horsleyは病院を去ることになる。第1次世界大戦が勃発すると軍医に志願し、遠征先のメソポタミアの小さな病院で熱射病のために急死した。

文献

  1. 1.Horsley V: Brain-surgery. BMJ 2: 670-675, 1886.
  2. 2.Horsley V, Clarke RH: The structure and functions of the cerebellum examined by a new method. Brain 31: 45-124, 1908.
  3. 3.Kelly PJ: Comments on "Stereotactic neurosurgery in the United Kingdam: the hundred years from Horsley to Hariz." Neurosurgery 63: 607, 2008.

写真1. 現在のクィーン・スクウェアー病院(右の茶色の建物)と隣接する国立神経研究所(左の白い建物)

1963年筆者撮影

写真2. 1880年代のクィーン・スクウェアー国立病院のスタッフ

本文に登場する人物は、後列の左端にV.Horsley、左から4人目がT. Buzzard、前列の左から3人目にJ.H.Jackson、右端にD.Ferrierがいる。

写真3. Victor Horsley (1857-1916)

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KK-18-12-24206

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