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東北大学病院
[乾癬治療最前線~患者とともに歩む~]

2023年9月1日公開/2023年9月作成

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  • ●病院長:張替 秀郎 先生
  • ●開設:1817年、仙台藩医学校施薬所として創設
    1915年、東北帝国大学医科大学附属医院と改称
  • ●所在地:宮城県仙台市青葉区星陵町1-1

100有余年の歴史を誇る日本有数の皮膚科
地域連携のもと乾癬患者の全身療法に取り組む

宮城県の基幹病院であり、東北全体の医療の要として、最先端の医療を提供しつつ地域医療を支え続けている東北大学病院。皮膚科においてもすべての疾患に対し最高レベルの医療を提供すべく、強皮症治療のフロントランナーである浅野善英東北大学皮膚科学教室教授/皮膚科長をはじめ、専門性、出身大学ともに多様性のある人材が、知識や技術を共有・補完し合いながら日々の診療にあたっている。乾癬に関しては、週1回の「乾癬外来」を中心に皮膚科全体で診療。院内他科や地域の開業医との連携のもと、主に全身療法に取り組んでいる。

1. 病院の特徴 全人的医療と最先端医療の両立を図る
東北地方の医療の要

東北大学病院のルーツは、1817年に創設された仙台藩医学校施薬所に遡る。以降、私立、公立、県立とその姿を変え、1915年に東北帝国大学医科大学附属医院となった。1949年には東北大学医学部附属病院となり、2007年、現在の名称である東北大学病院に改称した。

長い歴史の中で診療科や部門、各種センターなどの新設を重ね、病棟ほか施設の増築と同時に機能を拡充してきた。現在までに特定機能病院、災害拠点病院、都道府県がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療中核拠点病院、小児がん拠点病院、アレルギー疾患拠点病院、臨床研究中核病院など多くの指定を受けており、さまざまな分野で地域医療の中心的役割を果たしている。

病院の理念は「患者さんに優しい医療と先進医療との調和を目指した病院」。患者の人間性を尊重した温かみのある全人的医療と高度に専門化した最先端の医療との両立を図りながら、研究・開発、医療人の育成など大学としての機能を発揮している。

2. 皮膚科の概要 各分野のスペシャリストが赴任
8代目教授の就任で膠原病診療の強化が進む

浅野 善英
東北大学皮膚科学教室教授/
皮膚科長

浅野 善英
東北大学皮膚科学教室教授/
皮膚科長

皮膚科は1913年に東北帝国大学医学専門部附属医院となったときに設置された8つの診療科の中の1つで、東北大学病院の中でも、また全国的にも長い歴史を誇る。現在、皮膚科長を務めるのは、2022年2月に就任した浅野善英東北大学皮膚科学教室教授だ。

同教室はこれまで、遠山氏連圏状粃糠疹、遺伝性対側性色素異常症で知られる初代、遠山郁三先生、2代目で太田母斑(眼上顎褐青色母斑)の病名を残した太田正雄先生、同じく伊藤母斑(肩峰三角筋部褐青色母斑)などの報告を行った3代目、伊藤實先生、真菌学の権威である4代目、高橋吉定先生、5代目で悪性黒色腫の一型、末端黒子型(acral lentiginous type)を世界で初めて報告した清寺眞先生、乾癬の炎症機構解析のパイオニアである6代目、田上八朗先生、接触皮膚炎の研究で知られる7代目、相場節也先生と、代々、その道のスペシャリストを教授に迎えてきた。

8代目教授である浅野教授は、歴代教授の中でも初となる強皮症の専門家で、「長い歴史を誇る東北大学病院皮膚科に新しい文化を持ってきました」とにこやかに語る。東京大学医学部附属病院皮膚科に長年勤務し、同院免疫疾患治療センター副センター長、強皮症センター センター長などを歴任。『全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン』(日本皮膚科学会:2016年)の筆頭執筆者であり、2023年4月からは「厚生労働省強皮症研究班」の研究代表者を務めている。東北地方の医療機関に所属する医師が同研究班の代表を務めるのは、浅野教授が初めてである。同科で膠原病の診療を強化することは相場前科長の強い意向でもあり、浅野教授の赴任によってにわかにそれが推進されている。

浅野教授の専門性はすでに広く知られており、就任以来、同科を受診する強皮症患者の数は急増している。その数、年間60〜80人。就任前の年間15〜20人と比べると概ね4倍の増加だ。「特別なPRなどはしていないのですが、当科の特徴や私の専門領域を理解し、患者さんをご紹介くださる医師の方々が増えています。私たちが専門性を発揮することで患者さんはもとより地域の医療職の方々にも喜んでいただけて、大変ありがたく感じています」と、浅野教授が手応えを語る。

現在、強皮症を含む膠原病患者の同院皮膚科受診者に占める割合は、悪性腫瘍患者に次いで高くなっている。このほか脱毛症、発汗異常などの患者も多い。これらの患者の中には、宮城県外からの受診者も目立つ。「東京都内などと違って大学病院がほぼ当院のみの地域ということもあり、珍しい疾患の患者を診る機会が比較的多いのだと思います」と浅野教授が言う。

3. 専門外来 これまでの研究実績をベースに
8つの専門外来で高度な医療を提供

強皮症の診察は、毎週木曜日に開いている「膠原病外来」を中心に行っている。「膠原病外来」は浅野教授はじめ7名の医師が担当しているが、初診、あるいは2回目の受診時に、浅野教授が必ず全症例を診るようにしているという。

東北大学病院皮膚科は歴代教授の研究報告などにより、国内外の皮膚科界でその存在感を示してきた。そうした実績を背景に、ほかにも多様な専門外来を開いている。「腫瘍外来」「脱毛症外来」「白斑外来」「アトピー外来」「乾癬外来」「レーザー外来」などである。上記「膠原病外来」は最も新しく、2021年10月にスタートした。

「腫瘍外来」は、藤村卓准教授と橋本彰病院講師を中心に医師7名体制で運営している。藤村准教授は薬物療法を中心に、切除不能あるいは切除後に残ってしまった皮膚腫瘍の治療や皮膚T細胞リンパ腫の治療を主に担当。現在、医師主導治験も進めている。橋本病院講師は、手術を主に担当している。

「脱毛症外来」「アトピー外来」「乾癬外来」は、ともに炎症性疾患を扱う専門外来として幅広い診療を行っている。浅野教授によれば、「脱毛症外来」は、もともと同科の得意分野の1つで、国内の臨床試験などでも高いエントリー数を誇る。女性に多いacute diffuse and total alopecia(ADTA)の概念を世界で初めて発表したのも同科である。

色素異常症は遠山初代教授の専門であったことから皮膚科開設時から精力的に診療に取り組んでおり、現在の「白斑外来」につながっている。「レーザー外来」では、各種血管腫や毛細血管拡張症、太田母斑、異所性蒙古斑、外傷性異物沈着症など保険適用のある疾患を主な対象としている。

4. 乾癬治療 軽度の患者は地域の開業医に逆紹介
「乾癬外来」では主に全身療法を担当

乾癬については、患者数が一定数いること、治療法が確立されつつあることなどから、皮膚科全体で診ている。新規患者は「新患外来」でその日の担当医がまず診察。症状が軽度である場合は、診断と治療方針の検討を行ったうえで、地域の開業医に逆紹介し、そちらで治療を継続してもらう。

「東北地方では、東北大学出身の皮膚科医が数多く開業しておられますし、各先生がどのような治療を行っているのかも明確に把握できているので、紹介・逆紹介は非常にスムーズです」と、医療連携における地域の特長を浅野教授が紹介する。地域の薬局とも良好な連携体制ができており、注射薬の廃棄袋の提供など、細かな部分の協力も治療の支えになっているという。

一方、症状が重く、内服療法や紫外線療法、生物学的製剤療法など全身療法の適応となる患者には「乾癬外来」を受診してもらう。「乾癬外来」を受診する乾癬の新規患者数は、月に4、5人、月間のべ受診者数にして100〜150人だ。ほかに、掌蹠膿疱症と化膿性汗腺炎の新患がそれぞれ月に1、2人、同外来を受診する。

乾癬患者が東北大学病院皮膚科を受診するきっかけはほとんどが紹介で、皮膚科や内科をはじめとした開業医からの紹介のほか、乾癬性関節炎で同院整形外科に通院中の患者に皮疹が見つかった場合などの院内紹介がある。

乾癬の治療を行うにあたっては、病型のみならず、病変の範囲、部位、程度に加え、合併症や既往症なども十分考慮して治療法を患者と話し合って選択する。治療選択にあたっては、病態と治療に関するオリジナルパンフレットや、同じくオリジナルの生物学的製剤比較表などを用いて説明を行う。治療開始後は経過を見ながら、複数の治療法を組み合わせていくことも多い。

メタボリックシンドロームなどを併発している患者は、内科に院内紹介し、治療に用いる薬の処方などをサポートしてもらうこともある。ただし、治療の主体はあくまで皮膚科だ。「皮膚疾患に合併しやすい病気や症状に関しては我々皮膚科医も日頃からよく勉強していますので、内科のサポートを受けつつも皮膚科で責任を持って治療を行っていきます」と浅野教授が科の方針を語る。

5. 医師の育成 専門外来の総括と全体カンファレンスで症例を共有
社会人としての人間教育も重視

医師の教育について浅野教授は、「私自身、膠原病が専門ですし、当科では難しい疾患を診ることが非常に多いので、まずは難病に向き合う気概、メンタルの部分を医局員同士で確認し合い、高め合っていくことを強く意識しています」と言う。

また、患者の中には、悪性腫瘍の終末期患者を多く診ていることも踏まえ、「ご家族との過ごし方も含めて残りの日々の質を高めていくことを考えなければなりません。そのためには単なる知識を超えた対応力や柔軟性が求められます」と指摘。こうした面の教育は、経験豊富な医師の実践の中から若手医師へと伝わるように気を配っているという。

若手医師の指導に活用しているのが、先に紹介した専門外来である。浅野教授は就任早々、各専門外来の前後に必ずその日の総括をすることを指示し、カンファレンスの実施を徹底している。記憶がフレッシュなうちに、その日に経験した(する)症例を共有することで、自分が診療していない症例についても経験を追体験できるようにするのが目的だ。

さらに、重要症例や初診の症例は、週1回、3〜3.5時間かけて行っている皮膚科全体のカンファレンスで共有している。その際には、どんなに若い医師であっても、事前に画像や組織を見ながら症例を分析し、自分なりの結論を持って臨むことを求めるのが浅野教授のやり方だ。

実際のカンファレンスでは、臨床経験の深い浅いに関係なく、その場で指名して考えを述べてもらう。「もし自分がこの患者さんを診察したらどうしますか?」と尋ねます。大事なのは正しい答えを言えることではなく、自分で考えるということ。現在の形式のカンファレンスがスタートした直後は戸惑う医師も少なからずいたが、1年以上経ったいまでは、"考える力"がかなりついてきたそうだ。

上級医が若手医師を指導する際のポイントとしては、「間違った点を正そうとするのではなく、必ず良い点をフィードバックすること。また、教科書的な答えを頭ごなしに言うのではなく、本人の発言の文脈にしっかり踏み込み、同じ目線で考えを伝えること」を挙げ、「悪い部分を指摘されるとどうしても発言しにくくなるし、その日のカンファレンスが嫌な思い出になってしまいます。カンファレンスではそれぞれが臆することなく自分の意見を示し、それに対してのほかの医師の考えを聞き、力をつけていくことが重要です」と言う。上級医に対する指導は、浅野教授が個別に行っている。このときも、長所を伸ばす姿勢が基本という。

浅野教授は、皮膚科学教室教授に就任以来、「真に人の役に立つ医療人かつ社会人の育成」を理念として掲げている。ここで言う「人」とは、患者に限らず「かかわり合うすべての人」の意味。「医局は新米医師が社会に出て初めて所属する組織でもあります。どんな職業でも、最初の職場は社会人としての育成の場でもあるはずです。つい最近まで学生だった人が、社会のルールやマナーを知らないのは当然のこと。専門職だからといってその部分を疎かにするのではなく、医師である前に人間として、言葉遣いなども含めて常識を身につけてほしいと思っています」と、理念に込めた意図を語る。

2023年4月現在、同教室に所属し、皮膚科診療に携わっている医師は総勢29名。うち9名は大学院生で、研究に重きを置きながらも、人間として、また医師としての成長を目指している。

6. 今後の課題・展望 オピニオンリーダーを育成し
東北大学病院皮膚科の医療を国内外に広めたい

今後について浅野教授は、「診療をしっかり行い質の高い医療を提供する、難病に向き合うといったことは、大学病院であれば当然、継続すべきこと」としたうえで、東北大学病院皮膚科の大切な役割として、「オピニオンリーダーを育て、国内外の多くの施設に送り出すこと」を第一に挙げる。

「ベテラン医師が定着すれば診療がしやすいのは確かですが、それよりも東北大学病院で培った高度な医療を外部に提供し、広めていくことに力を入れたい。それと同時に、医局員に多彩な活躍の場を提供したいと思っています」と抱負を語る浅野教授。今後も人材の多様性を重視し、多くの皮膚科医を迎えては送り出す、また、外部の研究室や企業との連携にも積極的に取り組む、開かれた皮膚科を目指していくという。

KKC-2023-00598-1

乾癬治療最前線

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