再生不良性貧血と
免疫性血小板減少症の
鑑別診断クイズ
監修大阪大学医学部附属病院 病院教授 輸血・細胞療法部 部長
加藤恒 先生
免疫性血小板減少症(ITP)の診断は、実臨床において容易ではありません。実際、ITPと診断された症例のうち約7例に1例で診断の修正が必要であった、との報告もあります1)。
ITPを診断する際には、血小板減少を来し得る他疾患の除外が重要です。その鑑別疾患の一つとして、ITPと同様に血小板単独の減少を示し得る一方で、病態が血小板産生低下に起因する再生不良性貧血(AA)が挙げられます。
本稿では、診療現場で役立つ実践的な視点から、ITPとAAの鑑別ポイントを解説します。
1) Arnold DM, et al. Blood Adv. 2017;1(25):2414-2420.
症例 2
自験例
患者背景
51歳 女性
- 良性婦人科疾患のため他医婦人科を定期的に受診。
- これまで血液検査で異常の指摘はなかったが20▲▲年の血液検査で血小板が6.0万/µLと低下あり、当科を紹介受診。
- 時々軽度の鼻出血がある程度。
- 既往歴
- 特記すべきことなし
- 身体所見
- 特記すべき異常を認めない
検査値
血液所見
| WBC | 3140 | /ul |
|---|---|---|
| St | 0 | % |
| Seg | 53.0 | % |
| Ly | 42.0 | % |
| Mo | 3.0 | % |
| Eo | 1.0 | % |
| Ba | 1.0 | % |
| RBC | 426×106 | /ul |
|---|---|---|
| Hb | 14.0 | g/dl |
| Ht | 42.1 | % |
| MCV | 98.8 | fl |
| Plt | 5.8×104 /ul |
|---|
生化学検査
| AST | 22 | U/l |
|---|---|---|
| ALT | 13 | U/l |
| γGTP | 19 | U/l |
| LDH | 203 | U/l |
| T.Bil | 0.7 | mg/dl |
| BUN | 16 | mg/dl |
| Cr | 0.58 | mg/dl |
| TP | 7.4 | g/dl |
| Alb | 4.7 | g/dl |
| CRP | <0.04 | mg/dl |
| ピロリ呼気検査 | 陽性 |
|---|
凝固系検査
| PT | 90 | % |
|---|---|---|
| PT-INR | 1.04 | . |
| APTT | 29 | sec |
| Fib | 223 | mg/dl |
免疫系検査
| 抗核抗体 | 陰性 |
|---|---|
| ループスアンチ コアグラント |
陰性 |
| リウマチ因子 | 陰性 |
検尿:特記すべき異常なし
末梢血塗抹標本:3系統すべてに明らかな形態異常を認めない
こちらの症例はAA、ITPのどちらでしょうか?
解説 ①
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まずは各検査(血液・生化学・凝固系・免疫系)の数値から考える。
【血液所見】
白血球数および白血球分画に臨床的に問題となる所見は認められず、赤血球系についてもヘモグロビン値を含めて基準範囲内であり、血小板単独の減少を示している。
【生化学検査】
肝機能・腎機能に関して特記すべき所見はなく、凝固系検査でも異常は認められない。
【免疫系検査】
抗核抗体を含む免疫系検査は陰性所見を示しており、自己免疫疾患合併の可能性は除外できる。
本症例の検査値も血小板単独の減少を示すことからITPの可能性が考えられるものの、特記すべき臨床症状や身体所見等を伴わないため、当院では、鑑別の補助診断として、網状血小板比率(RP%)と血中トロンボポエチン(TPO)濃度の関係を評価している。
解説 ②
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【網状血小板比率(RP%)と血中TPO濃度】
網状血小板比率(RP%)は5.3%であり、健常者平均+2SD(13.1%)※を下回っている。一方、血中トロンボポエチン(TPO)濃度は640 pg/mLであり、健常者平均+2SD(101 pg/mL)※よりも6.3倍高い。
本症例のRP%とTPO濃度の関係は、骨髄における血小板産生低下の可能性を示すことから、少なくともITPは除外され、再生不良性貧血(AA)を強く疑う所見と判断できる。
出典:Kurata Y et al. Am J Clin Pathol 2001; 115: 656-664
本症例はAAが疑われるが、確定診断のために骨髄検査を行い、併せて類縁疾患であるPNHクローンの検出も実施している。
解説 ③
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【骨髄穿刺】
有核細胞数3.1万/µLと低形成を示し、明らかな異形成や染色体異常は認められない。
【骨髄生検】
低形成と脂肪髄の増加を認める。
【末梢血PNHクローン解析】
陽性所見を示す。
Answer.
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再生不良性貧血(AA)
再生不良性貧血の診断基準(令和7年度改訂)
以下のAとBを満たし、Cを除外した場合に再生不良性貧血と診断する。
A.血液検査所見
以下の3項目のうち、少なくとも2つを満たす。
①ヘモグロビン濃度:10.0g/dl未満 ②好中球:1,500/μl未満 ③血小板:10万/μl未満
B.骨髄検査所見
以下の1)、2)のいずれか1つ以上を認める。
1)骨髄穿刺所見(クロット標本を含む。)で、有核細胞は原則として減少するが、減少がない場合も巨核球の減少とリンパ球比率の上昇がある。造血細胞の異形成は顕著でない。
2)骨髄生検所見で造血細胞の減少がある。
C.鑑別診断
汎血球減少の原因となる以下の疾患
急性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、巨赤芽球性貧血、癌の骨髄転移、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、脾機能亢進症(肝硬変、門脈圧亢進症など)、全身性エリテマトーデス、血球貪食症候群、感染症など。
D.参考となる検査所見
1)網赤血球や未成熟血小板割合の増加がない。
2)血清鉄値の上昇と不飽和鉄結合能の低下がある。
3)胸腰椎体のMRIで造血組織の減少と脂肪組織の増加を示す所見がある。
4)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)型血球が検出される。
5)血漿トロンボポエチン高値(320 pg/ml 以上)
6)HLAクラスIアレル欠失血球の増加
【注】鑑別診断が困難な例において、骨髄不全における免疫病態の関与を示唆する4)~6)の所見を認めた場合は、再生不良性貧血を念頭におく。
引用:厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班. 再生不良性貧血診療の参照ガイド令和7年度改訂版(令和8年3月)
2026年6月作成
KKC-2026-00429-1




