JA秋田厚生連 雄勝中央病院
[透析施設最前線]
2022年9月6日公開/2022年9月作成
- ●院長:小松田 敦 先生
- ●開設:1933年
- ●所在地:秋田県湯沢市山田字勇ヶ岡25
1970年開設の透析センターと関連部門を集約し
秋田県南部初の腎センターを開設
秋田県の内陸側最南部に位置する湯沢・雄勝医療圏唯一の基幹病院として幅広い医療を提供している。透析センターの開設は1970年と全国的にもきわめて早期。2005年8月には、病院の新築移転により透析センターもリニューアルされた。さらに2021年4月には、腎臓内科専門医である小松田敦院長の就任と同時に秋田県南部初の腎センターを設立。腎医療に関連する院内各部門を集約して総合的な医療を提供するとともに、地区医師会や行政、介護福祉関連事業所などとの連携も推進している。
1. 病院の概要
湯沢エリアで唯一の基幹病院
専門医療、政策医療含めて幅広く展開
雄勝中央病院は1933年8月、雄勝医療購買組合としてスタートして以来、時代の変化とともに機能・規模を拡大しながら地域のニーズに応えてきた。市街地にあった旧病院から、自然豊かな現在の場所に新築移転したのは2005年8月。新病院は背後に森を抱える小高い場所に、地域を見守るように建っている。
基幹病院としての役割は多く、救急告示病院(一次、二次)、地域がん診療病院、地域災害拠点病院などの指定を受け、先進医療、専門医療、政策医療を担うとともに、16の診療科による一般診療、在宅医療、医療人の育成、各種相談業務などに取り組んでいる。
「病床数は実働221床で、一部、常勤医が確保できていない診療科もあるので、隣接する横手地域の病院などと緊密に連携し、患者さんに過不足なく入院医療を提供できる体制を整えています。また、地区医師会や介護・福祉サービスとも協力し合い、地域の人々の生活を支えています」と、小松田敦院長が、連携をベースに地域医療に取り組む様子を語る。
小松田院長は、秋田大学医学部を卒業後、同大第3内科学講座に入局し、血液、腎臓、膠原病などをはじめ総合内科的な教育を受けた後、腎臓病、膠原病の専門家となった。大学では臨床研究、基礎研究含めてさまざまなテーマに取り組んだ。近年は、ネフローゼ症候群の原因疾患として成人に多い膜性腎症について、日本の現状を研究し論文にまとめて発表している。雄勝中央病院内科に赴任したのが2020年4月。翌2021年4月、院長に就任した。現在も秋田大学医学系研究科非常勤講師であり、同大血液・腎臓・膠原病内科とも緊密な関係を維持している。
2. 腎センター
腎疾患関連部門を集約
初期の腎不全患者の診療や腎生検を積極的に実施
小松田院長は自らの経験を生かし、院長就任と同時に腎センターを立ち上げた。
「腎疾患の初期から透析をはじめとした腎代替療法までトータルに診ることを目的としています。関連部門を集約することで、患者さんにとっての利益を追求するとともに、病院の機能強化を図ることもできます。秋田県南部初の腎センターとして専門医療を提供しながら、ゆくゆくは腎疾患にかかわる人材の育成、かかりつけ医や市民への啓発活動などもしていきたいと思っています」と腎センター設立の意義や方向性を語る。
腎センターでは、慢性腎臓病の基礎疾患でもある糖尿病や高血圧の治療にも力を注いでいる。看護師、管理栄養士、薬剤師など多職種が協働して患者教育に取り組み、患者の意識や行動を変えることで腎疾患の進行を抑えることを重視している。また、小松田院長の専門分野の1つである膠原病に関連した腎疾患の治療にも力を入れており、この点は雄勝中央病院腎センターの特徴といえる。
同センターは、大きく「透析センター」「外来部門」「入院部門」の3部門で構成される。
「透析センター」は1970年に開設されて以来、多くの末期腎不全患者を受け入れ、導入から維持透析、合併症予防・治療、シャントトラブル対応まで総合的に提供している(くわしくは後述)。
「外来部門」は週2回、完全予約制の専門外来として小松田院長が担当している。「治療対象は、急性糸球体腎炎や急性腎不全などの急性疾患、IgA腎症、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎、顕微的多発血管炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症といった慢性疾患、膠原病などです。院外からの紹介も多く、2021年度実績で年間118名、月平均で10名前後の紹介患者さんを受け入れています」と小松田院長が紹介する。県南の横手・湯沢エリアには腎臓内科専門医が複数いるが、専門外来として一般の患者を診ている専門医は小松田院長のみということもあり、貴重な紹介先となっている。日本腎臓学会のガイドラインに沿った紹介基準を、地域連携室を介して地域の医療機関に配布し、適応する患者を紹介してもらう仕組みだ。
「入院部門」では、腎疾患の早期診断・治療を目的とした腎生検、血圧コントロールや貧血の治療、栄養指導や服薬指導などを含めた教育入院、入院透析などを行っている。腎生検に際しては、10項目からなるオリジナルの説明書を用いて患者への説明を行ったうえで同意書を取り、院内で検体を採取し、秋田大学血液・腎臓・膠原病内科で組織診断をしてもらっている。腎生検の件数は年間約50件である。
腎移植も、同じく秋田大学血液浄化療法部との連携のもとで行っている。生体腎移植はもちろん、家族の希望で死体腎移植を実施した例もある。「死体腎移植のケースでは、臓器移植ネットワークを通じて臓器移植コーディネーターに東京から来てもらい、秋田大学医学部泌尿器科のサポートを得て、当院で腎臓を摘出。2つの医療機関で移植手術を実施しました」と小松田院長。「移植については、患者さんやご家族の意向に沿って進めるのが当院のスタンスです。今後も希望があればできるだけ応えたいと思っています」と方針を語る。
3. 透析センター
1970年開設の老舗透析施設
環境、システムのリニューアルを重ね質を追求
雄勝中央病院に透析センターが開設されたのは、透析患者数が全国でも1,000人に満たなかった1970年のことだ。以来、地域の末期腎不全患者に良質の透析医療を提供し続けている。2005年8月には病院の新築移転に伴い、透析センターも新設され、広々としたバリアフリーの明るい環境となった。2021年には透析装置を全面的にリニューアルし、透析支援システムも導入した。これにより服薬状況など患者の個別情報がより把握しやすくなり、透析の精度はより高まったという。
透析センターに勤務する5名の臨床工学技士を束ねる那須川淳技士長は、機器類やシステムが最新型になったことについて、「これまで人が行っていた業務の多くの部分を機械に任せることができるので、私たちはその分の時間を、患者さんを観察したりケアしたりする業務に割くことができます。その点が特に良かったと思っています」と言う。
透析ベッド数は40床。一般的な血液透析(HD)のほか、オンラインHDF(血液透析濾過)、I-HDF(間歇補充型血液透析濾過)なども積極的に実施。また、血漿交換療法、エンドトキシン吸着療法などにも対応している。透析スケジュールは月水金が日中透析(9:00〜)と夜間透析(17:00〜22:00頃)の2クール、火木土が日中透析のみの1クール。透析患者数は全体で80名あまり。うち10名ほどが夜間透析を利用している。
「朝のプライミングや穿刺・返血などの業務は看護師と臨床工学技士が協力して行っています。看護師は患者受け持ち制で、生活指導などは担当看護師が個別に行っています」と話すのは、2022年4月に着任したばかりの佐藤慶子透析室看護師長だ。透析センターに勤務する看護師は佐藤師長を含めて9名。同センターには透析室に隣接するかたちでナースセンターと呼ばれる部屋が設けられており、看護師たちはここでデスクワークを行ったり、勉強会を開いたり、休憩や食事にも利用しているという。
続いて那須川技士長が、「透析中のバイタルチェックや終了時のサポートについても、看護師と臨床工学技士が職種の枠を越えて一緒にやっています。臨床工学技士の専門領域である機器のメンテナンスやトラブル対応など以外は、できる限り協力し合うようにしています」と透析センターでの仕事ぶりを紹介する。
臨床工学技士の中には検査係がおり、患者の検査値からその患者により適した透析方法や条件を考え、医師に提案する役割を担っている。また、看護師とともにエコー係も組織しており、シャントエコーを積極的に行って、狭窄などシャントトラブルを早期に発見し、シャント造影やPTAにつないでいる。
透析センターでは、合併症予防のための検査も定期的に行っている。貧血、腎機能、肝機能などを調べる血液検査は月1回、エコー検査などは年1回を基本に、患者の状態に応じて2カ月に1回、半年に1回というように検査の頻度を設定している。何か異常があれば速やかに他科に紹介し、治療や管理を開始する。2021年から循環器科に常勤医を確保できたことで、心疾患への対応は格段にしやすくなったという。
スタッフ間の情報共有は、毎朝行うミーティングや、医師の回診時、電子カルテなどを介して行っている。
4. CKD対策
地域連携室を介して開業医などを啓発
明確な紹介基準を示し早期に介入
CKD対策は、先に紹介した腎センターの外来部門である腎臓内科専門外来を中心に行っている。早い段階で腎疾患を正確に診断し、個別の医療を提供することで透析予防につなげている。
院外の患者の場合は、病院のウェブサイトからダウンロードできる「診療情報提供書(CKD連携)」に紹介基準が記載されているので、地域の開業医などはそれを見て、あてはまる患者を紹介することができる。紹介目的なども選択式でシンプルな書式だ。こうした書類を含め、CKDに関する情報提供は年に数回、地域連携室を通じて行っている。
「紹介患者さんが腎硬化症や糖尿病性腎症など生活習慣に深く関連した腎疾患で、腎機能が一定以上に保たれている場合は、紹介元の開業医にて継続的に管理していただきます。一方、腎炎などで薬物療法を行う場合は基本的に当院が診察を続けることになります。たとえばGFRが30未満で透析導入の可能性がある患者さんなどの場合は、貧血や血中カルシウム、リンなどのコントロールも必要なため、当院に通院していただきます。」と院長が言う。
CKDの概念が提唱されて久しいが、その認知度はまだまだ高くはないようで、小松田院長は、今後も継続的な啓発活動が必要と考えているそうだ。2020年以降はコロナ禍のためリアルの勉強会、講演会などはできずにいるが、自治体の広報誌やJA秋田厚生連の広報誌「かけはし」などを活用し、情報発信に努めている。
5. 今後の課題・展望
透析導入患者を一人でも多く減らすべく
地道な診療と情報発信を続ける
今後の課題として小松田院長が第一に挙げるのは透析予防である。「日本腎臓学会では、2028年までに新規導入患者さんの数を現在の年間約4万人から3万5000人以下にするという目標を掲げています。人口比を考えると湯沢エリアでは年間18人以下にすることが求められます。当院で導入する患者さんの数を一人でも減らしたい。今後も医師や患者さんへの啓発、情報発信を地道に続け、まずは10人以下まで抑えられればと思っています」と明確な数値目標を持っている。
「腎臓は長年かけて悪化しますから急には無理ですが、円滑な地域連携をベースに多職種がかかわって早期に介入できる患者さんが増えれば、数年後には改善のきざしが見えてくるのではないでしょうか」と、小松田院長は現在の取り組みの成果におおいに期待している。
KKC-2022-00687-1
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