乾癬患者における
QOLと治療ニーズについて
- 監 修
-
東海大学 医学部専門診療学系皮膚科学
教授 馬渕 智生 先生
乾癬の重症度がQOL・労働生産性に及ぼす影響
乾癬患者では、身体的・精神的に日常生活に多くの支障があり、QOLが低下していることが明らかとなっている。特に、乾癬が重症の場合にはDLQIスコアで有意差が認められた。また、労働生産性を示すWPAIスコアにおいても軽症例に比べ、中等症、重症例で有意差が認められた(表1、表2)。さらに、患者と医師の間には治療満足度のギャップが存在することが指摘されており、より高い治療満足度のためには、DLQI寛解を達成するような十分な皮疹の改善と、患者のニーズを共有して治療を進めていくことが重要と考えられている1)。
患者背景や乾癬の重症度、皮疹の部位・症状などをふまえて、患者のQOLやニーズ、労働生産性に及ぼす影響を考慮した適切な治療選択を行うことが重要と考えられる。
| DLQI総合スコア | |
|---|---|
| 軽症 | 2.8 |
| 中等症 | 6.1* |
| 重症 | 11.2* |
*P<0.05(vs. 軽症)、P値は名目上のP値
| WPAIスコア | ||||
|---|---|---|---|---|
| 労働生産性の 低下 |
労働時間の 低下 |
仕事における 障害 |
活動性の 障害 |
|
| 軽症 | 8.0 | 1.6 | 7.4 | 9.8 |
| 中等症 | 19.3* | 5.5* | 17.4* | 21.1* |
| 重症 | 27.0* | 8.2* | 22.9* | 31.9* |
*P<0.05(vs. 軽症)、P値は名目上のP値
P値の算出はKruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定を用いた。
- [目的]
- 軽症、中等症、重症の乾癬患者間で、QOL、労働生産性、臨床症状がどのように異なるかを調べる。
- [対象]
- 過去に「BSAが10%を超える」、「中等症から重症」、「全身療法を受けたことがある」のうち少なくとも1つを満たす乾癬患者 694例
- [方法]
-
皮膚科医から患者の重症度等について、乾癬患者からQOLについてはDLQI等、労働生産性についてはWPAI等の質問票を用いてデータを収集した。乾癬の重症度別にDLQI、WPAIスコアを比較した。
WPAI(Work Productivity and Activity Impairment)スコア:6つの質問で、過去7日間においてどの程度仕事の時間と生産性が損なわれたかを評価する質問票。「仕事や家事を休む・辞めることに起因する生産性損失 (absenteeism、アブセンティーイズム)」と「仕事や家事は続けているものの、その効率が落ちることに起因する生産性損失(presenteeism、プレゼンティーイズム)」、全体的な仕事の障害の割合、活動障害の割合を評価する。 - [Limitation]
- 本研究の1つの限界は、研究期間中に皮膚科を受診した患者のみを対象としたことである。その結果、患者サンプルは受診していない乾癬患者を代表するものではない可能性がある。特に、皮膚科をほとんどあるいは一度も受診していないごく軽度の乾癬患者は十分に代表されない。また、疾患の重症度は医師の主観的評価であることに注意すべきである。しかし、これは乾癬患者を治療する際に医師が日常臨床の一環として行っている重症度評価を反映したものである。
NJ Korman, et al. Clin Exp Dermatol. 2016; 41(5): 514-521. より作表
年齢別、乾癬の重症度と爪病変の割合
乾癬の重症度を年齢別に集計した結果では、「中等症」である患者の割合は、若年患者(65歳未満)で35.4%、65歳以上の患者で32.4%、「重症」である患者の割合は、若年患者(65歳未満)で22.6%、65歳以上の患者で19.5%であった2)。爪病変がある患者の割合を年齢別に集計した結果、35‒64歳では65歳以上の患者と比較して爪病変の割合に有意差が認められた(表3)。皮疹の重症度が高い患者、爪などの見える部位に皮疹がある患者では、QOLや労働生産性にも配慮した治療を検討することが重要である。
| 爪に病変がある患者の割合(%) | |
|---|---|
| 18-34歳 | 43.6 |
| 35-64歳 | 55.5* |
| 65歳以上 | 44.5 |
*P≤0.001(vs.18-34歳、65歳以上)、P値は名目上のP値
P値の算出はt検定、Kruskal-Wallis検定、χ2検定を用いた。
- [目的]
- 年齢層による乾癬の特徴の違いを調査し、乾癬医療への影響を明らかにする。
- [対象]
- 全身療法(10年以上)を受けている中等症から重症の乾癬または関節症性乾癬患者 3,615例
- [方法]
- ドイツの乾癬患者登録簿(PsoBest)から、患者の年齢、皮疹の状態等を収集し、比較した。
- [Limitation]
- この研究には、国や地域内での全身療法による乾癬治療へのアクセスの違いにより、患者集団に選択バイアスが生じる可能性があるという制限がある。もう一つの制限は、PsoBest登録データベースの選考基準に基づき、中等度から重度の乾癬を患っている患者グループに事前選考が行われている点である。一方で、PsoBestは現在、ドイツにおける最大の皮膚科レジストリとして5,000人以上の患者のデータを含んでいる。全国の多数の皮膚科医と協力しているため、地理的および医療の多様性をある程度保証している。
A Trettel, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017; 31(5): 870-875. より作表
乾癬患者における皮疹や症状がQOL・労働生産性に及ぼす影響
乾癬患者では、見える部位(頭皮、顔、手の甲、掌、指、爪)に皮疹がある患者は、見えない部位(胸、腕、肘、性器、足、膝、かかと、つま先)のみに皮疹がある患者に比べ、DLQI、SF-12、EQ-5Dによる評価でQOL障害度に有意差が認められた(図1)。
また、かゆみや痛み、落屑といった症状がある患者では、これらの症状がない患者に比べ、QOLの障害のみならず、労働生産性にも有意差が認められた(図2、図3)。
皮疹の重症度や見える部位の皮疹、かゆみなどの症状がある場合は、QOLや日常生活、社会生活への悩みを確認し、それらの早期改善に繋がるような治療アプローチを検討することが重要である。
a:見える部位(頭皮、顔、手の甲、掌、指、爪)と見えない部位(胸、腕、肘、性器、足、膝、かかと、つま先)に皮疹がある患者 vs. 見えない部位のみに皮疹がある患者
- [目的]
- 皮膚科医と乾癬患者を対象とした多国間調査を用いて、全身性乾癬患者の合併症、痒み、罹患部位の負担増を調査する。
- [対象]
- 2015年9月~2016年1月にGrowth from Knowledge(GfK)Disease Atlas Global Real-World Evidenceの多国籍データに登録されている皮膚科医 524名と乾癬患者 3,821例
- [方法]
- 皮膚科医から患者の症状等について、乾癬患者からQOLについてSF-12、DLQI、EQ-5Dを用いてデータを収集した。見える部位および見えない部位に皮疹がある患者と見えない部位のみに皮疹がある患者を比較した。
CEM Griffiths, et al. Br J Dermatol. 2018; 179(1): 173-181.より作図
P値の算出はKruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ2検定を用いた。
- [目的]
- 乾癬の症状(かゆみ、痛み、落屑)がHR-QOLと労働生産性に及ぼす影響を調査する。
- [対象]
- Adelphi Real WorldのPsoriasis Disease Specific Programmes®(DSPs)に登録されている患者で、過去に「BSAが10%を超える」、「中等症から重症」、「全身療法を受けたことがある」のうち少なくとも1つを満たす乾癬患者 700例
- [方法]
- 皮膚科医から患者の症状等について、乾癬患者からQOLについてはDLQI等、労働生産性についてはWPAI等の質問票を用いてデータを収集した。かゆみ、痛み、落屑の重症度別にDLQI、WPAIスコアを比較した。
- [Limitation]
- 現在乾癬に問題を感じている患者ほど受診する可能性が高いため、これらの患者は我々のサンプルに過剰に含まれている可能性がある。
NJ Korman, et al. Dermatol Online J. 2015 Oct 16; 21(10): 13030/qt1x16v3dg. より改変
乾癬治療に患者が求めること
治療を受けている乾癬患者を対象に、治療に対して重要視する項目を調査した結果で、「かなり/非常に重要視している」と回答した患者の割合は、「皮疹を早く良くしたい」が94.0%(PNQスコア 3.7±0.7)、「すべての皮疹を治したい」が94.0%(PNQスコア 3.7±0.8)であった3)。また、患者が治療に求めることを年齢別に調査した結果では、65歳未満の患者では、「通常の就労生活を送りたい」等の社会生活に対する治療ニーズが高く、65歳以上の患者では、「治療」や「睡眠」に対するニーズに有意差が認められた(図4)。個々の患者のニーズに沿った治療を提案し、患者が納得して治療に向き合えるようにすることが、より良い治療効果に繋がると考えられる。
P値は名目上のP値
P値の算出はU検定、χ2検定、ANOVAを用いた。
- [目的]
- ドイツとスイスの乾癬登録施設PsoBestとSwiss Dermatology Network of Targeted Therapies(SDNTT)において、患者の立場から、治療法の選択、年齢、性別に関するニーズと期待を分析する。
- [対象]
- ドイツのPsoBestに登録されている乾癬患者 4,894例(2007年12月~2016年12月)とスイスのSDNTTに登録されている乾癬患者 449例(2011年10月~2016年12月)の計5,343例
- [方法]
- 治療ニーズとベネフィットは、PBI(Patient Benefit Index)を用いて分析した。各質問に対して0(全く重要ではない)~4(非常に重要)の値で評価した。PNQ(Patient Needs Questionnaire)スコア:PBI(Patient Benefit Index)の前半部分で、治療前の患者ニーズに関して調査する質問票。0(全く重要ではない)から4(非常に重要)で評価する。5つのサブスケールからなる(心理的障害の軽減、社会的障害の軽減、治療による障害の軽減、身体的障害の軽減、治療への自信の構築)。
J-T Maul, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019; 33(4): 700-708. より作成
乾癬治療においては、治療に対する満足度とQOLの改善が課題となっている。
皮疹の重症度とQOLや労働生産性の低下との関連が示されており、特に見える部位(頭部や爪など)に皮疹がある患者ではQOLが障害され、かゆみ、痛み、落屑といった症状がある患者では、QOLの低下のみならず労働生産性にも有意差が認められた。
患者が治療に求めていることは年齢によって異なり、特に若年患者(65歳未満)では、就労など社会生活に関連したニーズに有意差が認められた。
これらのことから、治療方針を立てるにあたっては、皮疹の重症度・部位・症状が患者にどのような社会的・心理的負担をもたらしているか、患者が治療に対して求めていることやライフスタイルなどを勘案したうえで、患者のQOLを高めるために、最も適した治療方針を患者とともに考えていくことが重要である。
- 1)
- 鳥居秀嗣, 中川秀己. 日本皮膚科学会雑誌 2013; 123(10): 1935-1944.
- 2)
- T Ito, et al. J Dermatol. 2018; 45(3): 293-301.
- 3)
- J-T Maul, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019; 33(4): 700-708.
2026年4月作成
KKC-2026-00246-2

