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豊橋市民病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2024年12月9日公開/2024年12月作成

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病院外観
  • ●院長:浦野 文博 先生
  • ●開設:1888年6月
  • ●所在地:愛知県豊橋市青竹町字八間西50番地

"東三河の最後の砦"として、最新の化学療法と
総合的支援でがん患者の地域での生活を支える

1888年に私立病院として開業。1932年より豊橋市立の病院となりさまざまな機能を拡充し、広大な東三河地域(愛知県東部)の中核病院として、地域で暮らす住民を主な対象に幅広い医療を提供している。外来化学療法においても、"東三河の最後の砦"を自認し、最新の化学療法を適切に提供するのに加え、各診療科、各部門との連携を強化しながら、患者を多面的に支えている。現在31床ある外来治療センターの病床は、近く約40床に増える予定で、がん患者のニーズにより的確に応える体制づくりを進めている。

1. がん医療の特徴 800床の病床と39の診療科を擁し
広大な地域のがん患者を診療

藤井 正宏 乳腺外科部長 兼 外来治療センター長

藤井 正宏
乳腺外科部長 兼 外来治療センター長

豊橋市民病院は、愛知県の東部に位置する東三河地域の中核病院である。東三河地域は、豊橋市をはじめ豊川市、蒲郡市、新城市、田原市、設楽町、東栄町、豊根村の8市町村から構成される広大な地域で、三河湾と遠州灘、設楽山地に囲まれているのが特徴。地域住民にとって地域医療の"最後の砦"と呼べる存在である。

「当院は800床の病床と39の診療科を擁する大規模な総合病院で、がん医療については、3本柱である手術療法、放射線療法、薬物療法を各科で進めながら、限られた医療資源を有効活用すべく、診療科同士、また、診療科以外の部門も含めて多職種が院内で風通しよく連携しています。治療につきものの副作用対策にも万全を期しており、がん患者さんに安心して治療を受けていただけるよう努力しています」と、乳腺外科部長を兼務する藤井正宏外来治療センター長が、豊橋市民病院のがん医療の特徴を紹介する。

藤井センター長は2020年2月に同院に赴任した。それまでは愛知県がんセンター愛知病院、同研究所などがんの専門施設で約15年間、がん医療に携わった。がんの薬物療法に関する経験も豊富だ。そんな藤井センター長は、「外来治療センターのトップとして最も大事な仕事は、ここで仕事をする人たちが働きやすい環境をつくること。そのためにも他部門との調整や非常時の対応に注力しています。スタッフが気持ちよく仕事をすることが、結果的に患者さんへのサービスの向上につながると思っています」と自らの役割を語る。

2. 外来治療センターの概要 段階的に増床し予約時間のニーズに対応
救急外来センターの間近で緊急時の対応も万全

がんの化学療法を中心に外来での点滴治療を担う「外来治療センター」(完全予約制)は2016年4月に開設され、翌5月より運用されている。それまでカフェだった場所を改装したというだけあって、室内は開放感がある作りで、周囲はガラス張りで自然光が入り込む明るい空間となっている。

当初22床でスタートした病床数は2018年に5床増床され、ベッド12床、リクライニングチェア15床の計27床となった。このときすべての病床にテレビを設置。さらに2020年には別室にベッド1床、リクライニングチェア3床を増床し、現在は31床が稼働している。病床間は明るいグリーンのカーテンで仕切られプライバシーが守られている。点滴台などはピンクで統一され、BGMにオルゴールを採用するなど全体にやわらかい雰囲気が漂う。

同センターがあるのは、正面玄関から少し離れた救急外来・入院玄関から入ってすぐの場所。一般の外来患者とは別の入口から入れるようにした理由を藤井センター長は、「化学療法を受けておられる患者さんには、不特定多数の外来患者さんに会うことに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。また、救急外来センターの近くであれば、体調が急変したときに即座に対応できることなどから、この場所にしたと聞いています」と話す。

実際に頻度は低いものの、重いアレルギー症状を発症した患者などを素早く救急外来センターに移動させ、救急処置を受けることで大事に至らなかったケースもあるという。

待合スペースはとても明るく、ゆったりしている。完全予約制のため、患者が待合スペースで過ごす時間はそれほどないが、わずかな時間でも快適に過ごせることを重視している。ここにはがん関連の各種パンフレットを置いているほか、掲示物などで情報提供に努めている。

掲示板には現在、看護師を中心に取り組んでいる味覚障害対策として、患者アンケートに寄せられた、抗がん剤治療中でも食べやすい食べ物がイラスト入りで掲示されており、患者や家族に好評だ。また、寄付されたタオルを使ってボランティアが手作りし、がん相談支援センターを介して提供されている帽子が置いてあり、欲しい人が自由に持ち帰ることができるようになっている。この帽子は、補充するたびにすぐになくなるほどの人気だという。

安全確保のため点滴治療中に室外に出ることは原則禁止している。トイレも、多目的トイレ、男女別トイレが室内に完備されており、患者が点滴中にトイレに立っても、常にスタッフが見守り続けることができる。

同治療センターでの治療件数は年々増加傾向にあり、2023年度はのべ1万2,767件。うち1万918件ががんの化学療法で、残りはリウマチ患者などの点滴療法である。この件数は、現在の病床数で対応できるマックスに近い数字。ただし、同じマックスでも、2020年に4床増床したことで、それ以前に比べて希望通りに予約を入れられる比率は大幅に伸びている。

3. 人員配置 血液腫瘍内科の医師が常駐
多職種によるチェックと情報共有で安全・安心を確保

豊橋市民病院外来治療センターの大きな特徴として、専属の医師が常駐していることが挙げられる。2021年4月より同センター初の常勤医として勤務している山本里美外来治療センター副部長が次のように話す。

「私の専門は血液腫瘍内科で、毎週金曜日に血液腫瘍内科外来を担当しながら、他の曜日は外来治療センターに常駐しています。ただし化学療法のすべてを当センターで担っているわけではなく、主治医はあくまで主科の医師であり、治療方針や、化学療法の予約日当日に治療ができるかどうかの可否は、主治医と患者さんの間で決めていただきます。そのうえで、実際の点滴を行うのが当センターの役割。もちろんダブルチェックという意味で、本当に治療可能かどうかは患者さんが来られた時点で私が判断をしますし、点滴治療が始まってからの副作用チェックなどはスタッフとともにしっかり行っています」

外来治療センターのスタッフは山本副部長のほかに、看護師12名、薬剤師3名だ。同センター専任でがん化学療法認定看護師の資格を持つ佐藤美弥看護師によれば、看護部門では日ごとに全体を把握するリーダーを配置し、そのリーダーの指示によって他の看護師が動く仕組みとなっている。また、特定の副作用については担当者を決めて継続的に管理する仕組みもできている。

「外来治療センターに患者さんが来られたら、ベッドやチェアに案内し、その日の体調や、前回の治療から当日までの副作用などの状況、現在の困りごとなどを看護師がお聞きします。そこで、たとえば脱毛によるヒリヒリ感があると聞けば、頭皮のケアの方法をアドバイスしますし、吐き気が強かったといった副作用の訴えがあれば薬剤師に相談し、主治医につないで吐き気止めを処方してもらいます。また、薬についての質問などがある場合には薬剤師に、制度的な相談であればソーシャルワーカーにと、その都度専門職に連絡し直接対応してもらっています。患者さんから得られた情報は、電子カルテに入力しスタッフ皆で共有しています」と、佐藤看護師は同センターにおける看護師の具体的な業務内容を紹介する。

一方、薬剤師はシフト制で、毎日3名中1名が外来治療センターに勤務する。その1名は、初めて外来治療センターを利用する患者への説明や、事前に主治医から服薬指導の依頼のあった患者に対し、ベッドサイドで説明を行うこともある。また、その日の薬剤師外来も兼務している。

「薬剤師外来は、外来治療センターの隣にある薬局の中に3部屋設けられたお薬相談室の1つを使って行っています」と紹介するのは、坂野博紀薬剤師だ。坂野薬剤師を含めて同センターを担当する3名の薬剤師はいずれも日本医療薬学会がん専門薬剤師であり、うち1名は、同がん指導薬剤師の資格を持っている。

「抗がん剤の調製も薬局内で行っています。入院患者さん用、外来患者さん用ともに、主治医からその日の化学療法を実施する旨、連絡を受けてから薬局に併設している注射調製室で調製し、病棟、外来治療センターそれぞれに届けます。主治医からの連絡は、調製依頼のかたちで受け取りますが、その際に、薬剤師は患者さんのその日の検査結果とカルテの内容をチェックし、問題や疑問がなければ依頼通り調製。何かあれば主治医に疑義照会し、安全確認が取れてから調製を開始します」と、坂野薬剤師が続ける。

主治医への疑義照会を行う場合には同時に看護師にも連絡し、穿刺をいったん保留してもらう。また、看護師が患者の様子などから、点滴の可否を再度主治医に確認したほうが良いと判断した場合には、薬剤師にも連絡し、状況を共有する。このようにこまめに連絡を取り合うことでダブルチェック、トリプルチェックを行っているため、穿刺後、あるいは調製開始後に治療が中止になることはほとんどない。

「患者さんが主治医に言いそびれてしまったり、後から気づいたりすることもあリますので、関わるスタッフそれぞれが患者さんの様子をよく観察し、お話に耳を傾けるようにしています」と、山本副部長が言う。

外来治療センターに勤務する医師、看護師、薬剤師は、毎朝、多職種カンファレンスを行い、前日に生じたトラブルに関する情報共有、新規患者の紹介、主治医からの指示内容の共有などを行っている。また、週に1回、同センターの利用率の高い外科との合同カンファレンスも実施している。

なお、近年使用頻度の増えている免疫チェックポイント阻害薬については、同薬が導入された際にチームを組み、副作用対応のフローチャートを独自に作成済みだ。

「現在までに電子カルテを閲覧できるすべての端末にこのフローチャートがインストールされており素早く対応できるほか、患者のカルテを開くと自動的に免疫チェックポイント阻害薬の使用歴がポップアップされるなどのシステムが構築されています。これにより、同薬を使用している患者さんが夜中などに救急搬送されてきたとしても、救急医が適切に対応できます。このフローチャートの存在については、入職したばかりの医師にもしっかり認識してもらえるように電子カルテ上やメーリングリスト、化学療法委員会などの場で繰り返しアナウンスしています」と山本副部長が充実した対策を紹介する。

4. 薬薬連携 近隣薬局からのトレーシングレポートにより
患者の副作用状況や思いをリアルに把握

近年は新しい抗がん薬が次々に上市され、レジメンの数も年々増えている。また、それに伴い入院から外来化学療法に移行する患者も増加傾向にある。こうした中、がんの薬物療法をより安全に受けてもらうために、同院では薬薬連携にも一層力を入れている。年に1、2回、同院が行う近隣薬局対象の研修会、同院から薬局への情報提供書と患者が使用中のレジメンの提供、そして、トレーシングレポートによる薬局からのフィードバックが薬薬連携の基本である。

「流れとしては、外来化学療法当日に、まず外来治療センター担当の薬剤師から患者さんに情報提供書と当日のレジメンをお渡しします。患者さんが薬局にそれを提出すると、薬局薬剤師が1週間後を目安に患者さんにお電話をし、薬の服用状況や副作用の有無、体調などを聞きます。その内容をFAXで当院薬局に送信していただき、これを私たち病院の薬剤師が電子カルテ上にアップするとともにコピーを主治医に届けます」と坂野薬剤師が薬薬連携の仕組みを説明する。病院主催の研修に参加した薬局であればどの薬局でも対応可能だ。

このトレーシングレポートを興味深く読み込み、大いに参考にしているという藤井センター長は、「私たち医師が処方した薬がどのように使われ、効果がどうなのか、吐き気や手足の痺れがどの程度出ているのか、患者さんがどう思われているのかなどリアルな情報が返ってきますので、それだけでも非常に有用ですし、次の診察の際に活用すれば患者さんとの話もスムーズに進みます。薬局は私たち医師にとって貴重な情報源です」と言う。

5. 相談支援 診断時にがん相談支援センターを案内
ピアサポーターや多職種による多彩な支援を展開

豊橋市民病院では、外来治療センターの患者を含めて、生活、就労、妊孕性温存など、がん患者へのさまざまな支援を行っている。その中心となっているのはがん相談支援センターである。ここは、遺伝子パネル検査の窓口も担うなど、がん医療において多彩な機能を発揮している。

同院では近年、がん患者がなるべく早期に必要な支援を受けられるよう、診断された時点でがん相談支援センターにつなぐことを推進している。2024年9月より、全科でがんの診断を受けた時点でがん相談支援センターへの案内を行っている。

ピアサポーターによる相談会や5大がんを中心としたがんサロンもそれぞれ毎月1回開いている。がんサロンでは毎回テーマを決めて、多職種がミニ講義を行った後、患者同士の話し合いを行っている。コロナ禍では一時縮小したが、その後、患者は増加傾向という。がんサロンの日程は市民広報などで周知し、同院以外で治療を受けている患者にも参加を呼びかけている。

6. 今後の課題・展望 外来治療センターの拡充でがん化学療法をより充実化
院内外の連携で地域医療を守り続ける

がん治療における入院から外来への移行が進む中、山本副部長は、「患者さんやご家族が安心して、生活の一部としてがん治療を受けていただけるようにするのが私たちの役目」と話す。この役目を果たすべく、看護部門でも院内連携に加えて訪問看護ステーションなど外部との連携も強化し、その人らしい暮らしを維持してもらうための支援に力を入れていると佐藤看護師は言う。薬剤師も同様で、「薬薬連携をより深めることで患者さんをしっかり支えていきたい」と坂野薬剤師が話す。

現在、豊橋市民病院では外来治療センターの拡充計画が進んでいる。実現すれば病床数は約40床まで増え、より確実に外来化学療法のニーズに応えることが可能となる。同センター拡充に伴い、スタッフの確保も急務である。

「抗がん剤だけだった治療が化学療法プラス免疫チェックポイント阻害薬になるなど、従来の治療に新しい薬剤による治療が加わるケースが多く、1件の治療にかかる時間は確実に増えており、場所、人員ともに拡充は必須です。ぜひ良いかたちで拡充を実現すると同時に、これまで以上にセクション同士の連携を深めていきたいと思っています」と藤井センター長。豊橋市民病院が誇る風通しの良さ、最後の砦としての使命感を大切にして、これからも地域医療を守り続けることを目標としている。

KKC-2024-00755-1

外来化学療法 現場ルポ

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