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医療法人社団楽佑会 池辺クリニック
[パーキンソン病 med.front]

2023年7月14日公開/2023年7月作成

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病院外観
  • ●病院長:池邊 紳一郎 先生
  • ●開設:2001年10月
  • ●所在地:静岡県富士市川成新町250番地

診断から看取りまでトータルに担う
脳神経内科医療・介護・リハビリの拠点

2001年に神経内科専門の無床診療所として開設した池辺クリニック。その後、地域のニーズに応じて施設や機能を徐々に拡大し、2009年には19床の病床、リハビリテーションフロア、充実した検査機器などを備えた現在のクリニックを新築した。また、2007年にはクリニックを介護面から支えるCAS株式会社を設立。医療と介護を融合したサービスを展開しながら、パーキンソン病をはじめとした脳神経内科分野の検査・診断、治療、リハビリテーション、高齢者施設や在宅での医療・介護、看取りまでトータルに提供している。

1. クリニックの概要 医療と介護を融合したサービスで
地域のパーキンソン病患者をサポート

池邊 紳一郎 院長

池邊 紳一郎 院長

医療法人社団楽佑会池辺クリニックは、JR東海道本線富士駅から車で約10分、新幹線新富士駅からは徒歩15分ほどの場所にある。鉄筋コンクリート造り4階建てで、1階が外来とレントゲン、MRI、CT、骨密度などの画像検査を行う放射線検査施設、2階がリハビリテーション施設、3階が病棟と脳波、脈波、エコー、呼吸機能検査などを行う臨床検査施設となっている。3階の半分と4階にはサービス付き高齢者向け住宅も入っている。クリニック内にはレストランや売店も併設し、100台以上収容できる駐車場も完備。大小約20台の車を使った送迎サービスも行うなど患者の利便性も追求している。

この建物が竣工したのは2009年。開業してから2年間は、外来診療とリハビリテーションを主体とした無床診療所であったが、2003年には病棟を併設し、入院治療と入院リハビリを開始した。さらに2007年、関連会社であるCAS株式会社を設立し、介護サービスの提供を始めた。CASとは「Care Assistant System」の頭文字で、同社では通所介護、居宅介護支援、訪問看護、訪問介護などの事業を行っている。

池邊紳一郎院長は、1985年に順天堂大学医学部を卒業し、同大学神経内科医局に入局。1995年に「パーキンソン病の発症機序」の研究により学位を取得。米国マサチューセッツ総合病院(ハーバード医科大学)留学などを経て、2001年10月、池辺クリニックを開業した。

富士市との縁は、大学の先輩を通してできた。「富士宮市で脳神経内科のクリニックを開業しておられる親しい先輩を手伝っていたのがきっかけで、隣の富士市で開業することになりました」と池邊院長。外来、入院、リハビリなどをトータルに担うその先輩のスタイルをお手本に、当初から、幅広いサービスを提供するクリニックの姿をイメージしていたという。

ただし、CAS社を設立し、介護サービスにまで事業を広げようと考えたのは、開業後何年か経ってからだった。「富士市にはもともと脳神経内科医がおらず、変性疾患のケアのわかる人材もいなかったため、自分でやるしかないと思ったのです。それで、在宅医療・介護も行うようになりました。新しい建物をつくったときに高齢者住宅を併設したのは、入院のニーズが高く、病棟の19床では足りなかったからです。そうやって少しずつ役割を拡大し、診断から看取りまですべてに対応できる体制を整えてきました」と、池邊院長がこれまでの経緯を語る。

現在のスタッフ数は、池辺クリニックとCAS社を合わせて約180名だ。この中には、かつて池邊院長が教鞭をとっていたリハビリテーション専門学校の教え子も少なからず含まれているが、多くは一般募集で集まってきた。入職してからPDナースやパーキンソン病療養指導士、介護福祉士などの資格を取得したスタッフも数多くいる。開業時のスタッフが医療事務2名、看護師2名だったことを考えると、目覚ましい成長である。

「脳神経内科専門診療機関」を謳っていることもあり、患者の大半は脳神経内科領域の疾患で、パーキンソン病患者600〜700人を含む数多くの変性疾患患者を継続的に診ている。また、認知症患者も多く、1,000人以上をサポートしている。受診のきっかけは地域の内科診療所、整形外科診療所などからの紹介が約半数。残りは近隣住民や、同クリニックのウェブサイトを見てきた人などである。

外来診察室の奥に設けられた処置室

放射線検査室には最新のオープン型MRIを配備している

クリニックに隣接する駐車場。乗用車100台以上を収容できる

患者の送迎を行う送迎車を約20台完備。病院発を1日約30本運行している

2. パーキンソン病の治療 初診から2週間以内に診断
薬物療法とリハビリを併行して実施

パーキンソン病やその疑いで来院した患者は、診療の前に必ず看護師が病歴や服薬状況、運動の状況、家庭環境などを聞き取る仕組みで、その内容を参照しながら診察し、初診の日のうちに脳の画像診断まで終わらせる。脳血流シンチグラフィーなど特殊な検査が必要な場合は連携先病院に検査依頼をするが、こうした検査も含めて2週間以内には必要な検査を終わらせ診断に至る仕組みだ。

パーキンソン病と診断した患者については、ほとんどの場合、薬物療法とリハビリテーションを最初から併行して進めていく。まずは自宅でできるリハビリの方法を指導。また、池邊院長が専門的なリハビリが必要と判断した場合はリハビリ部門につなぎ、クリニック内のリハビリテーション室で外来リハビリとして提供する。

外来リハビリは、退院後もリハビリを継続する患者を対象とした回復期のリハビリテーションと、在宅で安定した維持期を過ごしている患者を対象とした維持期のリハビリテーションの2つに大きく分かれる。双方とも予約制で、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が個別に提供する。通院頻度は週1回の場合が多いが、病状によっては週に2回、3回と頻回に行うこともある。

これとは別に、集団でのレクリエーション、手先を使う作業活動や頭の体操などを行う通所リハビリ(デイケア)も提供している。ここでは単に、身体機能や認知機能の維持・向上を図るだけでなく、楽しみを見つけたり、患者同士が交流したりすることも重視している。

「治療とリハビリを開始して一定程度、多くの場合2〜3カ月経過を見たところで、ケースワーカーに介入してもらって相談の場を設け、難病認定や要介護認定の仕組みや手続きのお話をします」と初期の診療のおおまかな流れを池邊院長が紹介する。相談にはなるべく家族にも同席してもらう。また、患者の病状によっては外科的治療についても説明し、希望があれば大学病院など手術療法を行っている病院を紹介する。

デイケアルーム

デイケアルームには利用者が共同で制作した作品が掲示されている

3. 「個別リハビリ」 より的確な初期治療を行うべく
オリジナルの入院プログラムを開始

入院リハビリでは、パーキンソン病患者の投薬調整や各種訓練などを実施している。病状に合わせてベッドサイドでのリハビリから開始し、段階を追って、離床、車椅子や歩行訓練、退院後を見据えた訓練などを行う。退院後は前述した外来リハビリや後述する難病リハビリ、デイケアなどにつなげていく。

病状把握と治療・リハビリをより的確に行うために2023年5月より新たに開始したものに「個別リハビリ」がある。これは、病態把握を目的に、パーキンソン病患者に定期的に3日から1週間程度の入院をしてもらい、UPDRS(Unified Parkinson's Disease Rating Scale)、PDQ39(Parkinson's Disease Questionnaire-39)などのテスト用いて重症度を総合的に評価する、池辺クリニックオリジナルのプログラムだ。

「こうした検査をすべて外来で行うのは難しいのです。そのため、これまで私が薬を変更しようとする際に、UPDRSやPDQ39のデータを確認しようとすると、それがまだ終わっていない患者さんが少なからずいたのです。そこで、もれなくテストができる方法をリハビリスタッフと話し合い、診療の仕組みの1つとして初期から短期入院を組み込んでしまおうと考えました」と、池邊院長が「個別リハビリ」を発案したきっかけを説明する。

リハビリスタッフとの意見交換は日頃から行っているほか、週に1回、定期的に会合の場をつくってアイデアを出してもらっている。看護師も同様だ。「医師の目だけでは見えない部分もあります。それを補ってもらうためにも看護師やリハビリスタッフの視点を重視しています」と池邊院長は言う。

4. 難病リハビリ 県下唯一の難病患者リハビリテーション実施施設
デイケアなどと組み合わせて継続的にリハビリを提供

池辺クリニックは、静岡県下で難病患者リハビリテーションを実施している唯一の施設でもある。難病患者リハビリテーション料を算定するためには、専任医師や専従スタッフの配置、専用施設や設備の完備、送迎の実施といったさまざまな条件が課せられることもあり、なかなか参入する医療機関が増えないのが現状だが、池辺クリニックでは開業時から計画があったため、2007年9月に開始し、現在まで継続して行っている。

難病患者リハビリテーション(以下、難病リハビリ)の内容は、集団でのリハビリとレクリエーション(体操、歌、手作業など)で、難病リハビリテーション室で患者の病状や希望に合わせて週に1〜4回実施している。

難病リハビリの実施施設であり続けることの意義を池邊院長は次のように語る。
「介護保険によるリハビリには、要介護度による制約などがありますが、難病リハビリは医療保険によるリハビリなので、医師が必要と判断し、患者が希望すれば行うことができるという意味でやりやすいのです。先ほどお話しした入院リハビリや外来での個別リハビリ、デイケアなどと組み合わせることで間断なくリハビリを提供できます。この"続ける"ということを当クリニックでは大切にしています」

訪問リハビリは現在、通院困難なパーキンソン病患者など約40名を対象に行っており、訪問看護と組み合わせて交互に提供している。また、必要に応じて訪問診療にも対応している。

5. 難病患者向け賃貸住宅 通常の施設への入所が難しい難病患者が全国から集まる
クリニックによる医療サポートで安心・安全を確保

池辺クリニックと同じ建物の3階の一部と4階は、難病患者向けの賃貸住宅となっている。関連会社であるCAS株式会社が運営するサービス付き高齢者向け住宅「サポートハウスひばり」である。パーキンソン病をはじめ筋委縮性側索硬化症(ALS)や脊髄小脳変性症(SCD)、多系統委縮症(MSA)といった神経難病患者や、人工呼吸器を使っている人、痰の吸引が頻繁に必要な人などが入所できる施設が不足する中、こうした人々の受け皿として運営している。

入所希望者は多く、日本全国から集まった患者たちで常に満室状態。部屋が空くまで一時的に他の施設で待機してもらうこともある。

サポートハウスひばりでは、訪問介護員2級養成研修課程修了以上の有資格者が入所者の生活管理をしている。また、医療が必要となれば池辺クリニックを受診したり、池辺クリニックの医師の往診を利用したりすることもできる。消化管出血など他科の受診が必要な症状があれば、速やかに連携先病院へつなぐなど、入所者が安心して生活できる体制を整えている。

6. 今後の課題・展望 脳神経内科専門の拠点として
患者の居場所、受け皿をつくり続ける

今後のプランとしては、いわゆるパワーリハビリテーションの導入がある。パーキンソン病患者はもちろん、脳梗塞などリハビリの期間が限られている患者、さらには一般市民も含めて、リハビリや運動を継続したいという人のためのジムを新たにつくりたいという。ウオーキングマシンやエアロバイク、ウエイトリフティングなどの機器を配備する計画だ。

一方、比較的若いパーキンソン病患者や若年性認知症の人向けとしては、働く場の提供を考えている。「職場を失い、介護保険も使えず、行き場を失った方々が相当数おられますので、そういった方々に軽作業をしていただき、少しでもお給料を出したいと思っています。スタッフからは、パン屋さんを開いて外来患者さんなどに買っていただいたらどうかという意見も出ています。認知症カフェやPDカフェの要素も取り入れたベーカリーができたらと思います」と、池邊院長が具体的なイメージを語る。これら誰もが利用できるジムや、若年の患者の働く場は2024年中に設ける予定で、着々と準備が進んでいる。

先に紹介した、難病患者向け賃貸住宅もそうだが、池邊院長は患者に必要なものは何か、それをどう提供するかについて常にスタッフとともに考えを巡らし、地域にないものは自前でつくり出してきた。その先に思い描くのは、病気の人が差別されない地域の姿だ。

パーキンソン病を取り巻く近年の状況については、「とても良い時代になりました。新しい薬や外科的治療法が次々に開発され、リハビリのメニューや制度も整ってきています」と評価する。ただし、決め手となる疾患修飾薬が開発されるのはまだ先のこと。それまでは病気をなるべく進行させないように、脳神経内科医療・介護・リハビリの地域拠点として、できる限りの取り組みを重ねていきたいという。

KKC-2023-00450-1

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