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東京北医療センター
[外来化学療法 現場ルポ]

2023年10月3日公開/2023年10月作成

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病院外観
  • ●管理者:宮崎 国久 先生
  • ●センター長:塩津 英美 先生
  • ●開設:2004年
  • ●所在地:東京都北区赤羽台4-17-56

多発性骨髄腫の研究機関を併設し、
治療の限界突破に挑む

2017年、東京北医療センターに新設された血液内科は多発性骨髄腫の治療を得意とし、なかでも自家造血幹細胞移植では国内有数の症例数を誇る。総合病院の中にある血液内科として各部門と緊密に協力しながら診療に取り組むとともに併設された研究機関とも連携し、治療の限界突破に挑んでいる。

1. 地域における役割 近隣の医療機関との連携を強化し、
「地域完結型医療」の拠点に

竹下 昌孝 血液内科医長

竹下 昌孝 血液内科医長

東京北医療センターは2004年に東京北社会保険病院として開院し、2014年に現在の病院名に名称変更している。北区は東京都内の中でも高齢化が進んでいる地域でもあり、患者の多くは高齢者だ。開院当初から地域の基幹病院として救急医療を充実させるとともに近隣のかかりつけ医や在宅医と緊密に連携し、「地域完結型医療」の拠点としての役割を担ってきた。その実績が評価されて、2018年には地域医療支援病院に指定されている。

一方で、同センターは小児医療や周産期医療の充実にも注力してきた。小児科外来には保育士を配置し、多数の専門外来(神経、循環器、内分泌、腎臓、アレルギー)も揃える。院内には病中病後の子どもを預かる北区唯一の病児病後児保育室を併設する。また、周産期医療では陣痛、分娩、分娩後の回復まで同室で行うLDRを採用するほか、NICUを整備してハイリスク出産にも対応している。

同センターの診療圏は北区が中心だが、隣接する埼玉県からの受診者も多い。埼玉県以北では血液内科の専門施設が少なかったこともあり、2012年頃に"北を守る拠点"として血液内科を新設する構想が持ち上がり、当時、国立国際医療研究センター病院に在籍していた三輪哲義血液内科科長や竹下昌孝血液内科医長らが中心になって開設の準備が進められていった。

「新しく建設する南館に血液内科の外来と病棟を配置することが決まり、設計段階から関わりました」と竹下医長は振り返る。同時に血液内科の診療に従事したことのない医療スタッフへの教育も開始。月1回の対面指導のほかeラーニングも活用し、診療の足場づくりに取り組んだ。こうして数年がかりで診療体制を整え、2017年4月に血液内科が開設された。

2. 血液内科の特徴① 開設から3年で多発性骨髄腫の
自家造血幹細胞移植100例を達成

血液内科では、白血病や骨髄腫、リンパ腫などの腫瘍性疾患から再生不良性貧血、血液凝固障害などの非腫瘍性疾患まで多様な血液疾患を診療の対象としているが、なかでも得意としているのが多発性骨髄腫の治療だ。

「多発性骨髄腫の治療において国内有数の施設である国立国際医療研究センター病院から4名の専門医が移籍してきました。そのため、この疾患に対する自家造血幹細胞移植に積極的に取り組んでいることが当科の大きな特徴の一つです。標準治療では65歳未満が自家移植の対象となりますが、近年は65歳を超えても全身状態が良好な患者さんが少なくないため、当科では臨床研究として75歳まで自家移植を行っています」と竹下医長は語る。2020年には自家造血幹細胞移植100例を達成し、2023年4月時点での累積実施件数は133例になる。

こうした専門性の高い診療を展開する中、地域の医療機関からの紹介だけでなく、ほかの血液専門施設では対応しきれない難治性の患者が紹介されてくることも多い。また、他施設で診断された患者が自分で医療機関の情報を調べたうえで、同センターでの治療を希望して受診することも少なくないという。「交通の便もよいので、東京都内をはじめ、埼玉県、群馬県、山梨県など関東一円から多発性骨髄腫の患者さんが集まってきています」と竹下医長。

33床を有する血液内科病棟の病床は開設から半年で埋まり、それ以降はほぼ満床状態が続く。病棟には陰陽圧制御機能を持つ5床のバイオクリーンルームや準無菌室の設備も整えていたが、無菌室が足りなくなることを見越して開設後に追加工事を行い、必要に応じて一般病床を無菌室に変更できる仕様にした。

「病棟をまるごと無菌室にしたようなものですから"無菌室が満床だから"という理由で患者さんの受け入れを断ることはありません。この病棟にベッドがあるかぎり、どのような状態の患者さんでも受け入れることができると考えています。こうした対応は、地域の医療機関の安心と信頼にもつながり、紹介されてくる新規患者数は増加し続けています」と竹下医長は話す。

3. 血液内科の特徴② 多職種によるチーム医療を基本とし、
各種カンファレンスにも力を入れる

前述したように血液内科の診療スペースは新しく建設された南館に配置されており、1階に外来、3階に病棟がある。外来と同じフロアには外来化学療法室(全科共通)、売店、カフェなどがあり、カフェでは電光掲示板で外来診察の順番を確認しながら飲食ができるなど、患者には利便性の高い親切な設計となっている。

こうした設計の狙いについて建築から関わってきた竹下医長は「多発性の骨病変を伴う患者さんは車椅子での移動を余儀なくされる場合があるため、外来の診察室と外来化学療法室はできるだけ近い場所に配置しました。また、脱水により腎機能障害が起こりやすい病態の患者さんもいるので、すぐに水分補給ができるように売店やカフェも設けました」と語る。

1階には研究室も設置されており、次世代シークエンサーをはじめ高機能マルチカラーフローサイトメトリー(MC-FCM)、PCR装置、核酸抽出のための各種実験機器、細胞培養装置、細胞凍結保存装置などが整備されている。「当センターには、骨髄液から高純度で腫瘍細胞を純化したり細胞培養で細胞株を樹立したりする技能を持つ経験豊かな専門家が揃っていますので、MC-FCMを用いて施設内で微小残存病変の評価をすることも可能です」と竹下医長。

3階にある病棟は、感染対策を徹底するために限られたスタッフしかエレベーターを停止できない仕組みにしており、他病棟との動線を完全に分離している。「2020年以来、新型コロナウイルス感染症が続いていますが、このような事態も十分に予測したうえで病棟の動線を考えたので、それが功を奏し、血液内科病棟でのアウトブレイクを防ぐことができたと思っています」と竹下医長は明かす。

診療に関してはチーム医療を基本としており、各種カンファレンスにも力を入れる。平日の朝にスタッフ全員で全症例を共有し、問題点を検討したり治療方針を確認したりするほか、週1回のペースでリハビリカンファレンス、鏡検カンファレンス、栄養カンファレンス、退院調整カンファレンス、さらに月1回、病理カンファレンスも行っている。また、移植症例に関しては、移植の前処置が開始される前に多職種で患者の状態を評価し、適応を決めたり前処置の薬剤投与量や問題点についても検討したりしている。

「血液内科の診療は複雑なので、安全に実施できるようカンファレンスで情報共有をしつつ、同時にチーム医療の質向上を目的にスタッフ教育の場としても活用しています。例えば、鏡検カンファレンスでは骨髄検査の標本をプロジェクターで投影し、血液検査室の臨床検査技師と一緒に観察しながら診断を確定していきます」と竹下医長は説明する。

他部門との緊密な連携も構築されており、診断に必要なリンパ節や組織の生検は形成外科、皮膚科、放射線科、消化器内科が迅速に対応してくれる。また、骨髄腫の場合、患者の自覚症状がなくてもCT検査やMRI検査で発見できることがあるため、より正確に診断するために放射線科の協力は欠かせないという。

さらに、治療中はリハビリスタッフのサポートが重要だと竹下医長は指摘する。無菌室にこもりがちになると体力や筋力が低下してしまうため、リハビリスタッフには化学療法が始まる前からベッド上で取り組める体操などを指導してもらっている。「リハビリスタッフに継続的に関わってもらうことが患者の回復を促し、安全に早く退院できることの秘訣の一つであると思っています」(竹下医長)。

4. 外来化学療法の特徴 外来と病棟の看護の一元化を図りつつ、
看護師の知識を深める場としても活用

現在、多発性骨髄腫の治療薬として10種類以上の新規薬剤が使われており、そのほとんどが外来で管理できるため、外来化学療法を受ける患者が増えている。そのほか悪性リンパ腫も外来で治療することが多いという。

15床ある外来化学療法室では、全診療科のがんに対応しており、1日10~30件の治療を実施している。血液がん以外では大腸がん、胃がん、膵臓がん、乳がんなどの固形がんが多いが、ここに配属されている9名の看護師たちの大半は血液内科病棟との兼任である。というのも、同センターでは外来と病棟の看護の一元化を図っているからだ。

がん化学療法看護認定看護師の資格を有する古川朋子看護師長によると、病棟と外来化学療法室を兼任するスタッフは入職して5年目以上の看護師に限定し、勤務する曜日も固定制にしているという。

古川師長は、その理由について「外来化学療法室では各診療科の医師の診察日に合わせて曜日ごとに対応するがん種をおおよそ決めています。一方、兼任スタッフは夜勤をしながら月4回外来化学療法室の業務を担当することになります。こうした状況の中、週によって担当する曜日が違うと、看護師はそれだけ対応しなければならないがん種が増え、レジメンを覚えるのも苦労します。また、患者さんとの信頼関係を構築するにも時間がかかるため、勤務する曜日を固定したほうがよいのです」と説明する。

外来と病棟の看護の一元化は、看護師不足を補いつつ継続看護の質を高められるメリットが大きいが、同時に現場の看護師たちにはそれなりの負担を強いることになる。"看護師のモチベーションをいかに向上させられるか"ということが、このシステムの運用ポイントだと古川師長は指摘する。

「普段は血液がんの患者さんを看護している病棟看護師たちが固形がんの患者さんをサポートすることに対して負担感が増したと捉えるのか、よい学習の機会になると捉えるのかでは提供する看護の質も違ってきます。後者の捉え方をしてもらえるように"看護師ファースト"で勤務シフトを組んでいくことが重要だと考えています」(古川師長)。

外来化学療法室の業務を通して固形がんに関する専門知識を身につけた看護師たちは、他病棟からも即戦力として期待されており、異動の時期になると他病棟への異動要請を受けることも少なくないという。

また、がん薬物療法の主体が入院から外来にシフトする中、外来化学療法室は看護師の知識を深めるための教育の場としても活用され始めている。「2021年から院内の病棟看護師を対象とした外来化学療法室の見学研修を実施しています。まる1日かけてがん化学療法看護認定看護師の業務を見学することによって外来化学療法の流れを理解し、患者さんの生活をサポートすることの重要性を認識してもらいます。この研修は、病棟で化学療法を導入する際のサポートの充実に役立っていると感じています」と古川師長は話す。

一方、兼任スタッフが血液内科病棟で患者を担当する際には、まもなく外来化学療法に移行する多発性骨髄腫や悪性リンパ腫の患者を優先して受け持たせている。患者にとって病棟で顔見知りになった看護師が外来化学療法室にいることは大きな安心感につながるからだ。

こうした配慮は、病棟の看護にも大きな変化をもたらしている。「一元的な継続看護を経験する中、外来化学療法室で患者さんの生活を支えることを具体的に考えるようになるので、病棟でも退院後の生活を見据えた積極的な関わりができるようになりました。退院指導の強化に生かされていると思います」と古川師長は高く評価する。


5. 研究への取り組み 「臨床検体バンク」を運営し
骨髄腫の発症の仕組み解明に取り組む

血液内科のもう一つの大きな特徴は、多発性骨髄腫の先端治療と研究に取り組む「国際骨髄腫先端治療研究センター(IMC-ART=International Myeloma Center for Advanced Reseach and Treatment)が併設されていることだ。

「この研究センターは、日本血液学会会長を務められるなど我が国の血液学を長らくリードしてきた高久史麿先生の発案で開設された研究機関です。生前、高久先生は新しい知見が次々と発表されて進歩が著しい骨髄腫病学にも注目されていました」と竹下医長は開設の背景について紹介する。

IMC-ARTでは、患者の同意を得たうえで検査のときに採取した検体を解析に使える形で保存する「臨床検体バンク」を運営している。自院および提携している医療機関から検体を集積するだけでなく、大学などの研究機関から提供の要請を受けると院内の倫理審査を通したうえで検体を提供する。その際には匿名化し、臨床経過を付記して渡しているそうだ。こうした多施設共同研究によって発表された論文は少なくない。

「骨髄腫の治療はまだまだ進歩の余地があります。発症の仕組みはほとんど解明されておらず、治療の進歩のためには一つずつ機序を明らかにしていくことが必要です。患者さんの検体や臨床経過から得られることは多く、このような発症の仕方をするなら、この病気にはこうした仕組みがあるはずだといったように、臨床の現場で起こっていることを取っ掛かりに仕組みの解明につなげていくことを考えています」と竹下医長は臨床検体バンクの目的を語る。

日本血液学会ゲノム医療委員会作業グループの一員である竹下医長は臨床研究としてがんゲノム医療にも取り組み始めている。この分野の状況について竹下医長は次のように解説する。「1つのがん細胞の遺伝子変異を突き止めれば全体を治療できる白血病とは異なり、骨髄腫の場合は骨髄、皮膚、粘膜など発症した部位から同時に検体を採取して遺伝子を解析すると、発症した部位によって遺伝子変異が違います。また、病状がよくなったり悪くなったりする状態の変化に応じて遺伝子を調べてみると、そのときどきによって遺伝子変異が異なるのです。ゲノム解析において捕らえどころが少ないのが骨髄腫の特徴で、ゲノム医療を治療に活用するにはまだ時間がかかると考えています」。

一方で、難治性の多発性骨髄腫にはVTD-PACEと呼ばれる7種類の薬剤を併用する複雑な治療法に国内でもいち早く取り組み、着実な成果を上げている。「難治性の限界を克服するには薬剤抵抗性を示す細胞の特性を探究し、分子機序を解明することが重要です。すでに大学研究機関や研究的企業との連携を開始しており、根治療法を含め、新しい治療法の開発に向けてあきらめずに取り組んでいきたい」と竹下医長は意欲的だ。

6. 展望と課題 血液がんの拠点として診断から
同種移植まで実施できる診療体制に

臨床に関しては、血液がんの拠点として造血幹細胞移植の診療を中心にさらにレベルアップを図っていくことに取り組んでいる。前述したように75歳まで拡大している多発性骨髄腫の自家移植法を確立するとともに自家移植後の地固め療法についてもエビデンスを創出したい意向だ。また、同種移植でなければ救命できない多発性骨髄腫の症例にも臨床研究として対応し始めている。「白血病ではよく行われている治療ですが、骨髄腫ではかなり挑戦的な治療になると予測しています」と竹下医長はその覚悟を語る。

そして、診断から同種移植まですべての治療を行える診療体制を目指し、骨髄バンク登録施設として手続きを進めている。同種移植では放射線治療を組み合わせることが必要になるため、現在は他施設に依頼している放射線治療も自院で行えるよう、院内に放射線治療の設備が新設される予定だ。

さらに移植の適応となる患者がベストタイミングで紹介してもらえるよう地域の医療機関との連携を強化するとともに移植後のフォロー体制などの役割分担も明確にしていきたいと竹下医長は考えている。

東京北医療センター血液内科は、臨床と研究を融合させながら、多発性骨髄腫のフロンティアとして、これからも治療技術の限界突破に挑み続ける。

※本記事の内容は2023年4月の取材内容に基づいたものです。

KKC-2023-00599-2

外来化学療法 現場ルポ

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