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富山大学附属病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2024年1月29日公開/2024年1月作成

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病院外観
  • ●院長:林 篤志 先生
  • ●開設:1979年
  • ●所在地:富山県富山市杉谷2630

がんの専門知識を有する多職種が協働して
安全で質の高い外来化学療法を実践

富山県唯一の特定機能病院として高度先進医療を提供しつつ、地域医療の基幹施設として多様な医療を提供。がん医療においても、ゲノム医療や免疫治療などの先端医療、各種専門外来、がん相談、緩和ケア、がんのリハビリなど幅広く取り組んでいる。外来化学療法センターは2006年に開設され、現在は富山大学附属病院総合がんセンターの患者サポート部門の1つとして24床で稼働。専任看護師11名、薬剤師4名(2名は常駐)、がん病態栄養専門管理栄養士も常駐する充実した人員体制で、さまざまな部門やチームと連携しながら患者を多面的にサポートしている。

1. 病院の概要 県内唯一の特定機能病院にして地域医療の砦
高度先進医療を求めて県外からの来院も

安藤 孝将 外来化学療法センター長/第三内科(消化器内科)

安藤 孝将 外来化学療法センター長/第三内科(消化器内科)

富山大学医学部の前身である富山医科薬科大学が設立されたのが1975年。その4年後の1979年に附属病院が開院し、1994年に特定機能病院の承認を受けた。2005年には旧富山大学及び旧高岡短期大学との再編・統合が行われ、新生富山大学が誕生した。

「当院は県内唯一の特定機能病院で、県内全域はもちろん、石川県、岐阜県、新潟県、長野県など隣接する地域からも高度先進医療を求めて患者さんが来られます。一方で、地域医療に関しては最後の砦的な存在としてさまざまなニーズに応えています。高度先進医療と地域医療、双方を担う使命を持っているのです」と、外来化学療法センターの安藤孝将センター長が、富山大学附属病院の地域における役割を紹介する。

48の診療科と612床(一般566床・精神43床・感染症3床)の病床を擁し、全国公募で招聘された各分野の専門家が診療科を率いている。がん医療をはじめ難病医療、アレルギー疾患医療、災害医療などの拠点としても地域に貢献している。

2. がん医療の特徴 診療科横断的にセンター化し、総合がんセンターに集約
ステージや病状に合わせて適切に診療

富山大学附属病院のがん医療は、2020年6月に設置された総合がんセンターに集約されている。同院では従来から、がんを総合的に診る体制づくりを進めてきた。2010年には、それまであったがん治療部に代わって、外来化学療法センターと緩和ケアセンター、がん登録部門を集めた集学的がん診療センターが設置され、各診療科のがん医療を下支えしていた。これらの機能も含めてがん診療に関わる部門をさらに編成し直し、新たにつくられた枠組みが総合がんセンターだ。

「総合がんセンターの最大の特徴は、がん診療を診療科横断的にセンター化して統合していることです。たとえば私の専門である消化器で言うと、消化器内科、消化器外科、放射線科などを含めた消化器腫瘍センターで診療を行っています。こうした診療センターは14あり、それぞれにセンター長を配置して診療を統括しています」と安藤センター長が解説する(図参照)。

センター化のメリットは診療側にも患者側にもあると安藤センター長は言う。
「がん患者さんを診療科ごとに診ていた時代は、同じ病状の患者さんが別の診療科に紹介されることもありました。センター化にしてからは、最初に診察した医師が誰であっても、その後は各センターで引き受け、キャンサーボードでステージなどを考慮しながら適切に対応していくので、治療が適切にスムーズに進みます。この仕組みは私たち医師にとっても安心ですし、患者さんから見ても、病状に応じたトータルな治療に速やかに結びつくメリットがあります」

総合がんセンターにはこうした「臨床部門」のほかに「先端医療・研究部門」があり、ここには2018年に設置された「がんゲノム医療推進センター」が含まれる。2019年にはがんゲノム医療拠点病院に指定され、いまでは年間150例ほどの遺伝子パネル検査を実施。このうち約9%の患者に何らかの薬物療法を行っている。

3. 外来化学療法センター 専任看護師のほかに薬剤師、管理栄養士が常駐
患者サポート部門の1つとして年間約8,700件を実施

総合がんセンターにおいて外来化学療法センターは、「臨床部門」の中の「患者サポート部門」の1つに位置づけられている。患者サポート部門にはほかに、緩和ケアセンター、がん・リハビリテーションセンター、がん相談支援センター、がん和漢薬治療センターが並ぶ。

外来化学療法センターの看護師は11名で全員が専任である。その中で、市川美幸看護師長ががん化学療法看護認定看護師で、副師長はがん疼痛看護認定看護師。スタッフにはがん看護専門看護師がいる。薬剤師は4名体制で、うち2名が外来化学療法センターに常駐。4名中2名はがん専門薬剤師である。さらにがん病態栄養専門管理栄養士の資格を持つ管理栄養士が常駐しているのは特徴的だ。

安藤センター長は管理栄養士が外来化学療法に密接に関わる体制について、「とても有益」とし、「当センターでは初回利用時にオリエンテーションを行いますが、管理栄養士はここで患者さんの栄養状態、早期からの栄養介入の必要性などの評価を行い、必要に応じて速やかに栄養指導につなげてくれています」と説明する。管理栄養士が常駐となったのは2022年4月で、同年の診療報酬改定で、外来化学療法の患者に対し専門的な知識を持つ管理栄養士が指導を行った場合に、外来栄養食事指導料が算定できるようになったことが後押しになったという。

「せっかく加算がつくのだから良いかたちで患者さんに還元しようと、管理栄養士の常駐に踏み切りました。以来、指導件数は増加傾向で、現在は当センターの患者さんの約半数が継続的に栄養指導を受けておられます。がん患者さんの栄養状態を改善することは、治療効果を高めることにつながりますので、非常に有効な取り組みになっています」と安藤センター長。外来化学療法センターでの栄養指導件数は、管理栄養士が常駐する前の2021年度が435件、常駐するようになった2022年度が648件と大幅に増えている。

同センターは外来診療棟の3階にあり病床数は24床(ベッド8床、リクライニングチェア16床)。2006年のスタート時は6床だったが、徐々に増床し、2020年8月に15床から24床に増やしたことで2フロアとなった。窓に向いて設置されたチェアも多く、治療を受けながら景色を楽しめる。天気の良い日は海も望める好立地だ。

外来化学療法の件数は開設以来ほぼ右肩上がりで増えており、2022年度実績で月に700〜800件、年間8,683件。がん種で見ると膵がんが最も多く、次いで大腸がん、肺がん、乳がんがほぼ同数である。

外来化学療法を受ける患者は、当日、受付を済ませた後、採血や検査を受け、結果が出た後に主治医の診察を受ける。ここで主治医が化学療法の実施を決定した後、患者は外来化学療法センターに移動。同時に薬剤の準備が始まり、準備が完了次第、投与が開始される。

「治療開始前、投与中、投与後に看護師と薬剤師が回診して副作用や全身状態を確認し、必要なケアを行います。また、服薬指導や栄養指導もタイミングを見て行います。当院には歯科口腔外科もありますので、歯科衛生士も最初のスクリー二ングからその後の口腔ケアまで担ってくれています」と市川看護師長。「私たちが関わる中で、それぞれの患者さんについて主治医に特に伝えたいことがあった場合は、その都度、直接連絡しています」と各診療科医師との連携についても紹介する。

緊急時には、主治医に連絡するほか、病院全体の仕組みであるRRS(Rapid Response System:院内迅速対応システム)を活用できる。センター内にはRRS起動基準と対応のフローチャートが掲示されており、スタッフはそれを確認しながらコードブルー、主治医コール、RRSコールなどを選択する仕組みになっている。

市川看護師長は、緩和ケアセンターやがん相談支援センターがすぐ近くにあることも同センターの特徴の1つと話し、「患者さんや、付き添ってこられたご家族が何か相談したいというときに、すぐに個室に案内して相談を受けていただくことができます」と利点を語る。

4. 薬剤師の役割 外来化学療法センターに2名が常駐し副作用などに対応
チーム医療、薬薬連携などでも活躍

外来化学療法に関わっている4名の薬剤師のうち、2名は薬剤部で抗がん剤のミキシングなどを担当。2名が外来化学療法センターに常駐している。4名の配置はシフト制だ。「常駐している薬剤師のうち1名は検査値のチェック、投与内容のチェック、制吐剤など前投薬の混注などを行っています。もう1名は点滴中の服薬指導、副作用のチェックなどを担当し、副作用が見られた場合には、主治医に疑義照会を行い、薬剤の追加や修正を依頼します。服薬指導の件数は月に約300件です」と説明するのは、髙橋則正薬剤師だ。

薬剤師はチーム医療にも積極的に参画している。現在、富山大学附属病院では緩和ケアチーム、irAE(immune-related Adverse Events:免疫関連有害事象)チーム、腫瘍循環器チーム、薬剤性肺炎チーム、経口抗がん薬対策チーム、アピアランスケアチームの6つのチームが活動しており、それぞれに薬剤師が入っている。石川雄大薬剤師が活動状況を次のように紹介する。

「6つのチームの中で特に当院の特徴といえるのはirAEチームで、おそらく富山県内の病院で最も早く結成されたと思います。近年、広く使われるようになった免疫チェックポイント阻害薬には吐き気や脱毛、免疫の低下といった従来の抗がん剤のような副作用はほぼないものの、免疫の活性化による副作用が新たに出てきています。これに対応するためには1つの診療科だけでは難しく、複数の診療科が力を合わせる必要があります。そこでチームをつくりました。私たち薬剤師は、主治医から副作用の報告を受けたらその原因を推察し、どの診療科に相談すべきかなどを助言します。医師と医師をつなぐハブ的な機能が、irAEチームでの薬剤師の役割です」

腫瘍循環器チームも同院独特のもので全国的にも珍しいという。「外来化学療法中に亡くなる患者さんの死因の第2位が血栓といわれています。そこで血栓を予防し、患者さんを救うための活動をしているのが腫瘍循環器チームです。薬剤師は主に、抗がん剤と抗血栓薬との飲み合わせに注意を払っています。飲み合わせの確認ツールを独自に作成して、副作用が起こった時の対処法をまとめています。これらの書類は総合がんセンターのウェブサイトにアップし、他院の方々にも参考にしていただいています」と石川薬剤師が言う。

髙橋薬剤師と石川薬剤師はともにがん専門薬剤師の資格を有しており、がん医療においては他の薬剤師のアドバイザー的立場にある。チーム医療では2人はすべてのチームに横断的に関わっている。また、病棟薬剤師との連携も大切にしており、直接話したり、電子カルテを通じて患者の治療内容や使用している薬剤などに関する情報共有を図っている。

髙橋薬剤師はさらに、「地域の薬局もチーム医療の一員と考え、薬薬連携に力を入れています」と話す。具体的には、治療内容がわかる「化学療法地域連携シート」を患者に渡し、それを薬局に持参してもらって情報を共有する。薬局薬剤師には、患者が化学療法を受けた1週間後を目処に体調確認の電話をしてもらい、その結果をトレーシングレポートとしてファックスで送ってもらう。点滴中の服薬指導の件数は先に触れた通り月300件。うち200件で連携充実加算を算定している。また、トレーシングレポートの枚数は月に50枚ほど。薬局からフィードバックされた情報は院内で医師や看護師と共有し、患者のケアに活かしている。

また、地域の薬剤師に化学療法の知識を深めてもらうために研修会も実施している。現在は月に1回、同院周辺の薬局薬剤師を対象に行っているオンライン勉強会が主で、参加者は毎回15名程度。今後は大学の使命として、県内の薬局全体に、こうした取り組みを広げていきたい考えだ。

5. 看護師の役割 患者情報を共有し安全投与を実践
コーディネーターとして患者と多職種、チームをつなげる

外来化学療法における看護師の役割を市川看護師長は、「抗がん剤の安全な投与を支えることが第一です。新薬を導入する場合は事前に勉強会を開いてその薬の知識を身につけるなど安全投与に向けた準備を怠らないように努めています」と話す。

また、患者に関する情報共有も看護師が中心となって行っており、毎朝、多職種で行うミーティングでは、その日に来院する患者一人ひとりについて、注意点を確認し合っている。「アレルギーが出やすい、前回、血管外漏出があったということから、ご自宅でADLの低下が見られるなどご家族からの情報も含めて共有します。看護師はその日ごとに2〜8名の受け持ち患者さんを担当しますが、それ以外の患者さんの情報も共有することで、全員ですべての患者さんを見守ることができているのが当センターの特徴です」と言う。

患者の状態を把握するツールとしては、化学療法の予約日前7日間の様子について記入してもらう問診票が役立っている。吐き気、便秘など一つひとつの症状について辛さなどを書いてもらい、その問診票をもとに、看護師が面談を行う。問診票には、「専門的な相談を希望しますか」という質問もあり、希望する患者には、看護師が相談内容に応じて認定看護師や該当するチームを紹介している。他部門に所属する認定看護師にも予約なく相談ができる仕組みが整っている。

看護師が中心となっている医療チームに、脱毛、皮膚や爪の変化、メイクなどに関する取り組みを行うアピアランスケアチームがある。「このチームが立ち上げられたのは2023年2月のことです。患者さんがかかっている診療科のほかに、形成外科、皮膚科、薬剤部、看護部の連携により心理的支援を行うのが目的で、治療開始前、治療中、治療後と継続的に関わっています。外来化学療法センターでは、看護師が一般的な説明などを行い、よりくわしく知りたい患者さんはアピアランスケアチームに紹介するのが基本的な流れです」と、乳がん看護認定看護師の資格を持つ倉田典子看護師長が説明する。

アピアランスケアの1つとして同院では、2021年3月より頭皮冷却法を取り入れている。これは、抗がん剤の投与中に頭皮を冷やすことで毛髪をつくる細胞への血流を減らし、毛根への抗がん剤の作用を少なくして脱毛を抑制するというもので、現在は特に乳がん患者の利用が多い。

「頭皮冷却法を受けた患者さんの3割程度が通常の50%程度の脱毛に抑えられ、まったく脱毛のなかった患者さんも数%見られます。また、脱毛があっても、その後の発毛が良いため、患者さんの満足度は高いといえます」と倉田看護師長。乳がん患者に限ったデータだが、対象となる患者の6割くらいがこの療法を希望し、実施しているという。

チーム医療や地域連携における看護師の役割はコーディネーターだと市川看護師長はいう。院内はもちろん、訪問看護師などとの連携も進めている。

6. 今後の課題・展望 地域のがん医療のレベルアップにも注力し
質の高いがん医療を届け続ける

今後の課題・展望について安藤センター長は、「一言で言えば、質の高いがん医療を患者さんに届け続けるということ」と話し、そのためには関わるスタッフが学会に参加するなど、常に勉強を続けていかねばなりません。また、標準治療や標準的対応というのは、その時々で変わっていきます。それを遅れずにキャッチし、日々の診療をブラッシュアップしていくためにも、治験や臨床試験を通して、新しい治療法の開発に関わっていくことも一つの手段だと考えています」と続ける。

自院のレベルアップを目指す一方で、地域にも目を向けており、がん医療に取り組む地域の多様な医療機関への情報提供も課題に挙げる。手軽な方法として所属先や職種に関係なく参加できるオンライン勉強会を企画し、少しずつ始めている。患者教育も重視し、がん相談支援センター主催のミニ講座「ほほえみサロン」を毎月開いたり、病院主催の市民講座で情報発信などをしており、地域の医療機関、患者とともに富山のがん医療は前進を続けている。

KKC-2023-01001-1

外来化学療法 現場ルポ

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