兵庫県立リハビリテーション西播磨病院
[パーキンソン病 med.front]
2024年2月9日公開/2024年2月作成
- ●病院長:水田 英二 先生
- ●開設:2006年
- ●所在地:兵庫県たつの市新宮町光都1-7-1
全国で数少ない短期集中入院による
リハビリテーションで進行を抑制する効果を狙う
兵庫県立リハビリテーション西播磨病院は全国的に数少ないパーキンソン病の短期集中入院リハビリテーションに取り組んでいる施設だ。患者は兵庫県内・関西圏を中心に各地から訪れ、熱心なリピーターも多い。理学療法・作業療法・言語聴覚療法を3本柱とする標準的なリハビリを中心に音楽療法・園芸療法・スポーツなどを組み合わせ、楽しく継続することを目標にリハビリによる疾患修飾(進行抑制)効果を狙っている。
1. 地域における役割
高齢者へのリハビリを推進しつつ、
特色のあるリハビリにも取り組む
兵庫県では1969年、神戸市に兵庫県立リハビリテーション中央病院(330床)を開院し、交通事故による脊髄損傷などの外傷性疾患のリハビリテーション(以下、リハビリ)を中心に提供してきたが、高齢化や疾病の変化に伴い、増大かつ多様化するリハビリニーズに対応するために、全県的な第2の拠点として2006年4月に兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンターを開設した。その中核医療機関として同年7月に開院したのが、兵庫県立リハビリテーション西播磨病院である。
同病院は、兵庫県西部の豊かな自然に囲まれた播磨科学公園都市にあり、近隣には兵庫県立粒子線医療センターなどもある。「当院は回復期病棟50床、障害者病棟50床の計100床を有し、脳卒中、神経難病、整形外科疾患に対するリハビリを中心に提供しています。超高齢社会を迎えた今、患者さんの大半を占める高齢者へのリハビリを推進していくことが当院の大きな使命です」と水田英二病院長は語る。
一方、同病院では従来のリハビリ医療に加え、認知症やパーキンソン病を対象に特色のあるリハビリにも取り組み、なかでもパーキンソン病の「短期集中入院リハビリ」は全国的にも数少ないプログラムとして注目される。
「パーキンソン病の患者さんにリハビリが必要だというのは時代の要請なのです。近年、パーキンソン病の高齢患者さんが増える中、薬物治療だけではコントロールが難しいことがわかってきたからです」とパーキンソン病をはじめとする神経難病を専門としてきた水田病院長は示唆する。
しかしながら、現行の医療制度上パーキンソン病は回復期病棟の対象外疾患であるため、パーキンソン病の患者が一定期間入院してリハビリを受けられる医療機関が少ないことが課題となっている。同病院の場合、障害者病棟を活用して「短期集中入院リハビリ」を希望する患者を受け入れている。
2. パーキンソン病のリハビリ
患者が効果をより実感できるよう
リハビリ前後の変化を動画で撮影
短期集中入院リハビリを希望するパーキンソン病患者は年間に約200人で、リピーターも多い。基本的に入院リハビリは年1回で、入院すると身体機能を中心に多角的に検査・評価を行ったうえで、患者が保持している身体機能を維持・向上させるための各種リハビリが多職種によって集中的に提供される。
リハビリテーション科と脳神経内科の責任者を兼務する丸本浩平部長によると、兵庫県内・関西圏からの受診者が多く、コロナ禍以前は少ないながらも全国各地から患者がやってきて、その数は増加傾向だったという。受診ルートとしては大学病院、総合病院、クリニックなどに在籍する専門医からの紹介のほか、患者や患者団体からの口コミで短期集中入院リハビリのことを知り、主治医に紹介状を書いてもらったというケースもある。早めのリハビリや運動療法の重要性が認知されてきたこともあり、進行期だけでなく早期の患者も利用する。
「専門外来は設置しておらず、脳神経内科とリハビリテーション科の医師が紹介患者さんを受けています。入院前に外来を受診してもらい、診察だけでなく、患者さんやご家族の思いを必ず確認したうえで入院判定をします。家族の強い勧めによって始めると、後々しんどい思いをすることがあるので、本人がリハビリを希望しているかどうかを重視しています」と丸本部長は説明する。
短期集中入院リハビリのコースは、①PDスタンダードコース、②LSVT LOUD®コース、③LSVT LOUD® Brush Upコース、④LSVT BIG®コース、⑤LSVT BIG® Brush Upコースの5種類が用意されており、医師の判断のもと適切なコースが選定される。同病院では米国で開発されたパーキンソン病のリハビリの一種であるLSVT LOUD®やLSVT BIG®に早くから注目し、早期の患者を中心に積極的に取り入れてきたことも特徴の一つである。
これらのリハビリを患者に指導するのは理学療法士(全24名)、作業療法士(全22名)、言語聴覚士(全12名)。また、必要に応じて公認心理士(全3名)、音楽療法士(全1名)、園芸療法士(全1名)が患者の診療や訓練を受け持つ。
「公認心理士がリハビリ部門に在籍しているのも全国的に珍しいと思います。当院の公認心理士は神経心理の専門家で、主に高次脳機能や認知機能を判定・評価し、リハビリスタッフがどのように患者さんに関わるのが効果的かをアドバイスしてくれます」と理学療法士の沖西正圭リハビリ療法部主任理学療法士は公認心理士との連携について説明する。
各コースのうち、PDスタンダードコースは標準的なプログラムで、理学療法、作業療法、言語聴覚療法の3つの基本的なリハビリを提供する。さらにオプションで音楽療法や園芸療法を選択することも可能だ。また、センターに併設されている「ふれあいスポーツ交流館」の体育館や運動場、プールを使って卓球やグランドゴルフ、水泳などを楽しめる時間も提供している。
「ときには好きなことや楽しいことをしないとドーパミンが出ませんから。基本的なトレーニングを入れつつ、患者さんの好みに応じて音楽療法や園芸療法、スポーツなどにも取り組んでいただくことが重要だと考えています。楽しいと感じる患者さんのほうが効果は出やすく、自宅に戻ってからのリハビリ継続や定期的なリハビリ入院の利用にもつながりやすいと思います」と丸本部長はレクリエーション要素の高い訓練を取り入れるメリットを説明する。
もちろん基本のリハビリに関しても笑顔で取り組んでもらうことを目標にしている。「そのためには患者さんが効果を実感することが大切です。リハビリによって改善されている部分、例えば、歩行速度や歩幅、姿勢、発音の明瞭さ・声の大きさ、ADL動作などの変化をたくさん見つけ、患者さんにフィードバックすることでリハビリを続ける意欲が高まります」と沖西理学療法士は話す。その際には、患者が効果をより実感できるようリハビリ前後の変化を写真や動画で撮影し確認してもらう工夫も凝らしている。
3. パーキンソン病の看護
集団リハビリやピア活動を導入し、
交流を促すことで患者の意欲を向上
一方、病棟では看護師が主体となってパーキンソン病患者をサポートする。「患者さんが薬物治療やリハビリを万全の態勢と状態で受けられるように支えていくことが看護に与えられた重要な役割の一つだと考えています」と病棟看護師の山本洋史日本難病看護学会認定難病看護師は語る。そのためには、患者を継続的に観察し、心身の状態を評価したうえで対応することが不可欠で、山本看護師は継続看護の実践を掲げ、病棟だけでなく外来看護師とも連携しながら取り組んでいる。
また、看護師が早くから力を入れてきたのが病棟での集団リハビリだ。「個別のリハビリを好む患者さんがとても多いのですが、一人で黙々と取り組んでいると抑うつ的になることもあり、人と関われる場所が必要だと考えて集団リハビリの運営を開始しました」と山本看護師は経緯について語る。
この集団リハビリは約10年にわたって継続してきたものの、コロナ禍により集団行動ができなくなったことと集団リハビリに対する満足感が高まらなかったこともあり、見直しを図った。「今年から提供している新しいプログラムはパーキンソン病に関する"教育"を中心に据えています。調子が悪いと入院してきた患者さんの薬物管理を看護師がきっちりすることですぐによくなる人が多く、自己管理ができていれば自宅でしんどい思いをしながら生活をすることも減るだろうと考えたのです」と山本看護師。そこで、早期患者を対象に教育プログラムを提供し、自宅での生活をスムーズに行えることに加えて、パーキンソン病の進行をできるだけ遅らせるのに役立つことを目指している。
同時に患者への働きかけとして、医師やリハビリスタッフと協力しながら患者が「ピア活動」に参加するきっかけづくりにも取り組んでいる。「病棟は出会いの場でもあると思うのです。院内ではラジオ体操や音楽をはじめ、さまざまな患者さんの自主グループが活動していますので、入院時に"こんなグループがあるよ"と紹介しておくと、自発的に参加される患者さんも少なくないのです。こうしたグループ活動を通して入院生活に楽しみが生まれ、日常のリハビリにも意欲的に取り組めるようになります」と山本看護師はピア活動のメリットについて話す。また、退院後もSNS上で交流を続ける患者が多く、それが自宅でのリハビリ継続にも役立っているという。
4. パーキンソン病の管理
関連する診療科が緊密に連携して
全身をチェックし多彩な症状に対応
入院の主目的はリハビリだが、同病院では患者が入院している間にさまざまな検査を実施し、心身の状態を多角的に評価して、その情報を紹介元の主治医にフィードバックしている。「年1回の健康診断のようなものです。患者が混み合っている外来診療では脳のCTやMRIの検査くらいしかできませんので、全身的な検査は患者さんにも主治医にも喜ばれています」と丸本部長。
このような付加価値の高いサービスを提供できるのも、各診療科の垣根がなく連携がよいからだと丸本部長は話す。「例えば、認知症を含めて認知機能の評価は物忘れ外来を担当する精神科や脳神経内科が、脳疾患や神経疾患を起因とする神経因性膀胱や排便の問題は泌尿器科が、圧迫骨折の発見やその痛みのマネジメントは整形外科が担当するなど、早期発見から専門的治療、予後予測を考慮した対策まで行いやすい環境があります。多彩な症状を併せ持つパーキンソン病の患者さんに総合的に対応できるのは当院の強みの一つです」と丸本部長は胸を張る。
また、退院後の生活を見据えて介護支援体制を整備することもある。「身体機能が低下しているのに介護保険サービスがしっかり導入されていないケースも多いのです。サービスの手続きを案内するだけでなく、福祉用具を具体的に提案したり自宅の改修工事を含めた環境調整を行います。当院のリハビリで得られた状態を維持できるように暮らしの支援を行うことも私たちの役割の一つであると考えています」(丸本部長)。
5. 展望と課題
薬物・リハビリ・ケアを組み合わせ、
補完し合う治療法の開発を目指す
パーキンソン病は根本的な治療法が確立しておらず、薬物治療だけでは限界があるため、症状コントロールや進行遅延の面においてリハビリの効果が期待されている。しかし、丸本部長によると、症状の進行を抑制するような疾患修飾性のある治療法としての明確なエビデンスはないという。「ただ、薬物治療と組み合わせたリハビリには、大きな可能性があると感じています。というのも、薬が効きやすい症状とリハビリの効果がみられる症状は違うからです。例えば、姿勢異常、すくみ足、嚥下障害などのほか、認知機能の低下や抑うつ状態、便秘、排尿障害といった非運動症状にもリハビリの効果が期待できます」。
多々のリハビリ入院を通してこうした手応えを強く感じる今、「薬剤が効きにくい、あるいは対応しにくい症状へのリハビリやケアの可能性を研究し、そのエビデンスを確立していくことも当院に与えられた使命の一つです」と丸本部長は抱負を語る。
一方、水田病院長は退院後の継続したリハビリシステムが十分ではないと感じている。「将来的にはリモートを活用した遠隔リハビリを研究・開発していくべきだろうと思います」。また、全国でも数少ないパーキンソン病のリハビリを提供する医療機関として人材育成も掲げる。「当院のスタッフの能力を高めるとともに、育成した人材をほかの医療機関に供給し、パーキンソン病のリハビリを普及させる役割も担っていきたい」と水田病院長は意欲的だ。
さらに、水田病院長は地域への貢献も見据える。「私をはじめ、当院のスタッフたちは全員、患者さんに少しでもよくなっていただくことを目標に日々診療やリハビリ、看護に取り組んでいます。それは当院にかかっている患者さん対してだけではありません。地域の患者さんやご家族も同じように、心配事や困り事があれば気軽にご相談いただき、私たちのアドバイスをそれぞれの治療や自宅療養に活用してほしいと考えています。そして、当院の関連施設を含め、持てる力をすべて使って患者さんの暮らしの中で支援できる存在であり続けたいと願っています」。
KKC-2023-01022-1
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