自治医科大学 とちぎ子ども医療センター
[希少疾病診療~未来への扉~]
2024年10月28日公開/2024年10月作成
- ●病院長:川合 謙介 先生
- ●センター長:小坂 仁 先生
- ●開設:2006年
- ●所在地:栃木県下野市薬師寺3311-1
大学病院併設の強みを生かし、
一般病院では対応困難な希少疾患の診断・治療に取り組む
2006年に開設された自治医科大学とちぎ子ども医療センターは、大学病院併設の強みを生かし、栃木県の小児医療の拠点として発展してきた。その診療圏は県内のみならず茨城県、群馬県、埼玉県の一部にまで広がる。近年は、一般病院では対応しきれない希少疾患の検査・診断・治療にも注力。早期治療が可能となった骨系統疾患などの希少疾患を確実に拾い上げ、検査・診断・治療につなげるために、栃木県小児科医会と連携し、地域の小児科医への啓発活動にも取り組んでいる。
1. センターの特徴
11診療科・3部門の垣根は低く、
連携を基本とする診療体制を構築
栃木県には2000年代初めまで子ども病院がなく、心疾患などの手術をはじめ、高度な専門医療を必要とする病児は東京都内の医療機関に送られていた。こうした状況を打開するために、栃木県の要請を受け、2006年に自治医科大学とちぎ子ども医療センターは開設された。大学病院併設型の総合小児医療施設は全国初の取り組みであり、建物が独立した別棟となっているのは現在、全国に約10施設ある大学病院併設型の小児医療施設の中でも同センターのみという。
開設以来、同センターは大学病院の診療機能、人的資源、研究機能、総合周産期医療などと緊密に連携しながら小児に対する高度専門医療を提供してきた。その診療圏は広く、県全域に加え、茨城県筑西地域、群馬県両毛地域、埼玉県北部地域からも小児患者を受け入れている。
病床数は137床。一般病床114床に加え、PICU8床、精神科15床を備え、あらゆる小児の疾患に対応する。年間の外来受診者数は延べ7万人前後で、入院患者数は延べ3~4万人である。一般診療のほか、2.5~3次救急を担う外来診療では、小児科の総合診療部が最初の窓口となり、必要に応じて同科の専門診療部に引き継ぐ仕組みを導入し、小児科だけで55名の小児科医が在籍する。
「専門診療部では、慢性疾患を持つ患者・家族のケアから遺伝子治療など高度な先端医療まで対応しています。なかでも大学病院に併設されている強みを生かし、遺伝子治療においては日本をリードする存在です」とセンター長を務める自治医科大学医学部小児科学講座の小坂 仁教授は説明する。
このほか、同センターには小児外科、小児・先天性心臓血管外科、小児泌尿器科、小児整形外科、小児脳神経外科、小児移植外科、子どもの心の診療科など10の診療科および小児画像診断部、小児手術・集中治療部、小児リハビリテーション部の3部門が設置されている。「各診療科・部門の垣根は低く、合同カンファレンスも多く開催されるなど連携と協働を基本に一体となって診療に取り組んでいます」と小坂教授は診療体制の特徴を挙げる。
2. 診療の特徴
治療が可能になった希少疾患の
早期発見に注力する
栃木県の小児医療をリードする同センターでは、ほかの小児医療機関では対応しきれない希少疾患に対する検査・診断・診療も担っている。なかでも自治医科大学医学部小児科学講座の田島敏広教授が率いる内分泌・糖尿病・代謝グループでは、県内の医療機関から紹介されてくる希少疾患に対応している。
「脊髄性筋萎縮症(SMA)をはじめ、これまで治療法がなかった希少疾患に対して新しい治療薬が次々に開発されたことにより、これらの希少疾患を早期に発見して症状が出現する前に治療を開始することが全国的に推進されています。こうした機運を受け、私たちも希少疾患の早期発見・治療に取り組んでいるところです」と田島教授は説明する。
同グループは、新生児マススクリーニング検査で発見される疾患のほか、近年は骨系統疾患の診断や治療にも力を入れている。「これらの疾患についても酵素補充療法や抗体薬による新しい治療法などが登場していますが、県内の内分泌代謝科(小児)指導医は私だけなので、新しい治療も当センターでしか対応できないため、県内の骨系統疾患はここに集約されています」(田島教授)。
骨系統疾患は乳幼児健診で気づくことが多いため、栃木県から健診業務を委託されている栃木県小児科医会と連携して骨系統疾患の講演会や勉強会を開催し、地域の小児科医への啓発活動にも積極的に取り組んでいる。
乳幼児健診などを通して地域から拾い上げても、希少疾患の場合は診療所や一般病院では対応できない特殊な検査が必要になるため、同センターでは疑い例の検査段階から患児を引き受ける。検査では血液検査で希少疾患の診断に必須となるホルモン値などを測定するほか、最終的に遺伝学的検査を実施することもある。そして、骨系統疾患の治療は小児整形外科と共同で行い、小児リハビリテーション部とも連携して患児のQOL向上を目指す。
「希少疾患の治療では特に多科連携がポイントになります。ほかには、小児科の血液腫瘍グループ、小児脳神経外科とともに脳腫瘍の治療後のホルモン補充療法を行っています。また、小児泌尿器科と連携して性分化疾患にも対応し、この希少疾患も県内で診療できるのは当センターのみとなるため、近隣の医療機関からも患児を受け入れています」(田島教授)。
3. 療養環境の特徴①
民間活力を積極的に取り入れて
環境整備や家族支援を充実
一方、診療体制以外の特徴としては、設立時から民間活力を取り入れてきたことが挙げられる。その一つがボランティアの積極的な活用だ。センター内では、さまざまな患者・家族支援に多くのボランティアが活躍し、自治医科大学で活動するボランティアの半数以上は同センターに関係しているという。
また、日本造園修景協会栃木支部は同センターが開設されたときに子どもたちと家族のために樹木と花を提供。翌月には、同協会と栃木県造園建設業協会が発起人となり、病気の子どもたちの心を元気づけ、希望を与えることを目的としたボランティア団体「自治医科大学とちぎ医療センター花咲jii」が結成された。
以来18年にわたって造園会社のスタッフや地域ボランティアがセンター周辺の花壇や植栽の管理を行ってきた。「殺風景になりがちな医療環境ですが、花壇や植栽があるおかげで四季折々の季節感が楽しめ、子どもたちやご家族はもちろんのこと、我々医療者にとっても癒しの空間になっています」(小坂教授)。
日本で5カ所目となる「ドナルド・マクドナルド・ハウスとちぎ」(病気の子どもと家族のための滞在施設)もセンターと同時に開設された。これは自治医科大学が大学施設の一部を無償提供し、県がハウスの内装費を負担、財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンが施設運用をする3者協働により実現したものだ。同センターには遠方からやってきて入院している子どもが少なくないため、家族にとって滞在施設が整備されていることは大きなサポートとなっている。
4. 療養環境の特徴②
子どもの成長発達の観点から
保育士の複数名配置を実現
さらに、同センターは子どもたちの療養環境の整備にも注力しており、各病棟には保育士や看護補助者が複数名配置されている。令和6年度診療報酬改定では、複数名の保育士、看護補助者を配置すると加算を算定できるようになったが、同センターはそれ以前から保育士や看護補助者の手厚い配置に取り組んでいる。
「保育士には子どもの成長発達を支援する役割があり、個々の評価を行ったうえで支援計画を立案し、遊びを通して病児の成長発達を促しています」と2A病棟(急性期病棟)の吉羽希実子主任看護師は説明する。同センター4階に併設されている特別支援学校分校との調整も保育士の大切な仕事だ。
一方、2A病棟は感染症の治療で入院する子どもたちが大半だが、心疾患など重篤な基礎疾患を持っていたり、重症心身障害児であることも多い。「このような背景がある子どもたちが感染症に罹患すると重症化しやすいため、迅速に治療できるように医師と連携してサポートすることが私たち看護師の重要な役割だと考えています」(吉羽主任看護師)。また、小児科は15歳以下を対象とするものの、成人の診療科に移行できない患者も一定数おり、新生児期から青年期まで幅広い年齢層に対応しなければならない状況だ。「小児科の看護師は発達課題に応じたケアを提供しています」と同じく2A病棟の大塚智美看護師は説明する。
さらに脳症などに罹患し医療的ケアが必要になった子どもとその家族の退院支援や在宅ケアを含めた環境調整も看護師の重要な仕事だ。「大学病院の機能として患者サポートセンターがあるので、そこの看護師やメディカルソーシャルワーカーと連携して対応しています。週2回、定期的にカンファレンスを行っており、多職種の連携もよく取れていると思っています」(吉羽主任看護師)。
精神科がある同センターには4名の公認心理師が配属されており、人員が充実している。そのため、基礎疾患や医療的ケア児を持つ家族の精神的支援は、公認心理師と連携して対応することもある。また、病棟カンファレンスで病児に対する精神的支援が必要であると判断された場合は、主治医を通して公認心理師に専門的な対応をしてもらう仕組みだ。「私たちが気づく前にご家族から要望を受けることもあるため、日頃から話をよく聞き、子どもたちの心理面に関しても積極的に情報収集するよう努めています」と大塚看護師は話す。
5. 展望と課題
成人移行支援と付き添い家族の
生活支援の充実が新たな課題に
診療面では成人移行支援(トランジション)のあり方が課題となっている。「例えば当センターには骨系統疾患の治療を受けている患児が5名ほどいますが、そのうちの一人は18歳です。内科で対応してもらえると期待する疾患もあれば、小児科で継続診療したほうがいいと考える疾患もあります。疾患に限らず、小児科医でも診療したことのない希少疾患を、内科医に託すのは難しいとも感じています」と田島教授は指摘する。こうした現状も踏まえたうえで、患者にとって最もよい成人移行支援のあり方を社会全体で考え直す時期にきていると示唆する。
療養面では付き添い家族への生活支援の充実が課題だ。「今回の診療報酬改定によって小児入院医療管理料の算定要件として食事や睡眠など付き添い環境への配慮が求められるようになりました。当センターは原則面会のみとなっており、家族が病室に泊まり込む必要はないものの、食事はコンビニ食が中心で、家族が食事をとるスペースもありません。具体的な改善策を検討するのはこれからですが、早急に対応していきたいと思っています」と小坂教授は語る。
また、医師・看護師など医療スタッフの人材育成も小児医療の質向上には欠かせないため、重点課題に挙げる。「同時に定着率を高めることも重要で、働きやすい労働環境を整えていくことが必要です」(田島教授)。小児科では女性医師はもちろんのこと、男性医師にも育児休暇を取得するように推奨し、ワークライフバランスを重視した働き方を整備中だ。
栃木県および周辺地域の小児医療の最後の砦として、希少疾患を含め、子どもたちがどのような疾患にかかったとしても安心して最新かつ最善の治療が受けられるように、自治医科大学とちぎ子ども医療センターは大学病院に併設されている強みを存分に生かしながら日々の診療と研究に向き合っている。
KKC-2024-00670-1
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