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公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構
倉敷中央病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2023年12月20日公開/2023年12月作成

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病院外観
  • ●院長:山形 専 先生
  • ●開設:1923年6月
  • ●所在地:岡山県倉敷市美和1-1-1

60床・1,000㎡の外来化学療法センターに多職種が常駐
患者負担の少ない化学療法を提供

規模の大きさはもちろん、医療の質、教育の質などの面でも高く評価されている倉敷中央病院。開設は1923年6月。100周年を迎えた現在、さらなる質向上を目指すとともに、少子高齢化と人口減少、厳しさを増す医療財政環境などを踏まえ、地域連携体制の強化にも注力している。2015年にはがん医療を統括し、横断的・集学的に診療に取り組むオンコロジーセンターを設置。それに先駆け2013年に、60床という全国有数の規模で開設した外来化学療法センターでは、関連する診療科、多職種が連携し、患者の負担を軽減しながら安心・安全な化学療法の提供に努めている。

1. 病院の概要 設立100周年を迎えた岡山県西部の中核病院
3,800名余りの職員を擁し患者中心の医療を展開

上田 恭典 副院長/外来化学療法
センター センター長/血液内科
主任部長

上田 恭典 副院長/外来化学療法センター センター長/血液内科 主任部長

倉敷中央病院は、「社会から得た富は社会に還元する」という考えのもと、大原農業研究所、大原美術館などを設立した倉敷紡績株式会社の社長(当時)、大原孫三郎氏によって1923年6月に創設された。当初から「真に患者のための医療」を目指し、明るく豊かな療養環境づくり、医療機器や施設・設備の充実、人材確保などに力を注いできた。現在掲げる3つの基本理念、「患者本意の医療」「全人医療」「高度先進医療」にも、シンプルな言葉の中に創業者の熱い想いが息づいている。

血液内科主任部長、外来化学療法センター センター長を兼務する上田恭典副院長が、同院を次のように紹介する。
「急性期の地域中核病院として、岡山県西部の約80万人の健康を支える完全独立採算の民間病院です。地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、総合周産期母子医療センターなどの指定を受けており、新規入院患者数は年間約2万8,000人、手術件数は年間1万1,000件弱。救命救急センターとしては年間約4万5,000人に対応し、救急搬送件数は年間約1万件。災害拠点病院でもあり、2018年の西日本豪雨に際しても多数の傷病者に対応させていただきました。2016年3月には、国際的な医療機能評価機関であるJCI(Joint Commission International)の認証を近畿・中国四国地方の病院で初めて取得し、以降、3年ごとに認証更新しています」

病床数は1,172床(一般1,157、精神5、第2種感染症10)。医師562名(うち64名はジュニアレジデント)、看護師1,353名を含めた総職員数は3,802名(2023年4月1日現在)と、全国トップクラスの規模となっている。

2. がん医療の特徴 オンコロジーセンターを核に悪性腫瘍を横断的・集学的に診療
高度先進医療にも積極的に取り組む

同院のがん医療は、2015年に設立されたオンコロジーセンターで統括している。「がんの治療は従来から、主に臓器ごとに行われてきましたが、近年、がんが臓器を超えた性格・特徴を有するものだということがわかってきて、違う臓器のがんに対し、共通の治療が行われることも多くなってきました。また、原発不明がんや、複数のがんを併発しているケースのように、多くの診療科が力を合わせて治療する必要が生じる場合も少なくありません。オンコロジーセンターは、主にこうしたケースで力を発揮しています」と、同センターの仁科慎一センター長(腫瘍内科 主任部長)が言う。

さらに、「病気を治すだけでなく、できるだけ病気とうまく付き合い、悲しみを小さくする方法まで考えていくことが必要で、そのためには生活支援も欠かせません」と話し、「その意味で当院のオンコロジーセンターは、診療科の枠、また職種の枠も超えて、がん患者さんをサポートしていく仕組みとなっています」と説明する。

オンコロジーセンターでは、治療方針の決定が困難な症例、希少がんの症例などを他の医療機関から受け入れる際の窓口として、「臨床腫瘍外来」を設置している。また、ペプチド受容体核医学内用療法など、岡山県内では岡山大学病院と同院のみで実施している高度先進医療のような特殊な医療を受けることを目的に紹介されてくる患者の窓口としても同外来が機能している。

臨床腫瘍外来の診療日は火曜と金曜の午前中で、仁科センター長をはじめ5名の医師が交代制で担当している。担当医の1人である血液内科の前田猛部長によれば、医師それぞれが担当した日の予約患者を診察した後、毎週火曜日に開催されるオンコロジーボードで治療方針を検討し、手術や化学療法の治療計画を立てるという。

「化学療法を開始する場合は、ほとんどのケースで入院していただき、初回は病棟で行います。退院前には病棟看護師から患者さんに、外来化学療法に関するオリエンテーションを行うことで、病棟から外来にスムーズにつながるようになっています」と前田部長は言う。

前田部長は、全国的にも早期(2003年)に外来化学療法部を開設した京都大学医学部附属病院で外来化学療法に専従した経歴を持つ。その後、倉敷中央病院外来化学療法センターの開設と同じ頃、以前から勤務経験のあった同院に復帰。以来、外来化学療法センターのクオリティーマネジャーを兼務し、安全管理、副作用対策のマニュアル作成などに携わってきた。「約10年が経ち、さまざまな取り組みが定着しつつあります」と語る。

3. 外来化学療法センター 充実した設備と仕組みを活用し
各診療科が診療と化学療法をシームレスに継続

外来化学療法センターは2013年4月、外来棟2階に開設された。病床数は60床(ベッド43床、リクライニングチェア17床)、床面積1,000㎡と大規模だ。入口を入ると受付カウンターと広い待合室、事務職が常駐する会計処理コーナーなどがあり、その奥に、患者同士の交流や各種相談会などに使うスペース、「アイビースマイル」がある。さらに進むと、がん看護外来のブース、薬剤師が常駐する相談室や、小児専用の化学療法室が並ぶ。

ベッドとチェアは、ほとんどが半個室のブースに設置され、それぞれにテレビ、酸素の配管などが完備されている。完全個室も一室ある。また、患者の急変時などに備えて処置室も設けている。室内の柱や壁、格子状の引き戸などに木目が多用され和の雰囲気。室内の水道からは冬場は温水が出るが、これは冷水に触れると痛みを感じる薬剤もあるため、そうした症状の緩和を目的としている。

同センターの概要を上田副院長は、「由来臓器の専門科が診療と化学療法をシームレスに継続できるよう、各診療科がセンターに乗り入れるかたちで運営されています。現在、当センターを利用している診療科は、呼吸器内科、外科、血液内科、泌尿器科、消化器内科など14科。治療件数は増加傾向で、抗体療法なども含めて2014年が1万2,887件だったのに対し、2022年度は1万6,574件となっています」と紹介する。

ここでいう「乗り入れる」とは、各診療科の主治医が外来化学療法センターという場や仕組みを活用して治療を継続するという意味。患者が外来化学療法を受ける場合は、主治医がレジメンオーダサポートシステムにより予め使用するレジメンを登録し、外来化学療法センターの治療枠を確保する。当日は、主治医が診察を行い化学療法実施の可否を決定し、実施が決まったら登録してあったレジメンを確定し、薬剤師がそれを監査して調剤。さらに看護師による確認などを経て、点滴が始まるという流れ。治療当日が主治医の外来診察日でない場合も外来化学療法が可能で、その場合はセンター内にある診察室(全5室)に主治医が来て診察を行う。

4. 看護師の役割 セルフケア、生活背景に配慮し支援
部門間の連携で切れ目のないケアを提供

外来化学療法センターに勤務するスタッフは、看護師17名、薬剤師は交代制で1日1〜2名、事務職は交代制で午前午後1名ずつである。管理栄養士、歯科衛生士、医療ソーシャルワーカー(MSW)は、それぞれ各部門で仕事をしながら、同センターに協力している。看護師17名の内訳は、がん看護専門看護師の原恵里加看護師をはじめ、院内認定のがん薬物療法ハイレベルケアナース1名、化学療法看護の経験を5年以上有する看護師10名、経験5年以下の看護師2名、パート看護師3名である。

同センターを含めて外来部門を担当する植田由加里師長によると、看護師たちは、60床をA、B、Cの3つのエリアに分け、ベテランと若手が偏らないようグループに分かれて患者のケアにあたっている。連休前後など治療件数がベッド・チェア数の1.5倍に当たる1日90件以上になることも珍しくなく、そういった場合は予め他部門からのリリーフ看護師を手配する。

「外来化学療法における看護師の役割で最も大事なのは、安全に治療を行うこと、患者さんに安楽に過ごしていただくことです。そして、患者さんがご自宅に帰られてから困らないように、セルフケア支援に重点を置きながら説明や指導を丁寧に行っています」と植田師長。さらに原看護師が、「高齢の患者さんを高齢のご家族がケアしていたり、小さなお子さんを育てておられたりといった、患者さんそれぞれの生活背景に配慮した支援も心がけています」と話す。

安全面の取り組み例としては、転倒リスクのある患者の目印として同院全体で導入している「プラスワンPASS」を外来化学療法センターでも活用。アセスメントにより転倒リスクが高いと判断された患者の点滴棒にプラスワンPASSを下げ、移動介助などを徹底することで2022年度は転倒ゼロを達成した。

ケアが途切れないように他部門の看護師とも密に連携しており、たとえば外来診療時に各診療科の看護師がキャッチした患者の状況、患者が話したことなどは連絡メモやメールで伝えてもらう。一方で、化学療法から内服療法に切り替わった時などは、外来化学療法センターの看護師から各診療科の看護師に患者の情報を伝えている。

原看護師は、がんと診断された患者や家族の相談窓口である「がん看護外来」も担当。がん看護外来は予約制で、がん関連の専門看護師、認定看護師4名が、曜日担当制で毎日実施している。

5. 多職種の役割 薬剤師、栄養士、歯科衛生士、MSW、事務職などが力を結集
情報共有しながら患者を多面的にサポート

薬剤師は、調剤室所属の30名ほどが交代で外来化学療法センター担当としてセンター内にある相談室に常駐し、1日30〜40件の指導を行っている。「外科と呼吸器内科では、レジメンのクール開始日(デイ1)には必ず薬剤師が指導に入ることになっています。また、ほかに医師から指導依頼のあったときや、初めて外来化学療法センターを利用するとき、レジメンが変更になったといったタイミングでは必ず薬剤師が介入します。その際は、治療が始まる前に患者さんの現状をご本人/家族から聴取したうえで、その日に行われる点滴の内容を説明します。そこで、患者さんの生活スタイルや体調に合わせた副作用対策も提案します。何か治療の課題や患者さんからの不安の訴えがあれば、次の治療までに主治医と相談し、改善に努めます。」と話すのは、楢原由生未薬剤師。今後デイ1での介入を他の診療科にも広げていきたいという。

薬薬連携としては、年に1回、地域の保険薬局を交えた講習会を実施したり、保険薬局の薬剤師の先生と当院での研修を通して、双方の情報交換や今後の連携に努めている。

事務職の関わり方ついては、医療事務の柘野亜耶さんが、「内科所属の10名弱が交代で外来化学療法センター内に設けられた会計処理用の部屋に勤務し、外来化学療法を終えたすべての患者さんに対応しています」と紹介する。各科所属の医療事務の役割も重要で、先に触れたように患者の主治医が同センターの治療枠を確保する際に、実際に予約の作業をするのは医療事務だ。「医師の指示を受けた医療事務は、点滴にかかる時間、患者さんのご都合、予約状況などをすり合わせ、診察時間をずらすなど患者さんの負担軽減も考えながら、しっかり治療ができるようにスケジュールを組んでいきます」と、同じく医療事務の小野智恵子さんが役割を語る。

医療ソーシャルワーカー(MSW)はがん相談支援センターに所属しながら外来化学療法センターに関わっている。「毎朝のカンファレンスに出席して患者さんに関する情報交換を行うとともに、特に支援が必要な患者さんについては点滴中にベッドサイドでくわしくお話をうかがったり、がん相談支援センターの個室で対応します」と松嶋史絵MSW。アピアランスケア、就労に関する情報提供などにも相談支援の一環として取り組み、アイビースマイルなどで掲示や資料配布も行っている。相談件数は年間のべ3,000件以上になる。

一方で、化学療法における地域連携の推進にも力を入れている。連携医療機関を対象としたアンケート調査をがん相談支援センターとして実施し、化学療法の実施状況などを把握。患者の希望に合わせて他の医療機関を紹介するときの資料にしている。

このようにそれぞれの職種が役割を果たしながら、毎月1回、決まった曜日・時間に多職種カンファレンスを実施し、治療に関すること、同センターの運営に関することなどさまざまなテーマで意見交換、情報伝達などを行っている。また、多職種による症例検討会も適宜開いている。

6. オリジナル資材の活用 センターの案内やセルフケア冊子を自作
患者とコミュニケーションを図りながらわかりやすく説明

外来化学療法に関わるスタッフたちは、さまざまな資料やシートを自分たちで作成して活用している。たとえば、初めて外来化学療法を受ける患者への案内として配付している冊子「外来化学療法センターのご案内 ―治療を受けられる方へー」は、従来から活用していた資料をもとに、原看護師が中心となって原案をまとめ、各職種に目を通してもらって意見を反映。さらに上田副院長が全面的に手を加えて完成させ、化学療法委員会の承認を得て発行した。紙媒体での配布で、退院時のオリエンテーションでも使用している。またウェブサイトで読んだりダウンロードもできる。

各種症状に対するセルフケアの方法をまとめた「がん薬物療法シリーズ」も同様のプロセスを経て作成し、公開している。同シリーズには、手足症候群、ざ瘡様皮疹、爪の変形・剥離、変色、爪囲炎、末梢神経障害、味覚障害があり、現在も別のテーマで制作中だ。「看護師が伝えたいことを自分たちの言葉でまとめていますので、患者さんに説明したり、一緒に日常生活の振り返りをしたりする際のツールとしても使いやすく、患者さんにも理解していただきやすいと思います」と、こうした媒体をオリジナルで作成する利点を原看護師が説明する。前田部長も、口頭での伝達だけでなく紙媒体としてかたちにすることで、誰が行っても同様の指導ができますし、課題にも気づきやすくなります。外来化学療法センターの質が維持向上できている背景には、こうした紙媒体の存在も大きいと思います」と評価する。

最近リニューアルしたものとしては「副作用質問票」がある。従来から使っていた「生活のしやすさ質問票」に、免疫チェックポイント阻害薬などに関する項目、気持ちの辛さに関する項目などを加えてつくり直し、まずは、外来化学療法センターの利用件数が最も多い診療科である呼吸器内科から導入したばかりだ。質問への答えは、看護師が電子カルテに入力することで素早く多職種で共有できる。副作用質問票は「薬剤師外来」でも使用し始めている。

7. 今後の課題・展望 進歩するがん医療をキャッチアップし最新の医療を提供
化学療法に取り組む人材確保と場の有効活用も課題

仁科センター長は、がん医療全般の課題として、次々に出てくる新しい治療法や新薬のキャッチアップを挙げ、「どんなものが出てきてもしっかり対応し、リスクを理解したうえでできる限り取り入れ、ベストな治療を提供していきたい」と語る。新しい知識の吸収を課題に挙げるのは看護部門も同じで、「良い看護を提供するためには知識の更新が不可欠です。今後もワークライフバランスを保ちつつ一人ひとりが成長し、イキイキと力を発揮できるような教育体制を維持していきたいと思います」と植田師長が言う。

上田副院長は、医療の進歩によりがん患者の予後が以前よりも良くなり、その分、外来化学療法へのニーズも高まっている現状をあらためて指摘し、「そのニーズに十分応えられるだけの人材確保が課題です。患者さんの安心を考えたら、各診療科の医師が診療も化学療法も継続して担う現在の仕組みを維持したほうが良いでしょう。専門性の高い化学療法をどう広めていくか。時間をかけて取り組みたい課題です」と語る。

また、60床あるとはいえ、1日90人以上が利用する日も増えていることを考えると規模的にもいまのままで十分とはいえず、「治療の質や安全性を落とさないまま病床をより有効に使う方法を、AIの活用なども含めて柔軟に考えていきたい」と語る。「医療を取り巻く環境は厳しさを増していますが、幸い当院には、人間愛や社会貢献といったフィロソフィーが根づいていて、職員は患者思いですし、本当に必要なことに対しては経営陣も協力を惜しみません。きっと新たな挑戦できるでしょう」と上田副院長。中国四国地方きっての大病院は、まだまだチャレンジを続けていく。

KKC-2023-00968-1

外来化学療法 現場ルポ

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