医療法人小山すぎの木クリニック
[透析施設最前線]
2024年1月26日公開/2024年1月作成
- ●理事長· 院長:朝倉 伸司 先生
- ●開設:1998年4月
- ●所在地:栃木県小山市中久喜1113-1
腎代替療法、合併症治療、フレイル予防、就労支援など
腎臓領域のワンストップクリニックを目指す
栃木県小山市の緑豊かな土地に開院して四半世紀。開業当初から腎臓病・透析医療を柱とし、現在は、「外来」「入院」「透析」「介護」の4部門を中心に診療活動をしている。腎臓病患者にワンストップで対応できる医療機関を目指し、臨床経験豊富な医師による外来診療体制、大病院並みの検査設備、フレイル予防など健康づくりのサポート、透析効果が高く就労支援としても意義深いオーバーナイト透析などさまざまな取り組みを行っている。近々CAPD(持続携行式腹膜透析)、移植外来もスタート予定だ。また、旅行透析を広めるべく「世界旅行透析医療ネットワーク」を組織。朝倉伸司理事長・院長はその代表も務めている。
1. クリニックの概要
10の診療科・専門外来に経験豊富な医師を配置
保存期腎不全管理から各種腎代替療法までトータルに担う
「小山すぎの木クリニック」の名称は、真っ直ぐ、天高く伸びる杉の木をイメージし、患者様に満足して頂ける医療、共通の目標に向かって一丸となって頑張るという思いを込めて付けられた。開業は1998年4月1日。熊本大学医学部を卒業後、自治医科大学で腎臓病医療の研鑽を積み、米国ウィスコンシン大学留学、自治医科大学腎臓内科学部門講師、同血液系止血血栓部門講師などを歴任した朝倉伸司理事長・院長(以下、朝倉理事長)が、患者の生きがいをサポートし、患者に喜んでもらおうと創設した、腎臓病・透析医療を中心とする有床診療所(一般11床/療養8床)である。
同クリニックの立地は、東北新幹線も停車するJR小山駅から5kmほど離れた緑豊かな場所。広大な敷地に、2014年に新築した腎ステーションと並んで建つ。腎ステーションには、デイケア施設「Waki愛愛(ワキアイアイ)」も併設し、透析患者を含めた地域の高齢者を多数受け入れている。
現在の活動の柱は、「外来」「入院」「透析」「介護」。これら4つについて朝倉理事長が次のように紹介する。
「外来部門の最大の特徴は、内科、皮膚科、脳神経外科(頭痛外来)、泌尿器科、消化器内科、肝臓内科、整形外科など10の診療科・専門外来を擁し、それぞれに臨床経験豊かな大学教授レベルの医師を配置していることです。これには、合併症の多い透析患者さんやご家族がほかの病院に通う負担を軽減するためにもできるだけ当クリニックで治療を完結すること、また、何かあったときには高度な医療施設にスムーズに患者さんを紹介できるよう、大学病院などとの連携を密にすることの2つの意味があります」
外来を担当する医師は、たとえば脳神経外科の清水俊彦・東京女子医科大学脳神経外科客員教授、CKD(慢性腎臓病)外来の安藤康宏・国際医療福祉大学腎臓内科教授、腎泌尿器外来の木下善隆・東大病院泌尿器科医師など。2023年秋には新たに専門医を招聘し、自治医大消化器外科(移植外科)の眞田幸広准教授による肝臓内科を開設した。
入院部門では、リラックスできる環境のもと、理学療法士(PT)によるリハビリテーションをはじめ、各職種による生活指導、医師による講義など患者教育や情報提供にも取り組んでいる。透析部門では107床のベッドで250名ほどの透析患者さんが通院している。ミッドナイト透析、オーバーナイト透析にも対応しているのが大きな特徴。介護部門では近年問題になっているフレイル対策に力を注いでいる。
「私たちが目指しているのは、保存期腎不全の管理から合併症の予防と治療、腎移植の手配まで含めた各種腎代替療法まで、トータルにワンストップで対応できるクリニックです。そのため1.5ステラMRI装置、64列マルチスライスCT、腰椎・大腿骨用エックス線骨密度測定装置(DEXA)、デジタル化X線装置など大病院並みの検査設備も備えています。近い将来、東日本の代表的な腎臓医療専門施設と呼ばれるようになりたい。そんな大きな目標に向かって、110名以上のスタッフが力を合わせ、日々の活動に取り組んでいます」と朝倉理事長が力説する。
2. 透析室の特徴
2つの透析室に合計107床の透析ベッドを配備
プライバシー保護と感染症対策も万全
小山すぎの木クリニックの透析室は、1998年の開院と同時にスタートした本館透析センターと2014年に開設された腎ステーションの2つに分かれている。前者が67床、後者が40床。合計107床ですべてがベッド。うち1床は緊急透析に対応できる個人用装置を備えている。
「腎ステーションを開設したそもそもの目的はミッドナイト透析やオーバーナイト透析を行うためでした」と、朝倉理事長は言う。そのため腎ステーションのベッドはすべてブース式で、患者が周囲を気にせずリラックスして過ごしたり、ぐっすり眠ったりできるように配慮されている。
腎ステーションの40床のうち6床は完全個室で、感染症患者専用個室3つと夜中に仕事をする人用など通常の個室3つに明確に分けられている。また、2020年春以降は新型コロナウイルス感染症の流行を受け、ベッド間に天井から消防法の規定をクリアしたビニールカーテンを吊るし、30床の隔離ベッドをつくった。国のコロナ対策が緩和されて以降も、感染者はもちろん、発熱者、濃厚接触者など感染の疑いのある患者にもこれらの隔離ベッドで対応している。感染症患者専用個室には専用の出入口を設け患者の動線を区別している。
隔離ベッドをつくったのは全国的にも早期だった。流行が始まってすぐに理事長判断で実施したが、その翌週には、仕切り用の資材がほぼ手に入らなくなったという。
「当時は情報が十分得られない中で、とにかくできるだけの対策をとろうというスタンスでしたが、こうした感染対策を素早く行ったからこそ患者さんやスタッフを守ることができたのだと思います。新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移行しても、ウイルス自体は変わらず存在していますので、当クリニックでは本館入口および透析室入口での検温、手指消毒、発熱者に対する新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの抗原検査を始めとする血液検査やPCR検査を駆使し、感染者や濃厚接触者の隔離は厳重に継続しています」と、薬剤師でケアマネジャーでもある朝倉秀子理事が感染対策を励行する様子を語る。
地域連携推進本部長も兼務する加賀誠総看護部長によれば、新型コロナの蔓延期には、1クール終了した時点ですべてのベッドのシーツ交換、床、ベッドの消毒を励行し、朝のスタッフミーティングでは、「コロナをやっつけるぞ、エイエイオー」と全員で掛け声をかけ合ってから仕事を開始していたという。
3. 透析医療・サービスの特徴
ミッドナイト透析、オーバーナイト透析を実施
十分な睡眠と長時間透析の効果で元気をサポート
透析スケジュールは、月・水・金曜が8:20~の午前透析、15:00〜22:00の午後透析、18:00〜24:00のミッドナイト透析、20:00〜翌朝のオーバーナイト透析(透析時間約8時間)の4種類。火・木・土曜が午前透析のみとなっている。
深夜透析に取り組む施設が全国の透析医療機関の中でもまだ1%未満という状況の中、2014年に腎ステーションを開設し、ミッドナイト透析、オーバーナイト透析に着手した理由を朝倉理事長は次のように説明する。
「全国に約35万人いる透析患者さんのうち約10万人は仕事をされています。その方々の多くは、透析を受けるために会社を早退したり休んだりしなければならず、精神的にも経済的にも負担を感じておられます。そうした負担を軽減し、思う存分働いていただけるようにしたいと思いました。深夜の長時間透析の効果により毒素が十分抜けて体調がとても良くなるのも利点です。また、透析中に十分眠っていただくことができるので、患者さんはとても元気になられます。フルタイムで仕事ができるので生産性が高まり社会的な意義も大きいのです」
オーバーナイト透析の利用者は現在約40名で定員いっぱいだ。空き待ちをしている患者がいるほどの人気で、利用者には非常に喜ばれているという。
もう一つ、患者や家族にとても好評なのが無料送迎サービスだ。「午前中の患者さんの約9割は送迎車を利用されています。当クリニックは1998年に開設した時に比べ、高齢の患者さんが増え、いわゆるフレイルの状態にある方々も多いため送迎サービスは必須です」
透析部門の人員配置は、本館透析と腎ステーションを合わせて看護師約50名、臨床工学技士(CE)約20名で、シフト制で勤務している。深夜は医師1名、看護師3名、CE3名の7名体制である。
CEは機器の管理に加え、通常の穿刺が難しい患者に対するエコー下穿刺も担当し、穿刺ミスがほとんどない状態を構築している。また、血管狭窄の早期発見にも貢献しており、PTA(経皮的血管形成術)などを担当する院内組織「血管グループ」につなぐことで血管閉塞の予防に努めている。
4. 健脚への挑戦
透析患者の健康寿命延伸に向け
独自の「運動カルテット」を展開
加賀総看護部長は、日本で近年、大きくクローズアップされている、健康寿命の延伸の課題に触れ、「男性で約9年、女性で約12年ある健康寿命と平均寿命の差を縮めることが求められるのは透析患者さんも同じです。日本の高い透析技術によって命を長らえることができても、やりたいこともできずに過ごすのでは長生きした甲斐がありません。そこで私たちは、患者さんたちの健康寿命を伸ばし生きがいを持っていただくために、特に健脚に着目して、動けるうちからいろいろな働きかけを行っています」と話す。
具体的な取り組みとしてシステマティックに展開しているのが、「運動カルテット(四重奏)である。これは、小山すぎの木クリニック全体の取り組みをデクテット(十重奏)で表し(図1)、そのうちのフットケアと運動に関する4つをまとめたもので、「フットケアチーム」の活動、「すぎの木骨折バスターズ」の活動、Waki愛愛での「リハビリテーション」、「下野運動療法勉強会」への参加を意味する。
同クリニックの「フットケアチーム」は2020年に発足。2019年に設立された「日本フットケア・足病医学会」の学術集会に第1回から現在まで連続参加するなど積極的に活動を推進してきた。フットケアチームは医師、看護師、CE、PTからなり、医師は主に薬物療法を、看護師は「1カ月単位でのスケジュール管理と通常のフットケア」「鶏眼・胼胝処置」「フットケア用品の徹底管理」などを主に担当。CEは「SPP(皮膚灌流圧)、FORM(血圧脈波)の定期的な検査」「赤外線治療器の使用(下肢血流温存効果)」「PI値(還流指標)の測定(下肢血流低下の早期発見に期待)」などを、PTは「定期的な筋力測定」「リハビリテーションによる筋力低下の予防」などを主に担当している。
「すぎの木骨折バスターズ」は多職種で構成する院内の骨折予防チームで、透析患者に多い骨折を撲滅しようと、定期的に腰椎・大腿骨用エックス線骨密度測定装置で骨密度を測定し、早期から治療、指導を行うものである。検査結果を記録する書式を、同じように骨折予防に取り組む医療機関と共有するなど、地域をあげて透析患者の骨折を予防する活動も広がりつつある。
「Waki愛愛」でのリハビリテーションは、透析患者が透析のない日にも運動を続けられることを第一の目的として開始された。定員は30名で利用者は常時25名以上。うち透析患者は1割程度で推移している。看護主任を兼務する中田俊輔介護部長が言う。
「併設する居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャーは全員、主任ケアマネの資格を持ち、うち2名は社会福祉士の資格も持っていて、透析患者さんの福祉面での相談にも専門的に応じています。PTは6名所属していて、そのうちの誰かが必ず毎回、直接リハビリを提供することで患者さんの満足度を高めています。施設内のところどころに置かれたトレーニングマシンは多くが油圧式でコンセントを使わない分、安全です。また、カラオケコーナーや入浴施設、一人で運動したいと言う方のために個別のリハビリ室も完備しています」
PTが作成した運動メニューに合わせて自主的に運動ができた利用者にはポイントを付与し、一定ポイントが貯まったらお菓子と交換できるなどモチベーションを高める工夫もしている。「利用者さんそれぞれに合わせたリハビリを提供できること、クリニックが併設されている安心感など強みを活かして、これからもリハビリの必要性を感じていただき、少しでも長く元気でいただけるように頑張っていきたいと思っています」と中田介護部長が語る。
「下野運動療法勉強会(Shimotsuke Therapeutic Exercise Circle:STEC)」は、同クリニックのCKD外来も担当している安藤康宏教授が2010年に発足させたグループで、ゴルフ、アクアビクス、登山、スキー、ボルダリングなどさまざまなスポーツをその道のプロから学び、患者に提案・指導するもの。「私自身、10年以上参加する中で50種目以上を目標にさまざまなスポーツを体験、学び続けています。自分自身が正しいやり方を身につけることで責任を持って患者さんに選択肢を提案できます」と加賀総看護部長。「この『選択』ということをとても大事にしています。ご本人に選んでいただくほうが長続きしますし、運動を楽しむために検査や治療に積極的になっていただけます」と話す。
「小山すぎの木クリニックの取り組みデクテット」をあらためて見てみると、運動カルテットの取り組みを支えるものとして、「高齢透析患者さんの身体能力スコア」(図2)「ケアマネジャーの介入」「デイケアでのリハビリの継続」があり、健脚のさらに先を見据えての取り組みとして、前述した「ミッドナイト透析」「オーバーナイト透析」、後述する「旅行透析」を位置付けている。このうち「高齢透析患者さんの身体能力スコア」は、透析患者の身体能力を年3回、10点満点で評価し、5点以下の場合は介護申請を促す仕組み。同クリニックが独自に開発・運用しているもので、「2021栃木県透析医学会優秀賞」を受賞している。
5. 旅行透析
「世界旅行透析医療ネットワーク(WTDM)」を設立
透析患者の旅行を手厚く支援
小山すぎの木クリニックでは、旅行透析にも並々ならぬ力を注いでいる。旅行や仕事で小山周辺を訪れる人に透析医療を提供することはもちろん、日本から海外に出かける透析患者、海外から日本に入ってくる透析患者様に安全な透析医療を提供すべく、国内外の透析施設との連携体制を強化している。
「一度透析を始めると、旅行に行くこと、特に海外旅行に出かけることを諦めてしまう患者さんは多いものです。しかし、海外でも安心して透析を受けられれば、いつまでも海外旅行は楽しめるし、それが生きがいにもつながります」と話す朝倉理事長は、加賀総看護部長とともに海外視察を重ね、個々の透析施設の透析医療の状況を知ったうえで信頼できる施設と提携関係(MOU)を結び、海外旅行を希望する透析患者を互いに紹介し合っている。そのための機関として「世界旅行透析医療ネットワーク(World Travel Dialysis Medical network:WTDM)」を設立し、朝倉理事長がその代表を務める。現在、最も活発に交流しているのは韓国と台湾の病院・クリニックで、院内には韓国語の通訳が在籍し、英語にも対応している。こうした活動が評価され、朝倉理事長は大韓民国腎臓学会から表彰を受け、加賀総看護部長は同学会在宅血液透析研究会調査員に任命されている。
海外から旅行透析患者を迎えた際には、朝倉理事を中心に観光案内をしたり一緒に食事をしたりと、手厚くもてなしている。「海外の患者さんたちは私たちのおもてなしに感動してくださり、日本は良かったと言ってくださいます。個人レベルですが、これも国際交流のひとつとして大きな意義があると自負しています」と、朝倉理事長、朝倉理事、加賀総看護部長が口を揃える。
加賀総看護部長の父親も透析患者だったが、WTDMを通して海外での旅行透析を手配し、充実した日々を送ることができたという。「今後は旅行を希望する患者さんが一人でも多くその希望をかなえられるように、運動カルテットを柱に取り組みを強化していきたいと思います」と加賀総看護部長が言う。
6. 今後の課題・展望
透析患者が社会復帰できる仕組みづくり
旅行透析を通じた国際交流も推進
今後の課題は、まずは透析患者が社会復帰できる仕組みをつくりあげること。「いまや就労支援によってがん患者さんも多くが働き続けている時代です。透析患者さんにも適切な支援を行えば仕事を続けられる人がたくさんいるはずです」と朝倉理事。「仕事を持つ10万人の透析患者さんがフルタイムで働ける環境が整えば、経済成長にもつながるでしょう。いつか透析患者さんが企業経営者になるなど社会的にも成功することを願っています」と朝倉理事長が続ける。
旅行透析を通じた国際交流もさらに深めていきたい考えだ。前述した韓国、台湾に加えて現在、フィリピン、メキシコ、タイ、シンガポール、ベトナムなどとも連絡調整中である。一クリニックとしての成長とともに、透析患者の生きがい、夢の実現、社会全体の成長をも視野に未来を見つめる。
KKC-2023-01020-1
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