KYOWA KIRIN

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【鉄則その8】 「高齢者への投与」

高齢者のくすりの効き方は個人差が大きい。とくに中枢神経系に作用するくすりは効きやすく、副作用が出やすいので注意が必要である。

CASE

「このくすりは毎日飲んでも大丈夫なのか?」と、ロルメタゼパム錠を示して調剤窓口で言っているのは71歳の千葉さん、地元の高校の先輩です。

[処方内容]

ニフェジピン徐放錠 10mg
2錠
分2 朝夕食後
14日分
グリクラジド錠 40mg
1/2錠
分1 朝食前
14日分
シンバスタチン錠 5
2錠
分1 夕食後
14日分
フルラゼパム塩酸塩カプセル15mg
1cap
分1 就寝前
14日分

 「う~ん、どうかしたのですか?」
 「なんか最近、忘れっぽくなってきたし、日中だるいことも多いので、もしかしたら、この睡眠薬のせいかと思って......」
 「飲まなくても眠れそうなときには、飲まないにこしたことはありませんよ」
 「うん! なるべく飲まないようにはしているのだが、なかなかうまくいかない」
 「眠れないときには、くすりを飲むのもいいと思うのですが、長い間毎日飲んでいると、やはり習慣性になってしまいますよ。そして、だんだんやめられなくなってしまうかも」
 「そうかぁ」
 「習慣性がこうじて睡眠薬に依存してしまうと、くすりを飲まないときにはせん妄や不安感が現れて、ひどいときには幻覚、妄想等の離脱症状(禁断症状)が出たりするようですよ」
 「やっぱり怖いんだねぇ」
 「そうなんですよ。とくに高齢になると、睡眠薬はよく効くかわりに副作用も多くなります。"お酒の週休2日制"のように"睡眠薬を飲まない日"をつくるといいと思います」
 「そうかぁ、じゃー頑張ってみるか」と、言って千葉さんは薬局をあとにしました。

添付文書解析

 フルラゼパム塩酸塩カプセルの添付文書(2010年9月版)の高齢者の項には、「高齢者に使用する場合は少量から投与を開始し、経過を十分に観察しながら慎重に投与すること(一般に高齢者では、運動失調等の副作用が発現しやすい)」と記載されています。
 これはほとんどの睡眠薬の定型文章です。"慎重に投与すること"という添付文書用語は、いつも思うのですが、どうもよくわかりません。"慎重に投与しない"ことがいったいあるのでしょうか?
 しかし、この記述から"睡眠薬は、高齢者には少量から投与する"という原則をうかがい知ることができます。なぜなら、一般的にいって高齢者は肝機能や腎機能が低下している場合が多いこと、そして中枢神経系に作用するくすりは"高齢者にはよく効く"からです。そこで"この慎重投与の意味"は、"中枢神経系の副作用には注意しなさいという意味"であるとわかります。
 そういう目で添付文書をみると、フルラゼパム塩酸塩カプセルの重大な副作用として記載されている「薬物依存」に注目せざるをえません。フルラゼパム塩酸塩カプセルの依存に陥っている患者さんを見つけるばかりではなくて"依存に陥らないように"、あるいは、依存に陥っているとしたら"離脱症状が現れないように睡眠薬を減らす"という観点から添付文書を見たいですね。添付文書には、「離脱症状とはどういうものか」と、投与を中止するときには「離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行うこと」などの注意が載っています。
 フルラゼパム塩酸塩カプセルのその他の副作用の精神神経系の項で、0.1~5%未満の頻度には"昼間の眠気、ふらつき、頭重、眩暈、頭痛、不安感"が記載されています。これらは、薬理作用による副作用ですから、とくに高齢者は頻度が大きいことが予測されますので、患者さんにお話ししておく必要があります。
 少々脅しすぎたきらいはありますが、千葉さんにお話ししたのはこれらの理由からでした。

1カ月後、再び調剤薬局窓口で:

 「やあ! やっと睡眠薬なしでも眠れるようになったよ!」と、上機嫌で薬局を訪れたのは千葉さんです。
 「よかったですね。でも、大変だったでしょう」
 「うん! 最初は苦労したけど、なんとか飲まないでも眠れるようになった」
 「夢は見ませんでしたか?」
 「最初、眠りぎわは、夢をみているのか考え事をしているのかわからないようだったが、そのうちに、睡眠薬を飲まない翌日は"日中のだるさがない"ことに気がついたんだ」
 「そうですか! なんか顔の色つやもいいですし、元気そうですね。ところで、睡眠薬が減って、お酒が増えたのではないですか?」
 「そんなことはないよ。あんなに"睡眠薬とお酒は一緒に飲むな!"と言っていたではないか! ちゃんと、守っていたよ」
 「そうですか。それはうれしいです」
 「うん! ありがとう。ほんとに助かったよ。実は君の"睡眠薬を飲み続けているとやめられなくなるかも"の一言が効いたのだ。感謝している」とのことでした。よかったですね。

添付文書高齢者の項の解析

 高齢者の項には、決まり文句のように「一般に高齢者では生理機能が低下しているので(あるいは"副作用が現れやすい"ので)、減量するなど注意する」とあります。
 この記述も一般的すぎるように思います。なぜなら、高齢者の機能低下は個人差がものすごく大きいからです。"高齢者だから減量する"のではなく"高齢者の状況に応じて"、そして"くすりの特徴に応じて"減量する必要があります。
 そこで、注意しなければならないのが患者さんの状況ですが、とくに肝機能の低下と腎機能の低下は要注意です。ところが、肝機能の低下とくすりの代謝能がパラレルに結びつく検査値はないのです。腎機能の低下は血清クレアチニンの上昇が指標にされることが多いのですが、高齢者は加齢によって筋肉量が落ちる結果、筋肉由来の血清クレアチニンが腎機能の低下を反映するほどは上がらないので、注意が必要です。
 さて、もうひとつ大事なことはくすりの特徴です。腎機能が低下している高齢者の場合に確実に減量しなければならないのは、尿中未変化体排泄率が高い腎排泄型の薬です。これは、血中濃度が高くなって副作用が現れやすいからです。添付文書の尿中未変化体排泄率に注目しましょう。
 肝消失型のくすりの場合は、代謝能の測定は通常はできませんので、患者さんの状況次第になります。もし患者さんの代謝能が落ちている場合、注意しなければならないのは肝消失型のくすり、とくに投与量比以上に血中濃度が上昇する非線形速度過程を示すくすりです。これを見分けるには添付文書の血中濃度曲線が役に立ちます。投与量が2倍、4倍になったときに血中濃度が2倍、4倍以上に上昇しているくすりは、急に血中濃度が上昇する可能性がありますので、注意が必要です。

コラム

[加齢による腎機能の減衰]

 添付文書には、「高齢者は腎機能の低下があるので、少量から投与すること」という記載がときおり見られます。この記載には問題点が2つあります。ひとつは、高齢とは何歳からか? ということ。2つ目は、加齢による腎機能低下の程度はどのくらいか? ということです。
 最初の問題点は難しいですね。個人差があまりにも大きすぎますから! 2つ目の問題点について Wolfgang A.Ritschel(薬物動態学の研究で知られる米国の医学・薬学博士)は、「腎糸球体濾過率は0.66%/年、最大尿細管分泌容量は0.62%減衰する」としております(『老年期の薬物動態学』1991、じほう)。そうすると、腎機能低下率は両方をあわせて1.28%/年ということになるのでしょうか。
 かりに50歳から、加齢による腎機能低下がはじまるとすると、60歳では12.8%、70歳では25.6%、80歳では38.4%の低下になります。したがって、くすりの投与量もこの率で減量すればいいことになります。ただし、それは"腎排泄型薬物の場合にのみあてはまる"ことに注意しましょう。

結論

  • 高齢者の生理機能低下は個人差が大きいので、患者さんの状況に応じた用法用量のチェックが必要である。

  • 腎機能低下者の場合、尿中未変化体排泄率が高い腎排泄型のくすりは血中濃度が上がりやすく、副作用が出やすいのでチェックが必要である。

  • 肝機能低下者には、肝消失型の薬物投与は要注意である。とくに血中濃度が投与量比以上に上がる非線形速度過程を示す薬物は、急に血中濃度が上がって副作用が出やすい。

  • 高齢者では、中枢神経系に作用するくすりの副作用はとくに出やすいので要注意。

演習問題

  • 抗生物質や抗菌剤の添付文書では、「一般に高齢者は生理機能が低下しているので用量ならびに投与間隔に留意するなど慎重に投与する」とあるが、これは投与量を減らすということか? それとも増やすということか? 高齢者は"免疫能の低下"という生理機能の衰えがあると思うのだが?

     高齢者には、必ず減量するというものではないと思います。とくに抗生物質、抗菌剤ではきっちりと必要量を服用することが重要ですね。そういう意味では、抗生物質、抗菌剤添付文書の、このような一律的な記載には疑問を感じます。加齢による免疫能の低下ばかりではなく、ステロイド剤や免疫抑制剤の併用時や、耐性菌の問題もあります。したがって、抗生物質、抗菌剤の高齢者用量は成人用量を守って、しっかりと使わなくてはならない場合も多いと思います。
     ただ、注射剤でのアミノグリコシド系抗生物質製剤および経口剤でのニューキノロン系抗菌剤は、患者さんの腎機能低下に応じて、減量する必要があります。なぜなら、これらは腎排泄型薬剤であり、アミノグリコシド系抗生物質製剤は腎機能障害、聴覚障害が出るからですし、ニューキノロン系抗菌剤も頭痛等の中枢神経障害が出る場合があります。それに、これらのくすりはPAE(postantibiatic effect:抗生物質持続効果)がありますので、必ずしも常にMIC(最小阻止濃度)以上に保つ必要がないからです。
     しかし、肝消失型薬物のテトラサイクリン系やマクロライド系の薬物では腎障害による血中濃度の上昇はありませんので、減量をする必要性は少ないでしょう。なぜなら、これらは静菌的なくすりですから、MICを超える時間が長いほうがいいからです。
     また、ペニシリン系やセフェム系製剤は腎排泄型薬剤ですので、注射剤は減量する必要があるでしょう。ただし、経口剤の場合には、高齢者は吸収遅延もあるので、これらのくすりの血中濃度が上がることでの副作用、つまり薬理作用による副作用はあまり考える必要がないことから、減量にこだわることもないように思います。それよりも、耐性菌の発現を考えると必要な量を必要な期間きっちりと服用することが大切ですね。

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