新潟県立がんセンター新潟病院
[外来化学療法 現場ルポ]
2023年10月12日公開/2023年10月作成
- ●院長:田中 洋史 先生
- ●開設:1950年5月
- ●所在地:新潟市中央区川岸町 2-15-3
診察前に化学療法室看護師による問診を全症例に実施
正確な情報共有のもと個々に寄り添った治療を実践
1961年、全国に先駆けて"ガンセンター"の名称を採用。以来、進歩するがん医療をキャッチアップしながら、多くのがん患者に専門医療を提供し続けている。現在までに都道府県診療連携拠点病院、がんゲノム医療連携病院などに指定され、毎年3,500名前後の新規がん患者を受け入れている。外来化学療法室の開設は2004年。15床でスタートし、2015年の移設とともに30床に増床して増え続ける患者に対応している。治療開始前に、化学療法室看護師による採血と全患者への問診を実施しているのは特徴的。また、オリジナルの各種シートなども用いて安全かつ個々に寄り添った化学療法の提供に努めている。
目次
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病院の概要
大学病院と並ぶ県のがん医療の中心的存在
化学療法では県内全体のおよそ6分の1を担う -
外来化学療法室の概要
1日平均約30種のレジメン、56〜57件の化学療法に対応
各科主治医と調整しながら円滑な運営を目指す -
治療の流れ
外来化学療法実施日前日に看護師が書類をチェック
当日は看護師による問診、医師による診察を経て治療を実施 -
オリジナルシートの活用
経過記録用紙やICI専用問診票を自作
各科主治医との情報共有を確実に行う -
薬剤師の役割
化学療法スタート時、レジメン変更時に
がん専門薬剤師が治療内容、副作用などを説明 -
今後の課題・展望
積み重ねた知識と経験を
患者のための取り組み、地域連携に活かしていく
1. 病院の概要
大学病院と並ぶ県のがん医療の中心的存在
化学療法では県内全体のおよそ6分の1を担う
1950年、県立新潟病院として20床で開院した。成人病対策を推進するため新潟県に「ガン対策推進委員会」が設けられたのが1958年。同委員会によりがん治療の総合センターをつくることが決定され、病棟の増設などを経て1961年1月、「県立新潟病院」から「県立ガンセンター新潟病院」(1987年に「県立がんセンター新潟病院」に変更)に改称され、総合病院の承認も受けて新たに発足した。1961年に"ガンセンター"を名乗ったのは、全国的にも先駆けである。
2002年に地域がん診療拠点病院に指定され、がん医療にまつわるさまざまな活動を強化。その実績が評価され、5年後の2007年、都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受けた。「新潟県のがん医療の中心の1施設であると自負しつつ、さまざまな活動に取り組んでいます」と、がん薬物療法専門医・指導医の資格を持つ内科の三浦理内科部長は言う。
「広い新潟県の中で、当センターと新潟大学医歯学総合病院との距離が約1.5kmと、徒歩圏内の近さであることも特徴的だと思います。この近さを強みに連携関係を強めています。たとえばゲノム医療に関しては、新潟大学が県の中心であり、エキスパートパネルも大学病院で行っています。当センターは化学療法の件数が非常に多く、新潟県全体の6分の1程度を担っています。新潟市を中心とした下越エリアのがん医療は、このように当センターと大学病院とで連携しながらカバーしています」(三浦部長)。
長岡市を中心とした中越エリア、上越市を中心とした上越エリア、佐渡エリア(佐渡市)と、県内の他のエリアにもそれぞれ連携病院があり、協力しながらがん医療に取り組んでいる。
2. 外来化学療法室の概要
1日平均約30種のレジメン、56〜57件の化学療法に対応
各科主治医と調整しながら円滑な運営を目指す
外来化学療法室は2004年10月、外来診療部門や検査部門などが並ぶ1階に15床で開設された。その後、外来化学療法を受ける患者が急速に増加したことから、2015年11月、病棟だった2階のスペースを改築し、30床(リクライニングチェア10床、電動ベッド20床)を擁する治療室となった。
病棟の改築という制約はあったものの、スタッフステーションから室内全体ができるだけ見渡せるような配置、車椅子の患者でも出入りしやすいレイアウト、トイレの使いやすさなどを考慮した造りになっている。また、個別相談や緩和ケア医による診察などに使用する問診室も併設されている。
同室に所属する看護師は11名。ほかに、必要に応じて病棟や外来の看護師がヘルプに入ることもある。
2022年度の外来化学療法の件数は約1万3,600件で、1日平均にすると56〜57件。診療科による内訳は、乳腺外科がおよそ3分の1を占める。これは、新潟県内の乳腺外科医が同センターに集中して多いことと関係している。次いで消化器外科が多く、呼吸器内科、消化器内科と続く。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場したのを機に、頭頸部外科、皮膚科、泌尿器科などの患者も増えているのが近年の傾向だ。
「小児科以外のがん患者さんはすべて外来での化学療法が可能ですので、本当に多様な患者さんが通院されています。それに伴ってレジメンの数も増えています。外来化学療法室で扱うレジメンの数は1日30種前後で、おそらく新潟県内で一番多いと思います」と状況を語るのは、磯貝佐知子副看護師長だ。
磯貝副看護師長は2002年から同センター化学療法病棟に勤務し、2010年にがん化学療法看護認定看護師の資格を取得して以降は、12年間にわたり外来化学療法室に勤務。まさに、同センターの化学療法の歴史を知るエキスパートである。
レジメン審査委員会の委員長も務める三浦部長は、新しいレジメンの扱いに関して、「各科から申請のあったレジメンについては、エビデンスに基づいたものであれば承認する方針です。また、神経内分泌がんのレジメンのように臓器横断的なレジメンについては関係各科と共有して検討し、できるだけ承認し、担当医が使えるようにしています」と話す。
三浦部長は化学療法運営委員会委員長、外来化学療法室室長も兼務している。呼吸器内科医、腫瘍内科医として診療や検査を行いながら、他科との連携、多職種との連携などで調整が必要な場合や、同室の運営に関して課題が生じたときなどには責任をもって迅速に対応する。また、化学療法の効果が期待通り得られないことなどを各科主治医から相談されたり、ICIの運用について質問がある場合などに、薬剤師と連携しながら対応するのも三浦部長の役割だ。
「外来化学療法の件数が増えたことで、たとえば主治医が希望する曜日に患者さんを受け入れられないことなどもしばしばあります。そういうときには関係者に集まっていただいて、外来診療日の変更や入院による化学療法の検討などを行っています。外来化学療法室は各科共通の施設ですので、上手に調整し、より良い運用ができるように努めています」と三浦部長は言う。
3. 治療の流れ
外来化学療法実施日前日に看護師が書類をチェック
当日は看護師による問診、医師による診察を経て治療を実施
外来化学療法室を利用する患者には、入院から移行する患者と、最初から外来で化学療法を開始する患者とがいる。前者に対しては入院中に病棟看護師が、後者については、外来診察で主治医が患者への説明を行った後、外来看護師が外来化学療法のオリエンテーションを実施している。
実際に外来化学療法を開始した患者は、予約日には最初に外来化学療法室を訪れる。同室の看護師はまず、前日に予約患者全員の検査オーダーや化学療法注射箋の確認、体重の変化、入院をはじめとした前回以降のイベントの有無などのチェックを行い、不備や疑問点が見つかった場合は関係者に確認・調整する。
外来化学療法実施日に外来化学療法室専用の採血室で採血を行い、同室看護師がすべての患者の問診を行うのは、新潟県立がんセンター新潟病院外来化学療法室の大きな特徴だ。「当センターの外来は8:30スタートで、その時間から中央採血室で採血を行うとどうしても結果が出るまでに時間がかかってしまいます。その点、外来化学療法室では8:15に採血を開始し、一足早く検査に出しますので結果が出るのが早く、その結果を待つ間に看護師による問診ができ、その後の医師による診察もスムーズに進むのです」と磯貝副看護師長が利点を語る。
血液検査の結果が出た後、主治医の診察により化学療法可能となったら、患者は外来化学療法室に戻って治療を受ける。化学療法前に検査や他科受診がある場合は、主治医の診察の前にこれらを済ませることになっている。
4. オリジナルシートの活用
経過記録用紙やICI専用問診票を自作
各科主治医との情報共有を確実に行う
看護師による問診について磯貝副看護師長は次のように説明する。
「まずはバイタルサインをとり、次にCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events:有害事象共通用語規準)のグレード評価を行います。ほかに、ご自宅にいるときに困ったことなどを聞き取って当センターオリジナルの経過記録用紙に記録。さらにICIについてはやはり当センターで作成した専用の問診票を使って副作用状況などをチェックします。ここで必要性を感じれば、口腔外科医による診察、管理栄養士や薬剤師による指導について主治医に相談し、主治医を介して依頼することもあります。オリジナルのシートを作って活用しているのは、看護師がいつ入れ替わっても、誰が問診を行っても、均一の結果が得られるようにするためです」
化学療法注射箋や経過記録用紙、ICI専用問診票など各種書類はファイルに入れて患者に持ち歩いてもらうが、その際に、化学療法開始前にはピンクのファイル、化学療法終了後には緑のファイルを使用し、その患者が化学療法の前か後かを医療者が一目で見分けられるように工夫している。
経過記録用紙による主治医との情報共有について磯貝副看護師長は、「電子カルテよりも紙ベースのほうが医師も見やすいと好評です。そこで現場では紙を使い、事後に電子カルテに取り込んでいます」と説明。経過記録用紙には医師によるチェック欄もあり、主治医が記入する仕組みなので、この用紙を主治医が見逃すことはまずないという。また、主治医が記入した内容は外来化学療法を担当する看護師が、症状とデータを対比しながら確認するので、より詳細で正確な情報共有ができる。磯貝副看護師長によれば、こうした書類のやりとりは、看護師にとっては知識の蓄積にもつながっている。
三浦部長は、「全症例に問診を行うことによる看護師の負担は相当のものですが、それだけのメリットは十分あります。私たち医師は診察の前に必ず看護師による問診結果に目を通しますので、患者さんの状況、特に医師が気づかないような点まで把握することができます。それによって副作用に気づいたり、対応すべきポイントを見逃さずに済んだりするのです。限られた時間内に、より有意義な診療を行い、患者さんの満足度を高めるという意味で、看護師による現在の活動は必要不可欠と思っています」と高く評価している。
5. 薬剤師の役割
化学療法スタート時、レジメン変更時に
がん専門薬剤師が治療内容、副作用などを説明
外来化学療法を安全に行うためには薬剤師の関与も重要だ。ミキシングは薬剤部の薬剤師5名が担当。外来化学療法室での服薬指導などには、がん専門薬剤師の資格を持つ3名(1名はがん指導薬剤師)が主にかかわっている。その1人で、がん専門薬剤師歴7年、DIも担当する田川千明薬剤師が、活動内容を次のように紹介する。
「外来化学療法を初めて行う患者さん、あるいは、治療の途中でレジメンが変更になるなど治療方針が変わった患者さんに対し、治療内容や起こり得る副作用の内容や時期、食事内容なども含めた対処法などを説明しています。説明は、化学療法を実施することが決まった段階で外来化学療法室のベッドサイドで行うことが多いのですが、患者さんによっては医師の診察の前に外来化学療法室の問診室で、また、医師の診察の直後に薬剤部の患者指導室で行うことも稀にあります」
薬剤部の患者指導室で服薬指導を行うケースは、患者の希望の場合もあるが、家族が心配し、よりくわしい説明を求める場合も少なくないという。「これまでには、治療開始時にはかなり不安そうだった患者さんやご家族が、私たち薬剤師の説明に納得し、ご自分で治療を受けることを選択されてからは別人のように治療に積極的になられたケースもあります。そういうケースに出会うと、薬剤師としてお役に立てたことを実感します」と田川薬剤師が手応えを語る。
服薬指導には、医薬品メーカーから提供された医薬品の説明パンフレットや、「がん化学療法服薬指導シート」(池末裕明・九州大学病院薬剤部薬剤主任作成)を主に活用し、説明後に患者に手渡している。
副作用を和らげる支持薬に関しても注意を払っている。たとえば抗がん剤投与に伴う発熱性好中球減少症(Febrile Neutropenia:FN)に関しては、「FNを抑えるために抗がん剤を減らすのも1つの手ですが、治療前にがんを小さくするなど明確な目標がある場合には、抗がん剤を減らすよりも副作用を抑えることが重要であり、好中球を増やす薬は有効です。ただし、こうした副作用を抑える薬の副作用もまたありますので、使用前には患者さんにきちんと説明しています」と田川薬剤師。外来化学療法のために佐渡島から船で通院している患者がいるなど遠方の患者が多い同センターでは、体表貼付型G-CSF製剤の活用も開始。同薬を導入する患者には、薬剤師が詳細な説明を行っている。
6. 今後の課題・展望
積み重ねた知識と経験を
患者のための取り組み、地域連携に活かしていく
三浦部長は現在の外来化学療法室について、「開設時から少しずつ取り組みを積み重ね、皆の協力で何とかつくってきたもの」と表現し、「これからは、これまで蓄積してきた知識・経験を活かして、複雑化・高度化しているがんの化学療法に、各科の医師が安心して取り組めるような体制をより強化していかなければと思っています」と語る。
特に注力しているのは、ICIやADC(Antibody-drug conjugate:抗体薬物複合体)といった新しいタイプのがん治療薬の安全な投与である。また、支持療法が安全かつ効果的に行われるように院内での標準化を図っていきたいという。
知識・経験を活かすという意味で磯貝副看護師長は、看護部での人材育成を課題として挙げ、「まずは外来化学療法室の看護師全員が一定レベル以上の知識と技術を持てるようにしなければ」と話す。そのため、自らは2023年4月に病棟に異動になったものの、月に1度は外来化学療法室で後輩の指導にあたる日を設けている。また、困ったことがあったときなどは随時、相談に乗っている。さらに、人材育成の目は外来看護師にも向けられており、「外来化学療法を受けておられる患者さんに何かあって病院に連絡があったとき、ほとんどの場合、ファーストタッチは外来看護師が行いますので、外来看護師にも化学療法の知識を持ってもらう必要があるのです。そのための取り組みをいま、模索しています」と語る。
さらに、三浦部長、磯貝副看護師長が「大きな課題」と声を揃えるのは、地域連携の強化である。「ほんの一例ですが、たとえば化学療法を受けている患者さんが下痢をしたときに、下痢止めの処方だけで済まされてしまい、副作用が深刻化してから救急搬送されるようなケースが地域にはまだあります。こうした事例をなくすためにも、化学療法に関する医療関係者、市民、双方への啓発、地域の薬局との連携は必須と考えています」と語る三浦部長の言葉に力が込もる。
働き方改革なども叫ばれる中、地域や患者のための取り組みを強化し、選ばれる病院であり続けるために何ができるのか。日本屈指の歴史を誇るがんセンターは、いまも模索と挑戦を続けている。
KKC-2023-00781-1
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