医療法人医誠会 医誠会国際総合病院
[希少疾病診療~未来への扉~]
2024年8月21日公開/2024年8月作成
- ●病院長:峰松 一夫 先生
- ●開設:2023年10月
- ●所在地:大阪府大阪市北区南扇町4−14
骨疾患・内分泌疾患・先天代謝異常疾患を中心に
難病治療・研究、ゲノム医療の推進などに貢献
2つの急性期病院が合併統合し、2023年10月に開設された医誠会国際総合病院は、救急医療で力を発揮しつつ幅広い医療に取り組み、国際標準の総合病院を目指している。希少疾患については、病院開設と同時に難病医療推進センターを設置し、大阪大学名誉教授で骨カルシウム疾患・内分泌疾患が専門の大薗恵一センター長を中心に、専門的な医療を提供し、希少難病とともに生きる人の人生を支えている。今後は難病研究やゲノム医療の推進、医師の育成などにも力を入れていく方針だ。
1. 病院の特徴
2つの急性期病院の合併統合により新生
トータルヘルスケアサービスの完成を目指す
医療法人医誠会 医誠会国際総合病院は2023年10月、医誠会グループ9病院のうち、大阪市内で急性期医療を担ってきた医誠会病院と城東中央病院とが合併統合し、国際標準の総合病院を目指す高度急性期病院として新たに開設された。47の診療科目と560床(うちICU26床、SCU12床)の病床を擁している。
「医療と劇場とAIと」をコンセプトとし、ヘルシーカフェ、24時間オープンのメディカルフィットネス、劇場、認可保育園、病児・病後児保育園などから成る医療複合施設『i-Mall』を併設し、地域の賑わいに貢献するべく運営されているのは大きな特徴だ。「多彩な健康文化の創造と安全で良質なヘルスケアサービスの提供」を経営理念に掲げ、この理念を土台に、「医療安全に配慮した質の高い標準医療の提供」「低侵襲医療による早期の社会復帰の実現」「ゲノム医療を基盤とする個別化医療の推進」「AI・IT を活用した効率的・効果的医療の実践」「国際医療交流の推進と地域活性化への貢献」の5つの使命の実現を目指している。
24時間365日、初期救急から2.5次救急患者を対象に救急医療を提供し、必要に応じて各診療科が支援する救急医療体制を構築しており、救急車5台、医師12名、看護師24名、救急救命士30名で「断らない救急」「待たせない救急」を実践し、広域医療にも取り組んでいる。また、一般的な救急搬送だけでなく病院・施設間無料搬送にも対応。救急搬送1日50件、施設間搬送1日20件を目標とし、すでにこの目標値に近い搬送数を実現。大阪府有数の救急搬送件数を誇っている。
国際医療の推進という意味では、「国際診療部」と「海外事業部」を設置し、外国語が堪能なスタッフを多数配置。英語、中国語、ベトナム語、インドネシア語などでの診療が可能となっている。こうした体制を強みに、海外から訪れる治療や人間ドックを目的とした人々を受け入れる医療ツーリズムに力を入れている。また、医療法人医誠会として、大阪・関西万博(2025年4月13日〜10月13日)の共創パートナーに認定され、期間中は医療面から万博をサポートする予定だ。
来る2025年4月には、同院から徒歩2〜3分の場所に『医誠会プレシジョン医療センター』を開設し、生活習慣病クリニック、リハビリテーション施設、キッチンスタジオなどを開設し、人間ドック、医療美容、ゲノム医療、ゲノム薬理、再生医療、免疫医療、認知症治療、不妊治療などを実施する。また、GMP(Good Manufacturing Practice)グレードを満たした培養施設を併設して個別化医療にも取り組んでいく計画で、「ゲノムのある診療室」を新たなコンセプトとして打ち出している。
以上のような取り組みにより目指すのは、トータルヘルスケアサービスの完成である。
2. 難病医療推進センターの概要
新病院開設と同時に発足し幅広い疾患に対応
関連する診療科や多職種と密に連携
難病医療推進センターは、医誠会国際総合病院の開設と同時に発足した。同センターでは、骨疾患、内分泌疾患、先天代謝異常疾患を中心とする希少難病を対象に、生化学検査、画像診断、遺伝子診断などの検査・診断、酵素補充療法、ホルモン補充療法などの治療を提供している。
発足から半年余り経った難病医療推進センターの状況を大薗恵一センター長は、「実際に診療を行いながら、並行して体制の充実化を図っています。たとえば、2023年度中は小児科や内科などの医師の協力を得ながら主に私が診療を担当してきましたが、2024年4月には、酒井規夫副センター長を迎えましたし、成田綾小児科部長はじめ5名ほどの医師にセンターのスタッフとして診療に加わっていただく体制ができました。外科、婦人科、小児科などとの連携もより充実してきています」と紹介する。
大薗センター長は、大阪府立母子保健総合医療センター研究所環境影響部門部長、大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学小児科学講座教授などを歴任し、2023年3月の定年退職を機に同年4月、医誠会に入職した。専門は、骨カルシウム疾患・内分泌疾患で、低ホスファターゼ症(全身の骨・軟骨に異常がみられる骨系統疾患)研究者の第一人者としても知られている。医誠会国際総合病院難病医療推進センター設立にあたっては、自らが中心的にかかわって立ち上げ、約10年に渡り牽引してきた大阪大学医学部附属病院難病医療推進センターをモデルにしたという。
難病医療推進センターを受診する患者の多くは、他の医療機関である程度診断がつくか、あるいは疾患の絞り込みができた段階で紹介されてくる。中には、患者会から最新の情報を得たうえで主治医に相談し受診を希望してくる人、セカンドオピニオンや新しい治験などの情報を求めてくる人などもいる。紹介患者の居住地は、東京から九州地方まで幅広い。
受診は予約制で、患者が来院した際には、MRIなどの画像診断や骨塩量測定骨塩量測定(DXA)などを実施する。こうした検査が概ね初診日にできるのは、柔軟な対応が可能な民間病院の利点である。また、必要に応じて遺伝子検査なども実施する。酒井副センター長はじめ臨床遺伝専門医・指導医が院内に複数在籍していることもあり、遺伝子検査やその後の遺伝カウンセリングも、スムーズに行うことができるという。
診断後は、ホルモン補充療法、酵素補充療法、抗体療法、遺伝子治療などを開始する。「ただし、約7,000種類あるといわれる難病(希少疾患)の中で、治療法があるものはごく一部であり、大半は疾患そのものの効果的な治療法がありません。治療法のない疾患の場合には、痛みなど、患者さんがお困りの症状を軽減する治療を行います。また、通院の負担が大きい患者さんについては、訪問看護などで対応する体制づくりも進めています。難病医療の基本は " living with a rare disease"、すなわち病気とともに生きる人生を支援することです。お子さんであれば学校に通う、集団生活に参加するといったことを、どう確保していくかを患者さんと一緒に考えていくのです」と、大薗センター長が、希少疾患の人たちと向き合う姿勢を語る。
実際に治療を行う際には、点滴は看護師、遺伝カウンセリングは遺伝カウンセラーというように、医師以外の専門職にも協力してもらっている。臨床検査技師、管理栄養士、リハビリセラピストなど、希少疾患治療には、多職種の協力が不可欠という。
現在、同センターで実際に診ている患者の疾患は、神経変性疾患、消化器疾患、免疫疾患、骨筋肉疾患、内分泌疾患などが多いが、これらのほかにも、小児から成人までさまざまな疾患の人が受診している。
3. 診療の特徴
豊富な経験と世界に広がるネットワークを駆使し
最新の医療と生きた情報を提供
大薗センター長は、難病医療推進センターの強みとして、専門医による詳細な説明や、世界に広がる幅広いネットワークを駆使した最新の情報提供などを挙げる。これらを可能にしているのは、センター長の豊富な経験や人脈である。
小児科医である大薗センター長は、アレルギーや感染症などよくある疾患を診察しながら、希少難病に向き合う機会がもともと多くあったという。「1992年から約10年間勤務した大阪府立母子保健総合医療センター時代には、病理部門にも在籍し、胎児期に遺伝的な異常が疑われた症例に多数出会いました。この時期に、希少疾患の患者さんを診察するベースができたと思っています」とセンター長が振り返る。
さらに、2013年頃から担当した医師主導治験も、現在につながる大きな経験だったと語る。その治験とは、低ホスファターゼ症の酵素補充療法について、全国の医師とチームを組んで、安全性や有効性を確かめたもの。この治療法は2015年に厚生労働省により薬事承認を受けたが、低ホスファターゼ症の治療薬としてはこれが世界初の承認であり、世界中の患者に希望を与えるとともに、大薗センター長にとっても大きな成功体験となった。
この実績をきっかけに、大薗センター長のもとにさまざまな治験の依頼が舞い込むようになり、それに応えているうちに、医師としての守備範囲が広がり、世界的なつながりもできていった。「こうした経験もあって、患者さんから相談されたときには、単に病名や検査結果の説明をするだけでなく、近く開始される治験の計画など生きた情報や、その病気の治療やケアに関する将来見通しまで含めてお話しできます」と言う。
大薗センター長は希少疾患の人たちについて、「患者さんではなく、ピープルやパーソンと言ったほうが相応しいと思います。私たちとの関係性も、医師と患者ではなく、人間同士です。そうした付き合い方が自然にできることによって、生きることを支える医療が実現できるのだと思います」と語る。診療だけでなく、患者会との交流などに際しても同様の姿勢を貫いている。この姿勢は、初めて希少難病と向き合った頃(90年代初頭)から変わっていない。
「今でこそ、誰一人取り残さないといった社会全体の価値観が醸成され、希少疾患にも光が当たるようになりましたが、20年、30年前には、医療といえば患者さんの多い疾患を対象とするのが一般的で、希少疾患について本気で考える医師はごく少数でした。そこで、誰もやらないなら私がやりましょう、といった気持ちでかかわり始めたのです。以来、診療を行うと同時に、難病の人たちの代弁者として、ご本人たちが何に困っているのか、どんな支援が必要かを、関連学会の会員に対して、あるいは大阪府や厚生労働省に対して発信する活動にも力を入れてきました」と語る大薗センター長は、希少疾患の人たちにとって強い味方である。
4. 行政機関との連携
より多くの人に専門医療を届けるべく
難病医療協力病院の指定を目指す
1998年以降、各都道府県では、重症難病患者の身近な入院施設の確保などを目的として難病診療連携拠点病院、難病診療分野別拠点病院、難病医療協力病院の指定が進められてきている。大薗センター長によれば、大阪府ではこの取り組みが比較的早期に始まり、2024年3月までに14の難病診療連携拠点病院、3つの難病診療分野別拠点病院、11の難病医療協力病院が指定され、府全体で難病医療の体制づくりが進んでいる。
医誠会国際総合病院も難病医療協力病院になることを目指し、院内に42名在籍している難病指定医の専門性に関する調査などを進め、早めに申請し指定を受けたい意向だ。難病医療協力病院になる意義を大薗センター長が次のように説明する。
「一言で難病(希少疾患)といっても先ほども述べた通り、その種類は7,000ほどもあります。難病は基本的に慢性に経過しますから、患者さんのお悩みや負担は相当のものです。そうした患者さんたちへの対応を、それぞれの医療機関が単独で行うのは困難です。そこで、拠点病院、協力病院などとして得意分野を登録することで、全体として適切な診療を提供していくことが必要になるわけです」
5. 今後の課題・展望
若手医師の育成や啓発活動にも取り組みながら、
希少疾患とともに生きる人を支え続ける
大薗センター長は小児科医として、現在の日本社会や医療に対し、「今いる子どもたちのことをもっと本気で考えてほしい。少子化対策だけでなく、一人ひとりの子どもの個別の問題に向き合える環境がしっかり整うことを願っています。たとえば、一般の子どもと違う点があったら、育ち方や躾の面だけではなく、遺伝的要因などエビデンスを示しながら、家庭、学校、医療機関などを含めて適切な対応がとられる環境が整うことが理想です」と話す。
希少疾患への取り組みがさらに進むように、難病医療推進センターでは今後、医師の育成にも力を入れていく方針だ。「若い医師にとって、変化のない分野は興味を惹かれにくいでしょう。しかし、希少疾患医療は近年目覚ましく進化していますから、参入しやすいと思います。私がこれまでに体験してきたように、再生医療も含めて新しい治療法の開発に携われる機会もまだまだあるはずです。ぜひ多くの若手医師に、診療に参加してもらいたいと思っています」と次世代に期待する。
また、「希少疾患の中には、病名すら知られていないものが多々あります。難病に苦しむ人が医療につながるためには、一般の人々にとって身近な医師に病気の存在を知ってもらうことが第一歩です」と話し、希少疾患に関する啓発を、今後も国内外で行っていく。
こうした多彩な活動を展開する究極の目的は、希少疾患とともに生きる人を支えることにほかならない。最新の設備と多くの専門家を擁する医誠会国際総合病院難病医療推進センターは、希少疾患に苦しむ多くの人の救いの場となるに違いない。
KKC-2024-00509-1
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