福島県立医科大学附属病院
[希少疾病診療~未来への扉~]
2024年9月6日公開/2024年9月作成
- ●病院長:竹石恭知 先生
- ●開設:1871年
- ●所在地:福島県福島市光が丘1番地
東北地区で最も多い骨・軟部腫瘍医数を生かし、
地域の基幹病院と連携して診断と治療の質向上に貢献
福島県立医科大学整形外科学講座は、開講73年の歴史を有する伝統がある講座だ。同門会員数は約270名、関連病院は福島県内外に30病院を超える。骨軟部腫瘍グループには日本整形外科学会が認定する骨・軟部腫瘍医が3名在籍し、関連病院を含めると5名が取得。東北地区では最も多い専門医数である。近年は骨・軟部腫瘍を拾い上げるための診療ネットワークを着実に構築すると同時に、複数の診療科による集学的治療を必要とする患者を対象にした「希少疾患・サルコーマセンター」の開設準備を進め、東北地区の拠点施設を目指している。
1. 整形外科講座の特徴
73年の歴史ある講座で、
国際学会での発表や留学も多い
福島県立医科大学附属病院は、1871年に開設された白河医術講義所に始まり、150年以上の歴史を有する医療機関だ。1952年に福島県立医科大学が新設されたのに伴い病院も再出発を図り、現在は県内唯一の特定機能病院としての役割を担っている。また、地域医療の充実のために地域創生に貢献できる高い見識と多様な能力を併せ持つ医療人の育成および大学部門と連携して新しい医学の創出につながる基礎・臨床研究の実施も、同病院に与えられた大切な使命である。
第7代教授となる松本嘉寛主任教授が率いる整形外科学講座は1951年に開講し、2024年で73年を迎える歴史と伝統のある講座だ。現在、同門会員数は約270名、福島県内外に30を超える関連病院がある。
同講座では、初代の佐藤孝三教授から第4代の松本淳教授まで先天性股関節脱臼や変形性股関節症などの関節疾患を中心に診療と研究が精力的に行われてきた。その後を引き継いだ第5代の菊地臣一教授は腰痛研究の世界的権威で、第6代の紺野愼一教授とともに「痛みのメカニズム」を研究テーマに椎間板障害や神経障害性疼痛の発生機序の基礎研究や疫学研究、手術法の開発などに取り組んできた。
また、菊地教授時代に国際腰椎学会(ISSLS)などに参加し、学会発表することが奨励されたことから、海外志向が強いことも同講座の大きな特徴の一つである。2023年5月に九州大学から赴任してきた松本主任教授は「国際学会での発表も留学しているスタッフもとても多いです。教室員のまなざしが海外に向いていることを強く感じています」と話す。
2. 骨軟部腫瘍グループの活動①
地域の基幹病院に定期的に出向き、
骨軟部腫瘍の鑑別診断に取り組む
このような講座の歴史と特徴がある中、第4代の松本教授時代から希少がんや骨軟部腫瘍の診療・研究にも取り組んでおり、その系統は脈々と受け継がれている。現在、整形外科における日常診療は専門別に13の臨床グループが担当しており、骨軟部腫瘍グループもこの中に含まれる。
骨軟部腫瘍グループには、松本主任教授を筆頭に5名の医師が所属する。このうち、日本整形外科学会が認定する骨・軟部腫瘍医が3名おり、関連病院を含めると5名が取得している。骨・軟部腫瘍医は全国に200名ほどしかおらず、東北地区では新潟県と福島県が最も多い県である。そのため、骨軟部腫瘍グループの診療圏は福島県内に止まらず、栃木県や茨城県の北部、宮城県や山形県の南部からも関連病院を経由して患者が紹介されてくる。整形外科全体の手術件数は年間1,000例程度で、その1割にあたる100例前後は骨軟部腫瘍グループが担当する悪性・良性の腫瘍疾患だ。
「希少疾患といわれる骨軟部腫瘍の診断と治療は、特定機能病院である私たち大学病院の大きな役割と認識しています」と箱﨑道之教授(東白川整形外科アカデミー)は言う。骨軟部腫瘍グループでは、約5年前から県内の診療ネットワークを構築し、患者の拾い上げに積極的に取り組んできた。
「福島市内と郡山市内の医療機関には、私の先輩にあたる骨・軟部腫瘍医が勤務しているので、この地域の患者の拾い上げと良性腫瘍の治療はおまかせしています。一方、いわきや会津には専門医がいないため、当グループからこの地域の基幹病院に週1回、定期的に外来診療に出向いています」と箱﨑教授は説明する。
「この地域に住む患者さんが、県北部にあって交通の便も悪い大学病院を受診するのは大変です。また、いきなり『大学病院を受診してください』と患者さんに指示するのは紹介医にとっても心理的負担が大きいでしょう。これらの事情を考慮すると、多少負担がかかっても自分たちが地域の基幹病院に出向いて外来を行ったほうが、疑いのある患者さんを一人でも多く紹介してもらえると判断しました」(箱﨑教授)
このような努力の結果、骨軟部腫瘍の診療ネットワークは徐々に拡大し、県内で多くの骨軟部腫瘍を拾い上げられるようになってきた。箱﨑教授が担当するいわきの基幹病院の初診外来には毎週3人程度の骨軟部腫瘍が疑われる患者が紹介されてくる。
「県外の専門病院や大学病院に患者さんを紹介していた非関連病院の医師たちが、私たちの出向いている基幹病院に患者さんを送ってくれるようになりました」と、福島県立医科大学会津医療センターに定期的に診療に出向いている金内洋一学内講師も地域の医療機関の変化を実感している。
3. 骨軟部腫瘍グループの活動②
地域で良性疾患に対応できるよう
基幹病院の若手医師をトレーニング
骨軟部腫瘍グループが地域の基幹病院に出向く目的はもう一つある。それは専攻医から卒後10年目までの若手医師の教育を行うためだ。骨軟部腫瘍の診療は専門医が担当するものの、その際には若手医師も同席させて、鑑別診断のポイントをレクチャーする。また、良性腫瘍の場合は、箱﨑教授や金内講師らがサポートについたうえで若手医師が手術を執刀する。
「腫瘍領域の診療にかかわることは、一般の整形外科医にとって心理的ハードルが高いため、1例でも多く経験してもらうことで苦手意識をなくしてほしいと考えています」(箱﨑教授)。
骨軟部腫瘍以外では転移性骨腫瘍の教育にも注力している。がんの増加とともに転移性骨腫瘍を併発する患者が増えている半面、専門医数は限られている。腫瘍を専門としない整形外科医にも介入してもらわなければ、転移性骨腫瘍に対応できなくなっているからだ。
「がんが骨に転移すると、かつてはターミナルケアに移行していました。しかし、薬物療法や放射線治療が進歩した現在では転移性骨腫瘍をコントロールしながら生活することが一般的になっています。日本整形外科学会では『がんロコモ』プロジェクトを掲げ、整形外科医が積極的にがん患者にかかわることを推進しており、私たちもこの方針を大事にしたいと考えています」と箱﨑教授は話す。
同講座では転移性骨腫瘍の手術があると、腫瘍への関心度を問わず、若手医師に執刀のチャンスを広く与えている。「多くの整形外科医は手術をしたくて、この分野を選んだような面もありますので、喜んで執刀してくれます。"転移性骨腫瘍に介入した"という経験が自信につながることを期待しています」(箱﨑教授)。
金内学内講師は、一昨年から血友病性関節症の外来を新設し、診療にあたっている。「整形外科で血友病の診療を担当する医師が誰もいなかったので、私たちのグループが対応することになりました。血友病治療が進歩した現在、骨の変形リスクは低下しているものの、それでも年配の患者さんの中には困っている人が多いです」(金内学内講師)。
さらに、箱﨑教授は次のように話す。「私たちには他科と関連する疾患を診断する能力も求められており、運動器疾患における総合診療科的な立場にあると認識しています。こうした観点から骨軟部腫瘍グループの若手を教育し、幅広い診断能力を身につけられるよう、ともに切磋琢磨しています」
4. 今後の展望
希少疾患センターを開設し、
東北地区の拠点を目指す
このような診療状況の中、松本主任教授は複数の診療科による集学的治療を必要とする患者を対象にした「希少疾患・サルコーマセンター」の準備を進めており、2025年の開設を目指している。
「私が前職の九州大学病院で希少がんセンターの副センター長を務めていた関係から当院においても希少がん外来を立ち上げたいという要望を受けました。そこで、外科をはじめ他科で相談し、希少疾患とサルコーマを一元的に診断・治療するセンターを開設する運びになりました」と松本主任教授は説明する。
このセンターには、各診療科から希少疾患やサルコーマを担当する専門医が集まり「キャンサーボード」を中心とした診療活動を展開していく予定だ。東北地区では初めての開設となるため、ここに希少疾患やサルコーマを集約し、他県の大学病院や専門病院から紹介されてくる高難度の症例にも対応できるコア・センターづくりを目標に掲げる。
「希少疾患のレックリングハウゼン病(神経線維腫症Ⅰ型)は診療できる医療機関がネットワーク化されて限定されています。当院もその診療ネットワークへの参加を申請し、まもなく認可される見込みです。認可されたら東北地区で初めてのレックリングハウゼン病の集学的治療施設となります。この疾患を皮切りに希少疾患・サルコーマセンターでは同様の取り組みを行っていきたいと考えています」(松本主任教授)。
センターでは診療のほか、国立がん研究センターが運営する希少がんセンターのように"ホットライン"を開設することも計画しており、東北地区の相談窓口としての役割を担うことも目指している。
「また、当講座では、2010年から骨軟部腫瘍を患った患者さんとその家族のために『さくらの会』を主宰し、年に2回程度の交流会・情報交換会を開催しています。将来的には、このような患者さん向けのイベント、あるいは地域への啓発活動としてチャリティマラソンの開催なども、センターの活動として取り組んでいきたいと思っています」と松本主任教授の構想は社会に向かっても膨らむ。
一方、基礎研究のエキスパートである松本主任教授が赴任してきたことで研究面においてもパワーアップしている。「このほど肉腫に関する腫瘍免疫の研究費を獲得できました。当病院にはもともと腫瘍免疫を得意とする医師が多いのも研究を進めるうえで心強いかぎりです。今、非常に注目を集めている分野ですが、肉腫に関する腫瘍免疫を国内で行っている施設はほとんどなく、今後は当講座の研究の柱の一つにしたいと考えています」(松本主任教授)。
福島県立医科大学付属病院の整形外科学講座 骨軟部腫瘍グループのまなざしは、福島県のみならず東北地区全体、さらには日本、世界をも見据えている。
KKC-2024-00522-1
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