広島赤十字・原爆病院
[希少疾病診療~未来への扉~]
2024年12月16日公開/2024年12月作成
- ●院長:古川 善也 先生
- ●開設:1939年5月
- ●所在地:広島市中区千田町1丁目9番6号
ビタミンD欠乏性くる病、低リン血症性くる病/
骨軟化症、腫瘍性骨軟化症や低ホスファターゼ症などの
早期発見・治療に向けて
日本赤十字社広島支部病院(1939年開設)と、広島原爆病院(1956年開設)の統合により1988年に誕生した広島赤十字・原爆病院。現在は34の診療科と565床の病床を擁し、幅広い医療に取り組んでいる。特に専門的な医療を提供する特殊外来のうちの1つが、「小児内分泌・夜尿症外来」である。同外来を担当する西美和医師は、成長障害、肥満、夜尿症などを専門とし、さらに血清中の亜鉛や銅の濃度の日本の基準値設定に関わるなど小児内分泌疾患の診療と臨床研究においてさまざまな実績を積みながら、希少疾患の早期発見・治療に貢献している。
1. 小児内分泌・夜尿症外来の特徴
オリジナルの問診票で病状や家族歴を詳細に把握
1万3,000人余りの小児内分泌疾患患者をノートに記録
小児内分泌疾患、成長障害、肥満、夜尿症などを専門とする西美和医師は、広島赤十字・原爆病院小児科に赴任した1985年6月以来、これらの疾患の患者の診療を続けている。これまでの約40年間に、西医師が診察した成長障害などの患者は1万3,000人余り。そのすべてについて、受診日、氏名、生年月日、病状・診断名、家族歴などを手書きの大学ノートに記録している。
「付せんを貼ったりページの端を折ったりして印をつけ、見たいときに見たいページを即座に開けるところが電子カルテとは違うノートの良さです」と西医師。このノートには、成長障害などの患者と同じように希少疾患患者についても記録し、目立つようにマークがしてある。何年かに一度程度の頻度で似たような患者が来院した際にも、このノートを開き、カルテを見て症状などを比較する。ノートへの記録、繰り返しの確認をしながら患者を診ているうちに、体型、顔つき、動作などの特徴から、ある程度、病名が予測できるようにもなったという。
小児患者全般を診る以外に診療対象を絞り込み、特殊外来としての「小児内分泌・夜尿症外来」を担当するようになったのは、1985年6月からである。現在は週1回、毎水曜日の午前・午後、完全予約制で診療にあたっている。
「私の外来の現在の主な対象は、低身長などの成長障害、思春期早発症・思春期遅発症などの思春期発来の問題、肥満、甲状腺疾患、夜尿症です。低身長、肥満、夜尿症に関してはオリジナルの問診票を使って最初にくわしい聞き取りをします。その内容によって、少し様子を見るか、すぐに詳細な検査をするかなどを判断します。患者さんやご家族には、心身の状態についての説明に加え、日常生活の注意や、治療などを丁寧に説明しています」と西医師が日頃の診療の様子を語る。
オリジナルの問診票には、妊娠中や出生時の様子、患者の兄弟・姉妹、両親、祖父母の体格まで、細かな記入欄を設けている。正確な数字がわからなくても、身長が高い、普通、低いなどおおまかに把握できるだけでも参考になるという。また、患者の付き添いで来院した家族についての所見も診断の参考にしている。ときには子どもを連れてきた家族の内分泌疾患や骨系統疾患を見つけることもあるという。
2. 希少疾患への取り組み
希少疾患の可能性を常に意識し早期発見に努める
精神運動発達の様子や体型、上肢・下肢の形などにも着目
西医師は、小児における希少疾患の早期発見・治療にも積極的に取り組んでいる。「骨の病気や代謝異常などは大変稀ではありますが、早期に見つけないと治療が難しくなることが多いので、とにかく早期発見を心がけています。先天性代謝異常症で骨の痛み、病的骨折、中枢神経障害などが現れるゴーシェ病や手足の痛みなどの症状が出るファブリー病などが疑われる場合には、なるべく早く大学病院など専門機関に紹介します。多くの患者さんは、私の外来に来られる以前に、身長が伸びない、身長が急に伸びている、思春期の発来が早い、あちこちの痛みがある、骨折が多いなど何らかの異常があって近くのクリニックなどを受診されています。そうした経緯などをよく聞いて、早期の診断につなげるようにしています」と、希少疾患と向き合う姿勢を話す。
骨系統疾患も西医師が注力している疾患である。「軟骨無形成症であれば、低身長に四肢が短いなどの特徴によって容易に診断できますが、軟骨低形成症の場合は程度の差があり、軽い場合は見逃されている場合も多々あります。疾患の種類や重度にもよりますが、とにかく早く見つけるに越したことはありません」と早期発見の重要性を強調する。
成長障害の早期発見には、成長曲線を活用している。「成人の場合は、太ったり痩せたりしますが、子ども時代は誰でも、身長、体重、頭位がだんだん大きくなっていくものです。その変化を把握するためには成長曲線が最も有用です。母子手帳には、健診ごとの数値が記入されていますので、それをもとに成長曲線を描けば、その子の成長の度合いや栄養状態が、同年代の他の子どもたちと比べてどのような状況か一目でわかります」
成長曲線は、患者が受診した際に西医師が描くこともあるが、多くは他の医療機関で成長障害を指摘され、そこからの紹介で西医師のもとへやってくる患者がほとんどだ。紹介もとはさまざまで、小児科以外にも、内科、外科、脳外科、整形外科なども含まれる。また、広島県内の病院や、県外の医療機関から紹介されてくるケースもある。「東京や大阪などの大都市と違って、広島の場合、病院であっても希少疾患の種類によっては診療対象としていない場合も珍しくありません」と西医師は言う。
患者がまだ乳児期の場合には、首が座っているか、ハイハイができるかなど、いわゆる精神・運動発達の様子も成長の度合いを見る目安として重視している。また、いわゆるX脚(外反膝)、O脚(内反膝)にも注力している。X脚・O脚は多くの場合、生理的なもので、成長に従い正常な下肢形態に移行するが、中には、内分泌疾患、骨系統疾患、ビタミンD異常やカルシウム異常によって骨の成長が阻害されている場合もあるので注意が必要だという。
3. 希少疾患の検査・治療
血液検査や骨密度測定で正確に診断
小児用の検査基準値を独自に設定
初診で行うことの多い検査としての血液検査では、インシュリン様成長因子であるIGF-1(Insulin-like Growth Factor I:ソニトメジンC)、甲状腺機能に関するもの、貧血の有無、肝機能、電解質(ナトリウム、カリウム、塩素、カルシウム、リン)、亜鉛、血清25OHDなどの血中濃度などを必要に応じて測定する。
骨の疾患が疑われる場合には、ケースバイケースで全身骨のX線検査なども行う。X線検査は放射線被曝を伴うため、特に子どもの検査では実施の必要性を慎重に判断する。ほかに、頭部のMRI検査により下垂体の大きさや病変の有無を確認することもある。
血液検査結果の見方の注意点としては、一般に、リンやALP(アルカリホスファターゼ)の異常値を見逃しがちであることを指摘する。
「血液検査の値は通常、成人の基準値が基本となっています。しかし、小児の場合、リンが成人の正常下限値であれば明らかな低値、ALPは逆に、成長期にある子どもの場合は成人の正常上限よりも高いのが普通です。子どもの検査結果を見るときには、大人の基準値との違いを考慮することが重要です」
広島赤十字・原爆病院では、リンやALPについては、成人の基準値のほかに子どもの基準値を独自に設定しており、検査結果がこの基準値よりも高い場合は電子カルテ上に赤、低い場合は青で表示されるというように、異常値であることが一目でわかるシステムを構築している。
検査の結果、確定診断に至った場合には生活指導を行いながら必要な薬物療法を開始する。ホルモン療法などで治療できる疾患であれば、治療方針を西医師が決定後、かかりつけ医に継続的に診てもらい、たとえば春休み、夏休み、冬休みと年3回程度、西医師の診察を受けてもらう患者もいる。希少疾患の種類により西医師が主治医になったり、他の専門病院に紹介している。
4. 今後の課題・展望
早期発見・早期治療のため
検査の徹底、医療者への啓発活動に力を注ぐ
西医師は、希少疾患医療の現在の問題点として、発見が遅れがちであることをまず挙げる。「本当は、ビタミンD欠乏性くる病、低リン血症性くる病/骨軟化症、腫瘍性骨軟化症や低ホスファターゼ症などであるのに、痛みがあるなどの症状から特に成人では整形外科などを受診し、更年期障害、骨粗鬆症、脊柱管狭窄症などと診断され、そのための治療を受け続けてしまっている患者さんがいるのは問題です。何度も言いますが、とにかく早期発見・早期治療が大事。それができるように、医師をはじめ一般の医療関係者たちに、骨の病気についてきちんと知っていただく必要があると感じています」と話す。
早期発見のポイントとして西医師が挙げるのは、血液中のリン、カルシウム、ALPの検査だ。「先ほども指摘したように、大人と子どもの基準値の違いを認識すること。また、医師は一般に、検査値が基準値よりも高い場合は着目しますが、低いものについてはあまり気にしない傾向がある気がします。さらに、そもそもリンを測定していないケースもあります。ですから、まずは血液検査の項目、できれば健康診断や人間ドックの検査項目に血中リン濃度を入れること。そして、患者さんの年齢を考慮して数値を見ること。少しでも異常があったら、希少疾患の可能性も考えて、さらに詳細な検査をするなり、希少疾患にくわしい病院に紹介するなりしてほしい。稀に見る病気ではあっても、それを見逃してしまうと手遅れになり、いずれ歩行障害や寝たきりにまでなってしまう場合もあることを多くの医師に認識していただきたいと、声を大にして言いたい」との言葉に、長年、小児内分泌疾患治療に取り組んできた第一人者としての使命感がこもる。
西医師は潜在患者が多いことも問題視しており、実際には大部分の患者が見逃されている可能性が高い状況をなんとか改善しようと、近年は医師を対象とした啓発活動に力を入れている。特に、小児科、整形外科、内科、外科、歯科などは、成長障害や骨の異常に関わる診療科を重視している。
KKC-2024-00667-2
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