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北九州市立医療センター
[外来化学療法 現場ルポ]

2023年10月17日公開/2023年10月作成

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病院外観
  • ●院長:中野 徹 先生
  • ●開設:1873年
  • ●所在地:福岡県北九州市小倉北区馬借2-1-1

院内外における多職種連携で
治療だけでなく生活全体を支える

九州で初めてとなるがんセンターを併設し、自他ともに「がんに強い病院」として認知されている北九州市立医療センター。新型コロナウイルス感染症の流行時においても外来化学療法の治療件数を伸ばし、地域から頼りにされる存在だ。患者に快適かつ安心・安全ながん薬物療法を提供するために腫瘍内科医、薬剤師、看護師を中心としたチーム医療体制を構築している。

1. 地域における役割 「がんに強い病院」の信頼のもと
ゲノム医療にも積極的に取り組む

佐藤 栄一 外来化学療法センター・腫瘍内科主任部長

佐藤 栄一 
外来化学療法センター・
腫瘍内科主任部長

北九州市立医療センターは1873年に設立された小倉医学校兼病院に端を発し、2023年4月、創立150周年を迎えた。1900年、小倉町の市制施行に伴い、小倉市が郡立病院を買収し市立小倉病院として発足。その後、1963年に旧5市合併によって北九州市立小倉病院となり、1991年に現在の名称に変更された。

同センターは、1968年に九州で初めてがんセンターを併設し、以来、北九州市および周辺地域では「がんに強い病院」として自他ともに認知されてきた。2002年に、この地域でいち早く「地域がん診療連携拠点病院」に指定され、2020年には「地域がん診療連携拠点病院 高度型」に格上げとなった。また、2019年には「がんゲノム医療連携病院」にも指定され、がんゲノム中核拠点病院である九州大学病院と連携しながら最先端医療に取り組んでいる。

「がんゲノム外来でのがん遺伝子パネル検査の累積実施件数は183例(2023年3月末現在)です。最初の数例は院内の患者さんに限っていましたが、その後、近隣の医療機関で治療している患者さんの紹介を積極的に受けるようになったので、現在では初年度の2~3倍の実施件数になっています」と説明するのは佐藤栄一外来化学療法センター・腫瘍内科主任部長だ。

佐藤主任部長によると、患者にがん遺伝子パネル検査を提案する際は、保険診療の要件を満たしていることが一つの目安になるため、がん種としては大腸がんや膵臓がん、胆管がんなどが多いという。「効果的な薬剤が少ないがん種の場合は早めに提案することを心がけています。一方で、治療法が多いがんの場合も、難治性や遺伝子変異の可能性が高い若年性のタイプは、治療の選択肢を拡大する観点から積極的に提案しています」と佐藤主任部長は話す。

同センターにおいてがん遺伝子パネル検査から治療に結びつく確率は2021年度の実績で13%程度だった。「当センターで行っている臨床試験は少ないため、臨床試験に該当する薬剤が見つかった場合は、九州大学病院や九州がんセンターに紹介することが多いです。また、既存の薬剤が該当する場合は、紹介元の医療機関で治療を開始してもらいます」(佐藤主任部長)と検査後の治療においても、同センターはハブ機能の役割を果たしている。

2. 外来化学療法の特徴① コロナ禍も治療件数を伸ばし、
年間1万2,000件以上の治療を実施

2008年には外来化学療法センターを開設し、現在では年間1万2,000件以上の薬物療法を行っている。そのうち約4割は乳がんで、次いで大腸がん、膵がん、胃がん、肺がんが続く。

「当センターは新型コロナウイルス感染症診療の基幹病院に指定され、看護師をはじめ、多くの医療スタッフがコロナ専用病棟に配置される事態となりました。しかし、コロナ禍においても化学療法を必要とする患者さんを積極的に受け入れる方針は変えず、かつ病棟に負担がかからないよう外来でなるべく対応するように切り替えたので外来化学療法センターの治療件数はさらに増加し、ここ3年は毎年約1,000件ずつ増えています」と佐藤主任部長は説明する。

こうした背景の中、病床数28床の外来化学療法センターは、運用の見直しを迫られた。佐藤主任部長がその対策の一つとして取り組んだのが治療(薬剤投与)前日に血液検査を実施することだった。

「午前8時半に採血をしても、検査結果が出て各診療科の主治医による診察が終わるのは10時前です。外来化学療法センターでは9時からスタッフがスタンバイしていますが患者さんが回ってこないので治療を開始できない状況でした。そこで、センターの稼働時間を少しでも早めて一日に対応できる治療件数を増やしたいと、各診療科と患者さんに協力を求めることにしたのです」と佐藤主任部長は話す。

そして、一部の患者(近隣在住者で時間に余裕のある人など)の血液検査を前日に変更することでセンターの稼働時間を約1時間早めることに成功した。一方で、この方法は主治医の診療負担の軽減と患者の待ち時間短縮対策にも役立ったという。

「主治医は前日検査が済んでいる患者さんの診察を混み合っていない早い時間帯に振り分けることで診療が効率的になり、12時には午前中の患者さんの診療を終了することが可能になりました。また、患者さんも血液検査の結果を待つことなく、すぐに診察してもらえるようになったので、待ち時間を大幅に減らすことができました」(佐藤主任部長)。

3. 外来化学療法の特徴② 腫瘍内科医が常駐することで
薬剤師・看護師が患者指導に集中できる体制に

こうして外来化学療法センターの増床をせずにコロナ禍を乗り切ったものの、「これからも治療件数の増加傾向は続くため、チーム医療体制をさらに強化していく必要がある」と佐藤主任部長は指摘する。

外来化学療法センターでは、入院治療と同じように患者が快適かつ安心・安全に薬物療法を受けられるようチーム医療を基本とし、腫瘍内科医、薬剤師、看護師、管理栄養士が緊密に連携しながら日常診療に取り組むほか、患者の状態・状況に応じて緩和ケアチーム、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカー、地域の在宅医療チームがサポートに加わる。

「免疫チェックポイント阻害薬をはじめ新しいタイプの薬剤が増える中、これらの薬剤を使い慣れていない医師も少なくありません。従来の殺細胞性抗がん剤とは副作用が異なるため、安全性を担保するうえでも、各診療科との連携をより緊密に図っていくことが重要になります。そして、その連携では副作用の見極めを含め、薬剤師や看護師のサポートも大いに期待しています」(佐藤主任部長)。

外来化学療法センターにローテーション制で配置されている薬剤師は5~6名で、この中には認定資格(がん薬物療法認定薬剤師、外来がん治療認定薬剤師など)を有する薬剤師3名を含み、調製業務から患者指導まで担当している。「薬剤師が副作用のモニタリングを行い、主治医に支持療法を提案する診療体制の施設が多い中、当センターの場合は腫瘍内科医の佐藤先生が常駐しているので、その役割は佐藤先生が主に担い、薬剤師は患者指導に集中することができています」と薬剤師の米谷頼人薬剤課・がん化学療法担当課長は説明する。

一方、配置されている看護師は13名で、この中には2名のがん化学療法看護認定看護師も含まれる。2022年度から外来看護師には救急外来の当直業務が加わったため、8~9名で担当せざる得なくなった。マンパワー的に厳しい状況が強いられているものの、外来化学療法センターでは、診療科の診察から薬剤の投与終了までの各段階において、医師、薬剤師、看護師が異なる視点からダブルチェックを行いながら安全性を高める努力がなされている。同時に、患者が自分に行われる治療内容を理解できるようサポートすることにも注力する。

「患者さんには自宅で『治療ダイアリー』を記録することを指示しており、私たちだけでなく主治医にもできるかぎり提示するように話しています。自分の治療内容を理解すると副作用についても具体的に教えてくれるようになるので、医療側のより適切なサポートに役立ちます」と、佐藤主任部長は取り組みの一例を紹介する。

また、患者が治療ダイアリーを記録するために自分の状態を注意深く観察することによって自分なりに治療と日常生活を両立していこうとする工夫が生まれることもあるという。「同じことを何クールも繰り返す化学療法は、同じ時期に同様の副作用が出現します。患者さんにしてみれば、一度した失敗は繰り返したくないからあらかじめ準備をして臨むようになります。こうした対応ができるようになると治療にも積極的に立ち向かえるようになると感じています」と佐藤主任部長は評価する。

4. 多職種連携① 連携充実加算はじめ薬局薬剤師、
管理栄養士と連携した支援にも注力

外来化学療法センターでは、周術期治療(術前・術後化学療法)に対して連携充実加算を算定している。「治療を完遂することが患者さんに利益をもたらすため、その目標を目指して地域の保険薬局薬剤師と情報を共有しながらサポートしています」と米谷課長は説明する。

また、単独・併用を含め、経口抗がん剤を服用する患者は「薬剤師外来」でもサポートする。「化学療法を受けているすべての患者さんを対象にしたかったのですが、マンパワーの問題で限定せざるを得ませんでした。薬剤師外来では診察前にチェックシートを使って副作用のモニタリングを行い、主治医に報告するシステムを導入しています」(米谷課長)。

さらに、米谷課長が北九州地区勤務薬剤師会がん薬物領域委員長に就任したこともあり、保険薬局薬剤師とのがん薬物療法の連携も強化している。「経口抗がん剤の単独療法を行っている患者さんを対象にした副作用モニタリングシートとフォローアップシートを作成し、2023年4月から小倉薬剤師会で活用し始めました。将来的にはこれらのシートを用いて北九州医療圏全体で同一の基準のもとに副作用評価が行えることを目指しています」と米谷課長は意欲的だ。

薬々連携の仕組みとしては、事前に同意を得た患者の経口抗がん剤の治療が開始された1週間後に保険薬局薬剤師から患者に電話連絡をする。その際、副作用の状況についてテレフォンフォローアップシートを用いてヒアリングを行い、評価結果をトレーシングレポートとともに治療を提供している医療機関の薬剤部にファックスで送信する。

「当センター薬剤部の場合は、評価シートを受け取ったらスキャナーで電子カルテに取り込み、かつ紙媒体でも主治医に手渡します。また、薬剤師外来でも情報共有し、院内の指導に役立てています」(米谷課長)。

がん種を問わず、経口抗がん剤の使用量は年々増加していることから、北九州地区勤務薬剤師会がん薬物領域委員会では小倉薬剤師会と緊密に連携し、レジメン別に副作用モニタリングシートやフォローアップシートを増やしていきたいと考えている。

「免疫療法の有害事象であるirAEの評価シートも地域の保険薬局に広めている段階です。評価だけでなく、irAEの症状別に薬局薬剤師が取るべき対応や行動も定め、研修会を通じて周知しています」(米谷課長)。

一方、連携充実加算対象となる患者には管理栄養士が栄養指導も行っている。「加算が算定できる前からがん患者さんの栄養指導には積極的に取り組んできました。現在も主治医からの指示や外来化学療法センターの看護師からの相談を受け、加算対象者以外の患者さんのサポートも行っています」と管理栄養士の岡本さやかさんは話す。

岡本さんによると、食事に関する悩みとして多くの患者は吐き気などの副作用によって食べられないことを訴えてくるそうだ。そのほか体重が減ることで見た目が変わることを気にしたり、味覚障害のせいで何を食べてもおいしくないと食べる楽しみを見出せなくなったりすることも少なくないという。

「このような心配がある患者さんに対して化学療法の初回導入時に食事や食欲に影響する副作用やその経過(食欲がない時期や期間など)を説明するだけでも安心感はかなり違うように感じます。そのうえで、患者さんが気になることがあれば、いつでも気軽に相談してもらえるよう外来化学療法センターには定期的に足を運んでいます」(岡本さん)。

また、実際の栄養指導の中で心がけているのは、ほかの患者の知見や工夫をできるかぎり共有することだ。「例えば味覚障害で困っている患者さんに"ほかの人はこういうものが食べやすかったみたいですよ"と具体的な食品を挙げるとすぐに試してもらえます。療養に関しては、ほかの患者さんはどうしているのだろうと知りたくなることが多く、特に食事はそのニーズが高いと思われるので、こうした要望にもきちんと応えていきたい」と岡本さんは語る。

5. 多職種連携② リハビリや在宅チームを巻き込み、
患者の生活や看取りの準備も支援

生活を支える面からのサポートとしては「がんのリハビリ」にも力を入れる。ただ、サポートするのは診療報酬の算定対象となる入院患者が中心で、そのうち化学療法による副作用で継続的にリハビリを実施するのはがん患者全体の1割弱だという。外来化学療法の場合は単発でのサポートになり、医師の依頼を受けるのは月1~2件だ。

「手指がしびれて箸が持てない、つまずきやすくなって歩行障害があるなど日常生活に支障を来たしている患者さんへのリハビリ依頼があります。このような副作用があっても日常生活をできるだけ円滑に営めるようにサポートしていくのが我々リハビリスタッフの役割です」と理学療法士の垣添慎二リハビリテーション技術課・理学療法士長は説明する。

具体的には箸が持てない患者には介護スプーンを使うことを提案し、どのような形状のスプーンであれば食べやすいのかなどを一緒に検討していく。また、歩行時につまずきやすくなっている患者には足首の体操などを指導する。「外来化学療法の場合は診療報酬の関係もあり、継続的な運動指導が行えない課題はありますが、日常動作の注意点など可能なサポートに取り組んでいます」(垣添理学療法士長)。

一方、外来化学療法センターでは自宅での支援が必要な人には医療ソーシャルワーカーと協力しながら訪問看護師のサポートを受けられる体制を整え、実際の連携においては看護師が情報交換と情報共有を担っている。

「訪問看護師とはこまめに連絡を取り合っています。電話のほか、インフューザーポンプを装着した患者さんの終了後の処置などは文書で依頼することもあります。また、訪問看護師からも自宅での治療サポートをする際にどのような衛生材料を揃えればよいのか、患者さんがどのような状態なのか、インフォームドコンセントはどのように説明されているかなどの問い合わせがよくあります」とがん化学療法看護認定看護師の近藤佳子副看護師長は説明する。

また、治療を終了し看取りの段階に入った患者への在宅支援も行っており、この場合も医療ソーシャルワーカーの協力を得ながら在宅診療所に紹介する。「この地域は在宅医療に熱心に取り組まれている医師が多いので、すぐに快く受け入れてもらえます」(近藤副看護師長)。

6. 展望と課題 進歩するがん治療に対応できるよう
職種の専門性とチーム力の向上を目指す

「新しい作用機序の薬物が次々に開発され、がん薬物療法が急速に進展する中、医師を含め、それぞれの職種が専門性を高めていかないと治療の進歩に追いつけず取り残されてしまいます。また、患者さんが不利益を被らないために誰が担当しても同質の治療が受けられるよう全体の底上げも必要です」と佐藤主任部長は課題について指摘する。

同センターでは、佐藤主任部長が中心になって月2回定期的に「キャンサーボード」を開催し、困難事例に対する症例検討を行っている。その場には各診療科の医師だけでなく、放射線科医、病理医、薬剤師、看護師、管理栄養士、事務スタッフなど、がん医療に携わる多職種が集まるので、最新の治療法について学ぶ機会となり、全体の底上げにもつながっている。

「地域密着型の市中病院で患者層が幅広く、かつ治療だけでなく患者さんの生活を支える役割を担っていくためには、いろいろな職種の意見を取り入れながら実践していくことが欠かせません」と佐藤主任部長。その言葉どおり、外来化学療法センターが果たしている役割と機能は多岐にわたり、多職種連携が運営のカギとなっている。

「がんに強い病院」として、これからも地域に頼りにされる存在であり続けるために外来化学療法センターでは佐藤主任部長を中心に多職種がワンチームとなって進み続ける。

KKC-2023-00651-1

外来化学療法 現場ルポ

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