地方独立行政法人宮城県立病院機構
宮城県立がんセンター
[外来化学療法 現場ルポ]
2024年12月19日公開/2024年12月作成
- ●総長:山田 秀和 先生
- ●病院長:佐々木 治 先生
- ●開設:1967年
- ●病床数:383床
- ●所在地:宮城県名取市愛島塩手字野田山47-1
顔の見える多職種連携を強みに
質の高い外来化学療法の実践に取り組む
宮城県立がんセンターは、東北地方で唯一のがん専門病院として最先端の高度医療の提供に取り組んできた。近年は、「がんゲノム医療連携病院」に指定され、東北大学病院と協力しながらがんゲノム医療にも注力している。外来化学療法は年間8,000件余りの実績があり、その件数はさらに増加している。外来化学療法の安全性と効率化を図るために、各診療科外来では看護師による診察前問診を行うほか、化学療法室においても看護師を中心に薬剤師、管理栄養士など多職種連携による安全で確実な薬物療法の実践に取り組んでいる。
1. 病院の特徴
東北地方で唯一のがん専門病院として
最先端の高度医療を提供
宮城県立がんセンターは1967年に開設された宮城県成人病センターを前身とする。1993年に現在の名称に変更するとともに新築された建物に移転し、病床数が200床から308床(現在383床)に増床。同時に研究所も新設された。以来、東北地方で唯一のがん専門病院として最先端の高度医療の提供に取り組んでいる。
近年はロボット支援下手術を積極的に導入し、2019年4月には「低侵襲外科センター」を開設。泌尿器がんから開始し、年を追うごとに胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんなど、その適応範囲を拡大してきた。
また、2018年には「がんゲノム医療連携病院」に指定され、東北大学病院と協力しながらがんゲノム医療にも注力。2019年9月には「がんゲノム医療センター」を開設し、多数の遺伝子パネル検査を実施できる体制を整備した。現在では他施設から引き受けた遺伝子パネル検査の結果について、複数の医療機関と一緒にWEB会議で検討する機会も増えている。
さらに、宮城県立がんセンターでは最先端医療の提供とともに「がん患者さんを肉体的・精神的にサポートする」ことを重要な役割として掲げており、現場の医療スタッフが一丸となって支えている。
2. 外来化学療法センターの特徴
各診療科外来の看護師と連携し
「診察前問診」を全患者に実施
第一外来が運営する外来化学療法室は、13診療科のがん薬物療法の実施に携わっている。その運営は主に看護師が担っており、配属された約31名のうち、常時6~10名の看護師が勤務している。また、外来化学療法室に隣接して腫瘍内科外来が配置されており、アナフィラキシーショックなど緊急性の高い処置が必要な場合、主治医の対応が間に合わないときは、代わりに腫瘍内科医が対応する仕組みだ。
2023年度の外来化学療法の実績は8,079件。コロナ禍以前も増加傾向にあったが、コロナ禍以降は院内感染のリスクを低下させるために外来化学療法を実施する患者がさらに増えた(図1)。
「後期高齢者が患者の多くを占める中、新型コロナウイルスの感染リスクだけでなく、患者さんのQOLや身体機能・認知機能の維持を考慮すると、外来治療のほうがメリットは大きいと感じています。入院の場合、健康のベースとなる睡眠や排泄のリズムが崩れ、弱ってしまう高齢者も少なくないのです」と大塚和令腫瘍内科診療科長は指摘する。
外来化学療法室のニーズが高まる一方で、運営体制は限界に達しつつある。「病床数は25床(ベッド19床、リクライニングチェア6床)しかないため、ベッドは1日に2回転半しており、多いときは1日70件の化学療法に対応しています」と門馬仁美がん化学療法看護認定看護師は打ち明ける。
このような事情もあり、以前から取り組んでいた安全対策により一層力を入れるようになった。各診療科外来の看護師は使用している薬剤のアセスメントをした上で、診療前問診を行っている。外来化学療法室では、各診療科外来の看護師と連携し、問診票にもとづき、副作用症状を中心に自宅での生活の様子を聞き取っている。
「情報を集めるだけでなく、その患者さんのセルフケア能力と周りのサポート体制も確認します。そこを見極めて、問題がある場合はより専門性を持ったスタッフにつないだほうがよいのかを判断するのです」(門馬看護師)。
また、がん薬物療法の可/不可、支持療法の変更/追加など医師に判断してほしい案件に関わることを急患から聴き取り、その内容を記載するルールで問診票は運用されている。「看護師が事前に確認してくれている内容を外来診察中に聞き取ることは時間的に難しく、診療の質と安全性、効率を高めるうえで本当に助かっています」と大塚診療科長は評価する。この診察前問診は、すべての診療科を対象に外来でがん薬物療法を受けている全患者に行われている。
一方、入院でがん薬物療法を開始した患者には、入院中に外来化学療法室を見学するオリエンテーションプログラムを設けている。「これは、安全に通院治療へ移行する目的で行われ、外来化学療法室事前チェックリストをもとに見学を実施しています」(門馬看護師)。
チェックリストには車の運転を禁じられている薬剤を精査する項目が設けられており、車の運転の可否および来診方法を確認している。また、緊急連絡先のことなど患者が知っておくべき項目を列記し、誰が対応しても指導に抜け漏れがないよう仕組みを整えている。
3. IVナース認定制度
1年かけて育成したIVナースが
穿刺業務を含む投与管理を担当
安全性を高める工夫は、外来化学療法室でも行われており、毎朝8時30分から看護師と薬剤師でミーティングを開いて情報共有を図っている。「1日の実施件数がとても多いので、その都度打ち合わせるのでは間に合わない。安全性を担保するうえで最初に打ち合わせることが肝心です」(大塚診療科長)。
このミーティングのために、外来化学療法室の看護師は前日までに患者の情報収集に努める。「患者さんの身体状態、心理状態、生活状況、介護状況、家族関係など、多岐にわたって細かく電子カルテから情報を拾い出します。それをもとにミーティングでは、転倒歴があるから移動の際には注意してサポートする、頻尿傾向が強まる薬物を投与されているのでトイレ近くのベッドに配置するなど、具体的な対策について話し合います」(門馬看護師)。
また、事前に投与管理に関わる情報収集も詳細に行っている。外来化学療法室では「Ⅳ(静脈注射)ナース」と呼ばれる院内認定資格を取得した看護師が穿刺業務を含め、投与管理を担当しているからだ。ミーティングでは薬剤の特性やアレルギーリスクなど安全な投与管理について薬剤師と情報共有している。
「日々更新される200以上あるレジメンの内容を把握しながら、薬剤師と緊密に連携し、安全にがん薬物療法を実施できるよう努めています。外来化学療法室の2023年度の血管外漏出率は0.13%です。実施件数が増加しているにもかかわらず漏出件数は少ないので、質の維持・向上が実践されていると評価しています。日頃のトレーニングの成果です」(門馬看護師)。
IVナースの認定資格を取得するには、指定の講義を受けた後、知識と技術の試験に合格しなければならず、約1年かかるが、第一外来に配属された31名の看護師のうち、有期雇用者を除く8割の看護師が取得している。
「薬剤の流量を時間で増やしていくもの、点滴ラインをタブルで投与するもの、フィルターありで投与していたのにフィルターなしに変更になるものなど、近年は複雑な投与が多くなっている中、安全性を高めていくうえでIVナースの存在はますます重要になってきています」と大塚診療科長はさらなる活躍を期待する。
4. 薬剤師の役割
薬剤師と管理栄養士が常駐サポート
公認心理師、ソシオエステティシャンの支援も
外来化学療法室では、2015年に新設された「がん薬剤師外来」を担当する3名のがん専門薬剤師が中心となり、積極的に患者のサポートに取り組んでいる。
「十分な時間がとれない外来診療の中、短時間で質の高い薬学的管理を行うには専門資格者が対応したほうがよいという薬剤部長の方針のもと、我々がん専門薬剤師ががん薬剤師外来を担当しています」とがん専門薬剤師の林克剛主任薬剤師は説明する。
曜日担当制が原則だが、初回治療で担当した患者は同じ薬剤師が継続的にフォローしていく。また、薬物療法を受けるすべての患者に対応しており、月の実施件数は延べ440件前後に上る。外来化学療法室で薬剤を投与する患者に関しては自動的に服薬指導を行う仕組みとなっている。「安定している患者さんでも月1回は面談します。治療時間を有効に活用するためにベッドサイドで面談をすることが多いです」(林主任薬剤師)。一方、内服薬を服用している患者の場合は、医師の診察前にがん薬剤師外来を実施しており、副作用情報の収集・評価および診察前の処方提案を通して、医師の診察時間の短縮にもつながっている。
「外来化学療法室で対応している患者さんには、毎回レジメンの内容を記載した用紙を渡し、かかりつけ薬局に提出してもらっています。薬局薬剤師による患者フォローアップにご活用いただけるとありがたいです。地域の保険薬局との薬薬連携を推進するために定期的にセミナーを開催しています」と、がん薬剤師外来を担当するがん専門薬剤師の内田敬主任薬剤師は話す。薬薬連携がんセミナーは、宮城県立がんセンターの所在地である名取市近郊の薬局を中心に年1〜2回、定期的に開催しており、コロナ禍以降はオンライン開催となっている。
一方、外来化学療法室には管理栄養士が毎日1名配属されている。「各診療科の外来看護師が行う診察前問診では、栄養指導の希望について確認しています。栄養サポートを必要とする患者さんを抽出して、対象患者さんの治療中に管理栄養士がベッドサイドで栄養指導を行っています。また、外来化学療法室の看護師が患者さんのニーズを拾い上げ、タイムリーに管理栄養士につなぐこともあります」(門馬看護師)。
必要に応じて多職種による専門スタッフのサポートを受けることも多い。例えば、骨転移の治療を行っている人には事前に歯科を受診してもらう。薬剤の種類によっては事前に口内炎の予防を依頼することも少なくない。また、外来化学療法室の看護師が気分の落ち込みが続く患者と家族をキャッチして、看護外来や患者サポートセンターに配属されている公認心理師につないでいる。
患者と家族のサポートについて、看護外来の専門・認定看護師たちも積極的に対応する。「月4回のがん化学療法看護外来では、レジメン変更の際の意思決定支援や副作用症状を軽減するためのセルフケア支援とともに心理・社会的苦痛への対応も行っています」(門馬看護師)。
さらに、アピアランスケア外来では、この分野の専門職であるソシオエステティシャンが週1回、スキンケアや爪割れのケア、メイクトレーニング、ウィッグ・補整下着のアドバイスや試着・装着練習などに携わっている(2023年11月現在)。「外見を含め、生活全体の質を高めるようなケアを受けることは患者さんにとってよい気分転換となり、気に入っている患者さんが多いです。新たな気持ちで治療に臨める、そういった効果も大きいです」と大塚診療科長は歓迎する。
5. 展望と課題
安全性を確保する観点からも
待ち時間の短縮が喫緊の課題
外来化学療法室が直面している課題は「待ち時間の短縮」だ。そのためには1日の実施件数を減らす必要があり、曜日の分散などの工夫を凝らしているが、対応にも限界があり、根本的な解決には至っていない。
「それ以外はシステマティックに診療体制が組まれており、かなりよくやっていると思うので、この質を落とさないよう各職種がそれぞれの分野で研鑽しながら多職種連携を基本に取り組んでいきたいと思います」と大塚診療科長は抱負を述べる。
看護の課題については、多岐にわたるレジメンが次々と承認されており、専門知識を含め、その対応に苦労しているため、がん薬物療法に関する研修の場を積極的に設けることが必要だと門馬看護師は痛感している。「そのうえで、安全性の確保はもちろんのこと、患者さんの心理・社会的側面にも着目し、その人らしく生活を送れるようにQOLを低下させないサポートを、スタッフ全員で提供していきたいと思います」。
風通しのよい診療風土に支えられ、顔の見える多職種連携を強みに、宮城県立がんセンター外来化学療法室は、質の高い外来化学療法の実践に取り組み、患者に安心と信頼を届けている。
KKC-2024-00823-1
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