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医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院
[透析施設最前線]

2023年10月10日公開/2023年10月作成

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病院外観
  • ●理事長:東上 震一 先生
  • ●院長:小林 修三 先生
  • ●開設:1988年11月
  • ●所在地:神奈川県鎌倉市岡本1370-1

透析患者のウェルビーイングな暮らしを目指し
ライフスタイルに合わせた透析と腎移植を推進

1988年の設立以来、「断らない医療」を大前提に、医療の質向上を目指してさまざまな取り組みを重ねてきた湘南鎌倉総合病院。精神科や口腔外科まで含めた44の診療科と669床の病床を擁し、救命救急、がん診療、災害医療などの拠点としても機能する、神奈川県 横須賀・三浦医療圏西部の基幹病院である。腎臓病総合医療センターではあらゆる腎疾患に幅広く対応しており、特殊血液浄化療法、腎移植にも積極的だ。血液浄化センターでサポートしている透析患者はHD、PD、HHDの合計で200人余り。心血管疾患・下肢末梢動脈疾患などを含めた合併症対策も、他科の協力を得ながら進めている。

1. 病院の概要 特定機能病院並みの機能を誇りつつ
弱者を救い、職員の働きやすさも追求

小林 修三 院長

小林 修三 院長

医療法人徳洲会湘南鎌倉総合病院は1988年11月、湘南鎌倉病院として設立された。1994年に湘南鎌倉総合病院となり、翌1995年に法人化。2010年には「生命だけは平等だ」の理念を掲げる医療法人沖縄徳洲会(2021年より医療法人徳洲会)グループに入るとともに、現在の場所に新築移転した。

現在までにすべての診療科とさまざまな分野の診療センターを完備。また、救命救急センター、地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、神奈川県災害拠点病院などの指定を受けている。

「当院は救急医療に強い病院として注目されがちですが、病気やケガで困っている人のために救命救急を行うのは当たり前のこと。ER(救急外来)には20名以上の医師を三交代で配置して、精神科や口腔外科領域も含めてあらゆる症例に対応しています。そのうえで質の高い医療を目指し、トモセラピーや陽子線といった高精度放射線治療、さらには臓器移植、再生医療といった最先端医療も提供しています。また現在、研究として医師主導治験が1本、先進医療が2本、それぞれ進んでいるほか、3件の特許申請がなされています。在籍する医師約300名のうち125名が専門医で、毎年、当院の医師が筆頭著者となる医学論文を世界に向けて約80本発表しています。こういった意味では特定機能病院といってもいいと自負しています」と小林修三院長は言う。

中でも小林院長が特に強調するのは、全国にまだ19台しかない陽子線治療装置を配備し、20名以上の放射線科医を擁していること。さらに臨床試験段階のBNCT(Boron Neutron Capture Therapy:ホウ素中性子捕捉療法)も行うなど、がんの集学的治療に本格的に取り組んでいる点だ。

このように高機能を追求することは、同院のモットーである「弱者を置き去りにしない医療」にも通じる。たとえばBNCTは、これまでの放射線治療に比べて格段に強い線量をがん細胞のみに照射できるため、治療回数が1回で済み、乳幼児の治療も行いやすい。こうした高額の装置をいち早く導入できるのは、全国有数の規模を誇る徳洲会グループの強みでもある。

徳洲会ではこのほか2016年には産科の有床診療所を開設するなど湘南地区の周産期医療の強化にも取り組んでいる。また、介護老人保健施設と特別養護老人ホームを計5施設、関連施設として運営し、乳幼児と同じく弱者である高齢者の生活も支援している。「子どもや高齢者、さらには離島や僻地に暮らす人、経済的弱者までも含めてしっかりと良い医療を提供するところに、当院の存在意義があると考えています」と小林院長は語る。

新規入院患者数は1日平均60人、在院日数は9.4日、病床稼働率は約94%で推移。職員数は2023年4月現在、2,259名。365日24時間休みなしの保育園、医師・看護師向け職員寮、職員対象の無料スポーツセンターなどを完備するほか、各種福利厚生制度も備えて職員の働きやすさを追求。2009年にはホスピレート(働きやすい病院評価)認証(2014年に再認証)を受け、2012年には日本でも4番目となるJCI認証を受け、すでに4回再認証されている。

2. 腎臓病総合医療センター 腎疾患にかかわる多部門が結集し
「腎臓病にならない・腎臓病を進めない・腎臓病で命を落とさない」を目指す

同院の腎疾患医療は、1999年に小林院長が副院長(当時)として赴任したのを機に本格化した。以来、血液透析(HD)、腹膜透析(PD)、在宅血液透析(HHD)など腎代替医療を実施しつつ、「腎機能改善外来」として、透析予防にも積極的に取り組んできた。

腎疾患総合医療への一歩を踏み出したのは、2012年12月に院内で初めて腎移植が行われたときだ。これに先駆け同年4月に従来からあった「腎免疫血管内科」「血液浄化部」「腎移植外科」を統合。さらに2017年4月、ここに「腎移植内科」を加え、「腎臓病総合医療センター」が完成した。

開設以来、「腎臓病にならない・腎臓病を進めない・腎臓病で命を落とさない」をモットーとして掲げ、健康診断などで見つかるような腎炎から、主に開業医から紹介されてくる慢性の腎障害、全身疾患に伴って発症する急性の腎障害などを幅広く、総合的に診療している。

同センターのスタッフは、小林院長、日髙寿美センター長はじめ、内科専攻医3名なども含めて内科医が計12名。ほかに腎病理を専門とする病理医1名、外科医2名がかかわっており、腎移植に関しては、2022年10月に着任した東京女子医大前病院長・前泌尿器科主任教授の田邉一成院長補佐(ロボット手術・臓器移植センター長、泌尿器科統括部長)も参画している。

腎代替療法の中で予後の良好な腎移植には特に力を入れており、移植を希望する患者やドナーには、ファーストタッチから脱感作など腎臓内科医が全て関与する。外科に転科するのは手術の時のみ。術後の入院はICUでの2日を除いて腎臓内科病棟で受け入れている。腎移植手術の件数は、2018年21件、2019年30件、2020年18件、2021年23件、2022年13件(コロナによる自粛)、2023年は年間50件を見込むペースで増加している。患者が移植を希望し、医師が手術できると判断すれば年齢に関係なく腎移植を行う方針で、85歳の夫に79歳の妻の腎臓を移植し、5年経った現在も夫婦揃って元気に暮らしているケースもあるという。

日髙センター長は、「本人の生活習慣などに関係なく、たまたま遺伝性の疾患を有し、腎機能が悪化するだけでなく、さまざまな合併症にも苦しめられている患者さんの力になりたい」と考え、腎疾患の中でも特に多発性嚢胞腎をドイツ ハイデルベルク大学で研究してきた。その専門性を生かし、2014年に「多発性嚢胞腎外来」を立ち上げ、センター長となった現在も継続して患者支援にあたっている。多発性嚢胞腎患者も腎移植の適応対象だが、ドナー不足などもあり、実際に腎移植に至る比率は一般に低い。そんな中、腎移植に力を入れる同センターの場合は、多発性嚢胞腎患者が移植手術の15%を占めている(全国平均9%)。

また、循環器内科の協力を得て、腎動脈狭窄症、コレステロール塞栓症などの動脈硬化性の腎疾患を治療するなど他科と連携した合併症治療にも力を注いでいる。他科の患者に対するアフェレーシス治療(神経内科、消化器内科など)を同センターで実施することも多いという。

3. 専門職の配置 レシピエントコーディネーター2名が腎移植をサポート
薬をより安全に使うべく新たに専従薬剤師も配置

腎臓病総合医療センターでは、医療の質向上に向けた改善や機能強化をいまも継続的に行っており、2023年4月には、同センター専従の薬剤師として、堀内淳子薬剤師を新たに迎えた。前の職場で多くの腎移植患者に接した経験のある堀内薬剤師は、「腎移植を希望して来られた患者さんが飲んでおられる薬の精査や、免疫抑制剤と他の薬の飲み合わせのチェック、また、新薬に関する医師への情報提供などが主な仕事です」と今後担う役割を語る。

「腎移植や透析に関連する薬は非常に複雑です。近年はポリファーマシーが問題視されることが多いのですが、腎臓病患者さんの場合は、同じポリファーマシーでも、"必要なポリファーマシー"といえます。必要不可欠な複数の薬をより安全に使うためにも、常時、薬剤師に相談できるような体制を整えました」と日髙センター長も堀内薬剤師に大いに期待している。

各種透析や腎移植の療法選択支援についてはこれまで、担当医からの説明に加え、患者に各治療現場を見学してもらうかたちをとってきたが、近々、看護師やレシピエントコーディネーターによる詳細な説明を行う体制をスタートさせる計画だ。同センターに所属するレシピエントコーディネーターは2名。そのうちの1人、今井みどりコーディネーターは、大学病院の腎臓学講座で働いていた頃から腎臓病患者の看護一筋。湘南鎌倉総合病院に来てからも血液浄化センターなどで経験を重ね約20年になる。レシピエントコーディネーターの資格を取得したのは2017年で、「腎移植を腎臓内科主体で行うようになってから、症例数は確実に増えています」と話す。2022年度には神奈川県の移植コーディネーターも経験。2023年度からは腎臓内科医が行う「移植外来」にも同席し、患者の療法選択支援や選択後のサポートで力を発揮している。

同センタースタッフは、徳洲会の取り組みである海外医療支援にも2008年ごろから繰り返し参加している。「命が平等なのは世界中同じ」と、アフリカ各国では透析医療を支援。また、タンザニアでは腎移植も支援している。

4. 血液浄化センター HD150名、PD70名、HHD2名が登録
チームアプローチでPDの対象を広げる

腎臓病総合医療センターでは、透析(HD、PD、HHD)、腎移植(生体腎移植、献腎移植)と、すべての腎代替療法を行っている。登録維持透析患者数は2023年7月31現在222名で、その内訳は、HD150名、PD70名、HHD2名。透析患者におけるPD患者の割合が高いのが特徴で、2022年実績で30.8%。全国平均の3.0%(2021年12月現在)と比べて約10倍、神奈川県下でもトップクラスの比率となっている。また、希望者にはHHDも積極的に導入しており、現在2名が継続中だ。

腎臓病総合センター血液浄化部の石岡邦啓部長はこの数字について、「透析医療に取り組み始めた当初から患者さんの療法選択支援をしっかりと行い、希望に応えてきた結果」と話す。

PDの導入に際しては、小林院長らが開発した「SPIED法」を用いている。これは、カテーテル挿入の手術手技は従来のかたちのままで、短期間(Short term)で効率的にPDを導入指導(Induction and Education)するもの。「カテーテル挿入術を行った後、出口部をテープで固定しておき、患者さんには、消毒などの処置はまったく行わないまま10日間ほど自宅待機していただきます。その後、PD導入入院を約1週間していただいて退院に至ります。創部処置が不要で、手術は1回のみなので患者さんの負担が少なく、作製した出口部を固定することで液漏れや感染症などの合併症も軽減されるのが利点です」と、石岡部長は解説する。

PD患者や家族には、医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、作業療法士などによるチーム医療でアプローチしており、高齢患者や軽度の認知症患者でもPDを継続できるようサポートしている。さらに、在宅診療医、訪問看護ステーション、各種介護施設とも連携し、地域でPD患者を支える仕組みづくりも進めている。特に訪問看護師が果たす役割は大きく、血液浄化部では、地域の訪問看護師を対象としたPD勉強会なども開催している。

一方、HHDの導入時には、しっかりと事前教育を行うと同時に、医師が患者宅を訪問して生活環境を調査し、スムーズな導入につなげている。また、導入後は月に1回、通院して医師のチェックを受けてもらうほか、医師、臨床工学技士、看護師などが必要に応じて指導や相談対応を行っている。

「HHDを導入して頻繁に透析をするようになると体調が良くなるので、食事も十分とれるようになり、体重が10kg増えた患者さんもおられます。栄養状態が改善して筋肉がついたのです。ご自宅で十分な透析ができれば、献腎移植と同等の効果が得られると考えています」と日髙センター長。石岡部長も、「朝4時に透析を開始したり、帰宅後、夜中に透析をするのも自由。ライフスタイルに合わせて行うことができるので、仕事も家庭生活も充実します。食事制限も一切必要なくなるので外食も可能。元気になってスポーツジムに通っている患者さんもおられます。ご本人もご家族も安心でき、満足度の高い療法です」とHHDの効果を語る。

血液浄化センターでは、HD、PD、HHDのほかに、さまざまな特殊血液浄化療法も行っている(表参照)。表中にある末梢血単核球分離(PBSC採取)ならびに磁気を利用した抗体固着カラムによる分離は、先進医療Bで行っている重症下肢虚血に対する自家末梢血CD34陽性細胞移植や、臨床研究で行っている急性腎不全に対する自家末梢血CD34陽性細胞治療で行っているアフェレーシスであり、先進医療などを血液浄化の立場からサポートしている一例だ。

血液浄化センターの透析ベッド数は57床。うち6床は個室である。ほかに腎臓内科病棟にも5床の透析ベッド(電解水透析)を入院患者専用に配備している。HDにおいては看護師を中心にシャントトラブルスコアを用いて定期的にチェックし、トラブルを未然に防いでいる。

同様に足病変の予防には、血液浄化センターに在籍する愛甲美穂看護師が中心になって開発した「鎌倉分類」を用いている。これは、透析患者の足病変と、予後が不良な合併症である末梢動脈疾患(peripheral arterial disease : PAD)の有無に基づき6つに分類し、それぞれに対するフットケアの間隔と内容を定めたフットケアプログラムである。

鎌倉分類導入前の2011年と導入後の2012年、2013年を比較すると、新規潰瘍発生数、下肢切断発生症例数ともに有意に減少。この結果を早期介入の有用性を示すものとして日本透析医学会誌で報告(2016年49巻3号 p.219-224)したところ、大きな反響があった。のちに診療報酬の加算、「下肢末梢動脈疾患指導管理加算」につながった研究としても知られている。

フットケア指導士の資格を持つ愛甲看護師による「フットケア外来」は現在、週2回、予約制で実施。ほかに、靴の専門家である義肢装具士を招き血液浄化センターの看護師とともに実施する「フットウエア外来」(月2回)にも取り組んでいる。

なお、小林院長は現在会員数4,000人を超えた「一般社団法人日本フットケア・足病医学会」の初代理事長であり、現在は日髙センター長が副理事長を務めている。同学会の第1回学術集会は2020年12月に横浜で開催されたが、このとき会長を務めたのも日髙センター長である。このように腎臓病総合医療センターのスタッフは、院内だけでなく、全国のフットケアの質向上にも大きく貢献している。

5. CKD対策 ステージに合わせて専門的に介入
「鎌倉CKD連携パス」で開業医と役割分担

CKDに関しても腎臓病総合医療センターで対応し、ステージに合わせて食事管理、血圧管理、薬物療法、アシドーシス管理、貧血管理、体重管理、合併症対応などを専門的・総合的に行っている。

地域の医療機関との連携は、腎免疫血管内科を中心に、「鎌倉CKD連携パス」を用いて推進している。主な連携先は、主に鎌倉市、藤沢市、逗子市、葉山町、横浜市西部、横須賀市の一部などにある開業医である。患者の紹介は、腎臓病総合医療センターウェブサイトからダウンロードできる「精査依頼書」を用いて行ってもらう。紹介患者を診察した後は、「治療計画書」を作成し、逆紹介。その後も定期的に連携診療を行う。また、紹介されてきた時点で腎不全がかなり進行している場合には、そのまま患者を引き受ける。

石岡部長によれば、紹介患者のCKDステージは、過去8年余りのデータからG3bが最も多く37%。次いでG4が31%、G3aが22%、G2が8%、G5が2%となっている。原疾患は慢性糸球体腎炎21%、糖尿病性腎症20%、腎硬化症40%で、これら3つで8割以上を占めている。

「鎌倉CKD連携パス新規加入者のCKDステージと原疾患の関係を見ると、糖尿病性腎症の患者さんが紹介されてくるタイミングは、CKDのステージが後半であることがわかります。おそらく、かかりつけの先生方がCKDの進行に伴い透析導入を念頭にご紹介いただいている症例も多いと考えます」と石岡部長は分析。「今後はより早い段階でご紹介いただけるよう働きかけ、透析予防につなげていければ」と言う。

6. 今後の課題・展望 腎臓病の認知度を高め、効果の高いHHDを推進
患者が「生きていて良かった」と思えるように

透析医療に関する今後の課題として石岡部長は、HHDの普及を挙げ、「効果が高く、患者さんにとって大変良い治療ですが、まだまだその良さが知られていません。世界腎臓病デーに毎年行っている市民公開講座や、オンライン公開医学講座などを活用して広めていきたいと思います」と話す。

日髙センター長はセンター全体の課題として、腎臓病の認知度を高め、開業医との連携をより深めて、腎疾患患者が早期に専門医療にアクセスできる体制を整えたいという。また、腎臓リハビリテーションにも本格的に取り組む考えだ。「当院の看護師が開発したフットケアプログラムが診療報酬につながったように、ほかの個々の取り組みも体系的にまとめて、内外に示していくことが腎疾患医療の発展につながると思います」と日髙センター長は言う。

最後に小林院長が、同院の目指す腎疾患医療のかたちを、「良い暮らしができる腎不全医療」と表現。これはSDGs(持続可能な開発目標)の目標3「すべての人に健康と福祉を」や、目標8「働きがいも経済成長も」が示す、ウェルビーイング(幸せに生きること)を実現することでもあると院長は言う。

「良い暮らしとは、楽しい暮らし。患者さんが生きていて良かったと思えることを大事にしていきたい。透析で言えば、体が楽になる透析。仕事を続けたい患者さんには医療のほかに就労支援も必要です。患者さんのウェルビーイングな暮らしのために医療ができることを常に考え、実践していきたいと思っています」と小林院長。患者の思いをかなえる腎代替療法に、今後も力を注いでいく構えだ。

KKC-2023-00600-3

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