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大阪赤十字病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2023年12月7日公開/2023年12月作成

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病院外観
  • ●院長:坂井 義治 先生
  • ●開設:1910年5月
  • ●所在地:大阪市天王寺区筆ケ崎町5-30

多職種連携で取り組む総合的がん医療
化学療法の副作用マネジメントにも力を注ぐ

地域がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療連携病院、小児がん連携病院などに指定され、あらゆるがんに組織横断的に対応している大阪赤十字病院。2004年1月、17床で開設された外来通院治療センターは、その後、移転と増床を重ね、現在はベッド27床、チェア12床(うち個室3室)で稼働。腫瘍内科医をはじめ、がん化学療法看護認定看護師、がん専門薬剤師などが関わり、充実した環境で多くの患者を迎えている。副作用マネジメントにも力を注ぎ、手のしびれを軽減する独自の圧迫療法を開発するなど成果を上げている。

1. 病院とがん診療センターの概要 地域のがん医療における中心的存在
遺伝性腫瘍への対応も活発化

露木 茂 乳腺外科主任部長

露木 茂 乳腺外科主任部長

大阪赤十字病院は、日本赤十字社大阪支部病院として、看護婦養成所とともに1910年に開設された。1997年災害拠点病院(地域災害医療センター)、2006年地域がん診療連携拠点病院、2007年大阪府地域周産期母子医療センター、2008年救命救急センター、2009年地域医療支援病院、2018年がんゲノム医療連携病院、大阪府難病診療連携拠点病院、2019年小児がん連携病院などさまざまな指定を受けており、その機能は年々拡充されている。病床数は909床。がん医療については、"自院の活動の中核"と位置づけ、地域のがん医療においても中心的役割を担っている。

「がんの地域連携を円滑に進めるのはなかなか難しいものですが、当院の場合、たとえば私が勤務する乳腺外科では、かなり前から地域連携パスを活用したかかりつけ医との連携を進めています。近年は、京都大学医学部附属病院を基幹病院としたがんゲノム医療にも着手し、腫瘍内科の医師を中心に検査と治療に取り組んでいます。こうした最先端の医療や体制づくりも含めた当院のがん医療は、診療科の枠を超えた組織である『がん診療センター』で統括しています。多職種によるチーム医療を推進しながら、がんゲノム医療、緩和ケア、外来化学療法、セカンドオピニオン、がん相談、がん登録、医療者向け講座、患者さん向け啓発活動など、がん医療にまつわる機能を総合的に担うのが、がん診療センターの役割です」と、同院のがん医療について、乳腺外科の露木茂主任部長が紹介する。

露木主任部長は、2023年5月に発足した遺伝診療部門の部門長も兼務している。同部門には、露木主任部長とともに臨床遺伝専門医の資格を持つ小児科医、認定遺伝カウンセラーのほか、遺伝性乳がん卵巣がん症候群やリンチ症候群等に関わる産婦人科、泌尿器科、消化器内科の医師が在籍する。院内でカンファレンスを毎月実施しているほか、京大病院遺伝子診療部の医師らとのカンファレンスにも参加しながら、遺伝性疾患や遺伝性腫瘍への対応を活発化させている。

2. 外来通院治療センター 2つの通院治療室、個室、ベッド、チェアを使い分け
個別性を重視した外来治療に取り組む

外来化学療法を行う「外来通院治療センター」は、2004年1月に設置された。当初はベッド11床、リクライニングチェア6床の計17床であったが、10年後の2014年には2階から4階への移転とともに、27床に増床された。さらに2019年、それまで健診センターとして使われていた同センターに隣接するエリアを活用して12床増床。現在は、2014年に移転開設した部屋を「外来通院治療センターA(27床、うち個室3床)」、元健診センターの部屋を「外来通院治療センターB(12床)」として活用している。これら2部屋にはどちらにもベッドとリクライニングチェアがあり、見守りのしやすさ、使いやすさを考慮して並んでいる。合計39床のうち、27床がベッド、12床がリクライニングチェアである。

外来通院治療センターのスタッフは、看護師12名(うちがん化学療法看護認定看護師2名、がん薬物療法看護認定看護師1名)、薬剤師5名(うちがん専門薬剤師2名)。抗がん剤の調整は1階薬剤部のミキシングルームで行っている。はじめて外来化学療法を受ける患者、レジメンが変更になった患者などには必ず薬剤師が直接説明を行う。医師は各診療科の当番制で、緊急時および難しい静脈穿刺などの対応を行っている。

現場のスタッフとは別に、各科の医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、事務職からなる「がん診療運営委員会」も組織されており、2カ月に1回の会合で、レジメンの登録、各種問題点の洗い出しや検討などを行っている。また、複数のがんを併発している患者の治療の進め方などに関しても、同委員会主導で関係者を集めて話し合い、診療科間での連携をスムーズにしている。

外来化学療法の実施件数は、2022年度実績で年間12,518件。月平均にすると1,043件、1日あたりの治療件数は50〜80人である。比較的利用者が多いのは、腫瘍内科、外科、血液内科、消化器内科、呼吸器内科、乳腺外科となっている。

がん化学療法看護認定看護師の資格を持ち、外来通院治療センターの活動に長年かかわっている小袋和子看護係長によると、同センターの利用者数は曜日などによって変動するため、1部屋だけ使うのか、2部屋必要か、また看護師を何名配置するかなどは日々柔軟に調整しているという。

「安全面に関しては、高齢の患者さんが多いこと、抗がん剤の副作用による影響でPSが低下している方や、点滴が長時間におよぶケースもあることなどを考慮しながら、スタッフステーションの前、トイレの近くなど、使っていただくベッド、チェアを選んでいただいています。また、血管外漏出、アレルギーなどのリスクも十分考慮して、看護師による観察や付き添いを強化しつつ、患者さんへの教育にも力を入れています」と小袋看護係長は言う。

3床ある個室は主に小児患者用として活用し、患者の状態によっては、原則禁止としている家族の付き添いを受け入れるなど、個別性に合わせた対応を心がけている。「治療中に仕事をしたい」といった患者の希望にも可能な限り応えている。

外来通院治療センターの待合室は健診センターの名残もあって、広々した空間にゆったりしたソファが並ぶ。待ち時間が長めになった時などはここでくつろいでもらうことができる。

また、外来通院治療センター内には複数の診察室があり、腫瘍内科、緩和ケア科の外来診療を行っている。外来化学療法を行いながら緩和ケア医による症状緩和などを受けている患者もおり、そうした患者にとっては移動が楽で負担が少ない。また、腫瘍内科と緩和ケア科の医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーで月に2回ほどカンファレンスを行い、事例検討を行ったり、在宅移行支援について話し合ったりしている。

3. 治療の流れ 各診療科の担当医が治療方針を決定
患者の負担軽減を目指し前日採血も実施

外来通院治療センターの利用は完全予約制で、各診療科の医師が予約を入れる仕組みだ。患者は来院したら最初に採血室に行くのが基本。尿検査などほかの検査がある場合にも、外来診察前に済ませる。その後、各診療科で診察を受け、担当医が化学療法の実施を決定したら外来通院治療センターでの治療が始まる。採血などが必要ない患者については、直接、外来通院治療センターに来てもらって看護師が問診を行い、その内容を主治医に報告して治療を行うケースもある。

外来診療の際に看護師の視点で何か気づいたことがあれば、外来看護師から外来通院治療センターの看護師に申し送りがあるなど、看護師同士の連携もスムーズにできている。

来院から化学療法の開始までには約1時間かかるため、患者は予約時間の1時間前には来院する必要がある。一番早い患者は9:00に治療がスタートするため8:00に来院しなければならない。この負担を減らすべく、腫瘍内科や乳腺外科を中心に、近隣で暮らす患者の前日採血にも対応し始めている。

「外来化学療法を行っている間は看護師が受け持ち制で患者の血管確保や投与管理、セルフケア指導や精神的支援などを行います。その中で、副作用に対する症状緩和、治療や療養生活への不安、血管アクセスデバイスの変更など、気づいたことなどがあれば医師や薬剤師に相談します。また、医師の指示や患者さんの希望や必要に応じて、治療中に薬剤師による服薬指導や、MSWによる経済的・社会的問題などの相談、管理栄養士による栄養指導を行うこともできるようになっています」と小袋看護係長が治療現場の様子を話す。

4. 副作用マネジメント 手足のしびれ対策として独自の圧迫療法を開発
ICIの副作用対策は独自にマニュアル化
好中球減少症へは体表貼付型医薬品デバイスの対応フローを作成

化学療法の副作用として一般的な脱毛、吐き気、白血球の減少による各種症状などに対しては有効な薬剤が開発され、支持療法として化学療法の現場で広く行われているが、抗がん剤による手足のしびれについてはこれといった対策がなく、患者によっては治療終了後も長年、この症状に悩まされるケースがあることが知られている。大阪赤十字病院では、このうち手のしびれの予防策として、小さめの手術用手袋を使用する圧迫療法を独自に開発し、その予防効果を確認したので、手足のしびれを引き起こす抗がん剤を使用する患者に実施している。

現在は手術用手袋のように使い捨てではなく、繰り返し使える素材で手袋とストッキングを民間企業とタイアップして開発し、京都大学乳腺外科の関連病院で臨床試験を行っている。今回は手術用手袋の圧迫療法の臨床試験の時とは異なる薬剤を使っている患者が対象で、装着時間は投与前後各30分を含めて120分。研究費はクラウドファンディングで確保した。「効果が確認され、厚生労働省に認められて、たとえば"末梢神経障害管理料"のような名目で保険収載されると、手足のしびれに悩む患者さんを大幅に減らすことができると思います」と露木主任部長が展望する。臨床試験は2024年頃まで症例登録が続き、約400人の患者に参加してもらう計画だ。化学療法終了後の手足のしびれの追跡調査を2年間予定している。

このほか、免疫チェックポイント阻害薬(ICI : Immune Checkpoint Inhibitor)による副作用の予防や早期発見・対応にも取り組んでいる。ICIを使う診療科、副作用を診る診療科、看護師、薬剤師でチームをつくり、チェックシートを使って導入前・治療中のチェックをするほか、副作用への対応マニュアルを電子カルテ上にアップしたり、ICIの使用履歴のある患者のカルテに、履歴を示すアイコンを表示する仕組みをつくっている。

抗がん剤による発熱性好中球減少症(FN:Fibrile Neutropenia)の対策に関して、当院では体表貼付型G-CSF製剤を使用しており、体表貼付型デバイスの導入にあたっては、院内でワーキンググループを組織し、運用方法を綿密に話し合ってきた。海外の文献などを参考にリスクの分析を行ったうえで、どのような患者を対象とするか、トラブルが起こった場合の対応をどうするかなどを細かく決めた。「基本的にはセルフケアが可能で、トラブルが起こった時に適切な対応ができる方だけを対象とし、たとえば認知機能の低下がみられる方や不安の強い方、皮膚トラブルの多い方、直後に放射線治療を予定している方などは除外しました」と露木部長は言う。

トラブルが生じた際の対応の仕方については、「トラブル時の対応フロー」として整理し、注入開始前と注入開始後に大きくわけて、注入開始後については想定されるトラブルごとに対応法を明記した。

5. 今後の課題・展望 待ち時間の短縮、治療時間の工夫など
患者負担のさらなる軽減を目指す

現在の課題として小袋看護係長は、予約時間の偏りや、それによって生じる待ち時間の問題を挙げ、「もう少し予約の入れ方を工夫するなどして、患者さんをお待たせしないで済むようにしていけたらと思います。今後もより良い医療、看護を提供し、この病院を選んでよかったと、多くの患者さんに思っていただけるように取り組んでいきたいと思います」と語る。

露木主任部長は、「実現するのはかなり難しいことだとはわかっているのですが」と前置きしたうえで、「仕事を持つ患者さんが、少しでも仕事をする時間を確保できるように、治療の時間帯や曜日をもう少し工夫できればと思います」と言う。たとえば現在は朝から夕方まで終日かかっている外来化学療法を、午後から夜遅い時間までにずらすことができれば、患者は午前中だけでも仕事ができる、あるいは土曜日、日曜日などに変えることができれば、そもそも仕事を休まずに済む人も少なからずいるはずだと指摘する。医師の働き方改革が叫ばれる中、どうやって人材を確保し、シフトを組むのかは難題ではあるが、患者の就労支援の視点からも必要なことかもしれない。

すぐに実現するのは難しいとしても、いつか実現できれば、他院にない取り組みとして、同院の強みや魅力になることは間違いないだろう。

KKC-2023-00864-1

外来化学療法 現場ルポ

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