再生不良性貧血と
免疫性血小板減少症の
鑑別診断クイズ
監修大阪大学医学部附属病院 病院教授 輸血・細胞療法部 部長
加藤恒 先生
免疫性血小板減少症(ITP)の診断は、実臨床において容易ではありません。実際、ITPと診断された症例のうち約7例に1例で診断の修正が必要であった、との報告もあります1)。
ITPを診断する際には、血小板減少を来し得る他疾患の除外が重要です。その鑑別疾患の一つとして、ITPと同様に血小板単独の減少を示し得る一方で、病態が血小板産生低下に起因する再生不良性貧血(AA)が挙げられます。
本稿では、診療現場で役立つ実践的な視点から、ITPとAAの鑑別ポイントを解説します。
1) Arnold DM, et al. Blood Adv. 2017;1(25):2414-2420.
症例 1
自験例
患者背景
68歳 男性
- 20xx年発症の多発性骨髄腫に対し、BD(ボルテゾミブ/デキサメタゾン)療法の後に自家末梢血幹細胞移植施行。
- レナリドミド維持療法後、現在無治療で経過観察中。
- 5年後の定期受診時の血液検査にて血小板数が0.9万/µLに低下。
- 特に体調の変化はなく、皮膚に軽度紫斑が見られるのみ。
- 既往歴
- 多発性骨髄腫
- 身体所見
- 大腿部の紫斑以外、特記すべき異常なし
検査値(多発性骨髄腫の治療後)
血液所見
| WBC | 3250 | /ul |
|---|---|---|
| St | 3 | % |
| Seg | 58.0 | % |
| Ly | 30.0 | % |
| Mo | 2.0 | % |
| Eo | 7.0 | % |
| Ba | 2.0 | % |
| RBC | 376×106 | /ul |
|---|---|---|
| Hb | 12.0 | g/dl |
| Ht | 35.5 | % |
| MCV | 94.2 | fl |
| Plt | 0.9×104 /ul |
|---|
生化学検査
| AST | 15 | U/l |
|---|---|---|
| ALT | 10 | U/l |
| γGTP | 13 | U/l |
| LDH | 283 | U/l |
| T.Bil | 1.1 | mg/dl |
| BUN | 17 | mg/dl |
| Cr | 1.29 | mg/dl |
| TP | 7.7 | g/dl |
| Alb | 4.5 | g/dl |
| CRP | 0.66 | mg/dl |
| ピロリ呼気検査 | 陽性 |
|---|
凝固系検査
| PT | 85 | % |
|---|---|---|
| PT-INR | 1.09 | . |
| APTT | 28 | sec |
| Fib | 267 | mg/dl |
| FDP | 3.1 | ug/ml |
| d-dimer | 0.59 | ug/ml |
| IgG | 2009 | mg/dl |
|---|---|---|
| IgA | 101 | mg/dl |
| IgM | 75 | mg/dl |
| FLCκ/λ | 1.20 | . |
検尿:特記すべき異常なし
全身CT:特に異常所見認めず
末梢血塗抹標本:3系統すべてに明らかな形態異常を認めない
こちらの症例はAA、ITPのどちらでしょうか?
解説 ①
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まずは各検査(血液・生化学・凝固系)の数値から考える。
【血液所見】
白血球数および白血球分画、赤血球数に異常はなく、ヘモグロビン値も貧血に該当せず、血小板単独の減少を示している。
【生化学検査】
腎機能に軽度異常を認めるが、年齢や過去の治療を考慮すると許容範囲と判断できる。
【凝固系検査】
PT、APTT、Dダイマーはいずれも正常範囲内であり、播種性血管内凝固症候群(DIC)などによる消費性血小板減少は否定される。
【免疫グロブリン】
フリーライトチェーン比(FLCκ/λ)および免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)の値は、多発性骨髄腫の再燃について否定的な所見と判断できる。
検査値からAAとITPの鑑別を考えると、血小板単独の減少はITPの可能性を示すが、当院では、鑑別の補助診断として、網状血小板比率(RP%)と血中トロンボポエチン(TPO)濃度の関係を評価している。
解説 ②
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【網状血小板比率(RP%)と血中TPO濃度】
RP%は32.7%であり、健常者平均+2SD(13.1%)※を上回る高値を示している。一方、TPO濃度は140.0pg/mLで、健常者平均+2SD(101pg/mL)※に比べ、軽度上昇にとどまっている。
本症例のRP%とTPO濃度の関係は、末梢において血小板破壊が亢進している状態を示しており、ITPを強く示唆する所見と判断できる。
出典:Kurata Y et al. Am J Clin Pathol 2001; 115: 656-664
Answer.
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免疫性血小板減少症(ITP)
ITPの診断基準
- 以下のすべての項目を満たす*1
- ① 血小板減少を認める(10万/µl未満)
- ② 貧血を認めない(出血性あるいは鉄欠乏性貧血は可とする)
- ③ 白血球数は正常である(ただし軽度の白血球増減を示すことがある)
- ④ 末梢血塗抹標本で3系統すべてに明らかな形態異常を認めない
- 血漿TPO 濃度は正常~軽度上昇にとどまる(<カットオフ値)*2
- 幼若血小板比率(RP%またはIPF%)が増加する(>ULN)
- 血小板減少をきたしうる各種疾患,二次性ITP を否定できる*3
ULN: upper limit of normal
- 診断基準1~4の要件をすべてみたす場合、"ITP"と診断する。
- 診断基準2または3のいずれかの要件のみを満たす、あるいは検査不可能な場合は、"ITP疑い"とする。
ただし、血小板膜蛋白(GP)特異的抗血小板抗体陽性もしくはGP特異的抗血小板抗体産生B細胞の増加、あるいは臨床経過から"ITP"と診断してよい。
(補足事項)
*1 骨髄検査は必須ではないが,末梢血にて次の所見を認める場合は骨髄検査にて他疾患を除外する必要がある:白血球数<3,000 または≧10,000/μl,MCV≧110,好中球<30%またはリンパ球≧50%,幼若白血球の出現
*2 カットオフ値はR&D システムズ社ELISA キット(研究用試薬)の場合,300 pg/ml,MBL 社キット(TPO-CLEIA)(体外診断用試薬として試験中)の場合,70 pg/ml とする。
*3 薬剤または放射線障害,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,発作性夜間血色素尿症,全身性エリテマトーデス,白血病,悪性リンパ腫,骨髄癌転移,播種性血管内凝固,血栓性血小板減少性紫斑病,脾機能亢進症,巨赤芽球性貧血,敗血症,結核症を含む感染症,サルコイドーシス,血管腫などがある。また血小板減少を認める先天性疾患として,Bernard-Soulier 症候群,Wiskott-Aldrich 症候群,MYH9 異常症,Kasabach-Merritt 症候群,Upshaw-Schulman 症候群などがある。
注釈:本診断基準は,現在保険収載されていない検査項目を含んでおり,日常診療においては難病認定を含めて直ちにITPの診断に用いられるものではない。
柏木浩和ほか. 厚⽣労働省難治性疾患政策研究事業 ⾎液凝固異常症等に関する研究班「ITP 診断参照ガイド」作成委員会. 成⼈免疫性⾎⼩板減少症診断参照ガイド2023 年版. 臨床⾎液. 2023; 64:1245-1257
2026年6月作成
KKC-2026-00405-1



