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市立福知山市民病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2024年12月5日公開/2024年12月作成

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病院外観
  • ●病院長:阪上 順一 先生
  • ●開設:1898年(陸軍衛戌病院として開業 )
  • ●所在地:京都府福知山市厚中町231番地

腫瘍内科・血液内科を中心に
専門性の高いがん薬物療法と緩和ケアを提供

地域がん診療連携拠点病院として京都府北部エリア、診療科によっては北近畿エリア全域まで含めたがん診療において中心的役割を担っている。特に地域の他医療機関に腫瘍内科や血液内科が少ないこともあり、患者が集中する傾向がある。外来化学療法は、周術期は主科が中心に、転移性の固形がんなどは腫瘍内科が中心に、というように主科と腫瘍内科が連携しながら進めている。外来化学療法室は空間に余裕があって景色も良いなど快適な環境にあり、専従のがん化学療法認定看護師はじめシフト制で待機する当番医などによって安全に運用されている。

1. がん医療の特徴 京都府北部エリアのがん医療の中心
この10年で各診療科の体制を強化

原田 大司 腫瘍内科医長/緩和ケアセンター長

原田 大司 腫瘍内科医長/緩和ケアセンター長

市立福知山市民病院は1898年、陸軍衛戌病院として福知山市内に開院した。1945年には国立福知山病院となり1970年に現在地に移転。国からの経営移譲により1993年10月に市立福知山市民病院となった。1996年には放射線治療専用施設が完成。2006年6月に地上7階建ての新病院が竣工し、翌2006年1月には地域がん診療連携拠点病院に指定されている。

「従来はごく一般的な市立病院でしたが、ここ10年ほどで診療科も人員も増えてきました。北近畿エリアには血液内科や腫瘍内科は当院にしかなく、地域の他の医療機関に少ない診療科も擁しておりがん診療の中核病院となっています」と、地域のがん医療における市立福知山市民病院の位置付けや役割を、原田大司腫瘍内科医長(緩和ケアセンター長兼務)が紹介する。

原田医長は、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医であり、日本内科学会総合内科専門医、日本肉腫学会肉腫専門医・指導医など多くの専門資格を持ち、同院のがん医療に幅広く関わっている。

他の医療機関にない機能を担っていることもあり、同院では受診希望者は基本的には断らずに受け入れている。診療科によっては、兵庫県丹波市、豊岡市、福井県南部地域なども含めたいわゆる北近畿エリア全域からも患者が来院する。

2024年4月現在、同院の病床数は353床、診療科目数は31科。基本理念は「命と健康を守り、信頼される病院」で、6つの基本方針の1つとして「がん治療など高度な医療の推進」を掲げている。

2. 腫瘍内科 さまざまながんの化学療法を
腫瘍内科医が主治医として担う

がんの化学療法は、周術期については主科で担当することも多い。一方、転移性の固形がんの化学療法、皮膚科、整形外科など一部の診療科の化学療法については、全面的に腫瘍内科が担っている。各診療科で治療を行っている段階では主治医はその科の医師が務めるが、化学療法を腫瘍内科で行うケースでは、腫瘍内科医である原田医長が主治医となる。肺がん、婦人科がん、頭頸部がん、骨軟部肉腫、乳がん、皮膚がん、胚細胞腫瘍、原発不明がんなどさまざまながんの化学療法を主治医として担っているのは、市立福知山市民病院腫瘍内科の特徴である。

同院での化学療法の実施総件数は年々増え続けている。その内訳を見ると、入院化学療法は年間2,500〜3,000件ほどで増減しながら推移。一方、外来化学療法の件数はほぼ右肩上がりで、2019年度の3,637件から、2023年度には5,645件まで増えている(図)。化学療法全体の約3分の1は腫瘍内科で担っており、腫瘍内科における化学療法の実施件数も毎年増加する結果となっている。

同科では、化学療法の件数の多い診療科を中心に、定期的にキャンサーボードを実施し、新しく化学療法を開始する患者や主治医などから相談があった症例についての共有・検討を行っている。キャンサーボードの回数が比較的多いのは、消化器内科や呼吸器内科で週1回、乳腺外科が月2回程度。このほかの診療科については、必要に応じて随時、情報共有・意見交換を行っている。

3. 血液内科 北近畿エリアで唯一の血液内科病床を有し
地域連携を推進しながら入院加療を一手に担う

早田 洋樹 血液内科医長

早田 洋樹 血液内科医長

西山 大地 血液内科医長

西山 大地 血液内科医長

血液内科は、平川浩一副診療部長兼血液内科医長、早田洋樹同医長、西山大地同医長の常勤医3名体制で、年度によっては大学病院からの派遣医なども加わり専門医療を提供している。早田医長、西山医長は、日本がん治療認定医機構がん治療認定医の資格を持つ。

北近畿エリアで血液内科病床を持ち、入院加療を行っているのは同院だけである。血液内科外来がある各地の中核病院からも、入院が必要になった患者はほとんどの場合、同院に紹介されてくる。悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病の三大造血器腫瘍をはじめすべての血液疾患を対象とし、依頼のあった患者は原則すべて受け入れている。近年の入院ニーズの高まりや、リスクの高い化学療法が増えていることなどを受け、血液内科病棟では従来7つあった個室クリーンルームに加え、2024年4月には4床のクリーンルームを増設した。

造血幹細胞移植は自家移植、同種移植ともに実施し、近年の二重特異性抗体療法や再生不良性貧血、免疫性血小板減少性紫斑病などの難病疾患に対する免疫療法なども担っている。また、初診から積極的な治療、緩和ケア、看取りまでトータルに担っているのも同科の特徴である。

地域で唯一の血液内科病床という限られた医療資源を最大限活かすため、近隣医療機関との連携にも力を入れている。地域連携室を介した連携はもちろん、各病院の血液内科医、内科医、薬剤師、看護師、MSW、クリニックの先生方などと顔の見える関係を構築し、地域全体で患者を診る仕組みづくりを進めている。「入院治療を当院で行い、その後、患者さんを地域にお返しするといった循環を促進するだけでなく、必要に応じて電話やオンラインで患者さんに関する相談にお応えし、検査データなどを共有しながら、より適切な時期にご紹介いただくといった工夫も重ねています」と西山医長。

血液内科が以前から取り組んでいた地域連携に、特に力を入れるようになったのは、早田医長と西山医長が診療体制に加わった2021年頃からだ。両名は機会を見つけては近隣の関係者と勉強会を開いたり、他の地域へ出向いて講演を行ったりしながら気軽に連絡し合える関係を深めてきた。「リスクの高い移植などは、大学病院や京都市内の大病院に速やかに紹介できる関係も築いています」と早田医長が言う。

もう1つ、同科の大きな特徴として、早田医長、西山医長がともに日本内科学会総合内科専門医であることが挙げられる。「内科疾患全般を診ることができますので、血液疾患に限らず、血液疾患ライクな症候の患者さんも積極的に診て、診断するところから関わっています。診断後、他科に委ねたほうが適切であればそうしますし、私たちが診ることのできる疾患であれば、継続して診ていきます」と、Generalist とSpecialistを融合した、"Genespelist(造語)"を実践し、幅広い患者を受け入れる様子を西山医長が語る。

4. 緩和ケア 多職種チームが主治医をサポート
「緩和ケア外来」は他院の患者も受け入れ

緩和ケアについては、主治医を中心に提供し、依頼に応じて緩和ケアチームがサポートする。その中で、症状緩和がどうしてもうまくいかないケースなどは、緩和ケアセンター長である原田医長や早田医長、西山医長が担当医となることもある。

緩和ケアチームのメンバーは、医師が原田医長、早田医長、西山医長を中心に、消化器内科医、放射線科医、精神科医、家庭医療チームの担当医などが名を連ねる。ほかに、同チーム専従であるがん看護専門看護師、緩和ケア認定看護師、がん化学療法看護認定看護師、公認心理士、MSWなど多職種で構成されている。

「終末期をご自宅で過ごしていただき、家庭医療チームが緩和ケアを提供しながら在宅で看取るケースも増えています」と原田医長が近年の変化を語る。

緩和ケア外来は、原田医長と西山医長が週1回ずつ、合わせて週2回開いている。受診者の多くは院外や院内各科からの紹介患者である。

5. 外来化学療法の取り組み 14床のベッド・チェアを効率的に活用
より良い体調管理のため全員対象の栄養指導を開始

外来化学療法は、「化学療法委員会」を中心に行われている。同委員会は、レジメンの審査・修正、化学療法室の運用や新しい薬剤の導入などについて意思決定する場で毎月1回会合を開いている。メンバーは、化学療法に関わるすべての診療科の医師、薬剤師、病棟師長、がん化学療法認定看護師、がん看護専門看護師、管理栄養士、MSWなどである。

外来化学療法室にはベッド6床、リクライニングチェア8床の計14 床が配備されている。広々した空間に14床が余裕を持って配置され、どのチェアからも外の景色が眺められるのは大きな魅力だ。入口近くにはアピアランスコーナーも設けられ、ウイッグの見本や、地域の高齢者グループがボランティアで手づくりして届けてくれるタオルや毛糸の帽子も並ぶ。ウイッグなどの案内は患者のニーズを見極めながら看護師が個別に随時行っている。

同室の病床は完全予約制で、事前に各科の主治医が予約を入れる仕組みだ。患者は当日、主治医の診察を受け、化学療法の実施が決定したら外来化学療法室に移動して点滴治療を受ける。がん化学療法看護認定看護師で外来化学療法室専従の西川慶子副看護師長が、同室の看護師の配置や取り組みについて、次のように紹介する。

「外来化学療法室には、外来診療棟所属の看護師が交代制で毎日5名、配置されます。このうち1名が全体を把握するリーダーとなり、他の看護師は穿刺やセルフマネジメント支援、患者案内などを分担して担います。1人の看護師が外来診察室と外来化学療法室両方に勤務し、いろいろなかたちで患者さんに関わることで、一人ひとりの患者さんの治療の全体像を把握できるのは、この仕組みの利点だと思います。専従看護師である私は、前日に予約状況を確認し、投与中の注意や、症状マネジメント、セルフマネジメント支援などで介入が必要かなどを患者さんそれぞれについて確認し、必要であればあらかじめ計画を立て、朝のミーティングで共有し、当日のスタッフとともに適切に実施しています。近年は介助の必要な高齢患者さんなども増えていますので、点滴中の見守りを強化し、トイレへの移動に看護師が付き添うなど、安全管理にも細心の注意を払っています」

薬剤師は、初めて外来化学療法を受ける患者や、内服の抗がん剤を併用している患者などを対象に、外来化学療法室で服薬指導を行っている。管理栄養士による栄養指導にも力を入れており、2024年度からは、外来化学療法を受ける患者全員を対象に、なるべく早い時期に個別の栄養指導を行うようになった。「食事に関する困りごとが生じる前に患者さんに知識を身につけていただくことで患者が食欲低下や味覚障害の対処ができ、食事に関するニーズが満たせることを目指しています」と西川副看護師長が言う。

外来化学療法の導入となる患者は1月あたり平均20名。全員対象の栄養指導を開始して約半年になるが、西川副看護師長らは成果に期待を寄せながら、患者へのアンケート調査なども進めている。

外来化学療法の件数は前述した通り、2023年度実績で5,645件。14床の病床に対し1日平均24.4件と、1日2回転近く行っている計算だ。そのため所要時間の長い治療については朝一番から、短い治療については午後の時間帯というように、各科の医師の協力を得ながら、できるだけ効率的に病床を使えるように工夫している。

なお、西川副看護師長はがん化学療法看護認定看護師として、入院化学療法にも関わっている。近年、力を入れているのは、病棟看護師のスキルアップだ。同院では、臨床での技術獲得に向け、静脈注射の院内認定制度を設けているが、この指導を西川副看護師長が担っている。静脈注射の技術認定を受けた看護師が増えることで、従来は医師のみが行っていたがん薬物療法に係る穿刺業務を看護師にタスクシフトでき、これが医師の業務負担の軽減にもつながっている。

6. 今後の課題・展望 看護師一人ひとりのスキルアップ
診療体制の充実化と情報発信に努める

西川副看護師長によれば、看護師の介入が必要と思われる患者についてはできる限り外来看護師が対応している。その中で、より専門的な介入が求められる患者は、速やかにがん看護専門看護師や各種認定看護師につなぐシステムを整えているところだという。また、看護師一人ひとりについては、「患者さんの背景をしっかりと理解し、コミュニケーションの目的を明確にして、意図的な関わりができるようにスキルアップしていきます」と話す。そのためにも、研修やOJTの機会を増やしていきたい考えだ。

西山医長は、血液内科で今後、力を入れたいこととして、良い医療を持続的に提供できる仕組みの構築を挙げ、「現在は専門医が3名と比較的充実した人員体制を維持できている当科ですが、異動などで体制が変わる可能性は常にあります。もし人員が減っても、数多くいらっしゃる患者さんたちに変わらぬ内容の医療を提供し続けるためにも、大学病院や京都市内の大病院との連携をいま以上に強化したり、教育体制をさらに充実させたりといった努力をしていきたい」と話す。

早田医長も同様の問題意識を持っているという。その上で「人員補充も重要」と言い、「現在、私たちは京都市内の大病院の血液内科に匹敵する数の患者さんを診ていますが、医師3名という数は、患者さんの数の割には少ないと思います。それでもしっかり診療できているのは、院内外との連携など、我々の努力の成果と自負しています。今後は、志のある医師に一緒に働きたいと思ってもらえるように、豊富な症例や自分たちの取り組みについて積極的に発信していきたいと思います」と言う。

同院唯一の腫瘍内科医として奮闘している原田医長は、腫瘍内科医の増員を強く希望し、「人員が充実することは、医師の疲弊を防ぐだけでなく、医師と患者さんがじっくり向き合う時間を確保し、より満足度の高い診療を実践することにつながるのです」と強調する。がん薬物療法の選択肢が増え、副作用管理なども複雑化する中、腫瘍内科医への期待は高まるばかりだ。市立福知山市民病院腫瘍内科の体制強化は、地域全体の要請ともいえそうだ。

KKC-2024-00742-1

外来化学療法 現場ルポ

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