医療法人社団恵仁会 三愛病院
[透析施設最前線]
2024年3月7日公開/2024年3月作成
- ●院長:清野 耕治 先生
- ●開設:1975年
- ●所在地:岩手県盛岡市月が丘1-29-15
透析患者の"最後の砦"としての役割を維持しつつ、
CKD外来教育、腎臓リハビリなど新たな取り組みを開始
岩手県初の透析専門病院として開院した三愛病院は、患者が自分のライフスタイルに合わせて腎代替療法を選択できることを重視し、血液透析だけでなく腹膜透析にも積極的に取り組んできた。一方で、全国的に高齢患者への対応が課題となっているが、同病院も例外ではなく、さまざまな対策を迫られている。地域における透析医療の最後の砦の役割だけでなく、CKD外来教育、腎臓リハビリなど新たな取り組みが始まっている。
1. 病院の特色
診療科を拡大してきたことにより
透析患者の全身管理に対応
1975年に岩手県初の透析専門病院として開院した三愛病院は、一貫して透析医療、慢性腎臓病(CKD)診療に取り組んできた。血液透析に加え、早くから腹膜透析にも力を入れ、近年は在宅血液透析にも対応できるよう準備を進めている。また、CKDは早期介入を目指し、近隣の診療所と連携しつつ、教育入院体制も整えてきた。
内科、泌尿器科の2科からスタートした診療科は現在、呼吸器内科、循環器内科、糖尿病・代謝内科、腎臓内科、消化器科、肝臓内科、心臓血管外科の9科に増えた。これらの専門医が透析患者のさまざまな合併症に対応しつつ、それぞれの診療科の外来・入院診療に従事する。「診療科を拡大するとともに、血液透析、腹膜透析に応じられる医師を育成し、常勤医は透析医療に携わることを原則としてきました。そのため、透析患者の全身管理に長けていることが当院の大きな特徴の一つです」と清野耕治院長は語る。
例えば、透析患者専用の診察室では週に複数日、循環器外来を開設し、透析患者に多い循環器合併症に日常的に対応するようにしている。血液透析開始時あるいは血液透析継続中に、バスキュラーアクセスの異常が疑われた場合には、バスキュラーアクセス医が連絡を受け、速やかに透析室での診察を行う。そして、バスキュラーアクセストラブルは当院で完結するように努力している。また、糖尿病を併存している患者は、糖尿病・代謝内科の専門医が定期的に診察し、インスリンを含め糖尿病薬を調整しながら血糖コントロールに努める。「透析になっても患者さんがよりよい状態を保てることが最も望ましいため、複合的なサポートに取り組んでいます」(清野院長)。
また近年、力を入れているのが腎代替療法選択外来である。「透析導入期において血液透析だけでなく、腹膜透析、腎移植の選択肢をしっかり示すことが大切だと考えています」と清野院長。腎代替療法選択外来には複数の看護師が配置されており、時間をかけて患者と家族に治療法の詳細を説明し、腎臓内科医の診療をサポートしている。
2. 血液透析
患者の状態に応じて透析室を使い分け、
透析の安全性と効率性を高める
開院当初は20床でスタートした血液透析は、県内に透析施設が少なかったことから増床を続け、2012年に現在地に新築移転したときには125床となり、その後も夜間透析など地域の多様なニーズに応えるためにさらに増床し、現在は143床を有している。460名余りの血液透析患者は盛岡市・滝沢市を中心に県東(岩泉町など)、県西(八幡平市など)、県南(花巻市など)からも訪れる。患者の平均年齢は68歳前後と全国平均並みだが、近年は80歳代の患者も増えている。
血液透析は日中・中間・夜間の変則2クール制で実施し、医師のほか看護師(56名)、看護補助者(15名)、臨床工学技士(16名)、クラーク(1名)のスタッフで対応。「患者さんとよりよい関わりを持ちたいと考え、受け持ち制による看護を行っています」と林麻利子透析室看護師長は説明する。限られた人数で安全に確実に血液透析を実施するために、4つある透析室は患者の状態に応じて使い分けている。
最も多くの病床(49床)を有する第2透析室には、比較的自立していて具合が悪いときも自分で訴えることのできる患者を集約する。第3透析室(36床)はその反対で介護が必要な患者専用にしている。自力でベッドに上がることができない人、寝たままストレッチャーでやってくる人もいるので、スタッフが介助しやすいようにすべての病床は電動ベッドだ。第1透析室(40床)は自力で動ける患者と介護が必要な患者の混合で、第4透析室(18床)は外来患者と入院患者の混合だ。「このように使い分けてきたものの、自力で動けない患者さんが増えてきて、第3透析室だけでは対応しきれなくなっています」と林師長は現状を打ち明ける。
こうした患者の変化の中、注力して取り組んでいるのが安全管理だ。シャントに特化したセンサー式の安全装置を2種類導入し、シャントの装着部分が気になって触る患者には装着部分を覆うシートタイプを使うなど工夫を凝らしている。さらに「安全装置だけでは対応できない患者さんは看護補助者が見守ったり、認知症で落ち着きのない患者さんは家族に付き添ってもらったりするなどの対策をとりながら安全性の確保に努めています」と林師長は説明する。
3. 新型コロナウイルス感染症対策
大震災を機に発足したネットワークが
コロナ感染した透析患者の対応に役立つ
2020年11月末、新型コロナウイルス感染症の院内感染によるクラスターが発生したことを機に、診療スタイルを見直し、医療スタッフがウイルスの媒介者にならないよう透析室ごとの専任制に変更した。「医師に関しても、それ以前は担当する患者さんが振り分けられている透析室を回って診療していたのですが、各透析室に2~4人の担当医を固定し、通常の血液透析は主治医ではなく担当医が責任を持つことにしました」と清野院長は説明する。
また、県の新型コロナウイルス感染症対策本部・岩手県感染症対策委員会(当時)の指導のもと、感染予防対策についても見直した。「クラスターの発生原因を分析したうえで、県内どこの透析施設よりも徹底した感染予防対策を行ってきました。医療スタッフ一丸となって取り組んだ結果、その後は一度もクラスターを起こしておりません」と災害・危機管理などを担当する大森聡副院長は言う。
ちなみに、岩手県腎不全研究会の主要メンバーとして活躍する大森副院長は東日本大震災後、その教訓を踏まえて岩手県災害対策本部の中にDMATや救急医療とは別に維持透析部門を設置することを提言した一人である。「大災害のときに最も求められるのは維持透析であり、患者さんたちが "透析難民"にならないように独立したサポート体制が必要であることを痛感しました」と大森副院長は振り返る。そこで、岩手県では医療(岩手県腎不全研究会)と行政(保健福祉部健康国保課)および透析関連企業がタイアップし、行政支援が担保された透析ネットワークを構築し、透析施設と患者をマネジメントする仕組みを作った。
数年後の2016年、岩手県は台風10号による大規模災害に遭い、維持透析患者を支援しなければならない事態に追い込まれたが、透析ネットワークと災害マニュアルを作成していたおかげで迅速な対応ができたという。そして、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが起こったときも、このネットワークが役立った。「災害とは違って運用は難しかったものの、情報共有や伝達に活用しました。コロナウイルスに感染した透析患者に対応できる感染症重点医療機関が限定されていたので、各医療圏において中心的役割を担う透析施設にサポートをお願いしました。また、軽症に関しては自院で対応しなければならないことも繰り返し伝えてきたので、県内の透析施設では5類に移行する前から軽症に対応する診療体制も構築できていました」と大森副院長は振り返る。
4. 腹膜透析とCKD教育
高齢腹膜透析患者が増える中
CKD患者の教育がより重要に
同病院では腹膜透析にも積極的に取り組んでいる。「この数年は新規導入が少ないものの、常時20名前後の腹膜透析患者さんをサポートしてきました。近年は血液透析と同様に70~80歳代の高齢な患者さんが増えています」と吉川香廉腎臓内科科長は説明する。
病院を新築移転した際には「CAPD室」と呼ばれる腹膜透析外来専用の診療室を新設。6名の「PDナース」を配置し、チューブ交換をはじめ腹膜透析に関連したケアや手技の指導を総合的に行うためサポート体制を充実させた。血液透析との併用者も少なくないため、情報共有しやすいようにPDナースは血液透析室との兼務である。この看護体制は腹膜透析から血液透析に完全移行する際に円滑に行えることにも貢献している。
腹膜透析の導入方法で近年多いのが「段階的腹膜透析導入法(SMAP法)」だ。入院回数は多くなるものの入院期間が短いため、現役世代の患者で選択する人が増えている。「カテーテル留置術の創がしっかり癒えてから腹膜透析を開始するので、漏れや感染症などの心配がなく、私たちも安心して導入できています」(吉川科長)。
一方、高齢の腹膜透析患者が増加する中、新たな課題も浮上している。高齢者の場合は自宅での透析をサポートしてくれる家族や訪問看護師の存在が欠かせないが、腹膜透析に理解のある訪問看護ステーションが少ないため、独居や老々介護のケースでは導入できないことが多い。さらに、一人で生活することが難しくなり施設入所する際も、腹膜透析を行っていると入所を断られることも少なくない。「腹膜透析に対する社会の理解を得るための啓発活動が大切ですし、CKDの患者さんも増えているので、透析に進展することがないようCKD診療を充実することも必要です」と吉川科長は指摘する。
腎臓内科では2020年からCKDの患者を対象とした教育入院にも取り組んできた。腎臓病療養指導士の資格を持つスタッフを中心に医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士でCKD教育入院チームを組み、独自に作成したプログラム(CKDに対する病識を高める講義や生活改善の指導など)に従って実施している。しかし、入院が制限されたコロナ禍において十分な活動ができないこともあり、2023年から外来教育も開始した。
「教育入院に取り組んでわかったことは継続教育の必要性です。集中的に教育すると一時的に改善するけれど、その後もフォローアップしないと元の生活にすぐ戻ります。持続的に介入するために外来教育も導入しようという見解に至りました」と吉川科長は説明する。そこで、それぞれのスタッフが外来患者から受けた質問を集め、Q&Aで回答する形のリーフレット「慢性腎臓病コラム」を作成し、他科にかかっているCKD患者を含め、広く配付することから始めている。
5. 腎臓リハビリ
動画を配信することで
限られたマンパワーでも実施可能に
近年始めた新しい取り組みの一つに、血液透析患者に提供する腎臓リハビリテーション(以後、腎臓リハビリ)がある。2022年の診療報酬改定で「透析時運動指導等加算」が新設されたことが契機になったが、準備にはかなりの時間を費やした。「3人の理学療法士で対象となる血液透析患者さん全員に対応するのは現実的には不可能で、かつ看護師と連携してリハビリを実施することも検討しましたが、負担増の問題からこれも見送りました。そこで、心臓リハビリテーションの知識がある心不全療養指導士の資格を持つ透析室の看護師が中心となり、腎臓リハビリのチームを結成し、実施に向けた検討を本格的に始めました」と、自らも心不全療養指導士の資格を持つ菅原靖理学療法士(PT)は経緯を語る。
そして、チームで協議を重ねた結果、動画配信を思いついた。透析患者のベッドサイドにタブレットを設置し、あらかじめ作成しておいた腎臓リハビリテーションの動画を流し、その動画の指示に従って患者が自分で運動を行うスタイルだ。「透析室だけでなく自宅でも簡単にリハビリを行えることをコンセプトにしたことから生まれたアイデアです。この動画はYouTubeで限定公開しており、患者さんは自分のスマートフォンから専用の二次元コードを読み込めばいつでもどこでも閲覧することができます」と菅原PTは動画配信のメリットを示す。
また、腎臓リハビリで提供する運動は下肢と体幹のトレーニングにポイントを置いた。抜針事故を起こさないように上肢の運動を避ける一方、フレイル・サルコペニア対策に注目したからだ。ストレッチ・筋力トレーニング・有酸素運動を組み合わせた約15分の運動プログラムは、高齢者にはハードルが高いように感じられるが、多くの人は回数を重ねるうちに最後までやれるようになるという。
「週3回の実施効果は着実に現れていると思います。院内の医師たちからも"腎臓リハビリは体力維持・向上における効果が大きいので、透析時運動指導等加算の期間終了後も継続してほしい"と期待されています。患者さんの生活の中でいかに運動を習慣化させるかということが、腎臓リハビリチームが次に取り組むべき課題だと感じています」と菅原PTは話す。
腎臓リハビリのスタートアップで困っている透析施設に動画や評価用紙の提供も始めている。「患者さんへのメリットを考えると早く導入することが大切です。そのうえで施設の状況に合わせてリハビリの内容をアレンジするほうが医療スタッフにとっても効率がよいので、そのための協力は惜しみません」(菅原PT)。
6. 展望と課題
「保存的腎臓療法」を視野に入れつつ
在宅診療所との看取り連携体制の構築も
患者の多様なニーズに応えるべく、同病院では2018年に「在宅血液透析」を導入する検討委員会を立ち上げた。看護師と臨床工学技士を先進施設の見学研修に派遣するなど準備を着々と進め、いつでも導入できる状況にある。今年になって希望者が現われたので、岩手県初となる在宅血液透析を近々開始する予定だ。「患者さんの利便性やQOLの向上を考えると腹膜透析だけでなく、在宅血液透析も増やしていく必要があると考えています」と清野院長は語る。
一方で、高齢透析患者の増加に伴い、腎代替療法選択外来においては、透析など腎代替療法を行わない「保存的腎臓療法」も視野に入れつつ、患者や家族とよく話し合うことがより一層重要になってくると考える。「すでに透析治療を選択しないという意思表示をする患者さんが以前よりも増えてきています。このような希望がある患者さんには、看取りを含めた緩和医療への対応が求められており、地域の在宅診療所と連携しながら緩和医療の診療体制を構築していくことが喫緊の課題になりつつあります」(清野院長)。
透析患者の高齢化による課題が山積する中、この地域の"最後の砦"として維持透析患者を受け入れる使命は死守していくと清野院長はあらためて決意を示す。「そのためにも多職種連携によるチーム医療を基本とし、これからも血液療法と慢性腎臓病診療に特化したうえで、総合的な観点から取り組んでいきます」と清野院長は言葉に力を込める。
KKC-2024-00110-1
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