医療法人豊栄会 細江クリニック
[透析施設最前線]
2024年10月15日公開/2024年10月作成
- ●院長:橋本 修 先生
- ●開設:1985年10月
- ●所在地:山口県下関市細江町3-2-16
透析・食事・運動の"3つの量"を基本に
時代を先取りした技術とサービスで透析の質を追求
19床の入院病床を持つ医療法人豊栄会細江クリニックは、1985年10月の開設以来、透析医療を中心に地域医療を展開している。とりわけ2002年4月に橋本修院長が就任してからは、透析の質を高めるべく、健康保険に適用される10年前からオンラインHDF(前希釈)に着手し、長時間透析も早期から推進。2023年には後希釈オンラインHDFへの完全移行を実現した。さらに最近は、腎臓リハビリテーションを本格導入するなど進化を続けている。
目次
1. クリニックの概要と特徴
透析医療の質を追求し続け20余年
後希釈オンラインHDFへの完全移行など進化を続ける
医療法人豊栄会細江クリニックは1985年10月、19床の入院病床を擁する神田内科クリニックとしてスタートした。その2年後の1987年11月に法人化。2007年6月に現在の場所に新築移転し、同年10月、新住所にちなんで『細江クリニック』に名称変更された。診療科目は人工透析内科、内科、リハビリテーション科、リウマチ科である。
2002年4月に院長に就任して以来、20年以上にわたって質の高い透析医療をスタッフとともに追求し続けている橋本修院長は、細江クリニックについて、「維持透析を中心にしつつ、一般的な内科疾患や、膠原病リウマチ外来、シャント造設、再建、PTAなども院内で行っています。早期診断・治療のための設備も整えており、必要に応じて入院治療にも対応しています。2020年から始まったコロナ禍ではいち早くPCR検査装置を導入し、患者さんとスタッフのPCR検査をしっかり行うことで院内感染を最小限に防ぎました。自院ではできない専門的な治療については地域の病院に患者さんを紹介し、急性期を過ぎたら戻ってきていただくシステムも、地域の医療機関との信頼関係のもとで構築しています。制度上の位置付けはあくまで有床診療所ですが、実際の機能は"小さな病院"そのものであると自負しています」と紹介する。
勤続37年になる正田紀代美看護部長兼副院長は、橋本院長が赴任してからの同院の変化を、「それ以前とは別物と言えるほど専門性が高まり、活気が出ました。他の施設がやっていない、制度化もされていない最先端の透析医療をどんどん実践していく院長に、私たちスタッフは必死でついていきました。新しいことを学び、次々にチャレンジを重ねてきた結果が、現在の細江クリニックの姿です。気がつけば患者さんの顔色や体調は見違えるほど良くなりました。私たちと患者さんのお付き合いも長くなり、信頼関係も深まっています」とこれまでの歩みを振り返る。
藤本梨沙臨床工学技士長によれば、前希釈オンラインHDFを開始した際には、当時使用していたすべてのコンソールに独自に補液ポンプなどを附属させ、エンドトキシン除去の目的で2本のダイアライザーをカットフィルター代わりに使用して前希釈オンラインHDFを実施。そして、安全に治療効果を得るために透析液の清浄化が必要であり創意工夫を重ねたという。「装置の設計、エンドトキシン検査や透析液培養の管理方法などについて、独自の厳しい基準を設けて取り組みました。2012年の診療報酬改定後、オンラインHDFは保険適用の治療としてごく一般的に行われるようになりましたが、これを制度的裏付けもなかった2002年に開始したという点で、橋本院長の先見の明はすごいとあらためて感じています」と実感を込める。
他施設に先駆けた最近の取り組みとしては、2023年に着手した、前希釈オンラインHDFから後希釈オンラインHDFへの移行がある。「全国的にも後希釈を採用している透析施設は1割程度で、まだ試験的な段階にある施設も多いと聞きます。そうした新しい技術を全面的に取り入れているのが当院の大きな特徴です」と藤本臨床工学技士長。現在は治療として血漿濾過率設定を用いた後希釈オンラインHDFを実施しつつ、溶質除去性能の検討のため廃液を分析、エビデンスを取る取り組みも並行して実施しており、近く学会で発表する準備も進めている。
もう1つ、1996年にスタートした無料患者送迎サービスもきわめて先駆的である。患者アンケートにより、通院に困難を抱えている人が多いとわかったことから患者の負担軽減目的で開始し、大変喜ばれている。現在は時間にして往復1時間程度、距離にして片道15kmくらいまでを目安に、車椅子対応乗用車2台、7人乗り乗用車1台、軽自動車1台を、ドライバー4名体制(常勤3名、非常勤1名)で稼働させている。当初は多くの競合施設がこのサービスに批判的だったというが、現在は下関市内の9割の透析施設が送迎を実施しているというから、時代の変化を細江クリニックがリードしたともいえる。
細江クリニックのスタッフは2024年4月現在、医師が橋本院長はじめ総合内科専門医、リウマチ専門医などの資格を持つ湯之上直樹副院長、女性内科医の常勤3名と、毎週(木)シャント手術やPTAの応援に稲田医師、そして夜間透析や土曜日の診察、週末の当直などを担当する下関の基幹病院や産業医科大学からの非常勤医8名。看護師は21名、臨床工学技士は11名。ほかにも管理栄養士1名、臨床検査技師2名、放射線技師1名、理学療法士(PT)2名など専門職が多数在籍し、それぞれの分野で力を発揮している。
2. 院長の経歴
透析医療の先進地域、北九州で研鑽
複数の透析施設を立ち上げた経験を下関で発揮
上記のようなさまざまな改革を牽引してきた橋本院長は、透析医療のエキスパートで、日本透析医学会指導医、総合内科専門医などの資格を持つ。1984年に、北九州にある産業医科大学医学部を卒業し同第一内科に入局後、4年目に第一内科腎臓病研究室所属になって以降は一貫して腎臓病の治療に携わっている。
細江クリニックを承継する以前は大学病院の関連病院の透析センター長、その前にも民間病院の透析室長を務めていたが、どちらも橋本院長がゼロから立ち上げた透析部門であり、こうした経験で培った技術や知識、アイデアを、同クリニックで存分に生かしている。
「北九州時代には、済生会八幡総合病院にいらした中本雅彦先生など透析医療の先駆者が主宰するさまざまな研究会に参加し、白熱した議論を重ねながら大いに揉まれました。そのときの経験がいま、私自身の大きな糧になっています」と橋本院長。22年前に初めて下関に赴任したときには、「北九州に比べてずいぶん静かなところだな」と感じたそうだが、その一方で、同クリニックのスタッフは当時から向学熱心で優秀だったと振り返る。
「良いスタッフに恵まれたことで私の考える良質の透析医療が実現できました。私の思い描いた以上の医療機関に成長できたと感じています」と、スタッフへの感謝を口にする。
3. 充実した設備と多様な取り組み
病院並みの検査設備で迅速に診断・治療
保存期CKDの管理、透析患者のフレイル対策も実施
細江クリニックは4階建て。1階には外来診察室や検査室、リハビリテーション室、外来化学療法室など、2階には外来透析室と機械室、3階には入院病棟があり、個室透析室、入院透析室なども併設されている。
外来診察室では、主に腹痛や風邪、感染症をはじめ、糖尿病、高血圧などの生活習慣病の診療と治療を行っている。保存期CKDの診断・管理にも取り組んでおり、現在、約30名のCKD患者が通院している。地域の医療機関からCKD患者が紹介されてくるケースも少なくない。外来のCKD患者に腎代替療法が必要な状態になった場合には、橋本院長が各種療法説明を行い、血液透析を選択した患者にはシャント造設手術などを院内で透析導入している。
検査室では、外部委託を併用しつつ、生化学的検査、血液学的検査、尿検査、生理学検査、PCR検査、透析液中エンドトキシン測定などを行っている。藤山円臨床検査技師によれば、各種検査は、患者ごとに年間スケジュールを立てて管理しており、医師が的確な診断を行えるよう、迅速かつ正確なデータを提供している。これらの検査は、オーダリングシステムとオンラインでつなぐことによって、医師からの検査オーダーから、検体採取、検査の実施、結果報告へとスムーズに進められている。
リハビリテーション室には、筋力トレーニングや、有酸素運動用のマシン、温熱療法機器などが並ぶ。ポータブルの運動機器も完備しており、必要に応じて透析中の患者に使ってもらっている。外来透析患者は透析前にリハビリテーション室で、あるいは透析中にベッド上で運動療法を実施。入院患者のリハビリについては病状に応じて、看護師と理学療法士が連携して支援している。
透析中の運動リハビリは、2024年3月から、これまで以上に本格的に行われるようになった。その目的を吉田友紀PTは、「車椅子を必要とする患者さんをいま以上に増やさないため」と説明する。吉田PTによれば、細江クリニックで透析を受けている170名の患者のうち、26名が80代、10名が90代と、高齢患者が多く、車椅子使用率は約19%にのぼっている(2024年7月現在)。そこで、フレイル・プレフレイルの状態にある患者を対象に、運動療法DVDを見ながら20分程度の運動の実施を推奨している。DVDは橋本院長が厳選。対象者には事前に体力テストを実施し、それぞれの状態に合った運動構成の映像を各ベッド備え付けのモニターに映し出し、それに合わせて運動してもらっている。
このプログラムに参加した患者からは「きつい」といった声がある半面、「足がつりにくくなった」「運動してスッキリした」「透析中なら続けられそう」などポジティブな感想も上がっている。今後は運動の対象を患者全体に広げ、さらには非透析日の運動の習慣化も図っていく計画だ。
化学療法室では、関節リウマチの生物学的製剤療法などリウマチ化学療法を行っている。リウマチの診療は週2回で、産業医科大学の非常勤医が担当。現在は35名のリウマチ患者が継続的に通院している。
4. 透析室
外来49床、入院7床で約170名の透析を実施
最新機器の導入により安全性と効率性を確保
透析ベッド数は透析装置換算で56床。うち49床が2階の外来透析室に並んでいる。外来透析室は大きくABゾーンとCDゾーンの2つに分かれており、それぞれをチームで担当している。チーム構成は正田看護部長が決め、それぞれのゾーンにリーダーを配置し、担当看護師、担当臨床工学技士を指導する。橋本院長や正田看護部長は、外来透析室の中央にあるスタッフステーション周辺で全体を統括し、リーダーが判断に困ったときなどは素早く指示やアドバイスをする。外来透析患者は近年、ほぼ155名前後で推移。大半の患者は下関市内在住である。
外来透析は、朝8:30スタートで、終了時間は月・水・金が23:00、火、木、土が18:00。午前中は高齢患者がほとんどで、月・水・金の15:00以降は、主に仕事を持っている患者が利用している。
透析の効果を上げるため、オンラインHDFを基本とし、できる限り長時間透析を推奨している。橋本院長によれば、現在、全患者の過半数が一般的な4時間ではなく5時間以上の透析を行っており、6〜7時間の患者も20名を数える。この数は、体重増加の多い人などに、長時間透析の効果を橋本院長だけでなく、看護師や臨床工学技士からも繰り返し根気よく説明し続けてきた成果である。
橋本院長は、長時間透析を推奨するベースにある考え方を、「3つの量」という言葉で表現し、「透析の量、食事の量、運動の量。この3つをしっかり確保することが患者さんの元気につながります。しっかり食べて力をつけていただき、その分、透析を十分行います。そのうえで運動を行うことで、筋力、体力を維持していただきたいと思っています」と説明する。
3階の病棟に配置された透析装置は7台。このうち5台は個室に配置されている。「新型コロナウイルス感染症の流行が始まったのは2020年でしたが、当院ではその少し前から、外来透析室への移動が困難になられた患者さんのために個室透析室をつくり始めました。そんな流れの中で感染症の蔓延があり、患者さんの増加に合わせて個室を増やしていきました。その後、4床の病室にも透析装置を2台配置して、2床ごとに週3回ずつ交代で透析を行うようになりました。現在は19床の入院ベッドのうち個室5床、4人部屋1室が透析可能な病室となっており、感染症の人に限らず、入院患者さんの透析をこれらの病室で行っています」と、正田看護部長が紹介する。
透析装置はすべて後希釈オンラインHDFが可能な最新機種で統一している。外来透析室に隣接する機械室には、全自動透析液溶解装置、70床対応の最新多人数用透析液供給装置などが並ぶ。「同一メーカーの最新システムを導入することでシステムの柔軟性が高まり、当院の方針に沿った治療が可能になっています。また、透析通信システム『Future Net Web+』を導入することで、安全で効率的な透析医療を実現しています。最新の機器によって業務の質、効率を上げることは、患者さんとのコミュニケーションの時間を確保することにもつながっています」と藤本臨床工学技士長が最新機器をさまざまな面から活かす様子を語る。
5. チーム活動と人材育成
低栄養予防、運動の習慣化などを多職種チームで支援
信頼関係を重視しながら人材育成
細江クリニックでは多職種チームで患者を支える取り組みも重視しており、栄養チーム、運動療法チーム、後希釈オンラインHDFチーム、フットケアチームなどが活動。どのチームにも、医師、看護師、その他の専門職が参加している。運動療法チームは、先に紹介した腎臓リハビリなどを多職種で支援。後希釈オンラインHDFチームには、院長、看護部長、臨床工学技士長ほか主任クラスの人材が参加し、データとノウハウの蓄積を進めている。
栄養チームは管理栄養士と看護師長を中心に、「しっかり食べてしっかり透析」をモットーに、患者それぞれの生活スタイルや食習慣に寄り添った指導を心がけている。特に、高齢の外来透析患者は、経済的問題や独居で頼る人がいないなど十分な栄養を摂りにくい環境にあるケースも多いことから、リスクの高い患者を毎月ピックアップし、医師の指示のもとで、栄養チームとして早期に介入するようにしている。
また、院内の厨房では管理栄養士の献立に沿ってバラエティ豊かな食事を手づくりしており、塩分制限6g以内の薄味ながら「おいしい」と好評だ。現在は外来透析患者の3分の2が細江クリニックの提供する食事を利用。栄養状態の改善に大きく貢献している。
「当院では月に1度、管理栄養士が、推定塩分摂取量、推定たんぱく摂取量、無機リン、カリウム、アルブミンなどの検査データをまとめた用紙を外来透析患者さんに配付しています。必要に応じてベッドサイドにも伺います。指導というより、アドバイスや声掛けといった感じで、短い時間ではありますが、患者さんの背景や思いなどに触れる貴重なコミュニケーションの場にもなっています」と、阿立佐緒里管理栄養士は語る。
正田看護部長は、さまざまな活動に、患者にとって最も身近な存在としてかかわる看護師の役割を、「情報収集、診療の流れ、治療、その後の経過管理など、すべてに関与する重要なポジション」と話し、「それだけに、患者さんの苦痛や不安を和らげ、信頼される存在になることが求められます」と続ける。このため看護部では、新卒と経験者、それぞれの教育プログラムを独自に構築。入職後3カ月間は試用期間とし、プリセプターが合格ラインの評価を行ったうえで独り立ちさせている。
「技術の習得より何より、まずは患者さんのお名前とお顔を覚え、それぞれの方のキャラクターに合わせた対応をすることで信頼を得ることを重視しています。信頼関係が築ければ、コミュニケーションもスムーズになり、あらゆる面で手間が省けて私たちの生産性も上がります。こちらの説明や提案に耳を傾け、聞き入れていただくことができるのも信頼関係があってこそ。当院ではこの信頼関係を、患者さんとの間でも、スタッフ同士でも非常に大事にしていますし、この価値観を共有できる人材を育てたいと思っています」と正田看護部長は語る。
6. 今後の課題・展望
弛まぬ努力で地域医療に貢献
質の高い透析医療を次代に引き継ぐ
正田看護部長は、長年、透析医療に携わってきた立場から、「透析技術や機器が目覚ましく発展してきたいま、その恩恵を受けておられる患者さんは幸せだと思います。その中でも、当院の患者さんは特に、早期から質の高い治療を安全に受けていただくことができていますから、お元気に長生きしていただけることでしょう。今後もご縁のあった患者さんはすべて受け入れ、私たちにできる最高の透析医療を提供したいと思っています」と語る。
この方針を具現化するべく藤本臨床工学技士長は、「まずは現在進めている後希釈オンラインHDFの取り組みをしっかり軌道に乗せたいと思います。橋本院長や正田看護部長の透析医療に対する姿勢を継承して、今後もこれまで通り、しっかり勉強して透析の質を追求していきたいと思います」と力強く語る。
橋本院長は、今後さらに進むと思われる透析患者の高齢化を最大の課題とし、「こうすれば良いといった明確な答えはありませんので、その場その場で、ベストと思われる対策を重ねていくしかないと思っています」と言う。さらに、「一緒に仕事をしてくれているスタッフは宝です」と話し、今後も働きやすい職場づくりに尽力していく考えだ。その先には、自らがつくり上げてきた細江クリニックを次の世代に引き継ぐことも見据えている。そのためにも、人材の発掘・育成にこれまで以上に力を注いでいく考えだ。
KKC-2024-00585-2
透析施設最前線
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