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山口大学医学部附属病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2022年11月8日公開/2022年11月作成

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病院外観
  • ●院長:杉野 法広 先生
  • ●開設:1967年
  • ●所在地:山口県宇部市南小串1-1-1

腫瘍内科医主導で強力かつ最適な化学療法を推進
高齢がん患者の治療にも先進的に取り組む

山口県内唯一の特定機能病院として、あらゆる疾患を総合的に診療している。がんについては山口県がん診療連携拠点病院、宇部・小野田地区地域がん診療拠点病院に指定され、地域および県内全域のがん診療の中心的存在となっている。腫瘍センター・外来腫瘍治療部門により運営されている外来化学療法室の活動は、経験豊富な腫瘍内科医である井岡達也医師の就任(2020年4月)により大きく進展。レジメン管理の徹底、化学療法当日の患者の厳格な体調管理など改革を一つひとつ進めた。また、強力な術前化学療法(NAC)の導入により治療成績が向上。患者数も急増している。

1. 病院・腫瘍センターの概要 県の高次医療の"最後の砦"
腫瘍センターは組織横断・連携の核

永野 浩昭 腫瘍センター長/消化器・腫瘍外科学教授

永野 浩昭 腫瘍センター長/
消化器・腫瘍外科学教授

山口大学医学部附属病院(以下、山口大学病院)は、1944年に山口県立医学専門学校としてスタートし、附属病院(ベッド数750床・14診療科)を創設した1967年に国立移管。以降、診療科の増設、組織改変などを重ねながら発展し、現在はベッド数756床・30診療科・24診療部を擁する山口県唯一の特定機能病院となっている。

2007年1月には山口県がん診療連携拠点病院に指定され、名実ともに県内のがん診療の中心的役割を担うようになった。また、宇部・小野田保健医療圏の地域がん診療連携拠点病院でもあり、地域のがん患者の診療にも一層の力を注いでいる。「当院は、がんに限らずさまざまな高次医療の"最後の砦"のような存在です。県民の期待に応えられるよう、最先端の医療を適切に提供すべく努力を重ねています」と、腫瘍センターの永野浩昭センター長(消化器・腫瘍外科学教授)が紹介する。

腫瘍センターとは、2006年に設立された中央診療施設で、県内のがん診療連携病院の連携の拠点として、また、院内の組織横断的な活動の核としても重要な役割を果たしている。

永野センター長はがん診療について、「総合診療の対極」とし、「1人の医師が全体を診るのではなく、専門家集団の力を集約して取り組むものです。たとえば私のような消化器外科医は消化器がんの手術で力を発揮し、診察や検査は消化器内科医に任せます。また、抗がん剤治療は腫瘍内科医に、緩和ケアは緩和ケア医に委ねる。そういったがん診療の情報の集約を腫瘍センターではしています。院内がん登録をはじめとした各種データをまとめ、大学病院としてどこに重点的に取り組むべきかを俯瞰的に評価するのも当センターの役割です。まとめたデータは山口県がん診療連携拠点病院連絡協議会で共有し、行政に提言を行う際の資料としても活用するなど、県内のがん診療の発展に役立てています」と話す。

2. "県内初"の腫瘍内科医 伝統的レジメンを整理し
院内の化学療法を標準化

井岡 達也
腫瘍センター副センター長/
消化器・腫瘍外科学准教授

井岡 達也
腫瘍センター副センター長/
消化器・腫瘍外科学准教授

腫瘍センターは、主に「外来腫瘍治療部門」と「院内がん登録室」の2つを統括している。前者が外来化学療法を実践する組織で、腫瘍センターの井岡達也副センター長(消化器・腫瘍外科学准教授)が部門長を務める。井岡副センター長は2020年4月、旧知の仲である永野センター長から請われ、24年間勤務した大阪国際がんセンター(旧大阪府立成人病センター)を辞して着任した。

井岡副センター長は着任後すぐに入院レジメンの整理に着手し、手書きだったものを登録制にした。また、登録レジメンはガイドラインで推奨されている標準療法か、倫理審査委員会で承認されている研究的レジメンのみに限定した。レジメンの整理に際しては、化学療法の適応やルールを守ることの重要性を根気よく説明し、永野センター長を介して各科の教授の了解を得るなど苦労はあったが、薬剤師や看護師の有志の協力もあり、約半年という短期間に作業をやり遂げた。これにより、各診療科で慣習的に使われていた32のレジメンが削除された。2022年6月現在、同院のレジメン登録数は968件(治験および研究レジメンは除く)で、その数は徐々に増えている。

井岡副センター長の着任後の目に見える変化として永野センター長がまず挙げるのは、患者数の増加だ。井岡副センター長の外来を受診する患者は、着任時の1日5人から50人前後へと約10倍に増えた。もう1つの大きな変化は、ほかの医師が専門領域に専念できるようになったこと。抗がん剤に関する説明や実際の治療、術前・術後の補助化学療法を全面的に井岡副センター長に委ねることができるようになったからだ。

患者側もまた変化している。「手術が受けられずに薬物療法を続けることになった患者さんたちが、以前よりも全体的に明るいのです。皆さん、自分の命に限りがあることは知っておられる。でも、腫瘍内科医による専門的な薬物療法を受けて、なんとなく調子が良い、思ったより長く生きられている、そんなことを実感し、希望を持っておられるように感じます」と永野センター長が、週に1度回診する消化器外科病棟の患者の様子を語る。

続いて井岡副センター長も、「私がかかわっている患者さんは、総じてあっけらかんとしていて、今を大事に生きておられるように見えます。抗がん剤でできる限り良い状態を保とうとする、私の熱意が伝わっているなら嬉しいです」と笑顔を見せる。

こうした成果もあり、「がんの化学療法は腫瘍内科医が担うもの」という、これまで山口県内には希薄だった文化が、山口大学病院には早くも根付きつつあるという。

井岡副センター長は、山口大学病院から消化器外科医が派遣されているセントヒル病院(山口県宇部市)、阿知須共立病院(同山口市)には週1回ずつ、山口県済生会豊浦病院(同下関市)、医療法人医誠会都志見病院(同萩市)には月に1回ずつ病棟回診に出向き、スタッフの指導を行うなど、腫瘍内科医としての自らのメソッドを県内に広めるべく積極的に活動している。多忙な活動を支えるのは、他の医療スタッフはもちろん、秘書をはじめとした事務スタッフだ。「各種の院内調整、書類の整理・まとめなど、私の苦手な部分をフォローしてくれるので本当に助かります」と、副センター長が感謝する。

3. 外来化学療法室 コンパクトな中に機能を凝縮
病棟も活用しより多くの患者に対応

山口大学病院は、A棟、B棟(第1病棟)、C棟(外来診療棟)の3棟に別れており、外来化学療法室はC棟の2階、エレベーターやエスカレーターで昇ってすぐのところにある。井岡副センター長が「日本一コンパクトな外来化学療法室」と表現するだけあって、床面積67㎡とかなり小規模だが、ベッド2台、リクライニングチェア12台、計14台がきれいに並び、ミキシングルームや救急カートも完備されている。また、液晶テレビや単独空調の設置など患者の快適性への配慮、血管を確保するためのホットパックやリフレッシュメント用の氷といった細かなサービスもなされている。

外来化学療法室のスタッフは、専任医師である井岡副センター長と、4名の専属看護師(うち1名はがん化学療法看護認定看護師)。同室の利用患者数は、2020年は年間5,233人であったが、その後どんどん増えており、2022年には1月から6月の半年間で約3,000人となっている。この人数に対応するためには看護師4名では足りず、毎日、病棟看護師がヘルプにきてくれている状況だ。また、病床が足りないため、一部の患者には消化器外科病棟で化学療法を受けてもらっている。

「誰もかれも当院で、というわけではなく、患者さんの病状や体調によっては、私が回診を行っている関連病院の中で、その方に適した病院を紹介し、そちらに入院して化学療法を受けていただくような取り組みもしていますが、それでも患者数は増えてしまいます」と井岡副センター長。現在、病院全体で進められているリニューアル工事に伴い、2025年には25床に増える予定だが、それまではいまのような体制でつないでいく計画だ。

なお、関連病院で井岡副センター長の指導のもとで、担当医による術前の化学療法を行い、手術は山口大学病院で実施。手術後は関連病院で化学療法を継続するような連携も積極的に進めている。

井岡副センター長が着任した2020年春は、新型コロナウイルス感染症の流行第1波の真っ只中だったため、井岡副センター長は通常の運営だけでなく、感染防御対策も求められた。そこで、発熱患者は一切、外来化学療法室には入れないといった方針を明確に打ち出し、以来、現在まで、どんな事情があろうともそれを堅持している。すべての患者を平等に扱う、全診療科の患者を平等に受け入れる、体調の優れない患者には化学療法を行わないなど、井岡副センター長の信念に基づくルールは、非常に厳格に守られている。

管理栄養士による栄養指導や、薬剤師による服薬指導などもベッドサイドで行うのはスペース的に難しいため、別室で行っている。薬剤部では2022年5月から外来で化学療法を受けている患者を対象に薬剤師面談を開始したが、その際には外科の協力を得て、同科の外来診察室で指導や説明を行っている。

「薬局との連携を意識し、まずは飲み薬を併用する4つのレジメンを対象に始めました。今後はその対象をできるだけ増やしていく予定です。面談の内容は薬の説明と副作用の確認が主で、がん専門薬剤師とがん薬物療法認定薬剤師を中心とした4名の薬剤師が担当し、電子カルテで他の職種とも共有しています。薬局から上がってくるトレーシングレポートについても同じメンバーが確認し、有用な情報は井岡先生に伝えています」と、高砂美和子副薬剤部長が紹介する。

4. 術前化学療法(NAC) 手術前に強力な化学療法を実施
手術成績がアップし、患者と外科医に利点

化学療法の中でも、井岡副センター長が力を入れているものに、術前化学療法(NAC;NeoAdjuvant Chemotherapy)がある。例えば大腸がんの場合は強力な化学療法レジメンのFOLFOXIRI+Bmab(トリプレット)を採用し、できる限り抗がん剤の使用量を下げずに強力な化学療法を行い、がんを縮小させてから外科手術を行う。がん化学療法による好中球減少症にはG-CSF製剤を積極的に使用している。この治療法は、年齢に関係なく可能な症例には積極的に実施している。

「NACを行う場合、最も大事なのは、手術前に患者さんの体調が悪化しないように、慎重に治療強度を調節していくことです。治療を行いながら、それが患者さんのニーズに合致しているかどうかもしっかり確認し、周囲のスタッフとも、いま行っている化学療法の意義を共有するように努めています。そうやって適切にNACを行うと、腫瘍が縮小することで手術時間が短縮し、治療成績も向上するので外科医にも喜ばれます。結果的に私への依頼が増えてきたという経緯があります」

一方で、切除不能の進行再発がんの場合は、長く治療を続けることを重視し、抗がん剤の量を下げながら様子を見ることもする。「患者さんの状況と目的に合わせて治療の強度を調節します。個々の患者さんと向き合いながら、その患者さんにとって最も良い治療を提供するのが私のやり方です」と井岡副センター長が言う。

患者情報や治療方針については、上部消化管、下部消化管、肝胆膵と、消化器外科の各専門チームが個々に行っているすべてのカンファレンスに出席することで共有している。

井岡副センター長は、がん薬物療法の質向上に寄与することを目的に2016年に結成された、「免疫関連有害事象(irAE;immune-related Adverse Events)マネジメントチーム」のチームリーダーとしても活動している。先進救急医療センター、集中治療部なども含めた多部門の代表19名で構成されるチームで、2カ月に1度、定例会を行っている。

5. 今後の課題・展望 腫瘍内科医育成プログラムと
高齢者がん医療のモデル化を目指す

永野センター長は、「人口過疎、医師過疎、高齢社会、医師の高齢化など、全国の多くの自治体が抱える問題に、山口県も悩まされています。がんは高齢になればなるほどかかりやすくなり、高齢化が進めばがんの罹患率は確実に高まります。高齢のがん患者さんにどう対応していくのか、そもそも何歳以上を高齢とするのかの見直しも必要だと思います。山口県はこの問題に取り組むのに適した環境にあります」と話す。

適した環境というのは、県全体に人口が分散し、8つの保健医療圏すべてにほどよく病院が存在すること、大学病院が山口大学病院のみで、研究データを集約しやすいことなどを意味している。「私たちが高齢がん患者さんへの治療でエビデンスを蓄積できれば、それが全国に向けた1つのモデルになり得ると思います」と永野センター長は期待する。

すでに消化器・腫瘍外科学講座では井岡副センター長の発案で、同科を受診する高齢がん患者の認知機能、歩行機能、嚥下機能などを全例計測し、治療への反応を調べるなど、高齢がん患者の治療に一定の基準を設けるための研究を進めている。

もう1つ、永野センター長が大きな期待を寄せているものに、腫瘍内科医の育成がある。「当院のような地方の大学病院で腫瘍内科医を一から育てた例は、私の知る限りほかににありません。井岡副センター長は教育熱心でもあり、多くの学生に慕われています。近い将来、井岡チルドレンが1人、2人と誕生するでしょう。そのプロセスを、腫瘍内科医育成プログラムとして示したい。やがてその活動が近隣の地域がん診療連携拠点病院にも広がり、人材育成がさらに活性化することを想像するとワクワクします」

新しい外来化学療法室が完成する2025年までに、井岡副センター長とともに化学療法に取り組める医師を育てるのが当面の目標だ。「良い人材を育てることで、今後も増えるであろうがん患者さんに、常に最適な治療を提供していきたい。いまの当院ならそれができると確信しています」と、永野センター長が同院における化学療法の未来を展望する。

KKC-2022-00853-2

外来化学療法 現場ルポ

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