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イノバン[よくある医薬品Q&A]
特殊患者への投与
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イノバンは腎障害のある患者や透析患者に投与する場合、用量調節は必要ですか?
イノバンは腎機能障害時及び透析時にも通常量使用可能な薬剤です。
[参考資料]
「腎機能別薬剤使用マニュアル」(薬業時報社), P512023年10月更新
MA-2023-260
副作用・安全性
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イノバンが血管外漏出した場合の具体的な処置方法は?
イノバンが血管外に漏出した場合、ドパミン塩酸塩のα作用により漏出部位の血管が収縮し、漏出部位が冷たく青白くなって壊死に至ることもあります。漏出時の処置方法としては、文献的にはα遮断薬であるフェントラミンを漏出部位に皮下注するとしている報告が多くあります1)-5)。
USPDI(米国薬局方医薬品情報)には具体的な方法として「漏出後12時間以内に5~10mgのフェントラミンを含む生理食塩液10~15mLを皮下投与すれば速やかに症状が回復してくる」旨の記載があります。また、フェントラミン以外による処置方法として、2%ニトログリセリン軟膏の塗布が有効であったとする報告もあります6),7)。(なお、ニトログリセリン軟膏は日本国内では発売されていません。)
添付文書には以下の記載があります。
14.適用上の注意
14.2 薬剤投与時の注意
血管外へ漏れた場合、注射部位を中心に硬結、又は壊死を起こすことがあるので、できるだけ太い静脈を確保するなど慎重に投与すること。
[参考文献]
1) Siwy B.K. ,et al.:Plast. Reconstr. Surg.,80(4),610-612 (1987)
2) Subhani M. ,et al.:J. Perinatol.,21(5),324-326 (2001)
3) Stetson J.B. ,et al.:Canad. Anaesth. Soc. J.,24(4),727-733 (1977)
4) Goldberg L.I,et al :Prog Cardiovasc Dis,19(4),327-340 (1977)
5) 清藤英一:「過量投与時の症状と治療 第2版」(東洋書店), p4
6) Denkler K.A. , et al.:Plast. Reconstr. Surg.,84(5),811-813 (1989)
7) Wong A.F. , et al.:J. Pediatr.,121(6),980-983 (1992)2023年10月更新
MA-2023-260
過量投与
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イノバンを過量投与した時にどのようなことが予測されますか?
イノバンを過量投与した場合、α受容体を介した作用が優位にあらわれ、末梢血管収縮作用による過度の血圧上昇、四肢末梢の循環不全や、特に重篤な場合には壊死や散瞳、光反射の消失が現れることがあります。
イノバンの作用時間は非常に短い(半減期は約2分)ため、減量又は投与を中止すれば症状は徐々に安定するので、一般に特別な処置を要しませんが、必要であれば症状に応じてα遮断剤の投与等適切な処置を行います1)2)。
添付文書には以下の記載があります。
13.過量投与
13.2 処置
患者の状態が安定するまで投与速度を落とすか一時的に投与を中止する。必要な場合にはα-遮断剤の投与等適切な処置を行う。
[参考文献]
1) 清藤英一:「過量投与時の症状と治療 第2版」(東洋書店), p4
2) 花宮秀明,他:救急医学 7(11),1707-1710(1983)2023年10月更新
MA-2023-260
配合変化・安定性
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イノバン注と他の注射剤との配合によって着色変化するものがありますが、どのような機序でそのような着色変化が生じますか?
ドパミン塩酸塩が酸化的分解を受けメラニンを生じるためとされています。この反応には酸素と液性(アルカリ性:pH8以上)が関与することが知られており、経時的に着色し、微黄色→黄色、微赤褐色→褐色→黒色と進行します。従って、本剤はアルカリ性薬剤との混合は避ける必要があります。又、酸素も酸化的分解反応に関与しているので輸液との混合等注射液の調製は投与直前に行うことが望ましいです1)2)。
イノバン注の添付文書には以下の記載があります。
14.適用上の注意
14.1 薬剤調製時の注意
pH8.0以上になると着色することがあるので、重曹のようなアルカリ性薬剤と混合しないこと。
[参考文献]
1) 森山圭雄:薬局, 28, (4) 473- 477(1977)
2) 森山圭雄:薬局, 30, (4) 643 -649(1979)2023年10月更新
MA-2023-260
体内薬物動態
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イノバンの薬理作用は投与後どの位の時間で消失しますか?
ドパミン塩酸塩は体内での代謝が極めて速く、薬理作用は投与終了から数分で消失します。
参考としてUSPDI(米国薬局方医薬品情報)には、作用持続時間は10分以下、血漿中半減期は約2分と記載されています。2023年10月更新
MA-2023-260
薬理作用(作用機序)
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イノバンは、用量によって薬理作用が変化するといわれていますが、どのように変化しますか?
イノバンはα、β及びドパミン受容体に作用し、投与量に応じて異なった薬理作用、臨床効果を示します。個人差がありますが、一般的には低用量から高用量に応じて次のような作用が考えられます。
低用量(2μg/kg/分以下)では、ドパミンシナプス後(DA1)受容体を刺激し、腎動脈拡張作用による糸球体濾過量の増加と腎尿細管への直接作用により利尿を示します。
中等度の用量(2~10μg/kg/分)では、β1受容体刺激作用と心臓および末梢血管からのノルアドレナリン放出増加により、陽性変力作用、心拍数増加、α1受容体刺激による血管収縮作用をもたらします。
高用量(10~20μg/kg/分)では、α1刺激作用が優位となり血管抵抗が上昇します。
添付文書には以下の記載があります。
6.用法及び用量
通常ドパミン塩酸塩として1分間あたり1〜5μg/kgを静脈投与し、患者の病態に応じ20μg/kgまで増量することができる。 投与量は患者の血圧、脈拍数および尿量により適宜増減する。
[参考資料]
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)2023年10月更新
MA-2023-260 -
イノバンを継続投与または反復投与した際に効果減弱(いわゆる薬剤耐性)を生じることがありますか? また、その機序はどのように考えられますか?
イノバンを継続投与または反復投与した際、循環機能維持のためには投与量の増加が必要となることがあります。イノバンはα、β、ドパミン受容体を介して、循環動態に作用する薬剤であり、イノバン投与時の効果減弱には、β受容体のダウンレギュレーション(受容体数の減少、感受性の低下)が関与していることが考えられます。一方、ドパミン受容体のダウンレギュレーションについての報告はなく、詳細はわかっていません。
一般的に、カテコールアミンを反復投与すると、しだいにその効果が減弱する現象がみられ、β受容体のダウンレギュレーションによることが認められています。推察されている機序は以下のとおりです。
●カテコールアミンに対する機能的受容体数の減少
受容体の陥入・・・β受容体は効果細胞膜内に存在するが、過剰のカテコールアミンの作用により受容体が細胞質内へ移動し、機能を果たせなくなります。この現象は早期に生じます。
受容体数の減少・・・長時間、効果細胞が通常以上のカテコールアミンの影響下に置かれると、酵素的に受容体が崩壊され、受容体数が減少します。
●アデニレートシクラーゼ系の機能低下(受容体の脱共役)
アデニレートシクラーゼの活性が低下し、β受容体とアデニレートシクラーゼ系の協調関係が破綻します。
なお、カテコールアミン反復投与後の耐性に対しては、副腎皮質ステロイド投与が受容体の感受性低下を改善するとの報告があります1)。
[参考文献]
1) 小川龍:麻酔 41(3),421-433(1992)2023年10月更新
MA-2023-260