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北海道大学病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2024年11月19日公開/2024年11月作成

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病院外観
  • ●病院長:渥美 達也 先生
  • ●開設:2003年10月(医学部附属医院は1921年4月)
  • ●所在地:北海道札幌市北区北14条西5丁目

多くの乳がん患者が集まる道内唯一の乳腺外科
薬局と連携し経口抗がん薬治療中の患者をフォロー

北海道大学病院乳腺外科は、独立した診療科としては北海道内唯一の存在だ。主に乳がんの診療を行っており、他の医療機関や検診施設から紹介されてきた患者の検査・治療、外部の医師からの相談対応、臨床試験、治験などに総合的に取り組んでいる。高橋將人教授、細田充主診療准教授が就任した2022年を境に患者数は急激に増加し、外来治療センター(化学療法部)の利用率も消化器内科に次いで多くなっている。患者のQOLも重視しており、関連部門と連携した就労支援やアピアランスケアにも一層力を入れていく方針だ。

1. 病院の概要 1921年の診療開始から100年以上の歴史を誇る
北海道におけるがん医療のリーダー的存在

北海道大学医学部附属病院と同歯学部附属病院の統合によって、2003年10月に北海道大学病院として新生。医科31科、歯科12科の診療科と1つの分院(北海道大学司法精神医療センター)で構成され、病床数は944床である。

北海道内には北海道大学医学部のほかに旭川医科大学、札幌医科大学と3つの医育大学があるが、この中でも北海道大学の歴史は最も古く、1919年2月に医学部が設置され、1921年4月には医学部附属医院としての診療を開始している。

がん医療には、旧病院時代から力を入れており、2009年に地域がん診療連携拠点病院、北海道高度がん診療中核病院、2013年に小児がん拠点病院、2018年にがんゲノム医療拠点病院に指定されている。北海道のがん医療のリーダー的役割を担っている同院には、さまざまながん種の患者が数多く集まっている。

2. 乳腺外科の特徴 第一外科の乳腺グループが独立して開設
2022年以降、外来患者数、手術件数などが軒並み増加

細田 充主 診療准教授

細田 充主 診療准教授

先述した3つの医育大学の中で独立した乳腺外科を擁するのは北海道大学のみである。「もともと第一外科内の専門分野の1つとして活動していた乳腺グループが独立して2012年に乳腺外科が開設されました」と紹介するのは、細田充主診療准教授。同科のメンバーはともに2022年に就任した高橋將人教授、細田診療准教授のほか、助教、医員など計10名となっている。

乳腺外科の外来診療は月・水・金の週3回。特に月曜、水曜は医師5名体制で新患を含めて多くの患者に対応している。外来患者数は、2022年7,425人、2023年8,798人と大きく増加し、向こう1カ月の予約が満杯の状態が続いている。これは、年間70件程度で推移していた乳がん手術数が、2022年約100件、2023年約180件と急増していることも関連している。

「こうした成長の背景には、以前はあまりできていなかった道内の検診施設、乳腺クリニック、地域の病院などとの連携強化と信頼関係の醸成などがあります。それらの機関から紹介されてきた乳がん患者さん、乳がんが疑われる患者さんを受け入れ、検査、診断、外科治療、薬物療法を一貫して実施しています」と細田診療准教授が言う。また、臨床試験、治験なども積極的に実施して、世界標準治療を提供。そのうえでQOLも重視し、精神的ケアにも力を入れている。

乳がんと診断された患者が紹介されてきた際には、診療情報提供書などの書類がまず電子カルテ上にアップされる。乳腺外科の医師は全員、患者の初診の日までにこの書類に目を通し、カンファレンスを行う。初診患者の問診は若手医師が担当し内容を共有する。

検査については、紹介もとで実施された針生検の結果をそのまま採用するのではなく、必ず検体を取り寄せて再度調べて乳がんのタイプを確認。CT、MRI、PETなど必要に応じて画像検査を実施し、総合的に評価したうえで患者本人とも相談しながら治療方針を決定する。

治療方針決定後は主治医を決め、適宜カンファレンスを行って診療の質を維持しながら実際の治療を進めていく。入院時にはグループで回診を行って皆で患者をサポートする。確定診断前に紹介されてきた患者については針生検を含めて実施し、同様に治療を進める。

今後、ますます紹介患者が増えそうな要素として、道内の病院で唯一、北海道大学病院乳腺外科でのみ実施可能な「ラジオ波焼灼療法」が注目に値する。ラジオ波と呼ばれる電磁波をがん部分に照射することでがんを死滅させる新しい治療法で、2023年12月に保険適用となったばかりだ。具体的には、全身麻酔下で、エコー画像を見ながら直径1.5mmの電極針を乳房のがん部分に刺し、ラジオ波を流して70度くらいに加熱する。熱によって組織が変性するとラジオ波の発生が止まる仕組みで、焼灼時間は5〜15分と短い。実施する医師や施設に求められる要件が厳しいため、それを満たす道内唯一の医師、高橋教授のいる同科のみが認可されている。

乳房温存術が広がってきているものの、乳がんの治療はいまも手術が標準で、手術後は大なり小なり傷痕や変形が残る。これに対しラジオ波焼灼療法は、脇の部分にセンチネルリンパ節生検による小さな創と電極針の痕が残るだけで乳房の形は変わらず、痛みも手術に比べて少ないのが利点だ。「がんの大きさが1.5cm以下、転移がないなど一定の条件はありますが、1.5cmのがんというのは検診のマンモグラフィーで十分見つかる大きさです。心身ともに負担の少ない治療法で、今後、希望者が増えていくと思っています」と細田診療准教授は期待する。

同科では今後もこうした有用な治療法は可能な限り取り入れ、乳がん治療に関してはできない治療法はない、という状態を維持していきたいという。

細田診療准教授は乳腺外科の基本方針として、「患者さんにとって一番良い治療を行うこと」を挙げるが、「これは単にエビデンスに基づいた医療や高い技術といったものだけを意味するのではなく、患者個々を取り巻く環境、希望、合併症などの身体的状況などを十分考慮し、他科とも協力しながらいまできる最高の医療を提供することです」と、患者に寄り添う姿勢を強調する。

3. 病薬連携 薬局薬剤師と連携し経口抗がん薬治療の有害事象や
患者の思いを共有して治療を最適化

乳腺外科では、患者の状況や希望を詳細に把握する1つの方法として、"病薬連携"ともいうべき特徴的な取り組みを2023年より続けている。地域の薬局の薬剤師に協力してもらって経口薬を使っている患者の治療経過や希望などを聞き取ってもらい、それをオリジナルの「情報共有連絡票」で共有するという方法だ。

情報共有連絡票は処方せんと一緒に患者自身が薬局に持っていく。患者からの聞き取りは、次の受診日の2日前くらいを目安に薬剤師から患者に電話をすることで行う。内容は服薬状況、有害事象の有無、有害事象がある場合はその内容、残薬状況、薬物療法に対する患者の思いなど。記入後の書類はファックスで送信してもらう。これを予め読むことで、限られた時間の中で充実した診察を行い、必要に応じて治療薬の変更、指示薬の追加など治療内容を最適化していくことが狙いだ。

細田診療准教授は、「薬剤師の皆さんには負担をかけてしまうのですが、『診療に参加していることが実感でき、モチベーションにつながっている』と言ってくださる方も多く、感謝しています。また、処方提案などもしてもらえるので助かっています。患者さんにも好評ですので、ぜひこのまま継続していきたいと思っています」と話す。

この病薬連携の仕組みは、細田診療准教授が2016年より6年間、部長として勤務していた砂川市立病院乳腺外科時代に考案した。当時は医師の診察の前に行っていた薬剤師面談により、抗がん剤の点滴を受けている患者の状況や思いを把握していたが、院外処方となる経口抗がん薬が複数出てきて有害事象への対応も必要になってきた。そこで、経口抗がん薬を使っている患者の状況把握については薬局の協力が不可欠と考え、周囲の薬局に声をかけたのがきっかけだ。最初は1社から始めたが、協力店舗は徐々に増えていった。これと同様のことを北海道大学病院でも始めたのだ。試行から1年あまり経ったいまでは、周囲のほとんどの薬局と情報共有できるようになっている。

点滴による抗がん剤治療を受けている患者については、院内の薬剤師による状況把握が試験的に始まったばかり。今後はこれを正式な取り組みとして発展させていくのが課題だ。また、がん相談支援センターとの連携による就労支援、アピアランスケアの一環として現在は病棟で行っている頭皮冷却療法による脱毛抑制を、外来治療センターとの連携によって同センター内で実施できるようにもしていきたいという。以前から産婦人科に依頼するかたちで行っている妊孕性温存療法、臨床遺伝子診療部との協力で行っている遺伝性乳がん患者のケアなど各部門や関係機関との連携もますます深めて、患者のQOL向上に努めていく方針だ。

4. 外来治療センター 入院中に外来化学療法の概要を説明
乳腺外科の利用実績は右肩上がり

化学療法の対象となる乳がん患者はほとんどの場合、CVポートを作成しており、その手術のために入院するので、この入院の間に1回目の化学療法を実施するとともに、外来治療センターの見学を行ってもらう。化学療法開始前には病棟薬剤師が抗がん剤の作用や副作用について説明。その副作用への対処法なども伝える。

2回目以降は外来治療センターでの化学療法となる。同センターは予約制で、予約日に来院した患者はまず採血を受け、検査結果が出たら乳腺外科外来で主治医の診察を受ける。ここで主治医が抗がん剤投与可能と判断した後、患者に外来治療センターに移動してもらい化学療法を受けてもらうというのが主な流れだ。

外来治療センターには、専任看護師と薬剤師が配置されている。これらのスタッフも患者とコミュニケーションを行い、気づいたことがあれば医師に連絡する。スタッフの気づきによって処方する薬が追加されたり、場合によっては患者にもう一度外来に戻ってもらって詳細を確認するなど、職種間で協力しながら治療を進めている。

緊急時の対策としては、各科持ち回りで当番医が、外来治療センター診察室に常駐しているのが大きな特徴だ。当番医は通常は外来治療センター脇の診療室で外来診療を行っており、薬物療法による有害事象やアナフィラキシーショックなどの緊急時には即時対応する。

外来治療センター内はピンクを基調とした柔らかい色調で、ベッド11床(一部個室)とリクライニングチェア12床が置かれている。そのすべてに液晶テレビと読書灯がついている。また、窓が大きく、自然光が降り注ぎ、患者は治療を受けながら外の様子が眺められる。車椅子でも入れるトイレは3カ所、そのうちオストメイト対応が1カ所完備。治療中は静かなBGMを流し、雑誌やDVDプレーヤーの貸し出しも行っている。

外来治療センターを利用している患者は2022年度実績で年間1万2,000人余り。診療科別の利用割合では、消化器内科が41%と特に多く、乳腺外科はそれに次ぐ11%を占めている。患者数で見ると、乳腺外科の患者の外来治療センター利用実績は2022年が1,293人、2023年が1,703人と診療科としての外来受診者数の増加と同様に右肩上がりに増えている。

5. 今後の課題・展望 北海道全体の乳がん医療のレベルアップのため
専門性の高い人材の育成、他の医療機関への派遣を目指す

細田診療准教授は、乳腺外科の今後の課題として、先述した就労支援やアピアランスケアの充実をまず挙げる。そして、道内唯一の独立した乳腺外科として北海道全体の乳がん医療をリードするという使命にあらためて言及し、「使命を果たすためにも若手医師の育成が大きなテーマです」と語る。

北海道のどこに住んでいても、適切な乳がん医療が受けられるような環境を実現するのが大きな目的。そのために1人でも多く専門性の高い人材を育成し、いろいろな医療機関に派遣したいと、教育に一層の力を注いでいる。

KKC2024-00687-1

外来化学療法 現場ルポ

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