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新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センター
新潟県地域医療推進機構 魚沼基幹病院
[外来化学療法 現場ルポ]

2023年3月13日公開/2023年3月作成

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病院外観
  • ●理事長・病院長:鈴木 榮一 先生
  • ●開設:2015年6月
  • ●所在地:新潟県南魚沼市浦佐4132

高度・急性期医療の地域の拠点
薬物療法の専門家チームで外来化学療法を実践

新潟県の地域医療構想に則り、複数の公立病院を再編成するかたちで2015年に設立された地域の医療拠点。新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センターも併設され、同大学から派遣された多くの医師が、病院所属の医師らと協力しながら診療と医療人の育成にあたっている。外来化学療法には開院時から、がん薬物療法指導医、がん化学療法看護認定看護師、がん専門薬剤師など各分野の専門家からなる医療チームによりシステマテティックに取り組んでおり、通院治療室の利用件数は年々増え続けている。

1. 病院の概要とがん医療 大学の教育機能を持つ新しい基幹病院
地域連携のもと高度・急性期医療を担う

関 義信 通院治療室室長/血液内科特任教授/診療部長

関 義信 通院治療室室長/血液内科特任教授/診療部長

新潟県が設置し、一般財団法人新潟県地域医療推進機構が運営する魚沼基幹病院は、魚沼医療圏(魚沼市、南魚沼市、十日町市、湯沢町、津南町)の三次救急や高度医療などを担う地域の医療拠点病院として、2015年4月に開設された。魚沼医療圏の面積は2,649㎢余りと、東京都の面積約2,194㎢を大きく上回るほど広い。この数値を見ても、魚沼基幹病院に課せられた役割の大きさ、期待の高さが伺える。

院内に新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センターが設置された背景には、もともと医師充足率が低い新潟県の中でも魚沼医療圏の医師不足が特に深刻化していたという問題があった。これを解決するための1つの策として、新潟大学から教員として医師を派遣し、診療と教育を同時に行う方法がとられたのである。

同院ができる以前は、多くの患者が、魚沼地域から長岡市や上越市など県内のほかの医療圏の病院や、場合によっては東京都など遠方の病院に通院・入院することを余儀なくされていたという。同院の開設は、魚沼地域に地域完結型医療提供体制づくりのベースができたことを意味してもいる。

がん医療に関しても同様で、開設当初からさまざまながん患者を受け入れながら、診療体制を充実させ、地域からの支持を得てきた。2020年4月には腫瘍センターを開設。2021年4月には、地域がん診療連携拠点病院の指定を受けた。

「これまで重ねてきた体制づくり、人材育成などの取り組みを、いよいよ本格的に患者さんに還元するときがきました」と語るのは、通院治療室の関 義信室長だ。関室長は、新潟大学地域医療教育センター特任教授として同院開設と同時に赴任し、血液内科診療部長を務めている。日本血液学会認定血液専門医・指導医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医・指導医、日本がん治療認定医機構認定がん治療認定医など数々の資格を持つがん医療の専門家である。

「当院にはいわゆる競合病院がありません。だからこそ幅広い領域の急性期、高度医療に特化し、ほかの病院や診療所と連携しながら、多くの患者さんに適切な医療を提供していく責務があります。がんについても地域のさまざまな機関と連携しつつ、中心的な役割を果たしています。外来化学療法に限って言えば、当院ほどシステマティックに、あらゆるがんを対象に取り組んでいる病院は、魚沼地域にはほかにはないと思います」と関室長が同院の役割と地域での位置付けを語る。

2. 通院治療室の概要 自然光が降り注ぐ明るい室内
ウイッグの展示や面談コーナー、専用トイレも完備

外来化学療法を行うのは、専用の部屋である通院治療室で、腫瘍センターの一部門だ。同室は病院の2階、総合受付前のエスカレーターを上がったところから見渡せる場所に位置している。

通院治療室の入り口を入ると、部屋番号である「21」が表示された受付カウンターが見える。ここには季節の花や小物がさりげなく置かれているが、これは、同室専任看護師で、がん化学療法看護認定看護師の資格を持つ小川るり子看護部外来部門外来主任看護師が患者への思いを込めて、毎月、自ら飾り付けているものだ。2022年11月には、紫色のヤグルマギクと白い穂を生けた花瓶の脇にフクロウのマスコット2つが並べられていた。「季節の植物と、福を呼ぶフクロウを組み合わせてみました」と、小川看護師がにこやかに紹介する。

病床はベッド7床とリクライニングチェア6床の計13床。これらを見渡せるように、室内中央にスタッフステーションがある。白を基調とした内装、木目を配したベッドやテーブル、ピンクのカーテンや膝掛けなど全体に優しい色使いが特徴で、窓からは自然光がたっぷり降り注ぐ造りになっている。

特徴的なのは、通院治療室専用のトイレが室内に設置されていること。このためトイレのたびに部屋を出る必要はない。ここでははじめてのレジメンを使う患者など特別な場合を除き、患者が好きなベッドを選ぶことができる。

室内の一角には、説明や相談にも使う面会スペースや、試着もできるウイッグや帽子の展示コーナーなどもあり、各種説明用ツールも置かれている。

3. 人員配置と連携 3職種とも化学療法の専門家を配置
各診療科や医療チームとも連携

通院治療室のスタッフは関室長ほか、小川看護師含めて看護師2名、看護助手1名、専任薬剤師でがん専門薬剤師の資格を持つ矢吹剛主任薬剤師である。患者の体調に変化があった際などは必要に応じて各診療科の主治医が患者の対応にあたるほか、看護師や薬剤師も、状況に応じて他部門からの応援がある。がん指導薬剤師である薬剤部長もサポートしてくれている。また、同じ腫瘍センターに属する緩和ケア部門などとも連携し、患者一人ひとりに合ったケアや支援を行っている。

関室長は、「できるだけ職種間の垣根を低くして、患者さんの情報をしっかり共有することを心がけています。化学療法はもちろんエビデンスに則って行いますが、患者さんそれぞれの事情や社会的状況も考慮する必要があります。患者さんやご家族に寄り添った判断を大切にしながら、皆で協力し合って仕事をしています」と、多職種が協働するにあたっての方針を語る。

また、「患者さんが医師には話さないことを看護師に話すということはよくあることです。特に、副作用による苦痛を医師の前では我慢して、看護師には辛いと打ち明けるケースなどはよく経験します」と関室長。「そういったことをきちんと把握し対応するためにも、電子カルテの掲示板や看護記録に医師が目を通すことも大切です」と話す。

化学療法実施件数(延べ件数)は、開院初年度である2015年度が819件。2016年度1,571件、2017年度2,199件、2018年度2,813件と、4年間で約3.5倍に増加。その後、増加スピードこそ鈍化したものの、いまも少しずつ増え続けている。

このように実施件数が増えている理由を関室長は、「新規の患者さんが増えていること、がん薬物療法が進歩したことで患者さんの予後が良くなり通院を継続できる方が増えたこと、以前は遠方の病院に通っていた患者さんが当院の実績を買ってくれて地元の病院として選んでいただけるようになったことなどが考えられます」と分析。また、矢吹主任薬剤師は、「投与間隔の短い新しい薬が開発されていることも件数の増加に関係していると思います」と話す。

4. 通院治療室利用の流れ 診察前の問診、トリアージを看護師が担当
電子カルテで情報を共有しスムーズに対応

外来化学療法を受ける患者には、来院したらまずは血液検査を受けてもらう。次に、通院治療室で血圧や体温、体重測定を実施。このとき、担当看護師が問診を行い、自宅での様子や副作用の程度、困りごとなどを確認して専用の問診票に記入する。

「問診の内容に問題がなければ、血液検査の結果が出た後、問診票を持って主治医の診察を受けていただきます。もしこの段階で体調が悪そうといった問題があれば、看護師の判断で、診察前に中央処置室(通院治療室に隣接)で休んでいただくこともあります。当日のトリアージを、私たち通院治療室の看護師が担っているのです」と小川看護師が言う。

主治医の診察後、化学療法の実施許可が出ると、そのことが電子カルテに入力される。すると薬剤部で薬剤のミキシングが開始される仕組みだが、このミキシングを行う製剤室は通院治療室の隣にある「おくすり相談室」の一角に設けられている。

「薬剤部には薬剤部長以下17名の薬剤師が在籍しており、シフトを組んでミキシングを担当しています。製剤室と通院治療室の間の壁には、薬の受け渡し口が設置されていますので、出来上がった薬をすぐに通院治療室の看護師に渡すことができます」と矢吹主任薬剤師が説明する。

外来化学療法室から遠く離れた薬剤部でミキシングを行い、それを薬剤師が運んでいる医療機関も多いなかで、同院の仕組みは非常に効率的だ。設計段階から外来化学療法を行う仕組みを盛り込むことのできる新しい病院ならではの強みである。

治療開始が決定した患者は通院治療室に戻り基本スケジュールを提出する。看護師が患者をベッドまで案内。薬剤部から薬が届くと点滴が開始される。看護師がベッドサイドで作業をするときは、パソコンや各種資材など必要なものをナースカートに乗せて行き、患者の求めに応じた対応や電子カルテの確認がその場でできるようにしている。

「点滴中、私たち看護師は、点滴の速度の確認、交換などをしながら、患者さんの様子を見たり、お話を伺ったりします。たわいのない世間話などもしながら、自然な会話の流れの中で、悩みなどを引き出すよう心がけています」と小川看護師。通院治療室は、ある医師から「本音を言う場」と言われたそうだが、患者に本音を話してもらうコツとして小川看護師は、信頼関係と話しやすい雰囲気づくりを挙げ、「どんな言葉も適当に聞き流さずにじっくり聞くこと。副作用などについて相談されたときに、的確な説明ができるスタッフには心を開いてくれるように思います」と言う。

こうしたやり取りの中で、脱毛について相談されたときには、脱毛中のケアの仕方などアドバイスしつつ、患者の希望によってはあらためて時間をつくり、前述した展示コーナーでウイッグや帽子などの紹介も行っている。通院治療室では、各メーカーの見本で手触りや着け心地を体験してもらいながら、使用期間は短いかもしれないが、患者が気に入ったもので使い続けられるウイッグを購入できるような説明を心がけている。帽子はボランティアが手作りしているもので、こちらもさまざまな種類をがん相談支援センターで保管しており、患者に選んでもらって無料で提供している。

点滴中はプライバシー保護を優先し、基本的にベッド周りのカーテンは閉めておくが、完全には締め切らず、10cm程度の隙間をつくっておくことで、看護師が患者の顔色などを常に確認できるようにしている。副作用が出た場合などは速やかに看護師から主治医のいる外来に連絡し、対処を依頼。また、薬に関する理解が不十分な患者がいた場合などは、薬剤師に直接電話し、服薬指導に来てもらう。点滴が終了するまで、看護師は常に患者の様子に気を配り、終了後も体調などを確認してから送り出す。

通院治療室に通っている患者には、あらかじめ治療内容などを口頭で説明したうえで、わかりやすくまとめたパンフレットを手渡している。そこには、早めに対処すべき具体的な症状と連絡先電話番号も明記。これにより患者は、自宅にいるときに副作用など体調が悪化しても、慌てずに対応できるようになっている。通院治療室の患者の受診は、平日の日中は各診療科外来が担当。休日・夜間の場合は救急外来に対応してもらう。どの科のスタッフもがん患者に慣れており、迅速な対応が可能である。

5. 啓発活動 地域の医療・介護職を対象に
がんや化学療法に関する勉強会を実施

通院治療室では、地域に向けたがんに関する勉強会を主催している。以前は不定期であったが、好評につき、2022年度からは年4回、3カ月ごとに行うようになった。

「2022年度は、がん専門薬剤師による『化学療法について』、がん化学療法看護認定看護師による『がん看護について』、リハビリテーション技術科の協力で『がんリハビリについて』をすでに終え、4回目の2023年3月には、栄養科の協力で『がんの栄養管理について』を予定しています」と関室長。

コロナ禍では院内会場とウエブのハイブリット形式で実施しており、毎回、地域の約30機関からの参加がある。たとえば薬剤師の回は薬局からの、看護師の回は訪問看護ステーションや老人施設からの参加が増えるなど、内容によって参加者の層が変化する。

「化学療法について」を担当した矢吹主任薬剤師が言う。
「この地域は、当院ができるまで、がんの化学療法のために圏域外に通院している患者さんも多くおられました。そのため、化学療法に馴染みが少ない参加者も多くいます。介護職の方々はもちろん、薬剤師であっても同様です。そこで、まずはがんの化学療法がどんなものか、どんなふうに治療が進むのかなどを知っていただくことにポイントを置きました」

矢吹主任薬剤師自身はかなり平易な言葉で話したつもりだったが、「難しかった」との感想も寄せられており、地域の医療・介護現場で働く幅広い人材に向けていかにわかりやすく伝えるかは今後の課題と感じているそうだ。

いずれにしても、この勉強会の評判は上々。毎回、司会を務めている関室長は、「今後も回を重ねて、化学療法を知っていただく機会にしていきたいと思います」と話す。

案内の送付や参加の受付などは、病院の事務部門が担ってくれている。通院治療室主催の啓発活動は、院内連携、病院広報などの視点からも大きな意味を持っている。

6. 今後の課題・展望 通院治療室の人員拡充が急務
信頼関係をベースに地域に合った外来化学療法を提供

関室長はがん化学療法について、「入院から外来にどんどん移っていく傾向は今後も続くでしょう」と予測し、「ミスが絶対に許されないなかで、患者さんに十分に対応していくためには人員拡充が不可欠です。そのための努力を続けたいと思います」と室長としての課題を語る。

小川看護師も同様の問題意識を持っており、「専門性の高い仕事なので、応援というかたちではなく、通院治療室に所属する看護師を増やしてほしいと思っています」と話す。看護師の中には、化学療法について正しく理解できていない人もまだまだいるそうで、看護部内での啓発も課題と感じているそうだ。

地域的な特徴については、「保守的な方が多いことと、高齢者を大切にする文化が根付いていることを感じます」と関室長。同院ができた頃は、歴史ある既存の病院と比較しながら、様子を見られている感じもあったという。しかし、「この8年の間に、当院を信頼してくださる患者さん、市民の方々は確実に増えています。高齢の患者さんの治療には、多くのご家族が協力的です」と手応えを語り、「今後も地域の事情を十分踏まえたかたちでの外来化学療法を提供していきたい。そのためにも患者さんやご家族との対話を大切にし、信頼関係をさらに深めていきたいと思います」と展望する。

KKC-2023-00037-2

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