KYOWA KIRIN

このサイトは、日本国内の医療関係者(医師、薬剤師、看護師、技師・技士等)を対象に、弊社が販売する医療用医薬品を適正にご使用いただくための情報を提供しています。国外の医療関係者、一般の方に対する情報提供を目的としたものではありませんのでご了承ください。

【鉄則その10】 非線形薬物の投与量決定

非線形薬物の定常状態を達成する投与量はミカエリス・メンテン式で表される。

CASE

患者は南さん、38歳男性、てんかん。南さんは大きな病院の事務職をしています。普段の業務は忙しいのですが、宿直はないので、比較的規則正しく働ける職場です。発症は20歳で、てんかん大発作に見舞われました。以後、フェニトイン散でコントロールしてきました。最近はしばらく発作がなく良好なコントロールを保っていたのですが、フェニトイン散280mg/日投与時に発作がみられました。

[処方内容]

フェニトイン散 280mg/日
増量
フェニトイン散 300mg/日

「南さん、ズーッと発作がなかったのですよね」
「そうなのですよ。油断していました」
「今回発作があった280mg/日投与時のフェニトイン散血中濃度は10mg/Lですね」
「はい、そうです」
「有効血中濃度の下限ですね」
「先生にもそう言われました」
「フェニトイン散が300mg/日に増量になり、2週間後の血中濃度は12mg/Lでしたね」
「はい」
「いま、いかがですか?」
「発作はないのですが、まだときおり発作の前兆らしき症状が現れます」
「それはどんな症状なのですか?」
「なんか、からだに力がなくなった感じがしてきて、手足に少し違和感みたいなものが出たり、ふ~っと、気が遠くなるような感じがします」
「そうなんですか」
「くすりはちゃんと飲んでいるのですが・・・」
「フェニトイン散は不用意にくすりの量を増やしていくと、急に血中濃度があがって、重篤な副作用に見舞われることもあるので、増量には注意が必要なのです」
「だから、少しずつ量を増やしていっているのですね」
「よくおわかりですね。そうなのですよ」
「はい、病歴が長いですから」
「ストレスが発作の引き金になることもあると思いますが、なにか思い当たることがありますか?」
「別にありませんが、年末になって少し忙しいかなあ」
「そうですか。安全に発作を防ぐことができるくすりの量を決めるには、南さんのくすりの代謝能力を知る必要があります。前回と今回の血中濃度データから求めてみますね」
「はい、お願いします」
「了解しました。データがでたら、今度は安全で確実に効く血中濃度を達成する投与量を決めましょう」
「はい、安心して仕事をしたいので、そうできたら嬉しいです」

薬物動態解析

  フェニトイン散は血中濃度が高くなると、一次速度過程が成立しません。低い濃度であれば一次速度過程が成立するので、血中濃度は投与量に比例するため、比較的薬効や副作用の現れ方は推測しやすいのです。しかし、ある程度、血中濃度が上がってくるとフェニトイン散の代謝酵素が飽和してしまい、それ以上代謝されなくなる結果、急に血中濃度が上がってしまいます。困ったことに、この代謝酵素が飽和する血中濃度は患者によって異なります。もっとも、代謝能力は個人によって異なるので、それは当然のことではあります。

非線形薬物の定常状態に達する投与量を知るには

  このように、非線形薬物の定常状態に達する投与量を知りたい場合にはどうしたらいいのでしょうか? その回答は一つしかありません。ミカエリス・メンテン式を使うことです(図1)。くすりの反応速度をミカエリス・メンテン式で表すと下記のようになります。

Dose/τ =

Vmax×Css
Km+Css

Dose:投与量
τ:投与間隔時間
Css:定常状態薬物血中濃度
Vmax:最大代謝速度
Km:ミカエリス・メンテン定数

  ミカエリス・メンテン式は不思議な式です。もし、定常状態薬物血中濃度CssがKmと比較して十分小さいときは、Km+CssはほぼKmと近似されるため、

Dose/τ

   Vmax   
Km

 × Css

になるので、y=axの一次速度式になります。反対

図1ミカエリス・メンテン式のVmax,Kmの決定

Cp:血中濃度
Dose:投与量
Vmax:1日に代謝できる最大投与量
Km:ミカエリス・メンテン定数
(1/2Vmaxに対応する血中濃度)

にCssがKmと比較して十分大きいときは、Km+CssはCssと近似されるので、

Dose/τ

   Vmax×Css   
Css

 = Vmax

となり、ゼロ次速度式になります。つまり、一つの式が状況によって、一次速度式にもゼロ次速度式にもなります。これが、ミカエリス・メンテン式の本質です。
 ミカエリス・メンテン式は次の式のように展開できます。

Dose/τ=-Km ×

   Dose/τ  
Css

 + Vmax

 これはy=-ax+bの式なので、グラフにするとDose/τを縦軸にしてDose/τ/Cssを横軸とし、Kmを勾配、Vmaxを切片とする下向きの直線になります。未知数がKmとVmaxとふたつあるので、投与量と血中濃度が違うふたつのデータがあれば、未知数は決定できます。

ミカエリス・メンテン式を使って南さんの投与量を計算

 南さんの症例に戻りましょう。データがふたつあるので連立方程式で解いてみることにします。投与量は1日1回だからτは/日とします。

1日280mg投与の時の血中濃度は10mg /Lだったので

280mg/日=-Km ×

   280mg/日   
10mg/L

 + Vmax

1日300mg投与の時の血中濃度は12mg/Lなので

300mg/日=-Km ×

   300mg/日   
12mg/L

 + Vmax

 上記の2元連立方程式を解くとVmax=468mg/日、Km=6.7mg/Lが得られます。
現在、フェニトイン散の血中濃度は12mg/Lですが、思い切ってフェニトイン散の治療域10~20mg/L中間の15mg/Lを達成する投与量を求めてみましょう。定常状態血中濃度Cssを達成する1日当たり投与量はミカエリス・メンテン式を応用して下記で求められます。

Dose/τ

   Vmax・Css   
Km+Css

 南さんのVmaxとKmは、468mg/日、6.7mg/Lなので、1日あたりの投与量は下記の通りになります。

Dose/日=

   468mg/日×15mg/L   
6.7mg+15mg/L

 = 323.5mg

VmaxとKmをグラフで求める「Ludden法」

 1日1回、フェニトイン散323.5mgを投与すると15mg/Lのフェニトイン散濃度を達成できます。Ludden法と呼ばれるグラフ法は、下記の式の直線からグラフによってVmaxおよびKmを求める方法です(図2)。

Dose/τ=-Km ×

   Dose/τ 
Css

 + Vmax

 以上から、南さんのてんかん発作を避けるフェニトイン散投与量は323.5mg /日に決まりました。これで、南さんも安心して仕事ができます。フェニトイン散の消失半減期は24時間程度なので、1週間後には定常状態に達しますが、念のため2週間後に最低血中濃度を測ってみましょう。もし、15mg/Lからかけ離れていたら、そのデータを使用して新しいVmax、Kmを決めて再度投与設計をしましょう。

図2Ludden法によるVmax、Kmの決定

Ludden法によるVmax、Kmの決定

第2版 臨床薬物動態学、緒方宏泰 他、丸善株式会社、2007.6

結論

  • 投与量Dose、投与間隔時間τ、定常状態薬物血中濃度Cssとし、最大代謝速度Vmax、 ミカエリス・メンテン定数Kmとすると、ミカエリス・メンテン式は、くすりの反応速度を表し、

      

    Dose/τ

      Vmax × Css  
    Km + Css

    で表される。

  • ミカエリス・メンテン式は下記のように展開できる。

      

    Dose/τ=-Km ×

       Dose/τ 
    Css

     + Vmax

    従って、投与量と血中濃度が違う2つのデータがあれば、最大代謝速度Vmaxおよびミカエリス・メンテン定数を確定できる。

  • 患者さん個別のVmax、Kmが確定できれば、

      

    Dose/τ

       Vmax × Css   
    Km + Css

    で目標血中濃度を達成する投与量を決定できる。

コラム

薬物動態学(PK:Pharmacokinetics)と
薬力学(PD:Pharmacodynamics)の合体「PK-PD分析」

 薬物動態学(PK:Pharmacokinetics)と薬力学(PD:Pharmacodynamics)は別々の学問体系として発展してきました。薬物動態学はくすりの吸収→分布→代謝→排泄のみを問題にして、くすりのパワー! つまりどのくらい強いかということには触れませんでした。一方、薬力学もくすりの動態についてはまったくふれませんでした。しかし、薬物動態学と薬力学はお互いを密接に背負った内部矛盾の関係にあります。従って、それらを統一して考えようとする「PK-PD分析」が現れるのは必然の過程でした。いわゆる両者の発展過程のaufheven(アウフヘーベン:止揚)です。
 抗生物質を例にとりましょう。
 薬物動態の評価ポイントは、ADME(吸収→分布→代謝→排泄)で、究極的には、「くすりが作用する必要がある組織でどのくらいの濃度になるのか?」が重要です。これは組織濃度で表すことができます。一方、薬力学の評価ポイントは、MIC(MBC)で「どのくらいの濃度で細菌を消滅するのか?」が重要です。レボフロキサシン水和物錠500mgはCmaxを上げることで、高組織濃度を実現するとともに、Cmax/MICを高めるというPK-PD理論の実践を可能にしました。そして、このことによって耐性化をも抑制しようという試みです。
 私事ですが、先日、歯肉炎症が起きて痛くなり、レボフロキサシン水和物錠500mgを2日間服用したところ、炎症は治まり、抜歯を避けることができました。副作用は、少し胃の調子に影響があるかなあというくらいでした。

サイトリニューアルに伴うログインについてのお知らせ

サイトリニューアルに伴い、ログイン用のIDをメールアドレスに変更いたしました。ログインできない場合はこちらのパスワード再設定画面で再設定いただくか、 こちらにお問い合わせください。

おすすめ情報

  • おすすめ情報は、協和キリンのウェブサイトにおける個人情報の取扱い方針に基づき、お客様が閲覧したページのアクセス情報を取得し、一定の条件に基づき自動的に表示しています。
    そのため、現在ご覧いただいているページの情報との関連性を示唆するものではございません。

くすり相談窓口

弊社は、日本製薬工業協会が提唱するくすり相談窓口の役割・使命に則り、くすりの適正使用情報をご提供しています。
弊社医薬品に関するお問い合わせは、下記の電話窓口で承っております。

フリーコール

0120-850-150

受付時間 9:00~17:30
(土・日・祝日および弊社休日
を除く)

※お電話の内容を正確に承るため、また、対応品質の維持・向上等のため通話を録音させていただいております。あらかじめご了承ください。

お問い合わせ