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京都山城総合医療センター
[透析施設最前線]

2024年2月2日公開/2024年2月作成

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病院外観
  • ●院長:岩本 一秀 先生
  • ●開設:1952年
  • ●所在地:京都府木津川市木津駅前1-27

看護師を中心としたチーム医療で
地域のCKD患者の全ステージをサポート

長い間、腎臓内科の空白地帯だった山城南診療圏において、この地域の基幹病院である京都山城総合医療センターに腎臓内科が新設されたのは2013年のこと。以来、同センターでは地域の特性に配慮しながら腹膜透析の積極的な導入、看護師を軸とした外来と病棟との連携強化など様々な取り組みに力を注いできた。そして現在、腎臓内科医と看護師が中心となって慢性腎臓病の全ステージに対応できる専門的な診療体制を構築し、早期から透析までトータルにサポートしている。

1. 病院の概要 慢性腎臓病の全ステージに対応する
専門的な診療体制の構築を目指す

中谷 公彦 腎臓内科部長 兼 腎センター長

中谷 公彦 腎臓内科部長 兼 腎センター長

1952年に国民健康保険組合の直営診療施設として開院した京都山城総合医療センターは、京都府最南端に位置する山城南医療圏(木津川市、笠置町、和束町、精華町、南山城村)の基幹病院として発展してきた。古代から交通の要衝だった木津川市は、京都市内や大阪市内へのアクセスがよいことから若い世代の移住者も多く、府内の自治体で唯一人口が増加している地域である。そのため、山城南医療圏は高齢化率が低い地域と高い地域が隣接する特異性のある地域となっており、同センターでは乳幼児から高齢者まで幅広い世代への対応が求められている。

このような地域性とニーズがある中、慢性腎臓病(CKD)に対する専門医療体制の整備が始まったのは2013年のこと。それまで同センターには腎臓内科が設置されておらず、透析医療は泌尿器科が担当していた。そのため、患者はCKDになると京都市内をはじめ山城北医療圏にある医療機関に紹介されて保存期の治療を続け、透析医療が必要な状態になると同センターに戻って透析医療を始めるという状況だった。

「ほかの地域で診療を受けていたCKDの患者さんを呼び戻すところからのスタートでした」と、同センターに新設された腎臓内科の責任者として赴任した中谷公彦腎臓内科部長 兼 腎センター長は当時をこう振り返る。同時に"人工透析室"の名称を"腎センター"に変更した。「腎センターで対応するのは透析だけではない。1期~5期まで全ステージのCKDを専門的に診療していくということを内外に示したのです」(中谷部長)。そして、現場の状況を踏まえつつ、優先順位をつけながら初期から透析導入まで一貫性のあるCKD診療体制づくりに取りかかった。

2. 腹膜透析 患者と看護師の信頼を築くことで、
安心してPD選択する患者が増加

中谷部長が最初に取り組んだのは腹膜透析(PD)の導入だ。医療圏が広域にも関わらず、血液透析(HD)を提供できる施設は同センターを含めてわずか3施設で、うち2カ所は木津川市、残り1カ所は精華町にしかなかった。これらの施設に通院できない患者は"透析難民"になるおそれがあった。

「PDの診療体制を立ち上げることは地域の喫緊の課題だったのです。2013年9月に赴任してきて翌年4月にはPDを開始しました」(中谷部長)。PDの知識がない看護師たちへの教育から始まり、腎臓内科医はカテーテル埋込み術の手技を習得し、外科のバックアップを得ながら患者の腹膜にカテーテル留置を施術していった。こうした苦労を乗り越えて、看護師や臨床工学技士たちと懸命に取り組んできたPDは、腎代替療法の選択肢の一つとして定着し、HDとPDの導入比率は3:1、継続的にサポートする患者のうちHDは55名、PDは36名(2023年11月現在)と全国でも有数のPD患者数を誇る(図1、図2)。PD患者が多い理由について、中谷部長は地域の特殊性に加えて患者と看護師の信頼関係を挙げる。

「当センターではCKDの早期から看護師同士が連携しながら患者さんをサポートする仕組みを作り上げています(詳細は次項)。そのため、看護師は病状や心身の状態だけでなく、患者さんの性格、生きがい、家庭環境など生活全般に関してよく把握しており、向き・不向きなどの適正を含めHDとPDの選択を見極めることが可能で、患者さんに最適な腎代替療法を提案することができるのです」(中谷部長)。

一方、PDの導入を担当する腎臓内科病棟では、腎代替療法選択外来の看護師から共有された患者の背景や生活情報をもとに病棟看護師が手技を指導する。そして、ある程度習得できて退院のめどが経った段階で退院カンファレンスを開催する。参加するのは主治医、病棟看護師、自宅でのPDサポートを引き継ぐ腎センターPD外来の看護師のほか、薬剤師と医療ソーシャルワーカーが加わる。在宅医療のサポートが必要だと判断された場合は訪問看護師が参加することもある。

「退院カンファレンスでの話し合いに基づいて、自宅のPD環境を整えていきます。その際、病棟看護師とPD外来の看護師が患者さんの自宅に伺い、部屋の様子を撮影します。これらの情報を、ほかの医療スタッフと共有したうえでPDが安全に確実に実施できるかどうかを再度話し合い、必要な追加対策を講じながら支援体制を万全にしていきます」(中谷部長)。PDを始めた当初は離脱者が多かったというが、CKD早期からのサポート体制を含め、PD導入まで一貫した仕組みを作り上げたことによって離脱者が減少した。

3. 慢性腎臓病対策 医師会と連携して検尿異常を拾い上げ、
「教育入院」を活用して生活改善を図る

腎臓内科では、新設された直後から相楽医師会と連携して年1回、CKDに関する勉強会を開催し、専門医に紹介する際の基準、専門医とかかりつけ医(開業医)の役割分担、CKD診療の流れなどを繰り返し説明し、早期患者の掘り起こしと2人主治医制によるCKD診療体制の構築を図ってきた。

「かかりつけ医の先生には、患者さんに検尿異常が見つかったら専門医(腎臓内科)に紹介してもらうようにしてお願いしており、その患者さんたちに腎生検を行っています。外来紹介患者数は年間300〜340人です。そのうち腎生検数を行うのは年間40~50件で、検査・診断の結果、CKD軽度の場合は2人主治医制を基本に保存期の治療を開始します」(中谷部長)

保存期の治療として腎センターで始めたのが「慢性腎臓病検査教育入院」だ。これは5日間のプログラムで腎センター看護師を中心に病棟看護師、管理栄養士、薬剤師、リハビリ技師が生活改善の指導に取り組んでいる(表1、表2)。年間20~30名の教育入院患者に対応し、食事指導は患者だけでなく、調理を担当する家族も対象としている。教育入院の効果として患者家族の腎代替療法への理解が深まることも挙げられる。

「腎臓内科の外来診療では腎センターの看護師が必ず診療補助につき、患者の家庭環境などの情報を収集し、記録(表3)に残しています。患者さんが教育入院する際には、それらの情報が教育入院の病棟メンバーにもあらかじめ共有されるため、教育入院での生活指導も効果的に行えるのです」(中谷部長)。

また、教育入院は1回かぎりではなく、治療を継続する中で数値が悪化し再度実施することのほうが多い。中谷部長は繰り返し行うことが重要だと指摘する。「何回か受けているうちにCKDに対する理解が深まって病識を持てたり、自己管理のコツがつかめたりする患者さんも少なくありません。教育入院を何回受けても自己管理できない患者さんもいますが、治療からドロップアウトさせないことが肝心なのです」

腎センター看護師が教育入院を通して腎代替療法に対する患者や家族の思いや希望を聞き取り、それらを記録に残し、腎代替療法選択外来を担当する看護師とも共有する。このような緊密な連携があるため、透析医療が必要になったとき、患者や家族の希望や適性、環境に応じた最適な腎代替療法を提案することができるのだ。

4. 血液透析 看護師と臨床工学技士が中心となり、
透析シャントを含め患者管理を徹底

腎センターではHDの運営体制についても改革を行ってきた。「私が赴任した当時、医師主導のもとでHDが実施されていて看護師は医師の診療補助という位置づけでした。しかし、この体制は廃止しました。患者さんが気兼ねなく本心を打ち明けられるのは医師ではなく看護師や臨床工学技士だからです。患者さんと話せるのは穿刺時が多いので、看護師や臨床工学技士が主体的に患者の声を拾い上げられるようにするため、穿刺業務は医師から看護師と臨床工学技士に移しました」と中谷部長は改革のポイントを示す。

その結果、医師はシャントトラブルへの対応を中心にHD業務に専念できるようになった。泌尿器科に依頼していた透析シャント手術および放射線科に依頼していたPTA(透析シャント拡張術)は腎臓内科医が担当するようになった。「腎センターの要望がうまく伝わらず、閉塞や狭窄する頻度が多かったので、自分たちで管理するほうがよいと判断しました」(中谷部長)。

また、看護師と臨床工学技士で構成される透析シャント管理チームを作り、シャントのエコー検査を定期的に実施し、シャントが閉塞する前に早めに対応するケア体制を整備した。「年間シャントPTA件数は100〜150件です。シャントの管理については、腎臓内科医ではなく、このチームが主体的に行うことを徹底してきたので、今では看護師と臨床工学技士がエコー検査の画像を評価し、PTAで拡張する部分などの提案もしてくれるようになりました」と中谷部長は説明する。

シャント管理チームにかぎらず、腎センターでは看護師が中心となって患者・家族をサポートする態勢が出来上がっている。CKDチーム、HDチーム、PDチームなど分野ごとにスタッフを振り分け、その中からチーム全体をまとめる責任者を決めている。「担当制にすることで、スタッフに"私たちがやらなければならない"という自覚が生まれ、患者さんの管理に対する責任感も強くなりました」(中谷部長)。

CKD診療体制を作り上げる中で、スタッフ教育に注力してきた中谷部長が看護師に最も期待することは"生活者の視点"だ。透析管理は患者の生活全体の中から見直さないとうまくいかないと指摘する。例えば、何度注意しても体重が増え続ける患者がいた。看護師が原因を探ったところ、食事づくりを担当していた妻が亡くなり、市販の弁当を買う生活になって好きなものばかり食べていることがわかった。そこで、看護師がケアマネジャーに連絡して訪問看護師の食事指導を入れてもらったことにより、体重の増加が抑えられてリン値も正常に戻ったという。「このようなサポートができるのは看護師であり、得意分野だと思うのです」(中谷部長)。

5. 展望と課題 「在宅透析」の導入が喫緊の課題に。
自治体と連携した仕組みづくりを

看護師を中心にスタッフの主体性が育ってきた今、腎センターの目標は提供できるケアやサポートを拡大していくことである。合併症を防ぐためのフットケアや運動リハビリの本格導入のほか、昨年から開始した市民向けの腎臓病教室を定期的に開催することを検討している。また、腎代替療法の選択においては「患者さんや家族と十分に話し合い、納得したうえで選んでもらっているのかどうか疑問が残るケースもみられます。選択外来のサポートを充実させ、家族も巻き込みながら、その人に最適な腎代替療法を、時間をかけて考えられる場を共有できるようにしたい」と中谷部長は今後の抱負を語る。

一方、目前に迫る課題の一つに「在宅透析」の導入がある。PDを始めて約10年。山間部で暮らす高齢患者はPDを継続していくことに限界を迎えつつある。「在宅透析では臨床工学技士を派遣する仕組みを自治体とも連携して作る必要があります。しかし、当センターでは臨床工学技士が足りない状況で、この職種の増員は喫緊の課題です」と中谷部長は指摘する。在籍する臨床工学技士7名のうち1名が腎センターに専任で配置されているが、その業務内容は看護師への穿刺指導から透析シャントの管理、夜間PDの遠隔管理まで多岐にわたり、在宅透析まで対応する余裕がないのが現状だ。

「腎臓内科医だけが奮闘してもCKDの全ステージに対応できる質の高い専門診療は提供できません。これからも多職種が連携するチーム医療を基本としたCKD診療に積極的に取り組んでいきます。CKD患者を取りこぼさない、そして透析難民を作らないことが、この地域の基幹病院である当センターの使命だと考えています」。マンパワーの課題はあるものの、中谷部長の言葉には、今後も地域のCKD・透析医療における最後の砦としての役割を担っていく決意があふれている。

KKC-2023-01021-1

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