独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター
[外来化学療法 現場ルポ]
2023年8月23日公開/2023年8月作成
- ●院長:加藤 秀則 先生
- ●開設:1896年(札幌衛戌病院として開院)
- ●所在地:札幌市白石区菊水4条2丁目3-54
外来化学療法センターと薬剤師外来が連携して
副作用の早期発見・早期対応に注力
都道府県がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療拠点病院として北海道のがん医療の中心となっている北海道がんセンター。2021年の新病棟のグランドオープンに伴い、外来化学療法センターを拡張し、薬剤師が常駐する薬剤師外来も新設。多職種による外来化学療法がさらに充実し、副作用マネジメントの取り組みも成果を挙げている。
1. 外来化学療法センターの概要
新病棟オープンで病床数も拡大
広域から患者を受け入れる
北海道がんセンター(27科430床)は、1896年開院の札幌衛戌病院(後の札幌陸軍病院)を前身とし、1968年には北海道地方がんセンターを併設して、長年にわたり地域に密着したがん医療を提供している。現在は、年間3,000例以上の手術、約800例の放射線治療を実施し、外来患者は一日約600名にもおよぶ。呼吸器センターや高度先進内視鏡外科センター、悪性骨軟部腫瘍を専門とするサルコーマセンターなど11のセンターを設置し、診療科の枠を超えたがん医療を実践しているのが特徴だ。2019年には、がんゲノム医療拠点病院に指定され、がんゲノム医療センターも開設した。
外来化学療法センターは2003年の開設時は20床だったが、2021年に新病棟がグランドオープンした際に10床増加し、ベッド17(うち個室2)、リクライニングチェア13の計30床で新たにスタートした。
「新病棟建設の際は、外来化学療法のニーズの高まりを受けて、外来化学療法センターの面積は以前の3倍のスペースを確保してもらいました」と佐川保外来化学療法センター長が話すとおり、外来化学療法の実施件数は年々増えており、2017年度の年間約8,000件から2020年度の年間約1万件と大きく増加している。別の病院で手術や放射線治療を受けて当センターの外来に通う患者もいるため、患者の住む地域は札幌をはじめ小樽、苫小牧など広域にわたる。
スタッフは、消化器内科医で腫瘍内科医でもある佐川センター長、乳腺外科の渡邊健一副センター長の医師2名と看護師10名(常勤5名、非常勤5名)、薬剤師4名の計14名。
患者が入る時間枠は4つに分けられており、時間が長いレジメンを受ける患者は朝から、時間が短いレジメンの患者は午後からと、前日のうちに担当看護師が配置する。毎年、患者が増えているため、2021年の新装オープン後は、可能な限り1日にベッドが2回転することを目指している。混注などの薬剤の準備はミキシング担当の薬剤師が勤務時間を1時間早めて作業することで対応している。
2. 副作用マネジメント
患者への副作用の周知を徹底して
早期発見・早期対応につなげる
外来化学療法における副作用マネジメントは、薬剤師と看護師の果たす役割が大きく、がん専門薬剤師の高田慎也医薬品情報管理室主任とがん化学療法看護認定看護師の高瀬たまき外来副看護師長が中心となって取り組んでいる。
初めて化学療法を受ける患者には、『化学療法を受けるまえに』と題するオリジナルで作成したパンフレットを配布する。このパンフレットには副作用の症状、現れる時期などが細かく記載されており、薬物療法の終了まで使えるものになっている。「COVID-19以前には入院中の患者さんに外来化学療法センターに来てもらって、案内しながら手順を理解していただき、そのうえでこのパンフレットをお渡ししていたのですが、現在は病棟で配布して、外来化学療法の解説DVDを見ていただきつつ説明することが中心になりました」と高瀬副看護師長は説明する。
治療が始まると、個々の患者に体調確認表が渡される。これは特に変わりがなくても必ず毎日記入してもらい、来院時にチェックする。これが副作用の発見につながるケースも少なくない。「副作用は患者さんご本人がアラートを出してくれないと対応が遅れます。『ご自分の治療ですし、私たちにはご自宅での様子はわからないので、できるだけご自身でも記録するなどして、できるだけ多くの情報を教えてください』と患者さんにはっきり伝えています」と高田主任は言う。
副作用が出やすいタイミングにさしかかったリスクが高い患者は、看護師の目の届きやすいベッドに配置し、カーテンを開けた状態で点滴する。そして、「スタッフ全員が患者さんの情報を共有して見守っていますから安心してくださいとお伝えします」(高瀬副看護師長)。ベッドサイドに置かれる "アレルギー注意"の札の裏には副作用の症状が書かれており、患者自身が気づけるように工夫している。
色素沈着、湿疹、脱毛などに対するアピアランスケアは、外来化学療法センターに併設しているアピアランスケアセンターでウィッグの実物を見てもらいながら、初回から看護師や薬剤師が説明する。「例えば、ウィッグは最低1年半から2年間は必要になること、治療が始まると体が辛くて準備がしにくくなることも最初にしっかり伝えます。辛い話の後にさらに辛い話になりますが、入院してからでは対応が遅くなることもあるので、早目に向き合う時間を作るようにしています」(高田主任)。
医療スタッフ向けには、皮膚障害対策チームと免疫関連有害事象(immune-related Adverse Events:irAE)対策チームそれぞれが副作用マニュアルを作成して電子カルテに掲示し、副作用を確認したいとき、すぐにアクセスできるようにしている。
造影剤や抗がん剤などのアナフィラキシーは院内で年間30件ほど発生しているが、その約半分が外来化学療法センターで起こるという。そのため、年に2回ほど不定期でアナフィラキシー対策の訓練を行っている。その際には看護師が患者役となり、電話連絡で主治医を呼び、治療薬を注射する一連の手順をシミュレーションする。佐川センター長は「当院には急性期病床がなく、スタッフはどうしても急性期に対応する経験が不足します。循環器や糖尿病の専門医はいますが、アナフィラキシー、劇症型糖尿病などグレード3、グレード4の有害事象の発生を想定して普段から備えておかないといけません。そこで5年前から、比較的近いKKR札幌医療センターと札幌厚生病院と提携して緊急時には搬送できるようにしています」と説明する。
3. 薬剤師外来
患者の気持ちに配慮した処方提案で
医師からの信頼も厚い
副作用の早期発見や処方変更など、患者の治療の継続に大きな役割を果たしているのが薬剤師外来だ。外来化学療法当日、主治医の診察よりも前に、患者の服薬状況や副作用を薬剤師がカルテを見ながら確認する。高田主任によると10年以上前から徐々に活動を始めており、新しい病棟のオープンとともに薬剤師が常駐できる外来診察室2室が設けられて本格化した。「設計の際に各科の診察室に近い位置に薬剤師用の診察室を作ってほしい」という高田主任の要望が実現したもので、現在、患者が多い日には3室を使用する場合もあるという。
「以前は、外来化学療法室で医師の診察の後に患者さんと面談していましたが、それでは処方を変えるなどの対応が後手になります。また、"治療が辛い"などのマイナスの情報は医師には話しにくく、薬剤師には話せる例も多いと感じます」(高田主任)。外来では、主治医のように、できるだけ同じ薬剤師が担当するようにしており、『院内かかりつけ薬剤師』として機能している。
薬剤師外来と外来化学療法センターは薬剤師が2名ずつ担当する。「外来化学療法を受ける患者さんのうち、"副作用が強いレジメンを使っている""時期的にそろそろ副作用が出やすい"といった注意すべき患者さんを優先して薬剤師外来に来てもらいます。薬剤師外来を受診しない患者さんは外来化学療法センターの担当薬剤師と看護師がフォローします」(高田主任)。
佐川センター長は、「1人の患者さんに対して外来化学療法前に医師がチェックできる時間は限られています。自宅における消化器症状、皮膚症状などや患者さんのお気持ちまでも把握して、処方変更や休薬、支持療法を提案できるシステムになり、とても助かっています」と歓迎する。渡邊副センター長も「現在、経口薬の処方が増えており、点滴しない患者さんは外来化学療法センターに寄らないため、薬剤師外来は不可欠となっています。対症療法への提案も心強いです」と話す。
医師に渡す情報は、薬の処方に関することや体調など患者ごとに内容やポイントが異なるため、患者の名前を書く欄がある以外は白紙のA4用紙を用いている。「急いで伝えたいこと、口頭で伝える方がいいと判断した場合には、バックヤードを通って患者さんの診察前に医師に直接伝えます。かつてメモを丁寧に書いていたら、処方変更の提案が反映されないことがありました。『長すぎると読めないよ』と医師に言われ、理由がわかりました」と高田主任は笑う。
薬剤師外来では、限られた時間で聞き取り、判断し、まとめるスキルが要求される。「医師より先に患者に面談して、医師に『今日は休みましょう』とか、『減薬しましょう』と提案するのは当初は勇気がいりました。ただ、こうして事前に薬剤師から処方変更などの意図をわかりやすく伝えておくことによって、患者さんも状況を理解しやすく、医師の診察や処方がスムーズに進むように思います」と語る高田主任は、薬剤師外来が薬剤師のスキルアップにもつながることを実感している。
4. 薬薬連携
薬局薬剤師との
緊密なコミュニケーションが重要
北海道がんセンターの薬剤師と地域の薬局薬剤師との連携は密に行われている。患者のお薬手帳には薬物療法の開始・休薬や減薬の情報が記載され、薬局薬剤師はそうした情報に基づき副作用が出やすいタイミングを見計らって患者に電話をかける。そのため、副作用に一番早く気がつくのが薬局薬剤師ということも多いという。患者情報の連絡は、薬剤部への直接メールのほか、地域の薬局薬剤師との間で作られているメーリングリストを活用しており、緊急性が高い副作用の場合は医師に連絡し、患者に来院してもらうこともある。
薬剤部のホームページには各科で使われるレジメンが掲載されており、同じページから地域の薬局薬剤師が使えるトレーシングレポート用のフォーマットもダウンロードできる。「このトレーシングレポートのやりとりがきっかけで、昨冬には糖尿病の合併症である間質性肺炎に早い段階で気づいた患者さんが2名いました。特に外来化学療法センターが直接かかわることがない経口薬を服用している患者の副作用についてはこのトレーシングレポートのやりとりが重要です」(高田主任)。
また、「テーピングのしかたが合っているか」といった質問が写真とともに送られて来ることもある。「先日、薬局薬剤師の方から皮膚障害に関する問い合わせが来た際、患者さんの足の裏の写真が添付されていました。かかりつけ薬局で足の裏を見せる患者さんと薬局薬剤師の信頼関係があればこそです」と高田主任は顔をほころばせる。
5. 乳腺外科の新たな試み
BRCA1/2遺伝学的検査と
遺伝カウンセリングを積極的に推進
北海道がんセンターの特徴のひとつとして、道内で最も多くの乳がん患者を治療していることが挙げられる。乳がんの場合、手術前後や転移・再発後の薬物療法は急速に進歩しており、新しい抗体薬物複合体や免疫チェックポイント阻害剤なども多く使われる。専門的な対応が必要で、薬によっては副作用である薬剤性肺炎への対応のため呼吸器内科医の常駐が必要といった施設要件があり、それらを満たす同センターに患者が集まるのだ。他の施設で治療を受けた患者が再発後に転院して、外来化学療法センターで治療を受けるケースも多い。
また、乳腺外科では、適応のある患者にはBRCA1/2 遺伝学的検査を行い、その結果遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と診断した患者には、医師や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを行っている。HBOCの患者に適応となる薬物療法を行ったり、HBOC に推奨される手術法の選択やリスク低減乳房切除術(RRM)、リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)を提案する。また乳房MRI による検診や所見がある場合MRI ガイド下生検も実施している。MRI ガイド下生検を受けられる施設は全国でも限られる。
乳腺外科では最近、オンライン診療による遺伝カウンセリングを始めた。「遺伝カウンセリングを実施できない施設では、BRCA1/2 遺伝学的検査をためらう傾向があり、そのため必要な治療を受けられない患者が出てきます。そこで、遺伝カウンセリングを実施しづらい医療機関でもBRCA1/2 遺伝学的検査を行い、遺伝子変異があるとわかった患者さんにはスマートフォンなどでオンライン診療を受けてもらいます。現在保険適用外の、未発症の血縁者に対するBRCA1/2 遺伝学的検査やRRM、MRI検診にも対応します。さらに、HBOC を心配される方には、まず自由診療によるプレ遺伝カウンセリングも受けられます」と、渡邊副センター長は、乳腺外科における最新の取り組みを紹介する。
6. 課題と展望
北海道・東北で一番の
患者に喜ばれるセンターを目指して
「日本で一番はなかなか難しいので、北海道・東北で、質と量の両方で一番の外来化学療法センターを目指します。特に質を重視して、患者さんが選んでくださり、ここで治療を受けてよかったと言ってもらえるようなセンターにしたいですね」と佐川センター長は今後の抱負を語る。
ただ、その質と量の両面で課題があることも現実だという。 例えば、量の面での悩みは、患者が増えるとともに待ち時間が長くなることだ。北海道がんセンターにおける1日の採血数は全体で300人を超えており、外来化学療法に来た患者もそこで待たざるを得ない。また、「遠方から来られる患者さんは、外来化学療法と同日に画像検査や総合的な診察をされることが多く、どうしても予約時間からずれてしまいやすいのです」と高瀬看護師は待ち時間がさらに延びる理由を説明する。
また質の面では、「薬物療法はまだまだ進んでいくため、腫瘍内科医をはじめ、外科医でも薬物療法に詳しい医師が増えることが必要です」と渡邊副センター長が打ち明ける。
こうした、課題の解決に取り組むことで、質と量がさらに向上し、北海道・東北で一番の外来化学療法センターとして、がん医療を牽引し続けていくことだろう。
KKC-2023-00499-1
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