医療法人takk 糖尿病・甲状腺 上西内科
[希少疾病診療~未来への扉~]
2024年9月3日公開/2024年9月作成
- ●理事長•院長:上西 栄太 先生
- ●開設:2018年7月
- ●所在地:愛知県小牧市常普請2丁目83番地
目の前の患者に興味を持ち掘り下げることで
さまざまな希少疾患を診断・治療
2018年7月、"また来たくなるクリニック"をコンセプトに開業した糖尿病・甲状腺 上西内科は、カフェのような快適な環境と総合病院並みの検査設備、患者の負担軽減を重視した外来診療、目と目を合わせたコミュニケーションなどを強みに多くの患者に支持されている。疑問に思った症例については徹底的に掘り下げる方針で、結果的に開業から約6年で30例以上の希少疾患を診断している。2022年に『子どもの成長・糖尿病 上西のびしろクリニック』、2024年に『かすがい内科 咳と頭痛と生活習慣病のクリニック』とグループ施設も開院。患者の困りごとに応えながら、医療者の自己実現にも注力している。
1. クリニックの特徴
"また来たくなるクリニック"を目指し
快適な空間で患者負担の少ない医療を実践
糖尿病・甲状腺 上西内科はその名の通り、糖尿病と甲状腺疾患の診療に特化した内科クリニックだ。開業は2018年7月。医学部を卒業後、複数の中核病院、神戸大学大学院医学研究科、名古屋大学医学系研究科などで研鑽を積み、総合内科専門医、糖尿病専門医・指導医、内分泌専門医・指導医などの資格を持つ上西栄太院長が、自らの専門領域で力を発揮することで、患者本人だけでなく家族も含めてその不安や負担を軽減する仕組みを構築することを目指して、故郷である愛知県小牧市にオープンした。
上西院長はクリニックのコンセプトを次のように語る。
「開業時に掲げたキーワードは、"また来たくなるクリニック"です。当院の専門領域の1つである糖尿病の患者さんは一般に、1年で約8%の方が治療から離脱されてしまうのですが、その背景には、通院や待ち時間の長さなどに対する患者さんの負担感があると思われます。そこで、『ここだったらまた来てもいいな』と思って通い続けていただけるようなクリニックをつくることで、離脱する方を少しでも減らせたらと考えました」
コンセプト実現のために実践した具体的な取り組みは、特にハード面において独創的だ。たとえば木材を多用した建物、絨毯敷きの待合室は医療機関にいることを忘れてしまいそうな温もりたっぷりの空間。また、待合室の椅子はすべて布張りで温かみがあり、座り心地も良い。「布張りの椅子は汚れがつきやすいからと避ける医療機関も多いようですが、汚れたら張り替えればいいし、張り替えの際に色を変えればそれだけで室内の雰囲気をガラッと変えられるのも布の良さです」と上西院長が言う。
3つ並ぶ診察室の前の壁に並べられたデジタル窓には、世界中の美しい景色が映し出されている。室内のところどころに配置した観葉植物によって生命感も漂う。これらの観葉植物は、開業時のいただきものを大事に育てて株分けしたもので、すくすくと育つ様子が患者に元気を与えている。
無料のドリンクコーナーや雑誌コーナーもあり、待合室にいる限りはカフェでくつろいでいるかのようである。こうした院内の設えは、美しい自然で知られる北海道・美瑛町のレストランをイメージしており、設計・施工は、上西院長の好みを知り尽くしている幼なじみの建築士に紹介してもらった設計事務所に依頼した。
コーヒーは挽き立て、雑誌は上西院長自ら書店に出向き、興味を引かれたものを毎月買って並べている。院長が趣味で集めている作家ものの陶器などを展示するコーナーもある。展示作品は随時入れ替えているので、通院患者から見ると、来るたびに変化を感じられることになり、「また来てみたいな」と思ってもらうための1つの仕掛けにもなっている。
医療設備の面では、院内に広い検査室を設け検査機器を総合病院並みに揃えることで、検査結果が迅速に得られ、受診当日にデータに基づいた診察が実施できる仕組みを構築している。患者にとっては、診察、検査、結果説明まで1回の受診で済ませることが可能だ。
一方、ソフトの面では、人間同士のコミュニケーションをとても大切にしている。受付から診察、検査、療養指導など、患者に対するときは必ず目と目を合わせることをスタッフ全員が心がけている。医師の診察には必ずクラークが同席し、入力業務をクラークに任せることで、医師は患者と目と目を合わせて診察や説明を行うことができる。こうした診療スタイルも患者から高く評価されている。
診療は3診体制で、診療時間は火〜金曜が10:00-13:30、15:00-19:00、土曜が9:00-12:00、14:00-18:00。日・月・祝日が休診だ。平日の夜間や土曜も空いているため、仕事を持つ人の受診も多い。そのせいか受診する人で最も多いのは50代、60代と、専門領域の割には比較的若めの年齢層となっている。
2. 医療の特徴
糖尿病・内分泌専門医と呼吸器内科専門医が常勤
特殊な治療や検査も外来で実施
スタッフは、常勤・非常勤含めて医師が上西院長、呼吸器内科専門医で総合内科専門医でもある中畑征史副院長など7名、看護師が6名(うち糖尿病認定看護師1名、糖尿病療養指導士5名)、管理栄養士10余名、臨床検査技師6名。ほかに医療事務など事務スタッフが10数名いる。このうち管理栄養士は、「医療の仕組みやクリニックの仕事全般を理解したうえで専門職としても活躍してほしい」といった上西院長の考えから、受付やクラークを兼務している。
上西院長、中畑副院長は毎日外来を担当し、それぞれの専門領域を中心に、総合内科、一般内科も診ている。非常勤医5名は曜日担当制だ。基本的に主治医制のため、患者はほぼ毎回、同じ医師の診察を受けることができる。
一般の医療機関では入院で行うことの多いインスリンポンプなど特殊なデバイスの導入を外来で行っていること、PSG(終夜睡眠ポリグラフ)検査も含めて睡眠時無呼吸症候群の検査を在宅でできることなども大きな特徴である。また、一般的な糖尿病教育入院の内容も、外来で何度かに分けて実施するため入院は不要。睡眠時無呼吸症候群を合併している糖尿病患者を、上西院長と中畑副院長が協力して治療にあたるなど、複数の疾患にワンストップで対応できるのも強みである。
看護師は検査室にいることが多く、採血など検査にかかわる業務や、検査室の一角にあるフットケアコーナーでのフットケア外来、療養指導・相談などを主に担当している。
検査室には、血液生化学検査、体組成測定、ABI(足関節上腕血圧比)測定、各種エコー検査(心、腹部、甲状腺)など豊富かつハイスペックの検査機器が並ぶ。グループ施設で2024年4月に開院した『かすがい内科 咳と頭痛と生活習慣病のクリニック』に配備しているCTも、必要に応じて積極的に活用している。
医療の質を維持・向上するためには、こういった充実した設備やシステムに加えて、「日々の勉強を重ねることに尽きます」と上西院長は言う。毎日出会う患者の症状一つひとつに着目し、疑問に思うことがあれば、文献を読み、他の医師の意見も聞きながら掘り下げていく。その積み重ねが医師としての力になり、医療水準を高めることにつながると語る。
3. 希少疾患への対応
開業からの約6年間で30例以上の希少疾患を診断
見逃される希少疾患を減らすべく努力
日々勉強を重ねる姿勢は、希少疾患の診断にもつながっている。「説明のつかない症状や検査結果の異常、家族歴など、疑問に思ったことは見過ごさず、徹底的に調べること。つまり患者さんに興味を持ち、掘り下げることで希少疾患に行き着くことが少なからずあります」と上西院長は言う。
「たとえば、20代や30代と若く、肥満傾向も見られないのに2型糖尿病と診断されている患者さんが来院されることがあります。こういう患者さんに出会うと私は、『普通の生活習慣病ではないのではないか』と感じます。そして、病歴や家族歴を詳細に追っていくと、別の病気が隠れていることが見えてくるわけです。ある20代の患者さんの場合は、MODY(maturity onset diabetes of the young;家族性若年糖尿病)を疑い、遺伝子検査を行ったところ、確定診断に至りました」
糖尿病・甲状腺 上西内科が遺伝子検査を外部の検査会社に速やかに依頼できるのは、上西院長が理事長を務める医療法人takkのグループ施設として2022年3月に開業した「子どもの成長・糖尿病 上西のびしろクリニック」の圓若かおり院長が、臨床遺伝専門医の資格を持っているからだ。遺伝子疾患を疑った際には圓若院長にも相談しながら慎重に検査を進める。また、文献上、既報にない遺伝子の変異が見つかった場合などは、その遺伝子に本当に病原性があるのかどうか、大学病院の専門医などの意見も聞いて判断するようにしているという。
一連の取り組みにより上西院長が開業後に診断した希少疾患の患者は、ミトコンドリア糖尿病8例、MODY3が3例(すべて別家系、うち2例は新規変異)、MODY5が1例、MODY13が1例、甲状腺の遺伝子疾患であるペンドレッド症候群1例、転写因子であるGATA3の遺伝子異常によるHDR症候群1例(新規変異)、TSH分泌が不適切に上昇しているSITHS(syndrome of inappropriate secretion of thyroid stimulating hormone ;TSH不適切分泌症候群)のうち、TSH産生腫瘍2例、甲状腺ホルモン不応症2家系、FGF23関連低リン血症性骨軟化症2例など約6年間で30例以上を数える。
ほかにも現在精査中の症例が複数あるのに加え、一般的とは言えない症状や検査結果が見られる患者が多数いるため、注意深く観察を続けている。それでもまだ、「自分が気づいていない希少疾患患者さんがほかにもいる可能性が高い」と考え、見逃される症例を少しでも減らせるように努力を続けている。
4. 希少疾患診断の意義
医療の進化をいち早く享受
患者の納得感を満たす意味でも確定診断が有効
希少疾患の診断に取り組む意義として上西院長は、早期の対応が可能になること、特に新しい治療法が確立された際に速やかに治療を開始できることをまず挙げる。
「近年、希少疾患の中にも既存の治療法が有効であるもの、効果的な新しい治療法が開発されているものなどがありますが、その治療法を実施するためにはまずは診断が前提となります。今後も新しい治療法が見つかる可能性は十分あり、早期に診断しておくことは、医療の進化をいち早く享受できるという意味でメリットが大きいと思います」
また、「患者さんの腹落ち感という意味でも、正確な診断は大きな意味を持つでしょう。ご自分の症状や検査値の異常の理由がわからずにいるのと、納得できる説明を聞けるのとではまったく違うはずです」と、確定診断がメンタル面にも良い効果をもたらすことを指摘。「希少疾患を見つけようとするのではなく、目の前の患者さんへの興味を持ち続けることで、希少疾患も含めて正確な診断に結びつけることを大切にしていきたい」と話す。
希少疾患への取り組みを続けるうちに、まったく新しい概念の疾患を発見する可能性もあると上西院長は考えている。実は、名古屋大学医学系研究科に在籍していた2011年4月~2013年3月の間に勤務したある病院の糖尿病・内分泌専門外来で、そうした経験をすでにしているからだ。他科の医師から「よくわからない低血圧症の症例に出会い、診断できずにいる」と相談された上西院長は、その患者について検査データや家族歴などを詳細に分析。その結果、それまでに報告されたことのない新規の自己免疫疾患であることを突き止め、論文として報告した(Uenishi et al., BBRC. 2024 Jun 25;714:149940)。幸い、既存の治療法で対応ができたことで無事回復した。現在は他の医師にかかっているその患者と、上西院長は今も交流を続けている。未知の疾患の患者を回復に導くことができたというある種の成功体験、手応えは、その後、院長自身の支えにもなっているという。
5. 今後の課題・展望
開業医はゲートキーパー
希少疾患の発見は"まだ見ぬ人へのプレゼント"
上西院長は、このように新しい疾患を発見し、文献として残していくことを、診療科や地域の枠を越えた"まだ見ぬ人へのプレゼント"だと表現する。また、臨床医にとって、新しい疾患概念を発見することは日々のやりがいにつながるうえ、知的好奇心を大いに満たすものでもあると話す。
「私たち開業医は、大病院に所属する専門医のように、希少疾患が疑われる患者さんを診ているのではなく、病気なのかどうかもわからない段階で非常に多くの患者さんに接することができる立場にいます。母集団が膨大だからこそ、一人ひとりとしっかり向き合うことで、通常では考えられない数の希少疾患を見つけることができたのです。こうした経験を経たいま、開業医が医療におけるゲートキーパーであることをあらためて実感しています。私たちがしっかりとゲートキーパー機能を果たすことで、まだまだおられるであろう希少疾患の患者さんを医療につなげることができるのではないでしょうか」と力を込める。
医療法人takkとしては、「糖尿病・甲状腺 上西内科」「子どもの成長・糖尿病 上西のびしろクリニック」「かすがい内科 咳と頭痛と生活習慣病のクリニック」の3施設で総勢50名以上のスタッフを擁するまでに成長した。今後は医療スタッフへの学びの場の提供、雇用の創出にもますます力を入れていきたいという。グループ施設は双方ともに、理想とする医療の実現を目指す医師と上西院長との出会いによってつくられた。今後も志を共有できる医師との出会いがあれば、新しいクリニックを増やしていくことも考えている。
「5年後に何をしているか、どうなっているかは自分でも想像がつきません」と上西院長。「ただし、学び続け、変わり続けていくことだけは忘れてはいけないと思っています。そして、人との出会いを大切にして、仲間と一緒に、少しずつでも成長していけたらと思います」と、自らがつくり上げてきた組織、そして医療そのものの未来を楽しみに見つめている。
KKC-2024-00470-1
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