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公立陶生病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2023年12月5日公開/2023年12月作成

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病院外観
  • ●院長:味岡 正純 先生
  • ●開設:1936年
  • ●所在地:愛知県瀬戸市西追分町160

導入とオリエンテーションを入院で実施
チーム医療、部門間連携でがん患者と家族をサポート

1936年の開院以来90年近い歴史を刻んでいる。2020年2月にはリニューアル工事を完了し、"新生陶生病院"としてのスタートを切った。化学療法センターは、臓器横断的組織として設置されている「がん診療部」に属する4つのセンターのうちの1つで、原則として化学療法の導入とオリエンテーションを入院で行ったうえで外来化学療法に移行すること、センター内に抗がん剤のミキシングルームがあることなどが特徴だ。医師・看護師・薬剤師によるチーム医療や、病棟と外来といった部門間連携を強化しながら安全ながん治療を実践し、患者・家族をサポートしている。

1. 病院の概要 3市による組合を母体とする総合病院
地域医療を展開しつつ専門的ながん医療を提供

梶口 智弘 血液・腫瘍内科 主任部長/化学療法センター主幹兼がんゲノムセンター主幹

梶口 智弘 血液・腫瘍内科 主任部長/化学療法センター主幹兼がんゲノムセンター主幹

名古屋市の北東約20km、岐阜県との県境に1936年に開院した公立陶生病院は、瀬戸市、尾張旭市、長久手市の3市が構成する「公立陶生病院組合」を母体としている。633床の病床と30科の診療科を擁する総合病院で、約200名の医師、750名以上の看護師など総計1,300名を超す職員が、広域から訪れる多くの患者に対応している。

また、毎年16名の研修医、数十名の看護実習を受け入れるなど、医療職の養成機関としての顔も持つ。同院で育った医師や看護師の多くは、愛知県をはじめとした東海地域の病院で活躍している。一方で、同院の職員が近隣の市町村に出向いて講演を行うなど、行政や医師会とタイアップした予防医学的活動、患者教育にも力を注いでいる。

長い歴史の中で病棟の新築、改築などを繰り返しており、2020年2月に完了したリニューアル工事では、広々とした平面駐車場や敷地内薬局がオープンし、患者の利便性は格段に高まっている。

がん医療に関しては、2007年に地域がん診療連携拠点病院に、近年はがんゲノム医療連携病院にも指定され、尾張東部医療圏(上記3市と豊明市、日進市、東郷町)を中心とした地域における中心的存在の1つとなっている。

同医療圏は、藤田医科大学病院(豊明市)、愛知医科大学病院(長久手市)と、公立陶生病院に続いて2つの地域がん診療連携拠点病院が誕生した特殊な地域だ。「そんな中、在宅医療に取り組む開業医との連携による在宅輸血、在宅看取りといった、地域に密着したかたちの診療で強みを発揮しながら、専門的ながん医療に取り組んでいるというのが当院の特徴です」と、化学療法センター主幹兼がんゲノムセンター主幹を務める、血液・腫瘍内科の梶口智弘主任部長は言う。

2. 「がん診療部」の概要と特徴 「がん相談支援」「化学療法」「緩和ケア」「がんゲノム」の
4つのセンターが連携しながら総合的にがん医療を提供

同院のがん医療は、救急部、薬剤部、健康管理部など院内に15ほど設けられた部門の1つである「がん診療部」で統括している。がん診療部はさらに、「がん相談支援センター」「化学療法センター」「緩和ケアセンター」「がんゲノムセンター」の4つに分かれている。

「それぞれのセンターが連携をとりながら、適切ながん医療を提供し、療養に伴うさまざまな問題への対応、患者さんの支援、緩和ケアの提供などを行っています」と、がん診療部の全体像を梶口主任部長が紹介する。それぞれのセンターの業務内容は次のようなものである。

「がん相談支援センター」は、がん全般に関する一般的な情報提供、地域の医療機関に関する情報提供、セカンドオピニオンの調整、地域連携パスの運営、療養上の相談対応、患者サロン「結い」の開設、相談支援に携わる人材への教育などを主に行っている。相談員は5名。年間の相談件数は2,800〜3,000件で推移している。また、院内でのがん治療が一段落した患者を他院に紹介する場合などは、地域連携室に代わり、がん相談支援センターが介入することになっている。終末期の患者が在宅に移行する場合なども、その仲介を行うが、患者が瀬戸市・尾張旭市の住民である場合には、同2市内の医療・介護・福祉を統合する電子連絡帳システムである「瀬戸旭も--やっこネットワーク」なども活用している。

「緩和ケアセンター」では主に、積極的な苦痛の把握、苦痛への早期の対応、自宅や施設で療養する患者のサポート、地域の緩和ケアの向上などを行っている。担当医や緩和ケア内科医とともに看護師や薬剤師が薬や生活について相談に乗る仕組みもある。

「がんゲノムセンター」の主な役割は、遺伝カウンセリング、がんゲノムコンサルテーション、遺伝子検査などである。この地域のがんゲノム医療中核拠点病院は名古屋大学医学部附属病院であり、同院は連携病院の立場でがんゲノム医療に取り組んでいる。

3. 化学療法センターの概要 2つの診察室と抗がん剤のミキシングルームを併設
がん薬物療法専門医が統括し適切に運営

同院に「外来化学療法室」が開設されたのは2007年で、8床でのスタートだった。現在の「化学療法センター」は、東棟、西棟、北棟と3棟からなる同院の中で北棟2階に位置する。病床も、リクライニングチェア10床、ベッド14床の計24床に増床され、がん化学療法を中心に、リウマチやクローン病、潰瘍性大腸炎などの生物学的製剤治療も行っている。

プライバシー保護のため、病床間はカーテンで仕切られ、チェアにもベッドにもテレビとテーブルがついているので、患者は治療の間に食事や仕事も含めて自由に過ごすことができる。また、室内に多目的トイレを完備。診察室が2室併設されているのも特徴で、治療中に患者が体調不良を訴えたときなど、この診察室で速やかに医師の診察を実施することができる。

同センターで行う化学療法の件数は2020年度実績で4,186件、2021年度実績で4,331件、2022年度実績で4,450件。「この3年間はちょうど新型コロナウイルス感染症の蔓延期と重なりましたが、大きな影響は受けず、これまで通り、年々少しずつ治療件数が増えています。がん種別に見ると、大腸がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、乳がんの順に多くなっています」と、梶口主任部長。治療時間は平日の8:30~17:15で、予約制で運営している。

化学療法センターのスタッフは、医師が梶口主任部長と主幹を務める医師の2名で、2名とも日本がん治療認定医機構がん治療認定医である。特に梶口主任部長は日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医の資格を持っており、血液・腫瘍内科医としての日頃の診療に加えて、他科の医師や化学療法センタースタッフからの相談に随時応えるなど、化学療法を全面的にサポートしている。また、指導医としてこれまでに、がん薬物療法専門医を2名輩出した実績もある。看護師は8名で全員が専従、うち1名はがん化学療法看護認定看護師である。薬剤師は専従1名、兼務4名の計5名が同センターでの対人業務を行っており、うち1名が日本医療薬学会がん専門薬剤師の資格を持っている。ほかにミキシング担当者が1名いる。

ミキシングルームは化学療法センター内にあり、外来化学療法だけでなく、病院全体で使用する抗がん剤の調整業務がここに集約されている。「薬剤の調整の場所と化学療法実施の場所が同じなので効率的ですし、調整の担当者が決まっているので作業がスムーズで、トラブル時の対応も迅速に行うことができます」と、梶口主任部長が利点を語る。

4. 治療の流れ 採血、診察、ミキシングをシステマティックに実施
診察前の看護師による問診を3科で導入

外来化学療法当日の流れは、初診、通院中および患者がかかっている診療科によって少しずつ違いがある。

まず、はじめて化学療法を受ける患者に対しては、導入(レジメン1コース目の初回)はすべて入院で行う。このとき、化学療法センターの紹介、治療スケジュールや治療内容の説明、副作用対策、緊急時の対応などについて、看護師・薬剤師がオリエンテーションを行う。こうして入院により十分な準備を整えたうえでスムーズに外来化学療法に移行する。

外来化学療法に移行してからの一般的な流れは次の通りである。まず、患者は主治医の診察予約時間までに中央採血室で採血を済ませ、採血結果が出てから診察を受ける。この診察により主治医が治療実施を決定した場合は、患者は化学療法センターに移動し受付。看護師は患者をベッドやチェアに案内する。一方、主治医が治療開始を決定したことを電子カルテに入力すると、そのことがミキシング担当薬剤師のPHSに伝わる。これを受けて薬剤師が抗がん剤の準備を行い、薬剤の準備ができたら治療を開始する。当日、主治医が治療内容を変更した場合はアラートで注意を促す仕組みもある。また、医師が必要と判断した患者には、点滴中に管理栄養士による栄養指導を行うこともある。治療終了後、看護師が患者の体調などを確認し、問題がなければ点滴の針を抜き、止血確認をする。その後、患者が会計窓口で支払いを済ませて終了となる。

こうした流れと少し違うのが、外科、消化器科、泌尿器科の患者だ。これら3科の場合も患者は主治医の診察予約時間前に採血を済ませるが、その採血を化学療法センターのがん化学療法看護認定看護師などが外来に出向いて行い、同時に問診も行う。そして採血結果を看護師が確認してから医師の診察につなぐことになっている。その後の流れは前述した内容と同様だ。この仕組みについて梶口主任部長は、「外来化学療法をよりスムーズに行うために、診療補助の目的で、看護師による問診を一部の診療科で導入したかたちです」と説明する。

登録されているレジメンの数は842(2023年9月現在)。新しいレジメンは医師、看護師、薬剤師、事務職で構成される「がん化学療法委員会」で原則として月1回審査され、承認されれば登録される。同委員会の会合は、コロナ禍ではメールによる会議も活用したが、現在は対面で実施されている。

化学療法センター内の会議(通称:室会議)も多職種で週に1回実施し、その総括的な会議を月に1回実施している。「ここでは化学療法に関するさまざまな問題点の洗い出し、評価、改善策の話し合いなどをしています」と梶口主任部長。こうした会議を主導し、各種指示を出したり、アドバイスを行ったり、方針決定をしたりするのも、がん薬物療法専門医としての役割という。

同じく多職種による会合としては、キャンサーボードの活動も活発で、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士、リハビリセラピスト、事務職などがん医療にかかわるすべての職種が参加している。座長を務める梶口主任部長によれば、少なくとも隔週で集合し、重複がんや原発不明がんの治療方針の最終決定などを行っている。
「たとえば院内での治療が難しく、がんセンターなどに患者さんを紹介する場合、主治医だけの判断ではなく、キャンサーボードで病院としての方針を決定し、患者さんに責任を持って説明します」

こうした具体的な症例に関する話し合いのほかに、月1回の勉強会の開催など、スキルアップに関する取り組みもキャンサーボード主催で行っている。この勉強会には、がん患者の在宅医療に取り組む開業医など外部の医師も参加している。

5. 薬剤師の役割 化学療法全般の管理や患者指導で活躍
地域の薬局との薬薬連携にも力を入れる

化学療法における薬剤師の役割は、がん化学療法に関するインフォームドコンセントの取得、有害事象回避や治療継続のための処方提案、レジメンと処方の最終チェックなどである。

同院に6つあるがん診療に関連する病棟それぞれに2名ずつ薬剤師が配置され、合計12名が化学療法の導入も含めて病棟業務を行っている。初回(入院)の化学療法では、投与スケジュールの薬学的評価と確認、必要検査項目の確認と提案、患者面談による投与スケジュール、薬効、副作用と対策に関する説明などを行う。

外来化学療法を継続している患者に対しては、副作用の発生の状況についての個別の評価、症状軽減薬の追加や投与量の増減に関する医師への提案なども行っている。服薬指導はベッドサイドで適宜実施している。

「薬剤師外来」は化学療法センターに関わる薬剤師と病棟薬剤師が分担し、薬剤部の投薬窓口に隣接して設置されている個室で実施されている。内容は、血液・腫瘍内科の患者が使用する多発性骨髄腫治療薬などの定期的な管理、外科・泌尿器科の患者への内服抗がん剤の定期的な指導がメイン。ほかに医師から指導依頼があった場合は随時実施される。

薬剤師による指導実績は、外来化学療法中の患者への指導件数が2023年5月実績で月に79件、血液・腫瘍内科の患者を対象とした薬剤師外来が同21件、外科・泌尿器科の患者への内服抗がん剤の指導が同17件となっている。

化学療法センターの薬剤師は薬薬連携にも取り組んでおり、治療計画など治療の進捗に関する文書、副作用発現状況等の記載文書など資料の配布、施設間情報連絡書による薬局からの情報収集、地域の薬局を対象とした勉強会などを継続している。

6. 今後の課題・展望 個別化するニーズに対応すべく
質的なマンパワーアップを目指す

梶口主任部長はがん医療の現状について、「患者さんの年齢や考え方、介護家族の有無などにより、治療法や療養の場の選択の仕方は変わってきます。治療法自体も多様化しており、いろいろな意味で個別化が進んでいます。つまり、我々医療者には、ガイドラインで推奨されている治療を行うだけでなく、患者さん個々に合わせて対応することが強く求められているのです」と言う。

個別化医療を推進するためにはマンパワーが必要になるが、梶口主任部長は、「同じマンパワーでも、数より質が大事です。がん診療に関する専門的知識を身につけた多職種の人材がチームを組み、臓器横断的に患者さんを診ながら、個別のニーズに応えていくような高い機能を持っていかなければいけません」と指摘する。

そのためにも人材育成は急務で、臨床の場でのOJTはもちろん、がん化学療法委員会、キャンサーボードといったカンファレンスの場を教育の場としても活用し、公立陶生病院のがん診療全体のレベルアップを図っていきたいという。

KKC-2023-00884-1

外来化学療法 現場ルポ

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